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第四章 褐色肌の歌い手はジゴロ……?
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数ヶ月後。王都のカフェ。
フリードリヒは御用係、要するにマネージャーとともに雑誌の取材を受けていた。最悪の気分だ。記者は愛想笑いだけはうまい軽薄そうなアラサー女。典型的なゴシップ屋で、間違っても喜んで取材を受けたい手合いではない。
『今日こそ売れるネタを掴んでみせる。多少脚色もやむなし。うそじゃないし』
『芸能人はみんなの恋人。わかるな?』
はっきり言ってうんざりだった。面白いか売れるかにしか興味がない記者の態度も。御用係の言う予定調和も。
「フリードリヒさん。率直にお聞きします。歌劇歌手のクラウディア・マセラティさんとお付き合いなさっているというのは事実ですか?」
「そんな事実はありません」
ものすごく塩対応な即答が返ってくる。だが、記者はまだ諦めていないようだ。クラウディア・マセラティは、アラフォーにして若々しさと艶やかさを失わない、いわば美魔女として人気が高い。しかも、昨年夫を亡くしたばかりの未亡人。年の差カップルという話題性を無理にでもひねり出したいらしい。
「最近彼女から積極的にあなたに近づこうとなさっているようですし……。聞いた話によると、旦那さんを亡くした後の彼女にフリードリヒさんはずいぶんお優しかったとか……」
事実でなく自分が欲する答えを求める女性記者の表情に、心底うんざりする。フリードリヒは深呼吸して自分を落ち着ける。
「それは、彼女が本当に悲しんでいたからです。せめて、スープだけでも口に入れてもらわなきゃならないと思っただけですよ」
言葉尻を捕らえられないように事実だけを話す。クラウディアとは自分が駆け出しのころから仕事の付き合いがある芸能人仲間。それ以上でも以下でもない。が、昨年状況が大きく変わる。
クラウディアは夫を心から愛していた。些細なことで夫婦げんかになり、仲直りする前に事故で死別してしまった。そのことで自分を責めていた。夫の後を追われては困ると、本人がひとりにして欲しいと言うのをあえて無視した。フリードリヒは少しでも彼女を元気づけようと差し入れをし、話し相手になった。それだけだ。
「おふたりの間に恋愛感情はない、と……?」
「ない。まったく」
断定する。というのも、少しまずい状況だからだ。
フリードリヒが悲しんでいるクラウディアを支えようとしたことは、純粋に善意だ。が、あちらはどうやら勘違いしてしまったらしい。食事を差し入れられ、身の回りの世話をされる内に、年の差を忘れて恋をしてしまった。アプローチを受けているのも事実だ。
うかつなことを言うと何を書かれるかわからない。
「今後お付き合いをなさる予定などはないのですか?」
(まったく……記者ってのはいつもこうだ……!)
取材とも言えない、しつこいゴシップ漁りに、いい加減我慢の限界だった。
「お付き合いする予定もなにも、俺には今付き合ってる人がいます」
この際だからはっきり言ってやることにした。予定調和も芸能人としての道義的責任もくそくらえだ。
「「!?」」
御用係と記者が、同時に鳩が豆鉄砲を食った顔になる。
「ええと……。どなたとお付き合いをしているのでしょう……?」
記者が目を輝かせる。
フリードリヒとクラウディアが交際中という筋書きはおじゃんになった。が、別の特ダネが転がり込んできた。そう顔に書いてある。
「彼の名誉のために、申し上げられません」
言い切ってやる。後で御用係に怒られようともかまわない。そう思ったが……。
「ふむふむ……」
記者はなぜか嬉しそうにメモを取る。そして、笑顔で「今日はありがとうございました」と取材を終わりにする。
(あれ……?どういうことだ……?)
