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05 逆侵攻
逆侵攻と不穏な影
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01
2020年10月28日
トリジア連邦北端の街ミーナス。
外では風が出始め、壁に空いた穴から雪が舞い込んでくる。
それでも、マット・オブアイアンの取材は続いていた。
この企画の最大の取材対象と言えるジョージ・ケインには、まだまだ聞きたいことがあるのだ。
紛争地帯らしく、引っ切りなしに響いている銃声や砲声も、馴れると気にならなくなるから不思議だった。
「現場の兵たちは、デウスへの逆侵攻に乗り気ではなかった。
しかし、連合国の政府は逆侵攻を強行したということですか」
「そう言うことだな。
現場の軍人たちは、デウスへの逆侵攻には消極的だった。
主要都市への空爆や、弾道ミサイルでの攻撃に留めるべきという意見も強かった。
地上部隊と艦隊を送り込んでデウスの領土を実行制圧するとなると、連合軍にも相応の被害が予測されたからな」
ジョージはたんたんと答えるが、どこか忸怩たる雰囲気だった。
当時を思い出しているのだろう。
「当時はユニティアでも、地上部隊の侵攻に懐疑的な意見が少なからずありました。
しかし、それも熱くなっていた国民世論に押し切られた。
“デウスのやり得を許すな”“けじめを取らせろ”と。
政府はそんな世論の後押しにものを言わせて、議会に逆侵攻を決議させたのです」
「まあ…よくある話だな。
やつらが加害者だ。復讐しろ。何倍にもしてやり返せ。
そう世論が沸き立っている内なら、強引な軍事侵攻も合理化できる。
現場はたまったもんじゃないがな」
そう言って、ジョージは鼻を鳴らす。
意外かも知れないが、国民の代表である政治家よりも、軍人の方が戦争に消極的であることはよくある。
軍人は戦争の専門家だ。
大規模な軍事衝突となれば、当然金もかかるし人命も失われる。
なんと言っても、戦争となれば戦って命を落とすのは軍人たちなのだ。
後方の快適な事務所から指揮を執る政治家よりも、避戦的であるのはむしろ自然なのだ。
一方で、選挙のことしか興味のない政治家が、現実を無視した主戦論を振りかざすのもよくあることだ。
そうやって戦争は泥沼化し、多くの悲劇を生む。往々にして。
地球の歴史を振り返っても、独ソ戦、太平洋戦争、イラク戦争など、軍人の消極論を政治家が無視して悲惨な戦いが起きた例は、枚挙にいとまがない。
「デウス侵攻の時の軍人さんたちの表情は、さぞかし暗かったでしょうね。
あなたも、“雷神”も。
私は軍隊の経験はありませんが、自軍の大義を疑っていたら戦争なんてやってられないでしょう?」
「ま、その通りだ。
シビリアンコントロールってお題目がある以上、政治家が命令すればそれに従うのが軍人の勤めだ。
だが、みんな腹の底では政治家たちに対して罵詈雑言を叫んでたよ。
こんな戦いに何の意味があるんだ、これじゃデウスのやったことと同じじゃないか、ってな」
ジョージは肩をすくめ、顔を曇らせる。
彼もまた、自分たちの立場に葛藤していたのだろう。
「デウス侵攻時の第一目標は、中東部の工業都市ブラウアイゼンでしたね?
