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炎上の報いの果てに
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01
株式会社ミルキーウェイライト。
エルフのアイドルである、サミーことサマンサ・ノースは深刻な問題に直面していた。
「一体、誰がこんなことを…」
芸能関係のSNS、事務所のブログ、サミーが個人的に運営している掲示板。
それらのことごとくが荒らされ、大炎上の状態だった。
〝人気アイドルに薬物使用疑惑〟〝ダイエットとリバウンドは、やばい薬のせい?〟〝異世界出身アイドルの闇〟
事実無根の書き込みが、ネット全体に広がりつつある。
「こいつは、悪質な炎上屋が糸を引いてるな」
克正は、荒らし対策の本に目を通す。荒らしやなりすましの特徴が列挙されている。
巧妙に何人もの人物を演じてはいるが、間違いなく一人か、極めて少数の人間が意図的に炎上させている。
「プロデューサー、少しいいかね?」
訪ねてきた雲上人、社長の東原に、克正とサミーは立ち上がって背筋を伸ばす。
「あ、社長、お疲れさまです。どうでしょうか?」
「なんとかなりそうですか?」
二人が身を乗り出す。
ここのところのサミーに対する誹謗中傷は、芸能活動そのものに影響しかねない。
無視を続けるにも限度がある。
匿名性の陰に隠れて、証拠の裏付けのない情報を拡散する悪質な輩は、始末に負えない。
「うむ。弁護士に正式に依頼して、裁判所にネット発信者を特定してもらうことにした。併せて、警察にも告訴状を出すつもりだ。いくらなんでも、これはひどすぎる」
温厚な東原が、珍しくいらだちを露わにしている。
芸能界に長くいればこういうことも起きる。
だが、自分の事務所のアイドルが証拠もなく犯罪者扱いされている。
我慢にも限度があるのだ。
〝売れてるアイドルだと、警察も手が出せないのか?〟〝薬やりながら堂々とステージに立ってるなんて許せないよね?〟〝社会正義のために、拡散をお願いします〟
(何様のつもりだ)
悪意に満ちた書き込みに、克正は虫唾が走る。
匿名性をいいことに、やつらは罪の意識がないどころか、正義を行っているつもりだ。
法が裁けない悪を、自分たちで裁いているつもりなのだ。
「しかし、裁判所にネット発信者を特定してもらうにも時間がかかりますね…?」
「うむ…。そこが問題だ。テレビ局やレコード会社が、ネットの炎上の圧力に屈するようなことも…ないとは言い切れない…」
克正と東原は、そろって渋面になる。
サミーの活動のスケジュールは待ってくれない。
法による名誉の回復が間に合うか、難しいところだった。
「社長、プロデューサーさん、裁判所や警察と併せて、試してみたいことがあるんです」
サミーは金髪碧眼の美貌に、決然とした表情を浮かべている。
彼女なりに、対策を考えているのだ。
数時間後。
「すごい、確かにこいつだ。間違いない」
「しかし、書き込みから逆探知なんて、本当なのかね?」
サミーは、SNSやネットの書き込みから、炎上屋を見事に突き止めていた。
炎上屋は、間抜けにもパソコンにいい加減なセキュリティしか備えていない。
内部の情報を見放題だった。
書き込みや配信の履歴を追ったところ、サミーを誹謗中傷していた大本はこいつで間違いない。
「やってみるのは初めてですが、案外簡単でしたよ。光の精霊に協力してもらって、発信元まで遡ってもらったんです」
「うーむ。すごい」
克正には言葉もなかった。
エルフが精霊と交信したり、力を借りたりすることができるのは知っていた。
しかし、まるで情報機関なみの逆探知まで可能とは。
光通信は、乱暴に言ってしまえば発光信号やサーチライトと同じだ。光が出ている元をたどれば、発信者にたどり着く。
理屈はわかるが、やはり驚きだった。
「だが、これからどうするね?うかつに仕返しするのはまずいぞ。こっちが加害者になってしまう」
東原がサミーに問う。
