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1章 不老不死と賢女の石
第1話
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「……」
目的だった村についた瞬間、私は言葉を失うことになった。
村が荒廃していた。所々に打ち捨てられた農具、荒れた畑、そしてそこら中にこびり付いている血痕の数々。人の気配はなく、そこにあったのは不気味な静寂ばかりであった。
野盗か魔物か……何かしらの襲撃を受けた。と、考えるのが自然だろうがどうも釈然としない。言いようのない違和感、嫌な予感と言ってもいいそれを抱きつつも、私は一歩、また一歩と村の中へと足を進める。
抱いた予感は数分で確信へと変わった。
何故荒らされた形跡のある建物が存在しないのか。唯一被害があったのも、倉庫のような建物が一つ燃えていただけ。野盗や魔獣が相手の場合、それはありえない。
それに、何故死体が何処にも見当たらない。血痕の量を考えるに、死人が出ていないのもありえない。
そして何よりも、あちこちから村の中心へと伸びた何かを引きずったでろう新鮮な血の道標。
村が襲われたのは間違いない。だがそれは決して野盗や魔物なんてチンケなものじゃない。もっと人知を超えたナニカ。――しかもそれはまだ村の中にいる。
普通なら引き返すべきだ。何も見なかったことにして、すべてを忘れようと勤めればいいだけの話。だが、私の脳裏に後退の文字はなかった。強い好奇心と、大抵のことは何とか出来るという惨たる慢心。この二つが私の脚を村の中心へと運んでいった。
たどり着いたのは一つの家屋だった。他より一回り、二回り大きいいことから住んでいたのは村の長であろう建物。
「……酷いな」
思わず言葉をこぼした。強烈な死臭、血と肉が腐っていく際に放つ強烈な匂いが鼻を刺す。村に入ってからずっと感じてはいたが、匂いの発生源は間違いなく眼の前の建物だ。
扉にかけた手が震える。この扉を開けたら最後、引き返せない。きっと何かが大きく変わる。そういう予感があった。だが、私が求めているのもまた大きな変化。ならば開けないという選択肢があるはずもない。
意を決しって少しの力を腕に加えれば、ギッっと短くしなる音が響きあっけなくその扉は開かれた。
「なっ――」
私は再び言葉を失うことになる。視界に飛び込んできたのは、整然と並べられた老若男女の死体の数々。その数おおよそ二十数体。
ここまでは良い予想の範囲内だ。だが問題はその死体の列で佇む少年。おおよそ歳が二桁に乗ったかも怪しいような背丈をした白髪の少年がそこには居た。
この異様な空間の唯一の生存者。だが、その少年がこちらに振り返ることはなく、只々死体を眺めるのみ。私という侵入者に気がついていないのか、それとも気がついて尚相手する気がないのか。
静寂を崩したのは私の方であった。
「――これは君がやったのか?」
乾ききった口内からようやく発した一言に、少年がビクリと反応する。
「……だれ?」
体は死体の方へ向けたまま、少年は首だけで私の方へ振り返った。真紅に染まった瞳がこちらを覗き込む。その瞳は怒りに染まるわけでもなく、悲しみに暮れることもなく、また狂気を宿しているわけでもなかった。純粋な子供の目だ、村の人々を虐殺したとは到底思えない。
だが、少年の目の前にあるのは人の死骸。普通でいれることが普通じゃない。私の警戒心を削いでしまいそうなそれを前にブルリと身震いした。
背中にじわりと冷たい汗がにじむのを感じる中、私は何とか平静を装い言葉を紡ぐ。
「ダフネ、ダフネ・グリフィス。ただの……旅人だよ」
「たびびと、旅人さんか。それで旅人さんはこんな山奥の村に何しに来たの? 何もないよここ」