軍事産業の6割以上が集中していて、そこを叩けばデウス軍の継戦能力を大きく減じることができると」
「ああ、今にして思えば、ブラウアイゼンに工業地帯を集中させていたのはデウスの無為無策と言えた。
本来なら非効率を甘受して、国土の各所に工業地帯を分散させておくべきなのにな。
まあ、当時独裁体制のデウスに正常な思考を期待しても無駄だったが。
デウス本土が戦火に見舞われた時のことを論じるだけで、敗北主義者として粛正されかねなかったろうから。
“火事なんか起こさないから消火器や警報器は必要無い”なんて馬鹿な理屈が大まじめにまかり通ったんだろう」
ジョージは諦め気味の苦笑を浮かべる。
彼の言っていることは、マットにも理解できた。
そもそも、独裁体制が生まれるのは、国民が目を閉じ耳を塞いでしまうからだ。
能書きや理想論はいい、独裁でもなんでもいいから今日明日の自分たちの生活をなんとかしろ。
都合の悪い事実から目を逸らし、耳に痛い言葉を否定して。
そうやって民主主義の自殺が起こり、ファシズムは生まれる。
危機管理能力の低下はむしろ必然なのだ。
目を閉じ、耳を塞いでいたら、危険に気づくことができるわけがない。
「話してもらえませんか?
その時ブラウアイゼンであったことを」
「その口ぶりじゃ知っているようだな。
ブラウアイゼンが焦土になったのは、表向きデウス軍の焦土作戦てことになってる。
工業地帯を連合軍に渡さないために火を放ったと。
だが、それは一面でしかない」
ジョージは静かに語り始めた。
マットも、一語一句をメモに書き留めていく。
2018年9月10日。
ヴェステンレマ共和国、デウスとの国境付近の街、フォルツグラード。
オープンカフェスタイルのレストランで、肥満の軽薄そうな男が豚の血入りソーセージを肴にビールを飲んでいた。
その男の向かいの席に、ペーパーハットとサングラスを身につけた、この国の人間らしくない風体と雰囲気の神経質そうな男が座る。
ヴェステンレマは中立国なので、例え交戦国の人間が同じ場所にいても問題ではないのだ。
店頭のラジオからは、連合軍がデウスに逆侵攻したニュースがひっきりなしに流れているが、この国にとってはよその話でしかない。
「早いな、アンダーセン。あんたもビール飲むかい?」
「俺の名前を出すな!」
肥満の男、レンバウムの言葉に、アンダーセンは不機嫌そうになる。
「アンダーセン。アンダーセン。ここにいるのはアンダーセンじゃないか。
誰も気にしちゃいない。堂々としていろ」
わざと聞こえよがしに大声で名前を連呼するレンバウム。
アンダーセンはあきらめ顔で帽子とサングラスを外す。
「それで?持ってきたか?」
「ああ。約束通りな」
アンダーセンはそう言って、近くの百貨店の紙袋を差し出す。
中には包装紙で小分けされたものが入っている。包装紙を慎重にはがして、レンバウムはにんまりとする。
包装紙の中身は札束だった。
紙袋を使うのは、土産物に見せかけるためだ。百貨店が近いから、誰の記憶にも残らない。
政治家が選挙の時に実弾をばらまくのに使う手だ。
「で、仕事はしっかりしてくれるんだろうな?」
「もちろんだとも。
心配するな、誰にもばれっこない。
俺は軍と政府のシステム設計に10年以上関わっているからな」
緊張感がない様子のレンバウムに、アンダーセンは渋面になる。
「あんたを信用してないわけじゃない。
だが、今のあんたの立場はデウス軍と政府御用達のソフトウェア会社の主任システムエンジニアだ。
俺たちに協力するってことは完全な裏切りになる。
亡命は認めるにしても、今まで重ねてきたものを全部捨てるんだ。
並大抵の覚悟でできることじゃない」
アンダーセンの言葉にレンバウムは、くだらないとばかりに鼻を鳴らす。
「俺はデウスに義理や恩があるわけじゃない。
それよりも金だよ。
金は人と違って裏切らないからな。
信用してもらってけっこうだぜ?