「それは…」
考えられる手として、発信者の個人情報をネット上で公開したり、ウィルスを送ったりということがある。
だが、それは犯罪だ。
私的な報復を行えば、加害者はこちらになってしまう。
「大丈夫ですよ。そこまでやる必要はない。パソコンを遠隔操作して、ちょっと細工してやれば…」
そう言った克正の表情に、サミーと東原はたじろいだ。
こちらが犯罪者になるようなことはしない。だが、炎上屋にけじめを取らせてやる。生きていることを公開するまで。
イケメンと言える敏腕プロデューサーの顔には、そう書いてあったのだ。
数日後。
炎上屋は、逆に自分がネットで袋だたきに遭っていた。
「すみませんでした。自首します。だから保護してください」
ネットで叩かれるだけではない。彼の電話番号、メールアドレス、SNSのアカウント。果ては住所までさらされるに及んで、身の危険を感じた。
今までの自分の罪を認める代わりに、警察に保護を求めるしかなかったのだ。
「なんで、住所が特定されるような書き込みしたの?おまけに、顔写真アップするなんてやばいのわかるでしょ?」
「それが…わからないんです…。パソコンが遠隔操作されてたのかも…」
炎上屋は、警察の取り調べにとんちんかんな応答を繰り返すことになった。
克正が仕掛けた細工。
それは、炎上屋の身元を特定できるような情報を、ネットに小出しにしていくことだった。
匿名性に隠れて悪さをする炎上屋が、なりすましの被害を受けたのだから笑うしかない事態だった。
パソコンを遠隔操作し、炎上屋の個人情報をさりげなくネット上に流していく。
〝今日の飯は、○○町の牛丼だった〟〝××通りのパチスロ、全然出ない。二度と行くか〟〝近所で玉突き衝突があった。すぐ近く。やばかった〟
もちろん、本人が発信した形を取って。
効果は劇的だった。
根拠のない誹謗中傷で被害を受けていた人々は、血眼になって炎上屋を探した。
そして、ついに居場所を特定されてしまう。
こうなれば、待っているのは落ち武者狩りだった。
匿名性という鎧を失った敗残者は、自分がしてきたことの報いを受けることになる。
パソコンにはメール爆弾が届き、毎日のように脅迫メールが送られてくる。
面白半分に法を犯し、他人を侮辱した子悪党の末路だった。
業腹なのが、尻馬に乗ってサミーへの誹謗中傷を拡散した者たちが、ほとんど逃げおおせたことだ。
〝やばかったよ。危うく俺らまで捕まってたかも〟〝知らねえよ。俺たち拡散しただけだし〟〝そうだ。言い出しっぺが悪い。あたしらもだまされた被害者さ〟
結局愚か者たちは、刑事事件になるまで悪質な噂を拡散し続けるのだろう。
やるせない気分。他の感想はなかった。
「しかし、炎上の元がわかると落ち武者狩りとはねえ…」
数日後の事務所。
炎上屋が起訴されたという記事を読みながら、東原が嘆息する。
落ち武者となった炎上屋への、被害者からの私的制裁や報復がひどい。警察が注意と自重を呼びかけているというのだ。
「自業自得とはいえ、ここまでやられるとは…。まあ、身から出た錆ですけど…」
サミーが呆れた顔になる。
炎上屋がどんなチンピラや社会不適合者かと思えば、蓋を開けてびっくり。
なんと、地方銀行の営業マンだった。しかも、勤務成績はそれなりに優秀だったらしい。
彼の破滅の直接のきっかけは、愚かにもヤバ筋をターゲットにしたことだった。
暴力団の幹部の娘に関して、あることないこと書き込んだのだ。
〝実は入れ墨いれてるらしい〟〝セックスアンドバイオレンス!さすがその筋の娘さん!〟〝彼女を怒らせるとどうなるか、聞いた話だけど…〟
当然、組員たちが黙っていない。流出した個人情報をもとに、すぐに所在を突き止められた。
直接暴力に訴えることはなくとも、ネチネチとした嫌がらせが始まった。
当然、銀行員という立場上、反社会的勢力との関係は御法度だ。
『どういうことなのかね?』
上司から暴力団ともめているいきさつを問い詰められ、彼は全てを告白するしかなかった。
