ブラック男の終点

ブラックウォーター

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薬物

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 少し間を置いて、江田島が口を開く。
「自白の強要を怖れてるならご心配なく。あなたは芸能人でも政治家でもない。自白の強要までするようなことではありませんとも」
「なに…!」
 藤野が一瞬、殴りかからんばかりに椅子から腰を上げる。
 だが、すぐに冷静になる。
 椅子に巻き付けられた腰縄が食い込み、後ろで監視している警察官が立ち上がったからだ。
 ここで暴れようものなら、公務執行妨害が追加されるだけ。
 それに気づいたのだ。
 何度も深呼吸して、必死で理不尽な怒りを抑え込む。
 そして、言葉を選びながら話し始める。
「ありがたい話とは思いますが…。問題発言では?それだと芸能人や政治家なら、自白を強要してでも有罪にする、っていうふうに聞こえる」
 挑発しているつもりらしい藤野に、江田島はまた笑顔を向けてやる。
「誤解しないで下さい。ものの例えですよ。私は性悪説論者でね。人の良心を信じすぎるのは危険だと思っている。どうしても合格しなければならない試験では、人は勉強を頑張るよりカンニングを選ぶ。そう思っているんです」
 江田島はそこで言葉を句切る。
「なにを言いたいかと言うと、自白を強要されるかも知れない、と心配なさる必要は全くないということです。あなたの場合は」
 その言葉に、藤野がまたぐっと詰まる。
 “お前ごとき、自白の強要をしてまで有罪にするほどの大物じゃない”
 要はそう言われたと解釈したからだ。江田島も実際そういうつもりだった。

「さて、話しを戻しましょう。とにかく、仕事だけでなく家庭でもうまくいっていなかったあなたは、ストレスからコカインに手を出した。そういうことですか?」
「黙秘します」
 藤野が即答する。
(予想していたことだ)
 江田島は無駄な質問をするつもりはない。これは前振りだった。
「コカインだけですか?覚せい剤の類いを使ったことは?」
「質問の意味がわかりませんが?」
 藤野はまんまと釣られてしまう。
 江田島はほくそ笑んだ。
 ひと言黙秘すると言えばいいものを、よけいなことを言ってしまった。
 愚かなことだが、覚せい剤は卑しい貧乏人がやるもので、コカインは高貴なものの娯楽、という暗黙の価値観がまかり通っている。
 プライドだけが肥大化した藤野は、自分は後者のがわだ。覚せい剤などやっていると思われるのは心外、とむっとしたらしい。
(コカインも覚せい剤も同じだろうに)
 江田島は素直に作戦の成功を喜べなかった。
 あまりにも次元の低すぎる話だ。
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