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死体
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翌朝、いつものように学校へ行くと、校門の外に大きなトラックが来ていた。それに、何人かの清掃員のような格好をしているおじさんたちも、辺りをせわしなく動き回っていた。
「何が原因だ?」
「いいから早く、消臭剤もってこいって」
「あれはひどいな…」
一体何の騒ぎだろう。下駄箱に入ると、生徒たちまでもが何だかざわついている。
「見たんだって俺。人が大勢いて見にくかったけど、一瞬隙間から見えてさ」
「えー、何があったの?」
「聞いて驚くなよ~」
先輩の男子生徒が、数人の友達に囲まれて意気揚々と話している。私は思わず、靴を履き替えているフリして耳を傾けた。
「ハムスターの、死体だよ、死体。」
え?
「え~、マジで?」
「怖いね~」
「でもこんな騒ぎになるほどのことだったの?」
「それがさ、俺もほんの一瞬だけだったからよく分かんなかったけど、すっげえグロいの。」
「それ、どこの教室ですか!?」
耐えきれなくなって、私はとっさに彼に声をかけた。心臓が、今までないくらいに跳び跳ねている。
「えっ、たしか一年五組でしたけど……」
私のクラスじゃないか!!
「ありがとうございます」
急いで階段を駆け上がり、昨夜通った廊下をもうダッシュで走る。 首元から、冷や汗が垂れた。
どうゆうこと?死体だなんて……。ひどい、誰がそんなこと。死体、死体、死体、死体ーーーーーーー。そんなこと言われたら……
マタミタクナッテシマウジャナイカ……
「こらぁ、おまえらこの教室には近づくなって言ってるだろ!!」
「一時間目は各クラスで自習にするから、関係のないクラスの人は早く自分の教室に戻ってください!」
案の定、五組の教室の前にはものすごい野次馬が溜まっていた。ガヤガヤ、ザワザワと、人を押し退け押し退け、中の様子を一目見ようと必死になっている。
私も迷わず、その群れに突っ込んだ。
「ちょっとすみません、通してください」
たくさんの人にぶつかりながらも、私はためらうことなく突き進む。断言してもいい。全ては死体のためだった。身も心も空気も、死体を欲していた。
その瞬間、私の目に何かが映り込んだ。
「あ……」
声が漏れる。感嘆のような、悲鳴のような声が、自然と乾いた唇から漏れ出る。
映り込んだのは、死体だった。紛れもない、ハムスターの無惨な死体の姿。
私は目を細めて、もっと視線を死体に凝らす。それはもう、ハムスター、といっていいのかすら分からないただの肉の塊になっていた。
私たちが普段座っているはずの椅子には大量の血が飛び散り、黒板には小さな臓器が磁石で丁寧に飾られている。
「うっ」
同じように中を覗いていた女子生徒が、私のすぐ隣でえづいて、ついには嘔吐した。とたんに周辺の野次馬がわっとそれを避け、まばらに散る。先生たちが再び飛んでくる。
私も不自然に思われないよう後ずさりながら、それでも不思議にその子を見ていた。
そうか、普通だったらこの光景は、気持ち悪いものなのかーーーー。
そうなのだとしたら、世間がそれを普通と言うのなら。私は一体何なんだろう。悪魔か、非道か、鬼か。それでも……。
私は去り際に、もう一度教室の中をちらりと覗く。
私はこの光景を、美しいとしか思えないな。
…… 神様、こう思うことは許されないのですか。だとしたら私は、どうすればよいのでしょうか。願ったわけでも、望んだわけでもないのに、死体に欲を持ってしまったのは、罪ですか。じゃあどうすればよかったんですか。
生まれつきの悪も、悪ですか。
「何が原因だ?」
「いいから早く、消臭剤もってこいって」
「あれはひどいな…」
一体何の騒ぎだろう。下駄箱に入ると、生徒たちまでもが何だかざわついている。
「見たんだって俺。人が大勢いて見にくかったけど、一瞬隙間から見えてさ」
「えー、何があったの?」
「聞いて驚くなよ~」
先輩の男子生徒が、数人の友達に囲まれて意気揚々と話している。私は思わず、靴を履き替えているフリして耳を傾けた。
「ハムスターの、死体だよ、死体。」
え?
「え~、マジで?」
「怖いね~」
「でもこんな騒ぎになるほどのことだったの?」
「それがさ、俺もほんの一瞬だけだったからよく分かんなかったけど、すっげえグロいの。」
「それ、どこの教室ですか!?」
耐えきれなくなって、私はとっさに彼に声をかけた。心臓が、今までないくらいに跳び跳ねている。
「えっ、たしか一年五組でしたけど……」
私のクラスじゃないか!!
「ありがとうございます」
急いで階段を駆け上がり、昨夜通った廊下をもうダッシュで走る。 首元から、冷や汗が垂れた。
どうゆうこと?死体だなんて……。ひどい、誰がそんなこと。死体、死体、死体、死体ーーーーーーー。そんなこと言われたら……
マタミタクナッテシマウジャナイカ……
「こらぁ、おまえらこの教室には近づくなって言ってるだろ!!」
「一時間目は各クラスで自習にするから、関係のないクラスの人は早く自分の教室に戻ってください!」
案の定、五組の教室の前にはものすごい野次馬が溜まっていた。ガヤガヤ、ザワザワと、人を押し退け押し退け、中の様子を一目見ようと必死になっている。
私も迷わず、その群れに突っ込んだ。
「ちょっとすみません、通してください」
たくさんの人にぶつかりながらも、私はためらうことなく突き進む。断言してもいい。全ては死体のためだった。身も心も空気も、死体を欲していた。
その瞬間、私の目に何かが映り込んだ。
「あ……」
声が漏れる。感嘆のような、悲鳴のような声が、自然と乾いた唇から漏れ出る。
映り込んだのは、死体だった。紛れもない、ハムスターの無惨な死体の姿。
私は目を細めて、もっと視線を死体に凝らす。それはもう、ハムスター、といっていいのかすら分からないただの肉の塊になっていた。
私たちが普段座っているはずの椅子には大量の血が飛び散り、黒板には小さな臓器が磁石で丁寧に飾られている。
「うっ」
同じように中を覗いていた女子生徒が、私のすぐ隣でえづいて、ついには嘔吐した。とたんに周辺の野次馬がわっとそれを避け、まばらに散る。先生たちが再び飛んでくる。
私も不自然に思われないよう後ずさりながら、それでも不思議にその子を見ていた。
そうか、普通だったらこの光景は、気持ち悪いものなのかーーーー。
そうなのだとしたら、世間がそれを普通と言うのなら。私は一体何なんだろう。悪魔か、非道か、鬼か。それでも……。
私は去り際に、もう一度教室の中をちらりと覗く。
私はこの光景を、美しいとしか思えないな。
…… 神様、こう思うことは許されないのですか。だとしたら私は、どうすればよいのでしょうか。願ったわけでも、望んだわけでもないのに、死体に欲を持ってしまったのは、罪ですか。じゃあどうすればよかったんですか。
生まれつきの悪も、悪ですか。
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