何もない。確かにそのとおりだ。王都から離れ行商人すら通らない辺境、観光地どころか宿の一つもないような村だ。その疑問はもっともだろう。私だって好んでこんな場所に来たわけではない。
「人を探してる。バゼット・ゴドルフ、数十年前まで国の中枢で魔術の権威と呼ばれていた人物……この村の出身で、帰郷しているという噂を耳に挟んだんだが……」
言葉が途切れる。村の惨状を見るに、私のここまで辿り着くまでにした苦労は、骨折れ損に終わりそうだ。目当ての人物はこの村に居ない、もしくは――。
「ごどるふ……あっ村長なら。ほら、あそこにあるよ」
もう死んでいる。少年が指さしたのは並べられた死体の列。そこにあったのは首に大きな刺し傷があり、恐怖に侵された表情で事切れた老人であった。死人に口無し、色々と尋ねたいことがあったのだがこうなってしまえばもう後の祭りだ。
「はあ……まあいい。元々期待はしていなかったさ。死んでいるのを確認できただけでも良しとしよう」
スタート地点から一歩進んで、一歩戻された程度の損害だ。いや、そもそもスタート地点に立つことすらできていないのが現状。
「ところでだ、そろそろ最初の質問に答えてもらおうか」
「質問?」
「村人を殺したのは君なのかな?」
その質問を境にようやく、少年は身体をこちらに向ける。後ろからは分からなかったが、その身体は全身血で染まっていた。
「もしそうだって言ったら――お姉さんも僕のこと殺そうとするの?」
「…………」
空気が変わった。息をするのも苦しいほどの殺気。その出処は言わずもがな目の前の少年。いまなら確信を持てる、この村の惨状はこの悪鬼によって引き起こされたのだと。
「僕は悪くない。そうさ、殺そうとするんだから殺されても仕方ないじゃん」
「村人たちが君を殺そうとした……だから殺したと?」
「そうだよ。なんだっけ、クチベラシとかなんだって言って、村から出ていけって言うんだ。僕がよそ者の子供だからって。全く酷いよね、こんな子供が冬の森を抜けられるはずがないのに」
成る程、話が見えてきた。確かに今年の大幅な雨の不足と、急速な寒波の影響で確かに不作の年だというのは聞き及んでいた。こんな辺境の村だ、食糧事情は自給自足の農作物依存。となれば、かなり厳しい状況だったのが分かる。
加えて、焼け落ちた倉庫のような建物。おおよそ食料庫であろうそれ。偶然にも起こった火災が、さらに村を逼迫した状況に追い込んだのだろう。
それこそ、子供一人を迫害しなければならないほどに。子供一人分の食料なんてたかが知れている。だが、口減らしの最大の意味は、子供を迫害した罪の意識の共有と、次は自分かもしれないという恐怖による結束だ。
最小の被害で、最大の救済。はっ、反吐が出るな。魔術師らしい傲慢な思考だ。まあ、その結果が今の村の状況だというのはなんとも皮肉が効いている。
「もう一つ聞いてもいいかい」
「……お姉さんは質問ばっかだね。別に、いいけどさ」
この村で起こったのは、食料不足による争い。要約してしまえばそれだけのこと、言ってしまえばこんなのは然程珍しくもない、ありふれた出来事だ。今回軍配が上がったのが、本来迫害される予定だった子供側である異常さはあれど。どちらにも同情の余地がある悲劇だ。
――私の推測が間違っていればの話だが。
「食料庫に火を放ったのはお前か」
「……」
返答はない。代わりに少年は一歩私に対して距離を詰めた。一瞬の静寂、破ったのは今度は少年側であった。
「なんで? なんでそう思ったの」
「強いて言うなら……。お前がずっと笑っていたからだ。自分の身に起こった悲劇を笑いながら話すやつがどこにいる」
私がそう言うと、少年は一度目を見開いて自身の顔をペタペタと触って見せた。そして、少し悲しげに眉をひそめて呟いた。
「笑っていた? 僕が? そっか、僕笑ってたんだ……」
