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冬は間近
冬は間近①
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大量に採ってきたキノコを切り、天日干しにする作業を任されアデリーは黙々とキノコの山を片付けていた。
板に古いシーツを張った簡易的な干し台に、切っては重ならないように並べていく。整列したキノコはアリの大群のように整然と連なっている。
「アデリー、精が出るねぇ」
廃城の外で作業していたので孤独だったが、カリーナが自分の仕事の合間に顔を見せに来た。
「カリーナさん。陶器はどうですか?」
「ああ、今は殆どベニート爺さんからの依頼品ばかりさ。複雑なのを要求するから神経を使うんだよ」
ハスキーな声で言い終えると腰を伸ばして、ストレッチを繰り返す。
「薬湯の浴場は最高だね。いつもはもっと腰にくるんだが、今回はそれほど痛かないよ」
屈んだ格好で火を弄ることが多いから腰痛持ちになったと、ストレッチしながらボヤいていた。
「皆さんに薬湯が好評ですね。ロセはあんなに若いのに立派な薬師で羨ましいです」
一方、アデリーは未だに雑用係だ。キノコの干すのも仕事だと思うが、これで生計をなんとかすることは出来ない。
「焦りなさんな。少しずつ確実に覚えているだろ? アタシだって若い頃はこんな小間使いみたいなことをしてなんの役に立つのかって腹を立てたが、結局ちゃんと手に職を持てたからさ」
アデリーはため息混じりに「でもそれって、カリーナさんが私よりもっと若い頃のお話ですよね」と反論していた。慰めてくれていることは理解しているのに、自分の不甲斐なさに八つ当たりしていた。
「あはは。アンタも結構強くなったんじゃないか? そりゃあ、アデリーより若い時から色々やってたさ。でもアデリーは物覚えがいいからねぇ。直ぐに追いつけるよ」
アデリーが切って並べておいたキノコを、カリーナは片手分掴むと「貰っていくよ。火で炙って塩をかけると美味しいんだわ」手を振って戻っていった。
キノコを山程干したって何にもならないとブツブツと独り言を口にしていると、ベッラがカゴを抱えてやってきた。
「カリーナから進んでるって聞いたからおかわり持ってきたわよ」
やっと一つのカゴの中身が終わりそうだと思っていたのに、ありがたいことにまだまだ仕事は終わらないらしい。
「うー、ありがとうございます」
「うふふ、良いのよ。ねぇ、ちょっと聞いてくれる?」
ベッラがいつも以上に上機嫌だ。しかもいつもは妖艶さを兼ね揃えた美人なのに、今日はなんだか可愛らしい。
「何か良いことがあったのですか?」
アデリーはキノコの山を減らすべく、手を動かしながら話を振った。
薄くスライスしたキノコは太陽に照らされつつ、風の力で直ぐに乾燥していく。ベッラは乾き始めたキノコを裏返していた。
「距離がね、ちょっぴり縮まったのよね。ほら、この前の猪でさ」
ドキッとしたのを押し隠し「それはよかったですね」と、おざなりに答えた。キノコだ。今はキノコに集中しようと、無心になろうとした。
「あの日は叱られちゃったけど。怖くても悲鳴をあげたらダメだって。でも、それから何回も気にして様子を聞いてくれるのよ。『尻餅をついていたけど大丈夫か』とかさ。優しいのよね」
「優しいですか……それは良かったです。あの、本当に」
心を込めて言いたいのにうまいこといかなかった。
「あら? その反応はもしかして……アデリーもトニのことを?」
「へ?」
二人とも驚いて顔を見合わせていた。
「ん? アデリーの好きな人ってダグマじゃないの? トニなの?」
そこでカッと顔が熱くなった。
「え、どうしてそれを!」
「やだ、トニなの?」
「いえいえ、違います。私が好きなのは……ダグマさんで……す」
消え入りそうな声で答えると、ベッラがバンと背中を叩いた。あまりの勢いによろけたアデリーをベッラがバンバンと叩く。
「そうよね。焦ったわー」
ホッとした顔で胸を撫で下ろすベッラとは違ってアデリーはまだ焦っていた。
「待ってください。なんで私がダグマさんを好きだって知っているんですか!」
それには笑って「隠せてると思うの? 皆わかっているわよ。まぁダグマは気がついてないかもしれないけれど」と、ベッラ。
目眩がしそうな衝撃だった。
「そそそんな……」
「ダグマは素敵よね。私も最初はダグマが良いかなぁと思ったんだけど、トニに会って全部持っていかれたのよ。何もかも」
トニが優しいのは頷けるが、なんとなくベッラの好みではないように思っていた。派手なベッラには少し地味な気がするのだ。トニよりニコラスのほうがよっぽどお似合いな気がするのだが。
「私ね、ああいう包容力のある人が本当に好き。私ってちょっとワガマなところがあるからね、優しい人じゃないと合わないのよ。何もかも包みこんでくれそうなトニが好きなのよね」
