廃城の泣き虫アデリー

今野綾

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娼婦ベッラ

娼婦ベッラ③

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 肩掛けにしてあるカゴをひとまず地面に置くと、ダグマはあまり興味がなさそうに「そうか」とあっさり答えた。

「はじめまして、ベッラよ。ニコラスが戻るまでこちらに居たいのだけどいいかしら?」

 にこやかに申し出たベッラにダグマは一瞥をくれると「駄目だ」とまたもや素っ気ない。これにはベッラよりアデリーの方がショックを受けていた。リルに対してとった態度よりも厳しいのだ。しかも美しい女性にまさかの態度だった。

「あら、その理由を聞いてもいいかしら?」

 ベッラは笑みを崩さずに問い返した。ダグマはリンゴで満杯のカゴの代わりに、アデリーの持ってきた空のカゴを肩に掛けた。

「ニコラスは行商人だろ? いつ戻るかわからん」
「それはわかっていますとも。それでも待ちたいの。タダで住まわせろと言いたいわけではないのよ? お金を払ってもいいし、仕事をしろと言うならそうするわ」

 カゴを掛けてからダグマはアデリーをチラリと見たが、直ぐに視線をベッラへと移した。

「娼婦に用はない」

 きっぱり言い切るダグマに再びアデリーはショックを受けていた。これは正直、失礼すぎる。でもベッラは怯まなかった。

「娼婦として生きていくつもりはないわ。これが答え。違う仕事で生計を立てたいの」

 毅然とした態度だった。隠すこともせず娼婦であったことを認めていた。

「何が出来るんだ?」
「そうねぇ。服も作れるし、食事も作れるわ。やったことはないけど農業もやってみたいわね」

 こういう時、アデリーは消えてなくなりたくなる。娼婦として生きてきたのに、それ以外のことも出来るなんて羨ましくて仕方がない。

 ダグマは片眉をクイッと持ち上げると腕を組んだ。

「料理の腕はどれくらいなんだ?」
「そうね、家庭料理は一通り。宿屋に住み込みで働いていたこともあるから、そこでもかなり覚えたから自信はあるの。答えになっているかしら?」
「なるほどな。じゃあ様子見をさせてくれ。きちんと働いてくれていたらそのまま住んでいても構わない。が、怠けたり、男に色見た目を使ったら追い出す。これでどうだ?」

 ベッラはダグマの手を拾い上げてブンブン振ってから放した。

「十分よ。部屋は余っているのかしら? 食事を作ったら代金を受け取って部屋代を払えばいい感じ?」
「いや、しばらくは無償奉仕だ。その代わり部屋も材料もこちらが用意する。冬を越したらそこんところもキチンとやりとりしたいと思ってるがな」

 ベッラは理解を示し二回頷いた。

「まだ出来たばかりの村ならそれもありね。春までは皆で一致団結って感じ、悪くない」

 話がついたからか、ダグマはリンゴの木を見上げてまた上り始めた。

「ベッラはニコラスを待つだけなんだろ?」

 器用に上がっていくダグマにベッラは興味をもって見つめ「ここが気に入れば定住したっていいわよね。ニコラスについて歩いていたら落ち着かないし」と返した。

「追い出されないような行動を取ってくれていたら、そりゃ住んでもいいが……」

 ダグマはやや言葉を濁してはいるが、ベッラはお構い無しだった。

「じゃあ、今夜はどこに寝たらいいのかしら? それと厨房に連れて行って貰える?」

 そこまでただの聞き役だったアデリーは、背を押されたように慌てて動き出した。まずはリンゴが山程入ったカゴを持とうとした。しかし、重すぎて持ち上げられない。

「あら、二人で持ちましょう。私がこっちを持つわ」

 すかさずベッラはリンゴのカゴを持ってくれ、アデリーもベッラの掴んだところの反対側を持ち上げた。

「助かります。じゃあ、厨房に運びましょう。そこに現在料理を担当してくださってるカリーナさんが居ますから紹介しますね」

 そこで改めてダグマに「厨房に行ってきます」と伝えた。ダグマはもちろん理解していて行ってこいとジェスチャーで返すと、直ぐにリンゴの収穫に精を出し始めた。

 階段を下りだすとベッラが言う。

「料理を担っていた人が居たんなら仕事を奪ってしまうことになるのかしら?」
「いえ、カリーナさんは元々陶器屋さんなので、そこは問題ないと思います。ここには他に料理をする人が居なかったのでやってくれていただけなので」

 しかし、アデリーがせっかく覚えたパン作りはもう用無しになることだろう。唯一仕事にできそうなものを習得できたのに残念でならなかった。また、無能な人間としてやり直しだった。


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