49 / 99
浴場
浴場④
しおりを挟む
ニコラスはアデリーにそう説明した後で、安心した? と付け加えた。なんのことだか一瞬わからず、けれどわかった後に手を振って否定する。
「違います、違います。あの、お二人が付き合っていたりしても私は一向に構わなくて──」
「えー、そうなのか? そこは『ニコラスさんが好きなので付き合ってないって聞いて嬉しいわ』とか言うのかと」
「いえいえ、そんなそんな、違いますから」
ニコラスは全否定するアデリーに「否定しすぎだろ。傷つく」と大笑いだ。
「恋愛とかわからないですし、なんかもうなんて言ったらいいのかわからなくて」
笑ってくれているということは気分を害してないようで、とりあえず安心した。
「ま、アデリーだしな。そんな感じなのはわかる。よし、ちょっと湯加減みるか」
ニコラスは完全に引いていない笑いを顔に残したまま、機嫌よく腕まくりをしていく。
「一日おきに湯を男性用、女性用にしたらいいよな。心置きなく入れるし。俺は混浴でも構わないけど、恥ずかしがる人も──」
そこでアデリーを見て、アデリーはダメだと伝えるべくブンブンと首を横に振った。
「恥ずかしがる人もいるな、確かに。まだ温いか」
手を湯から引き上げて振ると水滴が飛び散った。
「しばらく俺が見てるよ。旅から帰ってきたばかりだし、ちょっと休みたいからさ。アデリーは働いておいで」
確かに湯を沸かしている間はかなり体を休められる。これはニコラスにピッタリの役割だ。
アデリーは立ち上がり「では、薪を運んできたら料理の手伝いをしてきます」と、服の砂を払った。
「そしたらベッラに聞いてごらん。『ニコラスさんと恋人同士なんですか』って。同じことを言うと思うぞ」
「でも、ニコラスさんの言葉を信じていますから」
「いやいや、聞いてみてくれ。どんな反応だったか俺にも教えて貰いたいんだよ」
同じことを言うと断言していたのに、反応を見たいというのが不思議だったが、アデリーは頷いた。
「あ、そうだわ。ニコラスさんは宿の方に泊まりますか?」
「ああ、また数日したら出ていくからな。何ならベッラの部屋に泊まってもいい」
恋人同士ではないと言ったのにと困惑していたら、ニコラスが笑い出した。
「アデリーは直ぐに顔に出るな。冗談だよ。真冬はずっとここに居るつもりだから、そうしたらダグマの部屋に住もうと思ってる」
もし、ベッラがダグマとそういう関係なら、これはこれでお邪魔なのではないだろうか。なんだか頭の中がグルグルしてきたので、逃げ出すことにした。
「宿の方は泊まれますから、シーツをお渡ししますね。ニコラスさんのシーツがあるならご自身のを使ってください」
「了解だ。シーツは自分のがあるから問題ないよ」
じゃあと出て行くと、投げキスをして送り出された。アデリーはニコラスにおもちゃのように扱われているのだと思った。ロセに冷たくされているので、それよりおもちゃならまだマシな気がしてテクテクと歩いていく。
通りがかった猫のトーマスに「ベッラさんみたいな大人の受け流し方法ってどうやって学ぶのかしらね」と話しかけてみた。艷やかな黒い毛をブルっと震わせてからミャと短く答えると岩を登って去っていってしまった。この話題は猫のトーマスには好みではなかったらしかった。そもそもトーマスはオスだし、まだ大人の猫にもなっていないのだから答えられなかったのかもしれない。
「違います、違います。あの、お二人が付き合っていたりしても私は一向に構わなくて──」
「えー、そうなのか? そこは『ニコラスさんが好きなので付き合ってないって聞いて嬉しいわ』とか言うのかと」
「いえいえ、そんなそんな、違いますから」
ニコラスは全否定するアデリーに「否定しすぎだろ。傷つく」と大笑いだ。
「恋愛とかわからないですし、なんかもうなんて言ったらいいのかわからなくて」
