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07 復讐の翼
悲しみはただ深く
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04
敵戦闘機部隊は殲滅したものの、爆撃隊は健在だった。
エスメロードは愛機であるF-15JSの残弾を確かめて、味方の残弾も同じように確認する。
(充分だ)
頭の中で大まかに計算して、敵爆撃隊の殲滅は可能と判断する。
「よし。次はSu-24だ!」
『キッドコピー!』
『バッドボーイコピー。隊長の仇だ』
ガートルードを失ったことを悲しむ余裕も、アンジェラの夫を撃ったことを無念と思う暇もなく、エスメロードたちは本命であるSu-24の爆撃隊に矛先を向ける。
Su-24は爆撃機としては機動性に優れるが、戦闘機とドッグファイトを行えるほどではない。
護衛の戦闘機を失った爆撃隊は、フレイヤ隊およびブリュンヒルデ隊が放つ対空ミサイルに一方的に撃墜されていった。
かくして、衛星の落下にたたみかける形でフューリー空軍基地を狙った“自由と正義の翼”の作戦は失敗に終わる。
だが、衛星の落下と搭載バッテリーの爆発は、基地の機能をほぼ喪失させていた。
奇襲を受けた中、辛うじて一矢報いただけ。
そんな悔しさと無念が、フューリー基地の将兵たちを貫いていたのだった。
「シュタイアー一佐…」
エスメロードは、物言わぬ存在となった飛行隊司令を前にして途方に暮れていた。
「自分まで逃げ出すわけにはいかない。管制塔の機能を維持するのだと…」
幕僚の一人が苦々しげにそう告げる。
シュタイアーは、飛行隊司令としての責任を全うするため、地下壕に避難せずに管制塔に残ることを選択したらしい。
それは、結果としてフレイヤ隊とブリュンヒルデ隊を救うことになった。
彼が誘導装置を再起動しなければ、敵機を撃墜した後に無誘導で滑走路に着陸することになっていたであろうから。
衛星の落下と爆発で、駐機していた航空機の残骸が散乱する状況では、無誘導での着陸は極めて危険だったろう。
だが、エスメロードたち4人を救った代価は、シュタイアーの命だった。
(ご自分の手当も後回しにして…私たちを…)
管制塔が破壊されることは免れたものの、衝撃で飛散した破片がシュタイアーの腹に突き刺さったのだ。
管制官が駆けつけたとき、シュタイアーは誘導用コンソールの前に座ったまま事切れていた。
「大恩ある人だった」
「ええ…」
エスメロードの言葉に、リチャードが短く答える。
傭兵パイロットとしてこの基地に配属されてから、フレイヤ隊もブリュンヒルデ隊も、シュタイアーの度量と手腕に助けられ続けていた。
いつか、なにかお礼がしたい。
そう願っていたのに、それはもうかなわない。
「どうしてみんな…私を置いていってしまうんだ…」
飛んでいる間は戦闘に集中していた分、ガートルードを失ったこととセットで悲しみがこみ上げてくるようだった。
戦争であるのはわかる。自分たちだって敵を殺してきた。
だが、ガートルードやシュタイアーが戦死してしまった事実が、エスメロードにはいまだ信じられずにいたのだった。
「アンジェラ、ちょっといい?」
「ああ、エスメロード様…なんでしょうか?」
エスメロードは、基地の将兵に混じって負傷者の手当をしているアンジェラに声をかける。
アンジェラは部外者だが、人道的な見地から基地の地下壕に保護されていたのだ。
幸いにして怪我はないらしい。
だが、そこに来てどう説明したものか困惑してしまう。
(取りあえず伝えなければならないのはわかるけど…)
だが、事前にリハーサルをしていたとしても、伝えにくいことを伝えなければならないことに変わりはないと気づく。
「敵部隊の中に、シャークマウスのペイントをした部隊がいた。
