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第九章 魂と願い
第十八話
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生き人形の向かう先、その延長線上に目を向けた舞果は、ある事を思いカウンターへ向かうと池橋が持っていた母の作った人形を手に取った。それを動かすと、その動きに釣られるように生き人形は進行方向を変える。
そして生き人形の届く場所にその人形を置くと、生き人形は置かれた人形の頭に手伸ばし、暫くすると動きを止めた。
「姉さん、これは何が起きたと思う?」
「わからないわ。人形に興味を示すなんて初めてね。それに今までの攻撃性のようなものも見られなかったわね」
床の上で留まる二体の人形を真琴は見て、そこに少し見慣れた光景を重ねた。
「まるでお二人がいつも記憶を覗く様な姿勢で止まってますね」
そう言われ樹は、
「まさか!」
と、人形達の元に歩み寄ると、生き人形が触れている方の記憶を覗いた。
「これは!?姉さん!記憶が前見たものと変わってるよ!」
舞果も歩み寄るとすぐさま記憶を覗いた。
二人が見たのは、まだ赤ん坊の舞果を抱っこして、こちらを見て笑っている兄の姿。そして、その傍らのベビーベッドでは、小さな樹がスヤスヤと寝息を立てている光景だった。
「樹、これはこの子が記憶を改ざんしたって事かしら?」
「改ざんというより、これは復元じゃないかな。母さんが見た記憶だとすれば、これ以上ないくらい自然な印象だったと思うけど」
「復元・・・・。だとすれば、あの火事の日にあった方の子にも使えるかもしれないわ。生き人形にならないよう、私の記憶だけをあの子に戻すわ」
「わかった。すぐ準備しよう」
樹が事件のあった実家から回収された人形を取りに向かうと、話に一人ついていけない真琴は何が起こっているのか舞果に尋ねた。
「元々人形に入っていた記憶に変化が起きたのよ」
「それって生き人形の制御に成功したって事ですか?」
「まだよくは分からないのだけれど・・・・。真琴さんの助言が無かったら気が付かなかったかもしれないわ。さすが名探偵ね!」
「いえ、刑事なんですけど・・・・」
樹があの大きな人形を抱えて戻ってくる。真琴が黙って見守る中、舞果はその人形に一度は回収したあの悍ましい記憶を移した。そして再び別の人形に願いを込めて、生き人形を生成する二人。
動き出した人形は、母の人形に近づくと先ほどと同じように頭に触れる。次に右手の人差し指を伸ばし、その人形のお腹の辺りを何度もつつく。そして腹部を指差したまま動きを止めた。
最後の行動を不審に思いながらも、母の人形に戻した記憶の方が気になり、早速二人はその記憶を覗いた。
幼い頃の舞果が樹を伴い、夜中に物音のした兄の部屋に向かう。中から母の叫び声が聞こえ、恐る恐る半開きのドアを開けると、母が作ったものではない人形が刃物を持って、ベッドで眠っていた兄に馬乗りになり何度もそれを突き立てている。
樹と舞果に気づいた母は二人を連れ、急いで自分の作業部屋へと駆け込んだ。中にあったいくつかの人形の中の一体を生き人形にして「侵入者を排除して。」と命令する。部屋の外に人形が飛び出て行くと、母はドアにカギを掛けた。そこで記憶は途絶えてしまう。
「兄さんを殺したのは人形だった・・・・。じゃあ父さんも人形にやられた!?」
「やっぱり心中事件なんかじゃなかったのよ。母さんは兄さんが助からないと思って、私達だけでも助けようとした、そういう事よね・・・・。でもどうして私達に関わる記憶だけ改ざんされていたのかしら」
姉弟から事の次第を説明してもらった真琴は、
「じゃあ、お二人のご家族も人形殺人の被害者だったって事ですか!?その頃を境に事件は止んでいましたよね。きっと犯人にとって犯行中断に至る、特別な何かがそこであったんですよ」
樹は今見た記憶を思い返しながら、
「僕らを火災から助け出したこの人形より前に、母は一体の生き人形を生成して部屋の外へ放っていた。犯人がそれと遭遇したとなれば、自分以外の能力者の存在に気づいて、何か誤算が生じたのかもしれませんね」
「ありえますね。それで自分の犯行以外の事件と思わせるために火を点けた・・・・」
「犯人の人形も燃えてしまったのだろうか」
