ブラック男の終点

ブラックウォーター

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立証

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 ビデオリンクによる証人尋問の最後の証人は、藤野の妻だった。
 離婚裁判中だが。
 彼女自身も、脅迫や暴行で藤野を刑事、民事で告訴している。
 今日証人喚問したのは、藤野が家で傷害致死の被害者に対する犯意を語っていたことを、証言してもらうためだ。
「彼は、家で被害者のことをどう言っていましたか?」
『“やつを殴ってやる”“仕事ができるようになるまで痛めつけてやる”と言っていました』
「被害者を殺すとか、死んでいいとか言っていたことはありましたか?」
『いえ、とくにそういうことはなかったと思います』
 江田島の質問に、別室にいる藤野の妻が打ち合わせ通りに答えていく。
(返す返すも、藤野が女房に被害者の殺害をほのめかしてなかったのが無念だ)
 質問を続けながら、江田島は思う。
 藤野は妻に対しても、殺害や無理心中をほのめかす発言をしていた。
 妻に被害者に大して殺意があったことを、酒の勢いででも言っていてくれれば、殺人罪で起訴できた可能性が高かった。
 積極的に殺す気はないが、死んでもかまわないと思っていた。つまり未必の故意を立証できたはずだったのだ。
 だが、結果として藤野は妻には被害者を殺すの死んでいいのという言葉は使っていなかった。

「裁判長、誘導尋問では?」
 弁護人の澄川が割って入る。
「検察官、質問を変えて下さい」
 裁判官が、異議を認める。
「失礼しました」
 江田島は素直に応じる。
 どうせ、藤野の殺意の立証はもう諦めている。
 後は、量刑を重くする努力をするだけだ。
「では、証人にうかがいます。被告人と生活していたときのことです。被告人は、部下に暴力を振るったり、パワハラを働いたりしたことを、自慢するように語っていたことがありますか?」
『はい、ありました』
「どのような?」
『たしか…“顔の形が変わるまで殴ってやった”とか、“寒い中外に立たせておいてやった”とか言っていました』
 スクリーンの中の藤野の妻が、また打ち合わせ通りに答える。
 作戦だった。
 尋問の趣旨はふたつ。
 裁判官に、藤野が部下に暴力や暴言を吐いて楽しむ鬼畜であることを印象づけるのがひとつ。
 そして、ふたつめの趣旨は、程なく達成されることになる。
「里見!てめえ!でたらめ言うな!」
 藤野がいよいよ、理不尽な怒りを爆発させたのだ。
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