1番機はたしか“ティブロン1”と呼ばれていた」
ストレートに切り出されたエスメロードの言葉に、アンジェラは手に持っていた生理食塩水のパックがつめられた段ボールと取り落とす。
「その機体はどうなったんです…?」
アンジェラの問いに、エスメロードは大きく深呼吸して口を開く。
「私が撃墜した。脱出は確認できなかった」
アンジェラは、その言葉の意味が一瞬理解できなかったらしい。
だが、すぐに両手で顔を覆い、嗚咽を漏らし始める。
「あの人が悪いんです…。
現役の軍人でありながら…過去に捕らわれて裏切った…。
負傷した彼を、私は止めたの。
そんな身体でなにができるのって…。
せめて怪我が治るまで待って下さいって…。
なのに…」
アンジェラは、堰を切ったように言葉を発し始める。
「どうしようもない人」「大馬鹿よ」と繰り返す。
が…。
「でも…生きていて欲しかった…。
どんな姿になっても…生きていてさえくれればそれで…」
最後には本音が出た。
同じように馬鹿な男を愛してしまったエスメロードには、アンジェラの気持ちが痛いほどわかった。
(理屈ではないんだ…惚れた腫れたは…どんな大馬鹿でも…)
アンジェラが、今でも夫を愛している事実を、エスメロードは自分のことのように噛みしめていた。
「アンジェラ…差し支えなければ聞かせてくれないか?
彼がどうして軍を裏切ったのか。彼になにがあったのか」
エスメロードはあえて冷徹にそう問うてみる。
アンジェラの心の傷に塩を擦り込む行為かも知れない。
だが、こちらもガートルードとシュタイアー、そして多くの仲間たちを失っているのだ。
それぐらい聞いても罰は当たらないと思えたのだ。
「ええ…。始まりは13年前でした…」
アンジェラは涙を拭うと、ぽつりぽつりと話し始める。
この日、2018年12月24日。
2つの衛星の落下は、すでに戦争は終わったとタカをくくっていた各国に大きな衝撃を与えることとなる。
だが、この破壊は“自由と正義の翼”の戦線布告に過ぎなかったことを、程なく誰もが知ることとなる。
敵戦闘機部隊は殲滅したものの、爆撃隊は健在だった。
エスメロードは愛機であるF-15JSの残弾を確かめて、味方の残弾も同じように確認する。
(充分だ)
頭の中で大まかに計算して、敵爆撃隊の殲滅は可能と判断する。
「よし。次はSu-24だ!」
『キッドコピー!』
『バッドボーイコピー。隊長の仇だ』
ガートルードを失ったことを悲しむ余裕も、アンジェラの夫を撃ったことを無念と思う暇もなく、エスメロードたちは本命であるSu-24の爆撃隊に矛先を向ける。
Su-24は爆撃機としては機動性に優れるが、戦闘機とドッグファイトを行えるほどではない。
護衛の戦闘機を失った爆撃隊は、フレイヤ隊およびブリュンヒルデ隊が放つ対空ミサイルに一方的に撃墜されていった。
かくして、衛星の落下にたたみかける形でフューリー空軍基地を狙った“自由と正義の翼”の作戦は失敗に終わる。
だが、衛星の落下と搭載バッテリーの爆発は、基地の機能をほぼ喪失させていた。
奇襲を受けた中、辛うじて一矢報いただけ。
そんな悔しさと無念が、フューリー基地の将兵たちを貫いていたのだった。
「シュタイアー一佐…」
エスメロードは、物言わぬ存在となった飛行隊司令を前にして途方に暮れていた。
「自分まで逃げ出すわけにはいかない。管制塔の機能を維持するのだと…」
幕僚の一人が苦々しげにそう告げる。
シュタイアーは、飛行隊司令としての責任を全うするため、地下壕に避難せずに管制塔に残ることを選択したらしい。
それは、結果としてフレイヤ隊とブリュンヒルデ隊を救うことになった。
彼が誘導装置を再起動しなければ、敵機を撃墜した後に無誘導で滑走路に着陸することになっていたであろうから。
衛星の落下と爆発で、駐機していた航空機の残骸が散乱する状況では、無誘導での着陸は極めて危険だったろう。
