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第一部 目覚めの少女と嘆きの神
46話 思い3 (挿絵あり)
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拝殿を抜けると神主が本殿の扉の前に立っていた。
「これより皆さまには天照大御神様に謁見していただきます。私は長い事、ここの神主を務めてまいりましたが、神々の声しか聞こえず・・・。その姿までを見る事の出来るあなた達を羨ましく思います」
そう言うと神主は祓串を振り、一行を清め本殿の戸を開けた。
中は中央から天蓋が吊り下げられており、その両脇には須佐之男と女神と思われるもう一柱が立っていた。その周りにも、御付きの神々と思われる者達が控え、先ほどの少彦名の姿もあった。すると、天蓋の中から声がかかる。
「私が天照。話は須佐之男から聞いています。早速ですが、その異質なる力を持つ所以、聞かせてもらえますか?」
どこか愛数宿を彷彿させるその優しい女性の声に、イナホ達は親しみを覚えた。
調査班は秋津国についての事や、ここに来るまでの経緯などを天照に話すと、それを聞いた彼女は、
「あなた方、秋津の最高神、愛数宿大御神の推察は、概ね当たっています。そして神器をこの若き希望達に託した采配、実に見事です」
須佐之男も一行からの詳細を聞き、イナホ達を見て首を縦に振り、
「童と思っていたが、帰れぬかもしれぬと知りながらこの地に来るとは、大した肝を持つ奴らだ。海の底に行く手立ては我が何とかしよう。まあ、その先がどうなるかは知らぬがな」
一同が歓喜と感謝をすると天蓋が開き、薄っすらと光を帯びた女性が姿を顕わにする。すると須佐之男は彼女を気遣うように、
「姉上、ご無理をなされぬよう」
「異界からの客人とあっては、顔を合わせなければなりませんね」
天照の左腕と左足は、黒い艶のある羽毛の生えたカラスのそれに変わっていた。それを見せるかのように、黒い翼を前に出し、話を続けた。
「昨日、そなた等が相まみえた、あの白き尖兵により負わされた、この治癒せぬ傷が元で、霊落化が進み、このような姿に変わりつつあります。いずれは神とも獣ともつかぬ、物ノ怪の類になり果てるでしょう。この厄災さえ無ければ、人々の信仰の力で傷を癒すことは出来ましたが、今はそれも叶わぬ程、この国の人々は死に絶え、生き残った者も神に縋ろうという意思さえ失くしてしまっています」
横で天照を見守る須佐之男が口を開く。
「ここへ来るまでの道中で気付いたか?日に日に昼が短くなっていることを。太陽神である姉上が弱っている証拠だ。このままでは、そっちに居るもう一人の姉上も役割を失い、神の座から落ちれば昼も夜も無くなり、この地は虚無に包まれるだろう」
須佐之男がもう一人の姉と言っていた女性が話し始める。
「いかにも・・・。私は月詠。遠い異界の地、秋津国よりよくぞ参られた。私は夜の世界、月を司っている。月の光は、輝ける太陽あってこそ。姉上が力を失えば、それは同時に、私の役目も終わるということ。虚無に包まれれば、この地に生けるもの、全ての成長や進化は止まり、やがては衰退と死が支配することになるだろう」
その言葉に、より一層危機感を深める調査班達、そこでイナホは気になっていた事を天照へ尋ねる。
「あの、ここの人々が神様達を見られないっていう制約を解除することはできないんですか?神様達と人々が協力すれば、少なくとも今よりも被害は減らせると思うんですけど」
「異質な力を感じ、今回の事態を重く見て、そなたの言う通り、早い段階でその道も考えてはみたのです。しかし、古きより敷かれた制約は完全で、今の我々ではどうすることもできませんでした。挙句、神を討つ存在まで現れ、私を含め、隙を突かれた神々は次々と倒れ・・・」
「そうだったんですね。しかし、神様を倒してしまう程の力。あの白いやつ、あれは機械とは思えません。一体・・・・」
「あれはヒルコの純然たる怨嗟の念より生まれし傀儡・・・。日本神典については愛数宿大御神より聞いているのでしたね?」
「はい」
「かつて産みの神に捨てられたと云われているヒルコ・・・。彼がこの事態を引き起こしたことは認知しているのですが、腑に落ちない点もあるのです。ヒルコに神としてこれほどの事態を起こすまでの、役割、つまり力、そして神格があった様には思えません。しかしながら、元はと言えば、我々日本の神々の祖の所業が起因。延いてはそれを見過ごしてきた我々の宿罪でもあります・・・」
天照は胸に手を置くと、
「身勝手を承知で、そなた等、秋津の若人にお願いしたいのです。どうか、この国を救うために、力を貸してはもらえないでしょうか?」
イナホは目線を落とすと考え込みながら、
「ヒルコを倒せ、という事ですよね?」
「この元凶がヒルコである以上、そういうことになります」
「元々、私たちは秋津国を救いたい思いで日本調査に志願してきました。日本を救わなければ、秋津国がどうなるか、ここに来るまでの惨状を見て簡単に想像ができました。ここにも私達と同じ人間が居て、苦しんでる。それは神様達も一緒で。だから、協力はもちろんします。それはここに居るみんなも同じだと思います。でも・・・」