数日後、彼は銀行を自主退職した。事実上の解雇だった。
それがまた、噂を呼んだ。
結局落ち武者に成り果てた炎上屋は全てを失い、いたたまれず引っ越してしまう。
「結局やつは、再就職にも苦労するだろうし、刑事裁判も受けなけりゃならないわけか」
「ま、小悪党の末路だな」
克正と東原は、眉をひそめながらも同意見だった。
「かわいそうとは思いませんね。はっきり言って」
炎上の被害者であるサミーに、同情はなかった。
自分はアイドルの仕事に誇りを持っている。薬物使用のデマなど噴飯ものだ。
「まあ、今回はひどすぎるにしても、芸能界にいれば多少のことは…な…?」
東原が言いにくそうになる。
かつて、何の根拠もなく殺人犯扱いされたお笑い芸人の例を見るまでもない。
尻馬に乗った愚か者たちが、正義の制裁のつもりで誹謗中傷の拡散をした。
あまつさえ、処罰されると「自分もだまされた」などと、被害者ぶる有様だ。
そういう輩が出てくることは、残念ながらいつの時代も不可避なのだ。
「ともあれ、原点に立ち戻らないとな。アイドルはみんなの恋人だ。スキャンダルになりそうなことには注意が必要だ」
克正が、サミーを見ながら言う。
彼女にはなんの責任もなく、ひどいめにあった。が、せめて今後の教訓にすべき。
そう思えた。
「もちろん、世間に顔向けできないようなことはしませんよ。私は、プロデューサーさんさえいれば満足ですもの」
サミーが急に妖艶な表情になり、克正の腕を抱き寄せる。
「だから、アイドルはみんなの恋人だって意味、わかってるのか!?」
克正が大声を出す。
「ちぇっ!見つからなければいいじゃないですか-」
サミーが食い下がる。腕に柔らかいものが当たっている。
克正が拳を額に当てて、眉間にしわを寄せる。
「私はなにも見なかったよ」
そういって、東原はその場を辞す。
〝さじ加減は君の仕事だ〟
と、問題を丸投げしたのだ。
「サミー、いいから離れろって。誰が見てるかわからんだろ?」
「ぶー。今回頑張ったんだし、ご褒美くれてもいいじゃないですか-」
抱きつくサミーと引き剥がそうとする克正の拮抗は、しばらく続くのだった。
株式会社ミルキーウェイライト。
エルフのアイドルである、サミーことサマンサ・ノースは深刻な問題に直面していた。
「一体、誰がこんなことを…」
芸能関係のSNS、事務所のブログ、サミーが個人的に運営している掲示板。
それらのことごとくが荒らされ、大炎上の状態だった。
〝人気アイドルに薬物使用疑惑〟〝ダイエットとリバウンドは、やばい薬のせい?〟〝異世界出身アイドルの闇〟
事実無根の書き込みが、ネット全体に広がりつつある。
「こいつは、悪質な炎上屋が糸を引いてるな」
克正は、荒らし対策の本に目を通す。荒らしやなりすましの特徴が列挙されている。
巧妙に何人もの人物を演じてはいるが、間違いなく一人か、極めて少数の人間が意図的に炎上させている。
「プロデューサー、少しいいかね?」
訪ねてきた雲上人、社長の東原に、克正とサミーは立ち上がって背筋を伸ばす。
「あ、社長、お疲れさまです。どうでしょうか?」
「なんとかなりそうですか?」
二人が身を乗り出す。
ここのところのサミーに対する誹謗中傷は、芸能活動そのものに影響しかねない。
無視を続けるにも限度がある。
匿名性の陰に隠れて、証拠の裏付けのない情報を拡散する悪質な輩は、始末に負えない。
「うむ。弁護士に正式に依頼して、裁判所にネット発信者を特定してもらうことにした。併せて、警察にも告訴状を出すつもりだ。いくらなんでも、これはひどすぎる」
温厚な東原が、珍しくいらだちを露わにしている。
芸能界に長くいればこういうことも起きる。
だが、自分の事務所のアイドルが証拠もなく犯罪者扱いされている。
我慢にも限度があるのだ。
〝売れてるアイドルだと、警察も手が出せないのか?〟〝薬やりながら堂々とステージに立ってるなんて許せないよね?〟〝社会正義のために、拡散をお願いします〟
(何様のつもりだ)
悪意に満ちた書き込みに、克正は虫唾が走る。