「犯人が自分の犯行スタイルを貫いているとすれば、それは無いですよ。お二人のこれまでの話からすると、お母さんも殺されたとすれば、それは最後のはずです。ならば、人形を玄関先にでも残していってもいいはずです」
「違う事件に見せかける都合上、自分の人形は持ち去るしかなかった。そして他の能力者がいる事が分かった以上、人形から自分の情報がバレるかもしれないと思った犯人は、持ち去る事の出来ない他人の記憶である母さんの記憶を、何らかの方法で改ざんする事で、万が一に備えて事件をかく乱しようとした」
「それなら犯人の行動に納得がいきますね」
推理を進めていた二人の話を聞いて舞果は疑問に思う。
「ねえ、それじゃあ池橋のおば様が持っていた人形の記憶の改ざんは、誰が何のためにしたの?池橋のおば様は事件と関係なさそうだけれど」
「池橋さんはどこかで犯人と接触していた・・・・!?」
樹のその言葉を聞き、真琴は舞果に質問する。
「その方、交友関係とかどうなんでしょうか?」
「あまりいなかったと思うわ。と言っても、私達も二回しか会ってないのだけれど。それに今日、私達が見守る中、息を引き取ったの。だからもう聞くことは出来ないわ・・・・」
「そうだったのですか・・・。せめてその人形に接触出来た人物くらい、分かればと思ったのですが」
三人が生き人形の実験を繰り返していた頃、屋代は非番だと言うのに職場のデスクで古い資料と睨めっこしていた。その片隅には手帳が広げて置かれ、そこには「廃病院カルテ、坂下麻美」と書かれている。
「そうだ、これだ。二十五年も前の事だったか・・・・。山納とパトロールの最中の事だったんだな。旦那は、坂下和哉。パチンコ店の駐車場にて、車中に児童放置で夫婦を厳重注意。子供にアザがあるのを確認。この件は当時の若手に引き継いでいたか」
手帳に書き込みながら、屋代は呟き続けている。
「その七年後には、この夫婦から息子に暴力を振るわれたとの通報・・・・。夫婦共に軽微の骨折などを確認。少年は暴行の罪で少年院に収監。暴行理由は語られず。親からの虐待については調べられていないのか・・・・」
ひと息をつきながら天井を眺めていると、職場の後輩から声を掛けられる。
「屋代さん、休みの日はこんな所居ないでしっかり休んだ方がいいですよ?」
「年寄りを邪魔者扱いすんなよ」
「定年近いのに体壊したらどうするんですか」
「はいはい、ありがとよ。じゃ、調べもんも済んだし帰るとすっか」
そうは言ったものの家には帰らず、屋代は一軒の古びた平屋の前に車を停める。車から降りると蝉の声がけたたましく響いている。薄汚れた表札には、坂下と書かれていた。
そして生き人形の届く場所にその人形を置くと、生き人形は置かれた人形の頭に手伸ばし、暫くすると動きを止めた。
「姉さん、これは何が起きたと思う?」
「わからないわ。人形に興味を示すなんて初めてね。それに今までの攻撃性のようなものも見られなかったわね」
床の上で留まる二体の人形を真琴は見て、そこに少し見慣れた光景を重ねた。
「まるでお二人がいつも記憶を覗く様な姿勢で止まってますね」
そう言われ樹は、
「まさか!」
と、人形達の元に歩み寄ると、生き人形が触れている方の記憶を覗いた。
「これは!?姉さん!記憶が前見たものと変わってるよ!」
舞果も歩み寄るとすぐさま記憶を覗いた。
二人が見たのは、まだ赤ん坊の舞果を抱っこして、こちらを見て笑っている兄の姿。そして、その傍らのベビーベッドでは、小さな樹がスヤスヤと寝息を立てている光景だった。
「樹、これはこの子が記憶を改ざんしたって事かしら?」
「改ざんというより、これは復元じゃないかな。母さんが見た記憶だとすれば、これ以上ないくらい自然な印象だったと思うけど」
「復元・・・・。だとすれば、あの火事の日にあった方の子にも使えるかもしれないわ。生き人形にならないよう、私の記憶だけをあの子に戻すわ」
「わかった。すぐ準備しよう」
樹が事件のあった実家から回収された人形を取りに向かうと、話に一人ついていけない真琴は何が起こっているのか舞果に尋ねた。
「元々人形に入っていた記憶に変化が起きたのよ」
「それって生き人形の制御に成功したって事ですか?」
「まだよくは分からないのだけれど・・・・。真琴さんの助言が無かったら気が付かなかったかもしれないわ。さすが名探偵ね!」
「いえ、刑事なんですけど・・・・」
樹があの大きな人形を抱えて戻ってくる。真琴が黙って見守る中、舞果はその人形に一度は回収したあの悍ましい記憶を移した。そして再び別の人形に願いを込めて、生き人形を生成する二人。
