異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

文字の大きさ
1 / 64
別の異世界

蒼とサンダー

しおりを挟む
「うーん。あれ、どこだ。ここは・・」
蒼という名の少年は、知らないベットの上で目を覚ました。視線を横に向けると、金髪で和服を着た女の子が心配した顔で蒼のことを見ている。
「おっ。やっと起きたのか」
蒼が目を覚ました事に気づいたサンダーの顔は安心した顔に変わった。その時、部屋の扉が開く音がした。蒼は最初、医者でも入ってくるのかと思った。
しかし、入ってきたのは、知らないコックの服装をした30代くらいの男の人だった。
「起きたみたいだね。蒼くんが起きたのなら、教えてくれてもいいのに。サンダーくん」
「いや~。今、目覚めたところだったからな」
会話の仕方から、サンダーは先に目が覚めていたことが予測できる。
状況を整理できない部分がある蒼は男にいくつか質問をすることにした。
「あの、ここはどこですか」
「ここか。ここは、僕の家だけど」
「いえ、そういうことじゃなくて」
「・・なるほど。そういうことね。確かに、服装から見てこの辺のものじゃなさそうだからな。知らないのも無理はない。ここは、テネレ王都だ」
と教えてくれた。
次に、蒼は男の名前を聞くことにした。
「テネレ王都ですか。それで、あなたの名前は何ですか」
「僕の名前か。ロートンだ。こう見えて、年齢は23だよ。」
「ロートンさん。助けてくれてありがとうございます。何か、お礼をさせてください」
と蒼が言うと、ロートンは少し考えた後、部屋を出ていった。
そして、2着の服とエプロンを持って、戻ってきた。
「じゃあ、今日一日だけ私のバーで働いてもらうってのはどうかな?」
そういうロートンに二人は驚いた。
「そんなんでいいのか?」
そう言うサンダーに、ロートンは首を縦に振った。
「わかりました。今日一日だけよろしくお願いします」
蒼は服とエプロンを手に取りそう言った。
「よろしく。着替えたら下に降りてきてね。説明を始めるから」
二人は元気よく、はい、と返事をした。

「着替えたようだね。サイズの方は大丈夫だったかい」
ロートンは、二人が、大丈夫、と言うと椅子から立ち上がり、二枚の紙を持ってきた。
「詳しいことは、これを見てもらえばわかるけれど、何か質問はあるかい」
「特に・・ないです」
「私も蒼と同じく」
二人がそう言うと、ロートンはふと時計の方を見た。時計の針は五時半を指している。それを見たロートンは慌てて、掃除用具を取りに行った。
「なんで、そんなに急いでるの。」
「あと三十分でお客さんが来るんだよ。サンダーくんは店内の掃除、蒼くんは僕とキッチンで料理の準備の手伝いをしてくれ」
ロートンはサンダーにモップを渡した後、蒼とキッチンに向かった。しばらく、キッチンで二人が作業をしていると、キッチンにある裏口の扉が開いた。
「ふー、間に合った。遅めのこんにちはです。ロートンさん」と言い、二十代くらいの薄い茶髪の女性が入ってきた。
「ギリギリじゃないか。アウムくん」
ロートンはアウムという女性とかなり仲が良いみたいだ。
「彼女は誰ですか、ロートンさん。」
「5年くらい前に総合学校で出会ってね。仕事の資質があると感じて雇い入れたうちのウェイターで看板娘だよ」
(確かに、可愛らしさがある女性だな)と蒼は心のなかで思った。
「看板娘って、照れるじゃないですか。・・・それと気になってたんですけど、そちらの方は新人さん?」
アウムはロートンに喜びながらそう聞いた。
「今日一日だけどな」
ロートンが答えると、アウムは少し残念そうな顔をして、二階のスタッフルームの方に行ってしまった。
「まあ。アウムくんは自分に後輩的な存在ができると思ったのだろう。さあ、あと五分で開店だ。蒼くんは、引き続きキッチンで僕の手伝いをしてくれ」
蒼とロートンは作業を再開し始めた。

アウムは、スタッフルームに向かう途中でサンダーと出会った。
「もう一人いたのね。あなたも今日だけの新人さん?」
「そうだけど」
アウムは、サンダーがウェイターの役割だと気づいたのか、先輩面を出して話すことにした。
「そう。分からないことがあったら、何でも聞いてね」
「わかった。じゃあ、早速質問してもいいか」
「う、うん。どうしたの。」
いきなり質問されるとは思わず、アウムは少し慌てた。
「このテーブルクロスなんだけど、どうすればいいのか分からなくて」
「テ、テーブルクロスね。それはね・・」
アウムは少し緊張していた。
なぜなら、今まで後輩的な存在を持ったことがないため、質問をされるということがほとんどないからである。しかし、今日だけだが、先輩面ができると思うと、少し嬉しい気持ちもあった。
「そういえばあなた、名前は何ていうの?」
「サンダー、って呼んでほしい」
「女の子でサンダーって名前でかっこいいわね」
サンダーはアウムの言葉を聞いてにっこりした。
「ありが・・とう」
「どういたしまして・・って、あと三分でお客さんが来ちゃう。サンダーちゃん・・引き続き手伝ってくれる。」
サンダーは、元気よく「あぁ」と言った。
二人が全てのテーブルにクロスをかけ終えた時、正面扉が開いた。
そして、お客さんが四名入ってきた。
サンダーは、心のなかで気合を入れた。

その頃、蒼とロートンは、かなり大量の料理の作り置きがいくらか完成していた。
「・・すごいな。蒼くん。」
ロートンは、蒼の料理の上手さと手際の良さに驚かされていた。
「そんなに褒めないでくださいよ。・・それよりも、こんなに作っちゃって大丈夫なんですか」
「全然大丈夫だよ。それに、一部の作り置きは、次の日までは使っているしね。だから、心配しなくてもいいよ」
「はい」
楽しそうに会話をしているが、蒼とロートンはまだ店が開店していることに気づいていないようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...