閃くソトアオの翼 悪役令嬢ですけど、戦争だから悪役やってる場合じゃない! 

ブラックウォーター

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07 復讐の翼

爆風弾雨

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 それからしばらくは、特に尾行の形跡もなく順調だった。
 だが運転手は、安全の為に同じ場所を何度も廻っている。
 「うん?あれは…」
 見覚えのある街路を3周もしただろうか。
 それまでなかったものが道を塞いでいた。
 それは救急車だった。
 事故を起こした車に駆けつけたらしい。
 運転手は、止まるわけには行かないとバックしようとする。
 その時だった。
 「危ない!」
 救急隊員の制服を着た男が、M72LAWロケットランチャーを取り出し、こちらに向けたのだ。
 マットと運転手は反射的に頭を下げる。
 後方確認を省略してハンドルを切りながらバックしたのが幸いした。ロケット弾はSUVをかすめて、傍らの商店のシャッターを直撃し、大穴を開けた。
 運転手は十字路に出ると車を切り返し、アクセルを踏み込む。
 ところが、そこでまたも予想外のことが起きる。
 所属不明の装輪装甲車が路肩の建設現場から飛び出してきて、幅寄せをかけてきたのだ。
 「くそ!」
 運転手が毒づく。
 馬力が自慢のSUVも、重量にして倍以上ある装輪装甲車には分が悪い。
 車体がガードレールに押しつけられて、火花を上げる。
 「舌を噛むな!」
 SUVは回転しながら路肩に放置されていた段ボールの山に突っ込み、やっと停車した。
 「出るぞ!」
 運転手に連れられ、マットは砲弾で大穴が開いた建物に隠れる。太鼓橋や滑り台があることからして、元は保育園だったらしい。
 「まずいですね…」
 「最悪俺が囮になる。目的地はここから歩いても…」
 運転手はその言葉を最後まで言うことができなかった。
 突然、外で銃撃戦が始まったからだ。
 「なにが起きているんです?」
 「わからんが妙だな。どちらも5.56ミリの音だ…」
 そう言われればマットにも違和感があった。
 この辺の紛争地帯でゲリラや民兵が使っているのは、いまだにもっぱら7.62ミリを使用するAK-47やAKMのはずだ。
 1丁が非常に安く、映画のブルーレイやDVDと同じ程度の値段で手に入るからだ。
 それの5倍以上するいい銃を、わざわざ使うとは思えない。
 そんなことを思っている間にも、外での銃撃戦はひどくなる一方だった。
 無反動砲か対戦車ミサイルが使われたのだろう。
 装輪装甲車が爆発炎上する。
 マットと運転手は、ただ成り行きを見守ることしかできなかった。

 「まったく世話が焼ける…」
 400メートル東で、そんなことをつぶやきながらドラグノフ狙撃銃を構えている男がいた。
 銃撃戦の当事者たちを一人ずつ照準に捉え、狙撃していく。
 激しい銃撃戦に狙撃が加わり、パニックになった銃撃戦の当事者たちは、銃弾をばらまきながら後退を試みる。
 両サイドとも、逃げおおせたのは2、3人に過ぎなかった。
 だが、それでも客人に対して驚異であることに変わりはない。
 逃がしてはならない。
 男はドラグノフを物陰に隠すと、愛用のAKMのボルトを引いて肩に担ぎその場を後にした。
 