動き出した人形は、母の人形に近づくと先ほどと同じように頭に触れる。次に右手の人差し指を伸ばし、その人形のお腹の辺りを何度もつつく。そして腹部を指差したまま動きを止めた。
最後の行動を不審に思いながらも、母の人形に戻した記憶の方が気になり、早速二人はその記憶を覗いた。
幼い頃の舞果が樹を伴い、夜中に物音のした兄の部屋に向かう。中から母の叫び声が聞こえ、恐る恐る半開きのドアを開けると、母が作ったものではない人形が刃物を持って、ベッドで眠っていた兄に馬乗りになり何度もそれを突き立てている。
樹と舞果に気づいた母は二人を連れ、急いで自分の作業部屋へと駆け込んだ。中にあったいくつかの人形の中の一体を生き人形にして「侵入者を排除して。」と命令する。部屋の外に人形が飛び出て行くと、母はドアにカギを掛けた。そこで記憶は途絶えてしまう。
「兄さんを殺したのは人形だった・・・・。じゃあ父さんも人形にやられた!?」
「やっぱり心中事件なんかじゃなかったのよ。母さんは兄さんが助からないと思って、私達だけでも助けようとした、そういう事よね・・・・。でもどうして私達に関わる記憶だけ改ざんされていたのかしら」
姉弟から事の次第を説明してもらった真琴は、
「じゃあ、お二人のご家族も人形殺人の被害者だったって事ですか!?その頃を境に事件は止んでいましたよね。きっと犯人にとって犯行中断に至る、特別な何かがそこであったんですよ」
樹は今見た記憶を思い返しながら、
「僕らを火災から助け出したこの人形より前に、母は一体の生き人形を生成して部屋の外へ放っていた。犯人がそれと遭遇したとなれば、自分以外の能力者の存在に気づいて、何か誤算が生じたのかもしれませんね」
「ありえますね。それで自分の犯行以外の事件と思わせるために火を点けた・・・・」
「犯人の人形も燃えてしまったのだろうか」
「犯人が自分の犯行スタイルを貫いているとすれば、それは無いですよ。お二人のこれまでの話からすると、お母さんも殺されたとすれば、それは最後のはずです。ならば、人形を玄関先にでも残していってもいいはずです」
「違う事件に見せかける都合上、自分の人形は持ち去るしかなかった。そして他の能力者がいる事が分かった以上、人形から自分の情報がバレるかもしれないと思った犯人は、持ち去る事の出来ない他人の記憶である母さんの記憶を、何らかの方法で改ざんする事で、万が一に備えて事件をかく乱しようとした」
「それなら犯人の行動に納得がいきますね」
推理を進めていた二人の話を聞いて舞果は疑問に思う。
「ねえ、それじゃあ池橋のおば様が持っていた人形の記憶の改ざんは、誰が何のためにしたの?池橋のおば様は事件と関係なさそうだけれど」
「池橋さんはどこかで犯人と接触していた・・・・!?」
樹のその言葉を聞き、真琴は舞果に質問する。
「その方、交友関係とかどうなんでしょうか?」
「あまりいなかったと思うわ。と言っても、私達も二回しか会ってないのだけれど。それに今日、私達が見守る中、息を引き取ったの。だからもう聞くことは出来ないわ・・・・」
「そうだったのですか・・・。せめてその人形に接触出来た人物くらい、分かればと思ったのですが」
三人が生き人形の実験を繰り返していた頃、屋代は非番だと言うのに職場のデスクで古い資料と睨めっこしていた。その片隅には手帳が広げて置かれ、そこには「廃病院カルテ、坂下麻美」と書かれている。
「そうだ、これだ。二十五年も前の事だったか・・・・。山納とパトロールの最中の事だったんだな。旦那は、坂下和哉。パチンコ店の駐車場にて、車中に児童放置で夫婦を厳重注意。子供にアザがあるのを確認。この件は当時の若手に引き継いでいたか」
手帳に書き込みながら、屋代は呟き続けている。
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ひと息をつきながら天井を眺めていると、職場の後輩から声を掛けられる。
「屋代さん、休みの日はこんな所居ないでしっかり休んだ方がいいですよ?」
「年寄りを邪魔者扱いすんなよ」
「定年近いのに体壊したらどうするんですか」
「はいはい、ありがとよ。じゃ、調べもんも済んだし帰るとすっか」
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