異世界帰還書紀<1>

空花 ハルル

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側近選抜試験(後編)

残火

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「そこまでにしよう」
芯のある声が上から聞こえてきた。
2人の声のする方を見ようとするが。。
見上げる間もなく、ヴィトンとギガントの目の前に、マーグが降り立ってきた。
「なっ、何で貴様が。それに、レイラ様たちはどうした!?」
ギガントは睨みつけて、荒々しく怒鳴りつけた。
「それなら、心配するな。上にいるぞ、見てみたらどうだ」
上空を眺める。
確かにレイラ様たちを含む3人は、無事なようだ。
ヴィトンがマーグの方を向き、顔を下ろした時だった。
「ま、待て!」
マーグがメイドを抱え、人一人分が通れるほどの黒い虚空の中に入ろうとしていた。
このまま逃げられてしまう。
「撤退させてもらうぞ。早く戻ってこい!」
「分かっている!そう大声を出さないでくれ」
マーグがそう叫んだ2秒後には、反対側にいたはずの殺人鬼が目の前に来てきた。
そして、こっちを一度見たあと、何も言わずに虚空の中に入っていってしまった。
「逃がすわけには・・」
「いや、ここは追いかけないほうがいい。仮に2人で追いかけたとしても。勝てる見込みは、ほぼない」
ヴィトンが走り出そうとした手を、ギガントが掴んだ。
言われてみたら、そうだ。と冷静さを取り戻す。
「少し焦りすぎたよ。ありがとう、ギガント」



約20分前・・。
リオネは、書類に示された場所に急ぎ足で向かっていた。
闘技場から走って、10分くらいで着く場所にある。

「今日も見張りか。自分も大会を観戦したかったな」
門番がそんなことをぼやきながら、突っ立っている。
「ここだな」
指定された場所の入口にゆっくりと歩く。
「あれ?リオネ殿じゃないですか。今日はどのような要件で・・」
言い終える前に、リオネは猛スピードで近づくと、腹に強攻撃を一発入れ込んだ。
「すまない。要件が終わるまで、眠っていてくれ」
門番を門の横に寝かせつける。
「これでよし!・・じゃあ、行くか」



「はぁ!今日も仕事か・・。おーい!紅茶を持ってきてくれ」
ノクスが自室からそう大きな声を上げる。
5分ほど待つが誰も来ない。
「おい!まだか!」
大声を張り上げる。
その1分後に、自室の戸がガチャと開いた。
「遅いぞ・・」
扉から入ってきた人物を見た瞬間、ノクスの顔が凍りついた。
「何で、来たかわかりますよね。ノクスさん」
「ど、どういう?それに、入るときはノックくらいしろ」
強気だが、声が震えているようだ。
「あなたですよね。大会に彼女を不正参加させたのは」
「何のことだ?俺じゃない!」
「はぁ・・仕方がない!」
スーと音を立てずに、剣を抜く。
「なっ!何をしようとしている!だ、誰かいないのか!早く助けに来い!」
「誰も来ませんよ。この館の門番、メイド。全員、気絶させてもらいました。安心してください、誰も死んでもないし、血一滴も流してませんよ」
そう言い終えると剣を正面に向け、ノクスにソロソロとゆっくり近づく。
「く、来るな。」
ノクスは焦り散らしながら、机の上の本や筆などのものを手当り次第投げつけてくる。
それら全てを剣で切り下ろしたり、防ぎながら、近づく。
「に、逃げるしか」
もう投げつけるものが何もないようだ。
ノクスは、走り出した。
「逃げるんですか?」
横を通ろうとしたノクスの首根っこを掴むと、壁際に投げ飛ばした。
「ぐっ!貴族である私にこんなことしていいと思っているのか!」
「もう許可は降りてる!事情聴取のために連れて行かせてもらう。抵抗すれば、少しばかり傷つくことになる」
剣を突きつけ、脅す。
「うっ!・・・」
ノクスは黙り込んでしまった。
「おい!なんとか言ったらどう・・気絶してる」
目を開けたまま、意識を失っている。
「まぁ!手間が省けたから、いいか!(連れて行くのがめんどくさいが、任務だから仕方がないか。)」



闘技場内・・。
状況を整理するため、レイラ、ヴィトン、ギガント、蒼達8人が王宮関係者用の観客室に集まった。
「逃げられてしまったけど・・これ以上、誰も犠牲が出ないと思うと、これで一旦は良かった・・と言っていいわね」
確かに、このまま戦っても、一向にきりがなかった可能性が高い。
場所と状況が悪かったとはいえ、レイラ女王でも追い詰めることができなかったからだ。
「メイニィアも全然近づけなかった」
あの身体能力が総合軍トップレベルの彼女でさえもだ。
「それで、レイラ様。奴らの行方を私達の方でも追いかけるよう、王に要請した方がいいでしょうか」
「わ、私も・・」
オール国とブロー国の側近の二人が協力の提案を持ちかけてきている。
「ええ!ぜひ、お願いするわ」
「では。書類ができ次第、送らせていただきます。ですが、その前に私も荒らされたこの場の片付けを手伝わせていただきます」
「わ、私もマリアナさんと全て同じ意見です」
流石、側近。
判断が早い上に、正確だ。
「ありがとう、二人共」
「それと何だけど。側近をどうするかを決める会議も開かなきゃだね。レイラ様!(まぁ、蒼達以外に選択肢がないと思うけど)」
これからやることが沢山だ。
とりあえず、今できることはレイラたちの手伝いをすることだ。
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