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公判

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01

 時間は少し跳ぶ。
 横浜地方裁判所、第503号法廷。
 手錠をかけられた藤野が、不満が爆発寸前という表情で入廷する。
(弁護人とも信頼関係は築けないようだな)
 検察官席の江田島は嘆息する。
 執行猶予が取り消され、傷害致死やその他もろもろの嫌疑で逮捕されても、藤野は反省の色をまるで見せなかった。
 私選の弁護人を選んでは、自分の言うとおりにやらないからと解任、あるいはうんざりした弁護人が辞任することを繰り返している。
 恐らく、裁判の直前の打ち合わせでも、弁護人とケンカをしたのだろう。

 藤野は証人尋問をビデオリンクで行うことに、猛反対していた。
 だが、証人を威圧する危険ありとして、ビデオリンクでの尋問は当然のように許可された。
 弁護人も、抵抗してもビデオリンクの決定は降りることがわかっていたから、反対の上申書を出すにとどまっていた。
(それが納得できない。弁護人のせいにしているというわけだ)
 藤野とはそう言う男だった。
 会社を経営していたころから、まったく変わっていない。
 まるで非現実的な目標を設定し、無理だと言われると「根性でなんとかしろ」とヒステリーを起こす。
 そして、できなければ他人のせいにして、まるで責任を負おうとしない。
 他人に責任を負わせ、罵倒し暴力を振るう。
 そんなことで得られるのは、自己満足だけだとわからないのだ。
(裁判の前に打ち合わせを認めて正解だった)
 検察官でありながら、江田島はそう思う。
 ビデオリンクが不満で、証人を直接法廷に呼べとごねる藤野が、それはできないといさめる弁護人とケンカになることは予想がついていたからだ。
 被告人と弁護人がケンカをしていて、勝てる通りがない。
 ともあれ、それは健全な裁判手続きとは言えない。
 江田島は検事として、作戦の成功を素直に喜べなかった。
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