質問攻めを覚悟していたフリードリヒは拍子抜けだった。
「お見事フリードリヒ。付き合っているのが男ならなにも問題なし」
御用係が親指を立てる。
(わけわかんねえ……)
芸能界とは奇なるところ。常々そう思っていたが、今日フリードリヒはその確信を深めたところだった。
数日後、歪曲と煽りで有名な雑誌にデカデカと記事が載る。
『歌い手フリードリヒ・ロビンシュタイン。一般男性と交際中』
『ええ……?フリードリヒさまがホモ……?♡』『ああ……尊すぎる……♡』『フリードリヒ様が攻めよね……。♡でも……フリードリヒ様受けもいいかも……♡』
王都中の腐ったお嬢さんたちが萌え死にしかけたのは言うまでもない。
「ま……。フェリクスと付き合っていいわけだから問題ないか……」
戸惑いながらも、愛おしい男と一緒にいられることに美貌の歌い手は安堵するのだった。
フリードリヒは御用係、要するにマネージャーとともに雑誌の取材を受けていた。最悪の気分だ。記者は愛想笑いだけはうまい軽薄そうなアラサー女。典型的なゴシップ屋で、間違っても喜んで取材を受けたい手合いではない。
『今日こそ売れるネタを掴んでみせる。多少脚色もやむなし。うそじゃないし』
『芸能人はみんなの恋人。わかるな?』
はっきり言ってうんざりだった。面白いか売れるかにしか興味がない記者の態度も。御用係の言う予定調和も。
「フリードリヒさん。率直にお聞きします。歌劇歌手のクラウディア・マセラティさんとお付き合いなさっているというのは事実ですか?」
「そんな事実はありません」
ものすごく塩対応な即答が返ってくる。だが、記者はまだ諦めていないようだ。クラウディア・マセラティは、アラフォーにして若々しさと艶やかさを失わない、いわば美魔女として人気が高い。しかも、昨年夫を亡くしたばかりの未亡人。年の差カップルという話題性を無理にでもひねり出したいらしい。
「最近彼女から積極的にあなたに近づこうとなさっているようですし……。聞いた話によると、旦那さんを亡くした後の彼女にフリードリヒさんはずいぶんお優しかったとか……」
事実でなく自分が欲する答えを求める女性記者の表情に、心底うんざりする。フリードリヒは深呼吸して自分を落ち着ける。
「それは、彼女が本当に悲しんでいたからです。せめて、スープだけでも口に入れてもらわなきゃならないと思っただけですよ」
言葉尻を捕らえられないように事実だけを話す。クラウディアとは自分が駆け出しのころから仕事の付き合いがある芸能人仲間。それ以上でも以下でもない。が、昨年状況が大きく変わる。
クラウディアは夫を心から愛していた。些細なことで夫婦げんかになり、仲直りする前に事故で死別してしまった。そのことで自分を責めていた。夫の後を追われては困ると、本人がひとりにして欲しいと言うのをあえて無視した。フリードリヒは少しでも彼女を元気づけようと差し入れをし、話し相手になった。それだけだ。
「おふたりの間に恋愛感情はない、と……?」
「ない。まったく」
断定する。というのも、少しまずい状況だからだ。
フリードリヒが悲しんでいるクラウディアを支えようとしたことは、純粋に善意だ。が、あちらはどうやら勘違いしてしまったらしい。食事を差し入れられ、身の回りの世話をされる内に、年の差を忘れて恋をしてしまった。アプローチを受けているのも事実だ。
うかつなことを言うと何を書かれるかわからない。
「今後お付き合いをなさる予定などはないのですか?」
(まったく……記者ってのはいつもこうだ……!)
取材とも言えない、しつこいゴシップ漁りに、いい加減我慢の限界だった。
「お付き合いする予定もなにも、俺には今付き合ってる人がいます」
この際だからはっきり言ってやることにした。予定調和も芸能人としての道義的責任もくそくらえだ。
「「!?」」
御用係と記者が、同時に鳩が豆鉄砲を食った顔になる。
「ええと……。どなたとお付き合いをしているのでしょう……?」
記者が目を輝かせる。
フリードリヒとクラウディアが交際中という筋書きはおじゃんになった。が、別の特ダネが転がり込んできた。そう顔に書いてある。
「彼の名誉のために、申し上げられません」
言い切ってやる。後で御用係に怒られようともかまわない。そう思ったが……。
「ふむふむ……」
記者はなぜか嬉しそうにメモを取る。そして、笑顔で「今日はありがとうございました」と取材を終わりにする。
(あれ……?どういうことだ……?)
質問攻めを覚悟していたフリードリヒは拍子抜けだった。
「お見事フリードリヒ。付き合っているのが男ならなにも問題なし」
御用係が親指を立てる。
(わけわかんねえ……)
芸能界とは奇なるところ。常々そう思っていたが、今日フリードリヒはその確信を深めたところだった。
数日後、歪曲と煽りで有名な雑誌にデカデカと記事が載る。
『歌い手フリードリヒ・ロビンシュタイン。一般男性と交際中』
『ええ……?フリードリヒさまがホモ……?♡』『ああ……尊すぎる……♡』『フリードリヒ様が攻めよね……。♡でも……フリードリヒ様受けもいいかも……♡』
王都中の腐ったお嬢さんたちが萌え死にしかけたのは言うまでもない。
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