変な主義者と違って、金さえ払ってくれれば決して裏切らないんだからな」
その言葉に、アンダーセンは安心した顔になる。
レンバウムの言うとおりだ。金が全てという人間は、むしろ信用がおけるという考え方もある。
正直なところ、ずっと半信半疑だったのだ。
ことの始まりは、レンバウムが秘密裏にアンダーセンが所属する組織にその腕を売り込んできたことだった。
自分が設計したデウス軍と政府のシステムのセキュリティにバックドアをつけてある。
金さえもらえれば、協力してもいいというのだ。
「さんざん働かされたのに、安い給料でうんざりさ。
しかも、会社と政府は俺自身にパテントは認めないと言いやがる。
やつらに一泡吹かせてやれて、金も手に入る。万々歳だ」
それがレンバウムの言い分だった。
そして、アンダーセンがデウス国内の動きに注目していると、レンバウムの予告通りに政府のサーバーのダウンや、軍の通信システムのバグといった事態が起こる。
アンダーセンは上司に談判して、レンバウムの腕を買う予算を引き出した。
「彼の腕があれば、デウス侵攻時のリスクは格段に減りますよ」
当然組織上層部は難色を示したが、連合軍のデウス侵攻に際して値千金だというアンダーセンの主張を、誰しも無視できなかったのだ。
「で、成功報酬はいつもらえる?」
「慌てるな。
仕事が全部済んでからだ。心配ない、すぐ送るよ」
「わかった。連絡方法は?」
「これを使え」
アンダーセンは、まっさらなスマホを差し出す。
見た目はありふれたスマホだが、盗聴防止やスパイウェア対策などが何重にも施されている。
「わかった。また連絡くれ?
で、ビールはどうだい?」
「いや、仕事中だからな。じゃあな」
そう言ってアンダーセンは忙しくレストランを後にする。
レンバウムは、その背中に冷たい視線を浴びせる。
「俗物が。自分たちも一緒に鉄槌を下されるとも知らずに」
そうつぶやいた彼の表情は、先ほどまでの軽薄なものではなかった。
怖ろしく集中力と自信に満ち、そして狂気をたたえていた。
(金の亡者を演じるのも骨が折れる)
レンバウムはそう思うが、もうしばらくの間アンダーセンとその雇い主に自分を信用させておく必要がある。
口を突いて出そうな本音をソーセージと一緒に呑み下し、ビールのおかわりを頼んだ。
2020年10月28日
トリジア連邦北端の街ミーナス。
外では風が出始め、壁に空いた穴から雪が舞い込んでくる。
それでも、マット・オブアイアンの取材は続いていた。
この企画の最大の取材対象と言えるジョージ・ケインには、まだまだ聞きたいことがあるのだ。
紛争地帯らしく、引っ切りなしに響いている銃声や砲声も、馴れると気にならなくなるから不思議だった。
「現場の兵たちは、デウスへの逆侵攻に乗り気ではなかった。
しかし、連合国の政府は逆侵攻を強行したということですか」
「そう言うことだな。
現場の軍人たちは、デウスへの逆侵攻には消極的だった。
主要都市への空爆や、弾道ミサイルでの攻撃に留めるべきという意見も強かった。
地上部隊と艦隊を送り込んでデウスの領土を実行制圧するとなると、連合軍にも相応の被害が予測されたからな」
ジョージはたんたんと答えるが、どこか忸怩たる雰囲気だった。
当時を思い出しているのだろう。
「当時はユニティアでも、地上部隊の侵攻に懐疑的な意見が少なからずありました。
しかし、それも熱くなっていた国民世論に押し切られた。
“デウスのやり得を許すな”“けじめを取らせろ”と。
政府はそんな世論の後押しにものを言わせて、議会に逆侵攻を決議させたのです」
「まあ…よくある話だな。
やつらが加害者だ。復讐しろ。何倍にもしてやり返せ。
そう世論が沸き立っている内なら、強引な軍事侵攻も合理化できる。
現場はたまったもんじゃないがな」
そう言って、ジョージは鼻を鳴らす。