だが、エスメロードたち4人を救った代価は、シュタイアーの命だった。
(ご自分の手当も後回しにして…私たちを…)
管制塔が破壊されることは免れたものの、衝撃で飛散した破片がシュタイアーの腹に突き刺さったのだ。
管制官が駆けつけたとき、シュタイアーは誘導用コンソールの前に座ったまま事切れていた。
「大恩ある人だった」
「ええ…」
エスメロードの言葉に、リチャードが短く答える。
傭兵パイロットとしてこの基地に配属されてから、フレイヤ隊もブリュンヒルデ隊も、シュタイアーの度量と手腕に助けられ続けていた。
いつか、なにかお礼がしたい。
そう願っていたのに、それはもうかなわない。
「どうしてみんな…私を置いていってしまうんだ…」
飛んでいる間は戦闘に集中していた分、ガートルードを失ったこととセットで悲しみがこみ上げてくるようだった。
戦争であるのはわかる。自分たちだって敵を殺してきた。
だが、ガートルードやシュタイアーが戦死してしまった事実が、エスメロードにはいまだ信じられずにいたのだった。
「アンジェラ、ちょっといい?」
「ああ、エスメロード様…なんでしょうか?」
エスメロードは、基地の将兵に混じって負傷者の手当をしているアンジェラに声をかける。
アンジェラは部外者だが、人道的な見地から基地の地下壕に保護されていたのだ。
幸いにして怪我はないらしい。
だが、そこに来てどう説明したものか困惑してしまう。
(取りあえず伝えなければならないのはわかるけど…)
だが、事前にリハーサルをしていたとしても、伝えにくいことを伝えなければならないことに変わりはないと気づく。
「敵部隊の中に、シャークマウスのペイントをした部隊がいた。
1番機はたしか“ティブロン1”と呼ばれていた」
ストレートに切り出されたエスメロードの言葉に、アンジェラは手に持っていた生理食塩水のパックがつめられた段ボールと取り落とす。
「その機体はどうなったんです…?」
アンジェラの問いに、エスメロードは大きく深呼吸して口を開く。
「私が撃墜した。脱出は確認できなかった」
アンジェラは、その言葉の意味が一瞬理解できなかったらしい。
だが、すぐに両手で顔を覆い、嗚咽を漏らし始める。
「あの人が悪いんです…。
現役の軍人でありながら…過去に捕らわれて裏切った…。
負傷した彼を、私は止めたの。
そんな身体でなにができるのって…。
せめて怪我が治るまで待って下さいって…。
なのに…」
アンジェラは、堰を切ったように言葉を発し始める。
「どうしようもない人」「大馬鹿よ」と繰り返す。
が…。
「でも…生きていて欲しかった…。
どんな姿になっても…生きていてさえくれればそれで…」
最後には本音が出た。
同じように馬鹿な男を愛してしまったエスメロードには、アンジェラの気持ちが痛いほどわかった。
(理屈ではないんだ…惚れた腫れたは…どんな大馬鹿でも…)
アンジェラが、今でも夫を愛している事実を、エスメロードは自分のことのように噛みしめていた。
「アンジェラ…差し支えなければ聞かせてくれないか?
彼がどうして軍を裏切ったのか。彼になにがあったのか」
エスメロードはあえて冷徹にそう問うてみる。
アンジェラの心の傷に塩を擦り込む行為かも知れない。
だが、こちらもガートルードとシュタイアー、そして多くの仲間たちを失っているのだ。
それぐらい聞いても罰は当たらないと思えたのだ。
「ええ…。始まりは13年前でした…」
アンジェラは涙を拭うと、ぽつりぽつりと話し始める。
この日、2018年12月24日。
2つの衛星の落下は、すでに戦争は終わったとタカをくくっていた各国に大きな衝撃を与えることとなる。
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