イナホは力強く天照の目を真っすぐ見ると、胸に閊えた思いを吐き出すように、
「でも、私は!そのヒルコという存在を、ただ討てと言うなら嫌です!」
「これより皆さまには天照大御神様に謁見していただきます。私は長い事、ここの神主を務めてまいりましたが、神々の声しか聞こえず・・・。その姿までを見る事の出来るあなた達を羨ましく思います」
そう言うと神主は祓串を振り、一行を清め本殿の戸を開けた。
中は中央から天蓋が吊り下げられており、その両脇には須佐之男と女神と思われるもう一柱が立っていた。その周りにも、御付きの神々と思われる者達が控え、先ほどの少彦名の姿もあった。すると、天蓋の中から声がかかる。
「私が天照。話は須佐之男から聞いています。早速ですが、その異質なる力を持つ所以、聞かせてもらえますか?」
どこか愛数宿を彷彿させるその優しい女性の声に、イナホ達は親しみを覚えた。
調査班は秋津国についての事や、ここに来るまでの経緯などを天照に話すと、それを聞いた彼女は、
「あなた方、秋津の最高神、愛数宿大御神の推察は、概ね当たっています。そして神器をこの若き希望達に託した采配、実に見事です」
須佐之男も一行からの詳細を聞き、イナホ達を見て首を縦に振り、
「童と思っていたが、帰れぬかもしれぬと知りながらこの地に来るとは、大した肝を持つ奴らだ。海の底に行く手立ては我が何とかしよう。まあ、その先がどうなるかは知らぬがな」
一同が歓喜と感謝をすると天蓋が開き、薄っすらと光を帯びた女性が姿を顕わにする。すると須佐之男は彼女を気遣うように、
「姉上、ご無理をなされぬよう」
「異界からの客人とあっては、顔を合わせなければなりませんね」
天照の左腕と左足は、黒い艶のある羽毛の生えたカラスのそれに変わっていた。それを見せるかのように、黒い翼を前に出し、話を続けた。
「昨日、そなた等が相まみえた、あの白き尖兵により負わされた、この治癒せぬ傷が元で、霊落化が進み、このような姿に変わりつつあります。いずれは神とも獣ともつかぬ、物ノ怪の類になり果てるでしょう。この厄災さえ無ければ、人々の信仰の力で傷を癒すことは出来ましたが、今はそれも叶わぬ程、この国の人々は死に絶え、生き残った者も神に縋ろうという意思さえ失くしてしまっています」
横で天照を見守る須佐之男が口を開く。
「ここへ来るまでの道中で気付いたか?日に日に昼が短くなっていることを。太陽神である姉上が弱っている証拠だ。このままでは、そっちに居るもう一人の姉上も役割を失い、神の座から落ちれば昼も夜も無くなり、この地は虚無に包まれるだろう」
須佐之男がもう一人の姉と言っていた女性が話し始める。
「いかにも・・・。私は月詠。遠い異界の地、秋津国よりよくぞ参られた。私は夜の世界、月を司っている。月の光は、輝ける太陽あってこそ。姉上が力を失えば、それは同時に、私の役目も終わるということ。虚無に包まれれば、この地に生けるもの、全ての成長や進化は止まり、やがては衰退と死が支配することになるだろう」
その言葉に、より一層危機感を深める調査班達、そこでイナホは気になっていた事を天照へ尋ねる。
「あの、ここの人々が神様達を見られないっていう制約を解除することはできないんですか?神様達と人々が協力すれば、少なくとも今よりも被害は減らせると思うんですけど」
「異質な力を感じ、今回の事態を重く見て、そなたの言う通り、早い段階でその道も考えてはみたのです。しかし、古きより敷かれた制約は完全で、今の我々ではどうすることもできませんでした。挙句、神を討つ存在まで現れ、私を含め、隙を突かれた神々は次々と倒れ・・・」
「そうだったんですね。しかし、神様を倒してしまう程の力。あの白いやつ、あれは機械とは思えません。一体・・・・」
「あれはヒルコの純然たる怨嗟の念より生まれし傀儡・・・。日本神典については愛数宿大御神より聞いているのでしたね?」
「はい」
「かつて産みの神に捨てられたと云われているヒルコ・・・。彼がこの事態を引き起こしたことは認知しているのですが、腑に落ちない点もあるのです。ヒルコに神としてこれほどの事態を起こすまでの、役割、つまり力、そして神格があった様には思えません。しかしながら、元はと言えば、我々日本の神々の祖の所業が起因。延いてはそれを見過ごしてきた我々の宿罪でもあります・・・」
天照は胸に手を置くと、
「身勝手を承知で、そなた等、秋津の若人にお願いしたいのです。どうか、この国を救うために、力を貸してはもらえないでしょうか?」
イナホは目線を落とすと考え込みながら、
「ヒルコを倒せ、という事ですよね?」
「この元凶がヒルコである以上、そういうことになります」
「元々、私たちは秋津国を救いたい思いで日本調査に志願してきました。日本を救わなければ、秋津国がどうなるか、ここに来るまでの惨状を見て簡単に想像ができました。ここにも私達と同じ人間が居て、苦しんでる。それは神様達も一緒で。だから、協力はもちろんします。それはここに居るみんなも同じだと思います。でも・・・」
イナホは力強く天照の目を真っすぐ見ると、胸に閊えた思いを吐き出すように、
「でも、私は!そのヒルコという存在を、ただ討てと言うなら嫌です!」
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