意外かも知れないが、国民の代表である政治家よりも、軍人の方が戦争に消極的であることはよくある。
軍人は戦争の専門家だ。
大規模な軍事衝突となれば、当然金もかかるし人命も失われる。
なんと言っても、戦争となれば戦って命を落とすのは軍人たちなのだ。
後方の快適な事務所から指揮を執る政治家よりも、避戦的であるのはむしろ自然なのだ。
一方で、選挙のことしか興味のない政治家が、現実を無視した主戦論を振りかざすのもよくあることだ。
そうやって戦争は泥沼化し、多くの悲劇を生む。往々にして。
地球の歴史を振り返っても、独ソ戦、太平洋戦争、イラク戦争など、軍人の消極論を政治家が無視して悲惨な戦いが起きた例は、枚挙にいとまがない。
「デウス侵攻の時の軍人さんたちの表情は、さぞかし暗かったでしょうね。
あなたも、“雷神”も。
私は軍隊の経験はありませんが、自軍の大義を疑っていたら戦争なんてやってられないでしょう?」
「ま、その通りだ。
シビリアンコントロールってお題目がある以上、政治家が命令すればそれに従うのが軍人の勤めだ。
だが、みんな腹の底では政治家たちに対して罵詈雑言を叫んでたよ。
こんな戦いに何の意味があるんだ、これじゃデウスのやったことと同じじゃないか、ってな」
ジョージは肩をすくめ、顔を曇らせる。
彼もまた、自分たちの立場に葛藤していたのだろう。
「デウス侵攻時の第一目標は、中東部の工業都市ブラウアイゼンでしたね?
軍事産業の6割以上が集中していて、そこを叩けばデウス軍の継戦能力を大きく減じることができると」
「ああ、今にして思えば、ブラウアイゼンに工業地帯を集中させていたのはデウスの無為無策と言えた。
本来なら非効率を甘受して、国土の各所に工業地帯を分散させておくべきなのにな。
まあ、当時独裁体制のデウスに正常な思考を期待しても無駄だったが。
デウス本土が戦火に見舞われた時のことを論じるだけで、敗北主義者として粛正されかねなかったろうから。
“火事なんか起こさないから消火器や警報器は必要無い”なんて馬鹿な理屈が大まじめにまかり通ったんだろう」
ジョージは諦め気味の苦笑を浮かべる。
彼の言っていることは、マットにも理解できた。
そもそも、独裁体制が生まれるのは、国民が目を閉じ耳を塞いでしまうからだ。
能書きや理想論はいい、独裁でもなんでもいいから今日明日の自分たちの生活をなんとかしろ。
都合の悪い事実から目を逸らし、耳に痛い言葉を否定して。
そうやって民主主義の自殺が起こり、ファシズムは生まれる。
危機管理能力の低下はむしろ必然なのだ。
目を閉じ、耳を塞いでいたら、危険に気づくことができるわけがない。
「話してもらえませんか?
その時ブラウアイゼンであったことを」
「その口ぶりじゃ知っているようだな。
ブラウアイゼンが焦土になったのは、表向きデウス軍の焦土作戦てことになってる。
工業地帯を連合軍に渡さないために火を放ったと。
だが、それは一面でしかない」
ジョージは静かに語り始めた。
マットも、一語一句をメモに書き留めていく。
2018年9月10日。
ヴェステンレマ共和国、デウスとの国境付近の街、フォルツグラード。
オープンカフェスタイルのレストランで、肥満の軽薄そうな男が豚の血入りソーセージを肴にビールを飲んでいた。
その男の向かいの席に、ペーパーハットとサングラスを身につけた、この国の人間らしくない風体と雰囲気の神経質そうな男が座る。
ヴェステンレマは中立国なので、例え交戦国の人間が同じ場所にいても問題ではないのだ。
店頭のラジオからは、連合軍がデウスに逆侵攻したニュースがひっきりなしに流れているが、この国にとってはよその話でしかない。
「早いな、アンダーセン。あんたもビール飲むかい?」
「俺の名前を出すな!」
肥満の男、レンバウムの言葉に、アンダーセンは不機嫌そうになる。
「アンダーセン。アンダーセン。ここにいるのはアンダーセンじゃないか。