ベッラがワガママだとは思わないけど、確かに包みこんでくれそうなトニはベッラお似合いな気がしてきた。ベッラは弱音を吐くことがないし、そういう相手がいないのだからトニはうってつけなのかもしれない。
板に古いシーツを張った簡易的な干し台に、切っては重ならないように並べていく。整列したキノコはアリの大群のように整然と連なっている。
「アデリー、精が出るねぇ」
廃城の外で作業していたので孤独だったが、カリーナが自分の仕事の合間に顔を見せに来た。
「カリーナさん。陶器はどうですか?」
「ああ、今は殆どベニート爺さんからの依頼品ばかりさ。複雑なのを要求するから神経を使うんだよ」
ハスキーな声で言い終えると腰を伸ばして、ストレッチを繰り返す。
「薬湯の浴場は最高だね。いつもはもっと腰にくるんだが、今回はそれほど痛かないよ」
屈んだ格好で火を弄ることが多いから腰痛持ちになったと、ストレッチしながらボヤいていた。
「皆さんに薬湯が好評ですね。ロセはあんなに若いのに立派な薬師で羨ましいです」
一方、アデリーは未だに雑用係だ。キノコの干すのも仕事だと思うが、これで生計をなんとかすることは出来ない。
「焦りなさんな。少しずつ確実に覚えているだろ? アタシだって若い頃はこんな小間使いみたいなことをしてなんの役に立つのかって腹を立てたが、結局ちゃんと手に職を持てたからさ」
アデリーはため息混じりに「でもそれって、カリーナさんが私よりもっと若い頃のお話ですよね」と反論していた。慰めてくれていることは理解しているのに、自分の不甲斐なさに八つ当たりしていた。
「あはは。アンタも結構強くなったんじゃないか? そりゃあ、アデリーより若い時から色々やってたさ。でもアデリーは物覚えがいいからねぇ。直ぐに追いつけるよ」
アデリーが切って並べておいたキノコを、カリーナは片手分掴むと「貰っていくよ。火で炙って塩をかけると美味しいんだわ」手を振って戻っていった。
キノコを山程干したって何にもならないとブツブツと独り言を口にしていると、ベッラがカゴを抱えてやってきた。
「カリーナから進んでるって聞いたからおかわり持ってきたわよ」
やっと一つのカゴの中身が終わりそうだと思っていたのに、ありがたいことにまだまだ仕事は終わらないらしい。
「うー、ありがとうございます」
「うふふ、良いのよ。ねぇ、ちょっと聞いてくれる?」
ベッラがいつも以上に上機嫌だ。しかもいつもは妖艶さを兼ね揃えた美人なのに、今日はなんだか可愛らしい。
「何か良いことがあったのですか?」
アデリーはキノコの山を減らすべく、手を動かしながら話を振った。
薄くスライスしたキノコは太陽に照らされつつ、風の力で直ぐに乾燥していく。ベッラは乾き始めたキノコを裏返していた。
「距離がね、ちょっぴり縮まったのよね。ほら、この前の猪でさ」
ドキッとしたのを押し隠し「それはよかったですね」と、おざなりに答えた。キノコだ。今はキノコに集中しようと、無心になろうとした。
「あの日は叱られちゃったけど。怖くても悲鳴をあげたらダメだって。でも、それから何回も気にして様子を聞いてくれるのよ。『尻餅をついていたけど大丈夫か』とかさ。優しいのよね」
「優しいですか……それは良かったです。あの、本当に」
心を込めて言いたいのにうまいこといかなかった。
「あら? その反応はもしかして……アデリーもトニのことを?」
「へ?」
二人とも驚いて顔を見合わせていた。
「ん? アデリーの好きな人ってダグマじゃないの? トニなの?」
そこでカッと顔が熱くなった。
「え、どうしてそれを!」
「やだ、トニなの?」
「いえいえ、違います。私が好きなのは……ダグマさんで……す」
消え入りそうな声で答えると、ベッラがバンと背中を叩いた。あまりの勢いによろけたアデリーをベッラがバンバンと叩く。
「そうよね。焦ったわー」
ホッとした顔で胸を撫で下ろすベッラとは違ってアデリーはまだ焦っていた。
「待ってください。なんで私がダグマさんを好きだって知っているんですか!」
それには笑って「隠せてると思うの? 皆わかっているわよ。まぁダグマは気がついてないかもしれないけれど」と、ベッラ。
目眩がしそうな衝撃だった。
「そそそんな……」
「ダグマは素敵よね。私も最初はダグマが良いかなぁと思ったんだけど、トニに会って全部持っていかれたのよ。何もかも」
トニが優しいのは頷けるが、なんとなくベッラの好みではないように思っていた。派手なベッラには少し地味な気がするのだ。トニよりニコラスのほうがよっぽどお似合いな気がするのだが。
「私ね、ああいう包容力のある人が本当に好き。私ってちょっとワガマなところがあるからね、優しい人じゃないと合わないのよ。何もかも包みこんでくれそうなトニが好きなのよね」
ベッラがワガママだとは思わないけど、確かに包みこんでくれそうなトニはベッラお似合いな気がしてきた。ベッラは弱音を吐くことがないし、そういう相手がいないのだからトニはうってつけなのかもしれない。
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