「お前、自分が迫害をうけるように仕組んだな。何故そんなことを。そんなことをしなくても――」
村人を殺すなんていつでもできただろうに。私のこの言葉は、少年の声で遮断される。
「――だって理由がないじゃん。知ってる? ヒトはね、理由なく生き物を殺しちゃだめなんだよ」
人が牛や鳥を殺すのは食べるため、人が魔物を殺すのは魔物が人に仇なすから、人が人を殺すのは……一言にまとめることはできないが、大なり小なり理由がある。そうだ、理由なき殺しなどこの世に存在しない。してはいけない。それを理解しているから、少年は理由を作ったのだ。自身に仇なす敵を殺すという理由を
「馬鹿げてるな」
「うるさい」
「狂ってるな」
「うるさい!」
「異常だ」
「黙れ! そんなのは僕が一番知ってるよ!――あっ」
少年が叫び声を上げると同時だった。私も、刺した本人ですら気が付かぬうちに、血に塗れ鈍色とかした刃物が私の胸元に突き立てられていた。ゴホッと咳き込むと同時に、それを受け止めた手のひらが赤く染まる。
「違っ……だってまだ。僕は――」
ああ、やっぱりそうだ。涙を流しながらも、口元で孤を描いている少年の姿を見て思う。この子が理性なきただの殺人鬼であったらどれほど良かっただろうか。溢れ出る殺人衝動と、殺しは駄目だという倫理観を併せ持ってしまった。悲しき、理性の化け物。
さぞ、この世界は生き難いことだろう。
胸に刺さったナイフを抜く。するとそこからは止めどなく血が流れ、着ていた濡れ羽色の外套に染み込んでいく。このまま止血することなく、血を流せば普通の人間であれば数分も保たずに死に至るだろう――。
「でも――安心しなよ少年。これじゃあ、私は殺せない。……死ねないんだよ」
「えっ、なんで……。心臓に刺ささっていたはずなのに」
少年が言うように、確かに彼の一刺しは間違えなく私の心臓を穿っていた。だから、未だに生きている私は、どうしようもなく異常で、どうしようもなく馬鹿げている。
「改めて自己紹介をしよう。ダフネ・グリフィス。ただの――不老不死さ」
目的だった村についた瞬間、私は言葉を失うことになった。
村が荒廃していた。所々に打ち捨てられた農具、荒れた畑、そしてそこら中にこびり付いている血痕の数々。人の気配はなく、そこにあったのは不気味な静寂ばかりであった。
野盗か魔物か……何かしらの襲撃を受けた。と、考えるのが自然だろうがどうも釈然としない。言いようのない違和感、嫌な予感と言ってもいいそれを抱きつつも、私は一歩、また一歩と村の中へと足を進める。
抱いた予感は数分で確信へと変わった。
何故荒らされた形跡のある建物が存在しないのか。唯一被害があったのも、倉庫のような建物が一つ燃えていただけ。野盗や魔獣が相手の場合、それはありえない。
それに、何故死体が何処にも見当たらない。血痕の量を考えるに、死人が出ていないのもありえない。
そして何よりも、あちこちから村の中心へと伸びた何かを引きずったでろう新鮮な血の道標。
村が襲われたのは間違いない。だがそれは決して野盗や魔物なんてチンケなものじゃない。もっと人知を超えたナニカ。――しかもそれはまだ村の中にいる。
普通なら引き返すべきだ。何も見なかったことにして、すべてを忘れようと勤めればいいだけの話。だが、私の脳裏に後退の文字はなかった。強い好奇心と、大抵のことは何とか出来るという惨たる慢心。この二つが私の脚を村の中心へと運んでいった。
たどり着いたのは一つの家屋だった。他より一回り、二回り大きいいことから住んでいたのは村の長であろう建物。
「……酷いな」
思わず言葉をこぼした。強烈な死臭、血と肉が腐っていく際に放つ強烈な匂いが鼻を刺す。村に入ってからずっと感じてはいたが、匂いの発生源は間違いなく眼の前の建物だ。
扉にかけた手が震える。この扉を開けたら最後、引き返せない。きっと何かが大きく変わる。そういう予感があった。だが、私が求めているのもまた大きな変化。ならば開けないという選択肢があるはずもない。
意を決しって少しの力を腕に加えれば、ギッっと短くしなる音が響きあっけなくその扉は開かれた。
「なっ――」
私は再び言葉を失うことになる。視界に飛び込んできたのは、整然と並べられた老若男女の死体の数々。その数おおよそ二十数体。
ここまでは良い予想の範囲内だ。だが問題はその死体の列で佇む少年。おおよそ歳が二桁に乗ったかも怪しいような背丈をした白髪の少年がそこには居た。
この異様な空間の唯一の生存者。だが、その少年がこちらに振り返ることはなく、只々死体を眺めるのみ。私という侵入者に気がついていないのか、それとも気がついて尚相手する気がないのか。
静寂を崩したのは私の方であった。
「――これは君がやったのか?」
乾ききった口内からようやく発した一言に、少年がビクリと反応する。
「……だれ?」
体は死体の方へ向けたまま、少年は首だけで私の方へ振り返った。真紅に染まった瞳がこちらを覗き込む。その瞳は怒りに染まるわけでもなく、悲しみに暮れることもなく、また狂気を宿しているわけでもなかった。純粋な子供の目だ、村の人々を虐殺したとは到底思えない。
だが、少年の目の前にあるのは人の死骸。普通でいれることが普通じゃない。私の警戒心を削いでしまいそうなそれを前にブルリと身震いした。
背中にじわりと冷たい汗がにじむのを感じる中、私は何とか平静を装い言葉を紡ぐ。
「ダフネ、ダフネ・グリフィス。ただの……旅人だよ」
「たびびと、旅人さんか。それで旅人さんはこんな山奥の村に何しに来たの? 何もないよここ」
何もない。確かにそのとおりだ。王都から離れ行商人すら通らない辺境、観光地どころか宿の一つもないような村だ。その疑問はもっともだろう。私だって好んでこんな場所に来たわけではない。
「人を探してる。バゼット・ゴドルフ、数十年前まで国の中枢で魔術の権威と呼ばれていた人物……この村の出身で、帰郷しているという噂を耳に挟んだんだが……」
言葉が途切れる。村の惨状を見るに、私のここまで辿り着くまでにした苦労は、骨折れ損に終わりそうだ。目当ての人物はこの村に居ない、もしくは――。
「ごどるふ……あっ村長なら。ほら、あそこにあるよ」
もう死んでいる。少年が指さしたのは並べられた死体の列。そこにあったのは首に大きな刺し傷があり、恐怖に侵された表情で事切れた老人であった。死人に口無し、色々と尋ねたいことがあったのだがこうなってしまえばもう後の祭りだ。
「はあ……まあいい。元々期待はしていなかったさ。死んでいるのを確認できただけでも良しとしよう」
スタート地点から一歩進んで、一歩戻された程度の損害だ。いや、そもそもスタート地点に立つことすらできていないのが現状。
「ところでだ、そろそろ最初の質問に答えてもらおうか」
「質問?」
「村人を殺したのは君なのかな?」
その質問を境にようやく、少年は身体をこちらに向ける。後ろからは分からなかったが、その身体は全身血で染まっていた。
「もしそうだって言ったら――お姉さんも僕のこと殺そうとするの?」
「…………」
空気が変わった。息をするのも苦しいほどの殺気。その出処は言わずもがな目の前の少年。いまなら確信を持てる、この村の惨状はこの悪鬼によって引き起こされたのだと。
「僕は悪くない。そうさ、殺そうとするんだから殺されても仕方ないじゃん」
「村人たちが君を殺そうとした……だから殺したと?」
「そうだよ。なんだっけ、クチベラシとかなんだって言って、村から出ていけって言うんだ。僕がよそ者の子供だからって。全く酷いよね、こんな子供が冬の森を抜けられるはずがないのに」
成る程、話が見えてきた。確かに今年の大幅な雨の不足と、急速な寒波の影響で確かに不作の年だというのは聞き及んでいた。こんな辺境の村だ、食糧事情は自給自足の農作物依存。となれば、かなり厳しい状況だったのが分かる。
加えて、焼け落ちた倉庫のような建物。おおよそ食料庫であろうそれ。偶然にも起こった火災が、さらに村を逼迫した状況に追い込んだのだろう。
それこそ、子供一人を迫害しなければならないほどに。子供一人分の食料なんてたかが知れている。だが、口減らしの最大の意味は、子供を迫害した罪の意識の共有と、次は自分かもしれないという恐怖による結束だ。
最小の被害で、最大の救済。はっ、反吐が出るな。魔術師らしい傲慢な思考だ。まあ、その結果が今の村の状況だというのはなんとも皮肉が効いている。
「もう一つ聞いてもいいかい」
「……お姉さんは質問ばっかだね。別に、いいけどさ」
この村で起こったのは、食料不足による争い。要約してしまえばそれだけのこと、言ってしまえばこんなのは然程珍しくもない、ありふれた出来事だ。今回軍配が上がったのが、本来迫害される予定だった子供側である異常さはあれど。どちらにも同情の余地がある悲劇だ。
――私の推測が間違っていればの話だが。
「食料庫に火を放ったのはお前か」
「……」
返答はない。代わりに少年は一歩私に対して距離を詰めた。一瞬の静寂、破ったのは今度は少年側であった。
「なんで? なんでそう思ったの」
「強いて言うなら……。お前がずっと笑っていたからだ。自分の身に起こった悲劇を笑いながら話すやつがどこにいる」
私がそう言うと、少年は一度目を見開いて自身の顔をペタペタと触って見せた。そして、少し悲しげに眉をひそめて呟いた。
「笑っていた? 僕が? そっか、僕笑ってたんだ……」
「お前、自分が迫害をうけるように仕組んだな。何故そんなことを。そんなことをしなくても――」
村人を殺すなんていつでもできただろうに。私のこの言葉は、少年の声で遮断される。
「――だって理由がないじゃん。知ってる? ヒトはね、理由なく生き物を殺しちゃだめなんだよ」
人が牛や鳥を殺すのは食べるため、人が魔物を殺すのは魔物が人に仇なすから、人が人を殺すのは……一言にまとめることはできないが、大なり小なり理由がある。そうだ、理由なき殺しなどこの世に存在しない。してはいけない。それを理解しているから、少年は理由を作ったのだ。自身に仇なす敵を殺すという理由を
「馬鹿げてるな」
「うるさい」
「狂ってるな」
「うるさい!」
「異常だ」
「黙れ! そんなのは僕が一番知ってるよ!――あっ」
少年が叫び声を上げると同時だった。私も、刺した本人ですら気が付かぬうちに、血に塗れ鈍色とかした刃物が私の胸元に突き立てられていた。ゴホッと咳き込むと同時に、それを受け止めた手のひらが赤く染まる。
「違っ……だってまだ。僕は――」
ああ、やっぱりそうだ。涙を流しながらも、口元で孤を描いている少年の姿を見て思う。この子が理性なきただの殺人鬼であったらどれほど良かっただろうか。溢れ出る殺人衝動と、殺しは駄目だという倫理観を併せ持ってしまった。悲しき、理性の化け物。
さぞ、この世界は生き難いことだろう。
胸に刺さったナイフを抜く。するとそこからは止めどなく血が流れ、着ていた濡れ羽色の外套に染み込んでいく。このまま止血することなく、血を流せば普通の人間であれば数分も保たずに死に至るだろう――。
「でも――安心しなよ少年。これじゃあ、私は殺せない。……死ねないんだよ」
「えっ、なんで……。心臓に刺ささっていたはずなのに」
少年が言うように、確かに彼の一刺しは間違えなく私の心臓を穿っていた。だから、未だに生きている私は、どうしようもなく異常で、どうしようもなく馬鹿げている。
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