異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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側近選抜試験

雷鳴は常に

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約1ヶ月前・・テネレ王都から少し離れた場所。
太陽は真南に昇り、ジリジリと肌が焦がされるような暑さだ。
森の中では、鳥のさえずる声とザッザッという音だけが鳴っている。
サンダーは、生い茂る草木をかき分けながら奥へ奥へと進んでいる。
「この先で合っているよな」
しばらく歩いていると、ザザーッ、という大きな音が耳に入る。
「近い!」
その音がする方へ小走りをする。小枝が足に切り傷を入れても気にしない。
木々を抜けた先には、滝があった。
「着いた。(王都から徒歩18時間。帰りに1日かかったとしても、まだまだ修行時間は残っている)」
滝の周りには、石の地面が広がっていて、生活するスペースは十分にある。
「とりあえず、荷物の整理をするか」
ランツェから借りた大きめのリュックサックに寝泊まりの必需人をあらかた詰め込んできた。
2週間分の食料と水、テント、明かりになるもの、ランツェから借りた学生時代の教科書数冊などなど。
まずは、テントを立て、上の服を脱ぐ。
「まずは・・滝修行だな」
脱いだ服は、テントの上に被せておく。
滝の下に向かって歩いていく。ゴゥーという音が耳を突く。
「よっと・・」
座禅を組み、目を閉じる。上から高圧の水が落ちてくる。息が詰まりそう。だが、これも修行の内だ。
30分後・・
「よし、滝行は完了だ!うっ・・」
体が凍てつくように痛い。
「火でも起こすか・・フゥ・・」
焚き火が、パチパチと火の粉を散らす。
「(温かい・・)ん~っと、雷魔法について・・」
サンダーは、ランツェから借りた教科書の雷属性の魔法のページを読み込んでいる。
今まで見たことのない技が沢山掲載されている。
「なるほど・・大体習得できそうだ。次は・・」
じっくり1時間掛け、全てのページの技の発動の仕方、細かい種類などを頭に叩き込んだ。
単純な雷属性の魔法球を放つ『ライトボール』、電撃を空中に拡散させる『ナムズエリア麻痺する領域』。この2つの訓練から始めることにした。
「さて・・ライトボール!」
手に力が集まりだす。ビリッビリッという音が聞こえてくる。
そして、一気に力を開放する。
手の平から魔法弾が放たれた。
「よし!次だ」

5時間後・・
「はぁはぁ!」
サンダーの周辺の木々がなぎ倒されていた。
「やっと、できたな!何本か木倒しちゃったが。まぁ、大丈夫だよな。焚き火の燃料にすればいいよな」
遂に数十本目の木に向けて、魔法を発動して、一撃でなぎ倒すことができた。
時間もちょうど夕暮れ頃だ。空がオレンジ色に染まっている。
滝の音が辺りの音をかき消し、何も邪魔が入らない。
「・・ここを修行場に選んで良かった」
木の上に飛び移り、じっと眺める。
そして、太陽が顔を隠した瞬間・・サンダーは木の上からシュンッと姿を消した。
よく見てみると、山頂まで木々を音速並みのスピードで飛び移り、駆け抜けていた。
「スピード力を更に上げる。それに夜目に慣れておくのもいいかもしれない」
どんどん滝の音が遠くなっていく。山頂まであと少しだ。
「おっと!」
木から足を滑らせ、落ちそうになった。手を伸ばし、木の枝を掴み、体制を立て直す。

そして、山頂付近の一本の木の上に乗り移った。
「クソっ、あの時、足を滑らせてなかったら・・」
山頂にたどり着いた時には、夜空に星が煌めいていた。相変わらず、月に似た衛生も見える。
「・・意外と高いな。(景色を楽しみたいが、テントまで戻ろう。まだ夕飯も取ってないな)」

深夜12時頃・・
「フゥ、このページを読み込んだら、寝るか」
しょぼしょぼしている目をこする。
サンダーは、テントの中でランタンの明かりをぶら下げ、教科書の気になったページを読んでいた。
内容は、テネレについてのことだ。建国時代について、先代、先々代の人物像や行った政策や地理など事細かに載っている。
他の国についても気になるが、それはまた明日読むことにした。
火を消し、布団をかぶる。
滝の音の裏でかすかに野鳥の鳴き声が聞こえている。滝の音が耳に突き、寝れないかと思っていた。が、いつの間にか夢に落ちてしまっていた。

朝日が昇り、森の中に光が指す。
「朝か・・」
テントを空けた瞬間、突然の日の光が目を刺した。
「眩しっ!」
サンダーは、手で目を覆い隠した。そして、目を慣らしながら、ゆっくりとテントから足を踏み出した。
朝食の肉と野菜を焼いている間、昨日と同じように滝行を行う。
目覚ましをついでに、頭からザーッと高圧の水を10分間浴びる。
「(もうそろそ・・フゥ)昨日のペースのままじゃ、駄目だな。もっと・・!」

次の魔法の訓練に入る。
サンダーは、白虎の力を開放しなくても、自力で氷の魔法を使いこなせる方針の訓練も同時進行で進めることにした。
「氷魔法について・・あった!だけど、掲載されてる数は少ない・・けど、文句は言ってられない。(ライトボールをマスターするだけでも5時間かかったから・・)」
白虎の力を少し借り、自身の魔力を変化させる。だが・・。
「クソっ。(慣れないな!)」
形成仕掛けていたツララは粉々に砕け散ってしまった。
「(まだまだ!)もう一回!」
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