匿名性をいいことに、やつらは罪の意識がないどころか、正義を行っているつもりだ。
法が裁けない悪を、自分たちで裁いているつもりなのだ。
「しかし、裁判所にネット発信者を特定してもらうにも時間がかかりますね…?」
「うむ…。そこが問題だ。テレビ局やレコード会社が、ネットの炎上の圧力に屈するようなことも…ないとは言い切れない…」
克正と東原は、そろって渋面になる。
サミーの活動のスケジュールは待ってくれない。
法による名誉の回復が間に合うか、難しいところだった。
「社長、プロデューサーさん、裁判所や警察と併せて、試してみたいことがあるんです」
サミーは金髪碧眼の美貌に、決然とした表情を浮かべている。
彼女なりに、対策を考えているのだ。
数時間後。
「すごい、確かにこいつだ。間違いない」
「しかし、書き込みから逆探知なんて、本当なのかね?」
サミーは、SNSやネットの書き込みから、炎上屋を見事に突き止めていた。
炎上屋は、間抜けにもパソコンにいい加減なセキュリティしか備えていない。
内部の情報を見放題だった。
書き込みや配信の履歴を追ったところ、サミーを誹謗中傷していた大本はこいつで間違いない。
「やってみるのは初めてですが、案外簡単でしたよ。光の精霊に協力してもらって、発信元まで遡ってもらったんです」
「うーむ。すごい」
克正には言葉もなかった。
エルフが精霊と交信したり、力を借りたりすることができるのは知っていた。
しかし、まるで情報機関なみの逆探知まで可能とは。
光通信は、乱暴に言ってしまえば発光信号やサーチライトと同じだ。光が出ている元をたどれば、発信者にたどり着く。
理屈はわかるが、やはり驚きだった。
「だが、これからどうするね?うかつに仕返しするのはまずいぞ。こっちが加害者になってしまう」
東原がサミーに問う。
「それは…」
考えられる手として、発信者の個人情報をネット上で公開したり、ウィルスを送ったりということがある。
だが、それは犯罪だ。
私的な報復を行えば、加害者はこちらになってしまう。
「大丈夫ですよ。そこまでやる必要はない。パソコンを遠隔操作して、ちょっと細工してやれば…」
そう言った克正の表情に、サミーと東原はたじろいだ。
こちらが犯罪者になるようなことはしない。だが、炎上屋にけじめを取らせてやる。生きていることを公開するまで。
イケメンと言える敏腕プロデューサーの顔には、そう書いてあったのだ。
数日後。
炎上屋は、逆に自分がネットで袋だたきに遭っていた。
「すみませんでした。自首します。だから保護してください」
ネットで叩かれるだけではない。彼の電話番号、メールアドレス、SNSのアカウント。果ては住所までさらされるに及んで、身の危険を感じた。
今までの自分の罪を認める代わりに、警察に保護を求めるしかなかったのだ。
「なんで、住所が特定されるような書き込みしたの?おまけに、顔写真アップするなんてやばいのわかるでしょ?」
「それが…わからないんです…。パソコンが遠隔操作されてたのかも…」
炎上屋は、警察の取り調べにとんちんかんな応答を繰り返すことになった。
克正が仕掛けた細工。
それは、炎上屋の身元を特定できるような情報を、ネットに小出しにしていくことだった。
匿名性に隠れて悪さをする炎上屋が、なりすましの被害を受けたのだから笑うしかない事態だった。
パソコンを遠隔操作し、炎上屋の個人情報をさりげなくネット上に流していく。
〝今日の飯は、○○町の牛丼だった〟〝××通りのパチスロ、全然出ない。二度と行くか〟〝近所で玉突き衝突があった。すぐ近く。やばかった〟
もちろん、本人が発信した形を取って。
効果は劇的だった。
根拠のない誹謗中傷で被害を受けていた人々は、血眼になって炎上屋を探した。
そして、ついに居場所を特定されてしまう。
こうなれば、待っているのは落ち武者狩りだった。
匿名性という鎧を失った敗残者は、自分がしてきたことの報いを受けることになる。
パソコンにはメール爆弾が届き、毎日のように脅迫メールが送られてくる。
面白半分に法を犯し、他人を侮辱した子悪党の末路だった。
業腹なのが、尻馬に乗ってサミーへの誹謗中傷を拡散した者たちが、ほとんど逃げおおせたことだ。
〝やばかったよ。危うく俺らまで捕まってたかも〟〝知らねえよ。俺たち拡散しただけだし〟〝そうだ。言い出しっぺが悪い。あたしらもだまされた被害者さ〟
結局愚か者たちは、刑事事件になるまで悪質な噂を拡散し続けるのだろう。
やるせない気分。他の感想はなかった。
「しかし、炎上の元がわかると落ち武者狩りとはねえ…」
数日後の事務所。
炎上屋が起訴されたという記事を読みながら、東原が嘆息する。
落ち武者となった炎上屋への、被害者からの私的制裁や報復がひどい。警察が注意と自重を呼びかけているというのだ。
「自業自得とはいえ、ここまでやられるとは…。まあ、身から出た錆ですけど…」
サミーが呆れた顔になる。
炎上屋がどんなチンピラや社会不適合者かと思えば、蓋を開けてびっくり。
なんと、地方銀行の営業マンだった。しかも、勤務成績はそれなりに優秀だったらしい。
彼の破滅の直接のきっかけは、愚かにもヤバ筋をターゲットにしたことだった。
暴力団の幹部の娘に関して、あることないこと書き込んだのだ。
〝実は入れ墨いれてるらしい〟〝セックスアンドバイオレンス!さすがその筋の娘さん!〟〝彼女を怒らせるとどうなるか、聞いた話だけど…〟
当然、組員たちが黙っていない。流出した個人情報をもとに、すぐに所在を突き止められた。
直接暴力に訴えることはなくとも、ネチネチとした嫌がらせが始まった。
当然、銀行員という立場上、反社会的勢力との関係は御法度だ。
『どういうことなのかね?』
上司から暴力団ともめているいきさつを問い詰められ、彼は全てを告白するしかなかった。
数日後、彼は銀行を自主退職した。事実上の解雇だった。
それがまた、噂を呼んだ。
結局落ち武者に成り果てた炎上屋は全てを失い、いたたまれず引っ越してしまう。
「結局やつは、再就職にも苦労するだろうし、刑事裁判も受けなけりゃならないわけか」
「ま、小悪党の末路だな」
克正と東原は、眉をひそめながらも同意見だった。
「かわいそうとは思いませんね。はっきり言って」
炎上の被害者であるサミーに、同情はなかった。
自分はアイドルの仕事に誇りを持っている。薬物使用のデマなど噴飯ものだ。
「まあ、今回はひどすぎるにしても、芸能界にいれば多少のことは…な…?」
東原が言いにくそうになる。
かつて、何の根拠もなく殺人犯扱いされたお笑い芸人の例を見るまでもない。
尻馬に乗った愚か者たちが、正義の制裁のつもりで誹謗中傷の拡散をした。
あまつさえ、処罰されると「自分もだまされた」などと、被害者ぶる有様だ。
そういう輩が出てくることは、残念ながらいつの時代も不可避なのだ。
「ともあれ、原点に立ち戻らないとな。アイドルはみんなの恋人だ。スキャンダルになりそうなことには注意が必要だ」
克正が、サミーを見ながら言う。
彼女にはなんの責任もなく、ひどいめにあった。が、せめて今後の教訓にすべき。
そう思えた。
「もちろん、世間に顔向けできないようなことはしませんよ。私は、プロデューサーさんさえいれば満足ですもの」
サミーが急に妖艶な表情になり、克正の腕を抱き寄せる。
「だから、アイドルはみんなの恋人だって意味、わかってるのか!?」
克正が大声を出す。
「ちぇっ!見つからなければいいじゃないですか-」
サミーが食い下がる。腕に柔らかいものが当たっている。
克正が拳を額に当てて、眉間にしわを寄せる。
「私はなにも見なかったよ」
そういって、東原はその場を辞す。
〝さじ加減は君の仕事だ〟
と、問題を丸投げしたのだ。
「サミー、いいから離れろって。誰が見てるかわからんだろ?」
「ぶー。今回頑張ったんだし、ご褒美くれてもいいじゃないですか-」
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