人生、7回目なんで!

三輪

文字の大きさ
上 下
2 / 14

2:370円か...まあまあ良いチキンじゃないか。

しおりを挟む
荷物の片付けをしている間に、腹が減ってきた。午前中に片付けて、近所を散策しようと思っていたが、どうも午前中には終わりそうにない。
まだ中身がぎっしり詰まった段ボール箱に囲まれて、僕は胡座をかいていた。
ため息と同時に腹が鳴る。正直、立ち上がるのすら面倒くさい。荷物から自作のポエムノートが発見されたあたりでHPが一気に削られた。ノートは3ページ目の「君の瞳は夜空に輝く星の」あたりまで読んで、速攻でゴミ箱に叩きつけるように捨てた。実家に置いてこなくて正解だった。

僕はまたため息をついた。
たしか、近くにコンビニがあったはずだ。床に散乱したものの中からスマホと財布を拾い上げ、立ち上がった。
玄関の鍵が右回りなのか左回りなのか分からずにゴタゴタしている間、お隣さんが帰ってきて、かなり恥ずかしい思いをした。僕は軽く会釈をして、逃げるように出かけた。鍵は多分閉まっていない。


コンビニへの道中で、ふと部屋の窓を閉め忘れたことに気づいた。僕の部屋のセキュリティ江戸時代並みじゃないか。
もう半分くらい歩いてしまったので、引き返すのは面倒くさい。そのままコンビニへ向かった。
歩いても歩いても同じような景色が続いている。コンビニまでずっと下り坂だ。
向こう側から、姉弟と思わしき2人組が歩いてくる。
黒髪美人の姉と比べて、弟は茶色がかった髪をしている。ツンツン跳ねた髪が歩く度にモサモサと音をたてそうだ。
姉の方は、制服を着ていた。高校生といったことろだろう。
「おれ、昨日、前世思い出したんだ!」
弟が姉を見上げて嬉しそうに言った。
「そう。」
姉が長い黒髪を耳にかける姿に、僕は一瞬見とれた。
姉の方も多分僕より年下だろうけど、なんともいえない大人っぽさがあった。
「あのね!!侍だよ!かっこいいでしょ!」
「そうね。」
「ねーちゃんは何だったっけ?」
「骨なしチキン(370円)」
「ぶっは」
僕はよりによって目の前に姉弟が来た時に吹き出してしまった。
弟の方が不思議そうにこちらを見上げるのはまだ可愛げがあったのだが、姉の方からは完全に不審者を見る目で見られた。
「ふへっ、す、すいませ...ふっ」
冷静に考えたらそこまで面白くはないが、1人で笑いも何もない状態でいたことから察してほしい。と言っても向こう側は僕の事情なんて知ったこっちゃないだろうけど。
「....はぁ。」
姉さんは2回ほどあの目で僕を振り返りながら通りすぎた。
370円か...まあまあ良いチキンじゃないか。
しおりを挟む

処理中です...