誰も気にしちゃいない。堂々としていろ」
わざと聞こえよがしに大声で名前を連呼するレンバウム。
アンダーセンはあきらめ顔で帽子とサングラスを外す。
「それで?持ってきたか?」
「ああ。約束通りな」
アンダーセンはそう言って、近くの百貨店の紙袋を差し出す。
中には包装紙で小分けされたものが入っている。包装紙を慎重にはがして、レンバウムはにんまりとする。
包装紙の中身は札束だった。
紙袋を使うのは、土産物に見せかけるためだ。百貨店が近いから、誰の記憶にも残らない。
政治家が選挙の時に実弾をばらまくのに使う手だ。
「で、仕事はしっかりしてくれるんだろうな?」
「もちろんだとも。
心配するな、誰にもばれっこない。
俺は軍と政府のシステム設計に10年以上関わっているからな」
緊張感がない様子のレンバウムに、アンダーセンは渋面になる。
「あんたを信用してないわけじゃない。
だが、今のあんたの立場はデウス軍と政府御用達のソフトウェア会社の主任システムエンジニアだ。
俺たちに協力するってことは完全な裏切りになる。
亡命は認めるにしても、今まで重ねてきたものを全部捨てるんだ。
並大抵の覚悟でできることじゃない」
アンダーセンの言葉にレンバウムは、くだらないとばかりに鼻を鳴らす。
「俺はデウスに義理や恩があるわけじゃない。
それよりも金だよ。
金は人と違って裏切らないからな。
信用してもらってけっこうだぜ?
変な主義者と違って、金さえ払ってくれれば決して裏切らないんだからな」
その言葉に、アンダーセンは安心した顔になる。
レンバウムの言うとおりだ。金が全てという人間は、むしろ信用がおけるという考え方もある。
正直なところ、ずっと半信半疑だったのだ。
ことの始まりは、レンバウムが秘密裏にアンダーセンが所属する組織にその腕を売り込んできたことだった。
自分が設計したデウス軍と政府のシステムのセキュリティにバックドアをつけてある。
金さえもらえれば、協力してもいいというのだ。
「さんざん働かされたのに、安い給料でうんざりさ。
しかも、会社と政府は俺自身にパテントは認めないと言いやがる。
やつらに一泡吹かせてやれて、金も手に入る。万々歳だ」
それがレンバウムの言い分だった。
そして、アンダーセンがデウス国内の動きに注目していると、レンバウムの予告通りに政府のサーバーのダウンや、軍の通信システムのバグといった事態が起こる。
アンダーセンは上司に談判して、レンバウムの腕を買う予算を引き出した。
「彼の腕があれば、デウス侵攻時のリスクは格段に減りますよ」
当然組織上層部は難色を示したが、連合軍のデウス侵攻に際して値千金だというアンダーセンの主張を、誰しも無視できなかったのだ。
「で、成功報酬はいつもらえる?」
「慌てるな。
仕事が全部済んでからだ。心配ない、すぐ送るよ」
「わかった。連絡方法は?」
「これを使え」
アンダーセンは、まっさらなスマホを差し出す。
見た目はありふれたスマホだが、盗聴防止やスパイウェア対策などが何重にも施されている。
「わかった。また連絡くれ?
で、ビールはどうだい?」
「いや、仕事中だからな。じゃあな」
そう言ってアンダーセンは忙しくレストランを後にする。
レンバウムは、その背中に冷たい視線を浴びせる。
「俗物が。自分たちも一緒に鉄槌を下されるとも知らずに」
そうつぶやいた彼の表情は、先ほどまでの軽薄なものではなかった。
怖ろしく集中力と自信に満ち、そして狂気をたたえていた。
(金の亡者を演じるのも骨が折れる)
レンバウムはそう思うが、もうしばらくの間アンダーセンとその雇い主に自分を信用させておく必要がある。
口を突いて出そうな本音をソーセージと一緒に呑み下し、ビールのおかわりを頼んだ。
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