笑ってくれているということは気分を害してないようで、とりあえず安心した。
「ま、アデリーだしな。そんな感じなのはわかる。よし、ちょっと湯加減みるか」
ニコラスは完全に引いていない笑いを顔に残したまま、機嫌よく腕まくりをしていく。
「一日おきに湯を男性用、女性用にしたらいいよな。心置きなく入れるし。俺は混浴でも構わないけど、恥ずかしがる人も──」
そこでアデリーを見て、アデリーはダメだと伝えるべくブンブンと首を横に振った。
「恥ずかしがる人もいるな、確かに。まだ温いか」
手を湯から引き上げて振ると水滴が飛び散った。
「しばらく俺が見てるよ。旅から帰ってきたばかりだし、ちょっと休みたいからさ。アデリーは働いておいで」
確かに湯を沸かしている間はかなり体を休められる。これはニコラスにピッタリの役割だ。
アデリーは立ち上がり「では、薪を運んできたら料理の手伝いをしてきます」と、服の砂を払った。
「そしたらベッラに聞いてごらん。『ニコラスさんと恋人同士なんですか』って。同じことを言うと思うぞ」
「でも、ニコラスさんの言葉を信じていますから」
「いやいや、聞いてみてくれ。どんな反応だったか俺にも教えて貰いたいんだよ」
同じことを言うと断言していたのに、反応を見たいというのが不思議だったが、アデリーは頷いた。
「あ、そうだわ。ニコラスさんは宿の方に泊まりますか?」
「ああ、また数日したら出ていくからな。何ならベッラの部屋に泊まってもいい」
恋人同士ではないと言ったのにと困惑していたら、ニコラスが笑い出した。
「アデリーは直ぐに顔に出るな。冗談だよ。真冬はずっとここに居るつもりだから、そうしたらダグマの部屋に住もうと思ってる」
もし、ベッラがダグマとそういう関係なら、これはこれでお邪魔なのではないだろうか。なんだか頭の中がグルグルしてきたので、逃げ出すことにした。
「宿の方は泊まれますから、シーツをお渡ししますね。ニコラスさんのシーツがあるならご自身のを使ってください」
「了解だ。シーツは自分のがあるから問題ないよ」
じゃあと出て行くと、投げキスをして送り出された。アデリーはニコラスにおもちゃのように扱われているのだと思った。ロセに冷たくされているので、それよりおもちゃならまだマシな気がしてテクテクと歩いていく。
通りがかった猫のトーマスに「ベッラさんみたいな大人の受け流し方法ってどうやって学ぶのかしらね」と話しかけてみた。艷やかな黒い毛をブルっと震わせてからミャと短く答えると岩を登って去っていってしまった。この話題は猫のトーマスには好みではなかったらしかった。そもそもトーマスはオスだし、まだ大人の猫にもなっていないのだから答えられなかったのかもしれない。
3
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜
雪野 結莉
恋愛
魔物を倒す英雄となる運命を背負って生まれた侯爵家嫡男ルーク。
しかし、赤ん坊の時に魔獣に襲われ、顔に酷い傷を持ってしまう。
英雄の婚約者には、必ず光の魔力を持つものが求められる。そして選ばれたのは子爵家次女ジーナだった。
顔に残る傷のため、酷く冷遇された幼少期を過ごすルークに差し込んだ一筋の光がジーナなのだ。
ジーナを誰よりも大切にしてきたルークだったが、ジーナとの婚約を邪魔するものの手によって、ジーナは殺されてしまう。
誰よりも強く誰よりも心に傷を持つルークのことが死してなお気になるジーナ。
ルークに会いたくて会いたくて。
その願いは。。。。。
とても長いお話ですが、1話1話は1500文字前後で軽く読める……はず!です。
他サイト様でも公開中ですが、アルファポリス様が一番早い更新です。
本編完結しました!
大変お待たせ致しました。番外編も完結いたしました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる