The Outer Myth(アウターミス) ~外円神話~

とちのとき

文字の大きさ
59 / 83
第一部 目覚めの少女と嘆きの神

46話 思い3 (挿絵あり)

しおりを挟む
 拝殿を抜けると神主が本殿の扉の前に立っていた。
 「これより皆さまには天照大御神様に謁見していただきます。私は長い事、ここの神主を務めてまいりましたが、神々の声しか聞こえず・・・。その姿までを見る事の出来るあなた達を羨ましく思います」
 そう言うと神主は祓串はらいぐしを振り、一行を清め本殿の戸を開けた。

 中は中央から天蓋が吊り下げられており、その両脇には須佐之男すさのおと女神と思われるもう一柱が立っていた。その周りにも、御付きの神々と思われる者達が控え、先ほどの少彦名すくなひこなの姿もあった。すると、天蓋の中から声がかかる。
 「私が天照。話は須佐之男から聞いています。早速ですが、その異質なる力を持つ所以ゆえん、聞かせてもらえますか?」
 どこか愛数宿あすやどりを彷彿させるその優しい女性の声に、イナホ達は親しみを覚えた。


 調査班は秋津国についての事や、ここに来るまでの経緯などを天照に話すと、それを聞いた彼女は、
 「あなた方、秋津の最高神、愛数宿大御神あすやどりのおおかみの推察は、概ね当たっています。そして神器をこの若き希望達に託した采配、実に見事です」
 須佐之男も一行からの詳細を聞き、イナホ達を見て首を縦に振り、
 「わっぱと思っていたが、帰れぬかもしれぬと知りながらこの地に来るとは、大した肝を持つ奴らだ。海の底に行く手立ては我が何とかしよう。まあ、その先がどうなるかは知らぬがな」
 一同が歓喜と感謝をすると天蓋が開き、薄っすらと光を帯びた女性が姿を顕わにする。すると須佐之男は彼女を気遣うように、
 「姉上、ご無理をなされぬよう」
 「異界からの客人まれびととあっては、顔を合わせなければなりませんね」

 天照の左腕と左足は、黒い艶のある羽毛の生えたカラスのそれに変わっていた。それを見せるかのように、黒い翼を前に出し、話を続けた。
 「昨日、そなた等が相まみえた、あの白き尖兵により負わされた、この治癒せぬ傷が元で、霊落化れいらくかが進み、このような姿に変わりつつあります。いずれは神とも獣ともつかぬ、物ノ怪もののけの類になり果てるでしょう。この厄災さえ無ければ、人々の信仰の力で傷を癒すことは出来ましたが、今はそれも叶わぬ程、この国の人々は死に絶え、生き残った者も神に縋ろうという意思さえ失くしてしまっています」
 横で天照を見守る須佐之男が口を開く。
 「ここへ来るまでの道中で気付いたか?日に日に昼が短くなっていることを。太陽神である姉上が弱っている証拠だ。このままでは、そっちに居るもう一人の姉上も役割を失い、神の座から落ちれば昼も夜も無くなり、この地は虚無に包まれるだろう」

 須佐之男がもう一人の姉と言っていた女性が話し始める。
 「いかにも・・・。私は月詠つくよみ。遠い異界の地、秋津国よりよくぞ参られた。私は夜の世界、月を司っている。月の光は、輝ける太陽あってこそ。姉上が力を失えば、それは同時に、私の役目も終わるということ。虚無に包まれれば、この地に生けるもの、全ての成長や進化は止まり、やがては衰退と死が支配することになるだろう」

 その言葉に、より一層危機感を深める調査班達、そこでイナホは気になっていた事を天照へ尋ねる。
 「あの、ここの人々が神様達を見られないっていう制約を解除することはできないんですか?神様達と人々が協力すれば、少なくとも今よりも被害は減らせると思うんですけど」
 「異質な力を感じ、今回の事態を重く見て、そなたの言う通り、早い段階でその道も考えてはみたのです。しかし、古きより敷かれた制約は完全で、今の我々ではどうすることもできませんでした。挙句、神を討つ存在まで現れ、私を含め、隙を突かれた神々は次々と倒れ・・・」
 「そうだったんですね。しかし、神様を倒してしまう程の力。あの白いやつ、あれは機械とは思えません。一体・・・・」
 「あれはヒルコの純然たる怨嗟の念より生まれし傀儡・・・。日本神典については愛数宿大御神より聞いているのでしたね?」
 「はい」
 「かつて産みの神に捨てられたと云われているヒルコ・・・。彼がこの事態を引き起こしたことは認知しているのですが、腑に落ちない点もあるのです。ヒルコに神としてこれほどの事態を起こすまでの、役割、つまり力、そして神格があった様には思えません。しかしながら、元はと言えば、我々日本の神々の祖の所業が起因。延いてはそれを見過ごしてきた我々の宿罪でもあります・・・」
 天照は胸に手を置くと、
 「身勝手を承知で、そなた等、秋津の若人にお願いしたいのです。どうか、この国を救うために、力を貸してはもらえないでしょうか?」
 イナホは目線を落とすと考え込みながら、
 「ヒルコを倒せ、という事ですよね?」
 「この元凶がヒルコである以上、そういうことになります」
 「元々、私たちは秋津国を救いたい思いで日本調査に志願してきました。日本を救わなければ、秋津国がどうなるか、ここに来るまでの惨状を見て簡単に想像ができました。ここにも私達と同じ人間が居て、苦しんでる。それは神様達も一緒で。だから、協力はもちろんします。それはここに居るみんなも同じだと思います。でも・・・」
 イナホは力強く天照の目を真っすぐ見ると、胸に閊えた思いを吐き出すように、
 「でも、私は!そのヒルコという存在を、ただ討てと言うなら嫌です!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...