 「しつこいやつらだ」
 指定された場所を目前にして、マットと運転手はまたも銃撃を受けることとなったのだ。
 今度はどうあっても2人を殺す気らしい。
 しつこく撃ちかけてくる。
 「僕が囮になります!」
 「おい…!」
 マットは運転手の静止も聞かず、P99を構えて出て行く。
 油断してうっかり頭を上げた敵の一人が、運転手に射殺される。
 だが、幸運もそこまでだった。
 「動くな!」
 斜め後ろから声をかけられる。
 「あんたは…」
 P99を置いて振り向いて、マットは仰天することになる。
 G36を構えた男は、昨日ホテルで見かけたニュースクルーの一人だったからだ。
 「“飛龍”はどこだ!?」
 「言うと思うのか?僕はジャーナリストだ。取材の秘密は明かせない」
 マットの返答に、男の表情があからさまな怒りのそれに変わっていく。
 「ろくでもないな。
 報道の自由を振りかざして国益を平気で害する。
 真実を暴くことがそんなに偉いのか?
 恥を知れ、売国奴が!」
 マットは、男の口調に明らかに私怨が含まれているのを感じた。
 おおかた自分が出世し損なったのを、メディアのせいにしているのだろう。
 こんなやつが国益を語るなど片腹痛い。
 「笑わせるな!あんたの言う国益ってなんだ?
 あんたの出世や面子か?政治家たちの票や利権か?
 それを世間じゃ私利私欲って言うんだよ!」
 マットの反論に、男の顔から表情が消える。
 これはまずいかな?
 そう思う。
 図星を疲れてぷつんと切れたのだ。
 “飛龍”の居場所などどうでもいい。殺してやる。男の目がそう言っていた。
 そして銃声が響く。
 だが、倒れたのはマットではなく男の方だった。
 回り込んだ運転手が横から撃ち殺したのだ。
 「さて、ここで問題だ。
 同じ車の中にヒスパニックと黒人が乗っている、運転しているのは?」
 「警官」
 運転手の謎かけに、マットは少し考えてから答える。
 ユニティアの社会構造を揶揄するブラックジョークだ。
 人種のサラダボウルである一方で経済格差がひどい。
 マイノリティはそれなりの暮らしをしたければ、公務員になるか犯罪者になることをたいてい選ぶことになる。
 それを端的に表現した謎かけだ。
 「俺がさっき撃ったやつは黒人だった。銃撃戦をやらかしたやつらの中には、髪の黒い白人もいた。
 おそらく情報部の人間だな」
 運転手は、自分が射殺した男を調べながらそう推測する。
 実際、ボディーアーマーと武器弾薬以外は、ジャーナリストそのものの変装だった。
 だが変装が完璧すぎる。先ほどの“国益”という言葉と照らし合わせても、政府の人間と見て間違いなさそうだった。
 良くできた偽造の身分証の名前は、アンダーセンと読めた。

 一方、銃撃戦の当事者たちのもう一方の生き残りの男二人は、砲弾で穴の開いたビルの内部を伝って逃げていた。
 だが、しょせん土地勘ではこの辺りの者には及ばない。
 男の一人が、銃撃を浴びて倒れる。
 もう一人は、かすかに見えた人影に向けてFN-SCARLを発砲する。
 だが、銃弾は空しくコンクリートをかすめるだけだった。
 「銃を捨てろ」
 いつの間にか回り込まれていたらしい。
 後ろから声がかかる。
 男はタクティカルスリングのバックルを外し、SCARLを地面に落とす。
 正面のガラスに映った、CZ-75を構えた男の顔には見覚えがあった。
 ほこりにまみれたM65フィールドジャケットの上に、マガジンポーチがすずなりになったアーマープレートキャリアをつけ、首にカモフラージュスカーフを巻いた姿は典型的な傭兵かPMCだ。
 だが、かつてのパイロットの面影はなくとも、間違いようがなかった。
 「お前は…“深紅の飛龍”!」
 「ほう…俺を知っているのか?」
 男の眉間にしわが寄る。
 「知っているとも…!
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 反逆者…恥知らずどもが…!」
 ジョージ・ケインは、一瞬目を丸くし、注いで厳しい表情になる。
 「なに、そっちの祖国か?
 二度馬鹿な戦争をおっぱじめた挙げ句に二度とも敗北。それにこりもせずまだなにか企んでいるのか?
 悪いが、俺の客人には手を出させんぞ。
 ついでに、反逆者と言う部分は否定せんが、お前たちに恥知らずと言われる道理はない」
 やましいところがあったのか、ジョージの言葉に激昂した男は、腰のホルスターからHKUSPを抜いて構えようとする。
 だが、間に合うはずもなかった。
 Cz-75が火を吹き、男が糸の切れた人形のように倒れ伏す。
 ジョージはそれでも気を許さず、4発、5発と撃ち込んでいく。
 “そっちの祖国”の人間だったとすると、マット・オブライアンの拉致を目的にしていたということか。
 彼はユニティアが隠蔽、歪曲したデウス戦争の真実をほぼ全て突き止めている。
 誘拐して、彼の取材資料をネタにユニティアを脅迫でもしようというのだろう。
 当然真実は隠蔽したまま。
 「そんなことをさせるものか。
 あの戦争の真実は、明らかにする」
 誰ともなくそうつぶやいて、ジョージは客人との約束の場所に急いだ。

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