7 / 14
7:グゴォ
しおりを挟む
今日は一日中講義だった。途中で完全に寝てた気がするが、それはあくまでも気のせいだ。フタをしめていないペットボトルが机から落ちてフルーツオレが床にフルーティーな香りを塗りたくったのも、別に僕が机に突っ伏して熟睡していたせいではない。
長い坂道を登り、家についた時には、月が空にあがっていた。
今日はきちんと鍵を閉めたし、こんな時間だからあの姉弟も流石に来ていないだろう。
「...何処から入ってんの?」
と、いう非常にわかりやすいフラグは、ドアを開けた瞬間回収された。
というか、
「何見てんの?」
「お宝。」
本当にやめてほしい。
「ベッドとマットレスの間ねー。ちょっと捻ったみたいだけどまだ甘いですね。」
本当に返してほしい。それを真顔でガン見してる女子高生は見たくない。
姉さんの手には、僕の18歳の誕生日の深夜12時に、友達と買いに行った代物が収まっていた。
「佐藤さんこういうのがいいんだー。」
「いや、それは友達の」
床で寝転がっていた弟くんがグゴォ、と変ないびきをかいた。
「友達の?」
大きなつり目がじっと僕を射抜く。本当にこの子...この方の前世は、骨なしチキン(370円)なんだろうか。
「...2人の友達と僕の趣味の満場一致で購入しました。」
何を言わされてるんだ僕は。
「ここでとっても有益な取引をしませんか?」
姉さんは突然立ち上がって、ベランダへ出た。そして窓を開け、エ...お宝を天高く掲げた。
「ぉぁあぇぇええい?!?」
「佐藤さんいつも私たちに帰れって言いますよね?」
「きょ、今日は言ってない...!」
エ...お宝が風に吹かれてバサバサと音をたてる。
「私たちの自由な出入りを認めてくれなければ、これを公衆の面前に晒して」
いや、もう晒してる。
「佐藤さんの名前と住所を書いた上で風に飛ば」
「分かった!!分かった分かった!!それだけは勘弁してください!っていうかそれだけの為にそんなに過激なことする!?ただの死刑宣告だよそれ!社会的な!!」
姉さんは渋々といった感じで窓を閉めた。
「...あと、名前。」
「へぁ?」
僕は姉さんを止めようとした時の万歳のポーズのまま静止した。絶対人から見たら間抜けなポーズだ。
「佐藤さん、私...たちのこと、1回も名前で呼んだこと無いですよね。」
...それは、
「呼んでください。まさか名前覚えてないとか無いですよね?」
...覚えてるけど....。
「じゃあ、コイツの名前は?」
弟くんを指さす姉さん。
「あ、あぁ、もちろん覚えてるとも。彼は怪盗キッd」
脇腹に飛んできたチョップを間一髪でかわす。
「漢字が違います。」
「...海斗くんでしょ、覚えてるよ...。」
「じゃあ私の名前も覚えてますよね?」
「笠原(姉)」
姉さんがエ...お宝を再び取り上げた。
「な、なぁーんてね!冗談さ!」
じとっとした目線に耐える。
そうだな、おじいさんはあの鶏のことを、
「ポッピーちゃ」
窓を開ける姉さん。お宝を握った右手を大きく振りかぶった。
「あーーー!ごめんなさいごめんなさい!ちゃんと言います!」
「...なんでそんなに渋るんですか。」
「...舞さん?」
「私の方が年下です。」
「...舞ちゃん...?」
「...ほとんど年違わないのにすごい子供扱いされた気分ですけど、まあ1000歩譲って良しとします。」
「年下って言ったの君...じゃない、舞ちゃんの方でしょ!?」
名前は...あまり呼びたくない。
もし、僕が死んで、来世の''僕''が今の''僕''を思い出したとき、きっと彼は今の''僕''を調べるだろう。小学生だった僕がそうしたように。
そうすれば、自然に思い出してしまう。おじいさんのことも、ホテル客室員の男性のことも、そのまた前世の人達のことも。
前世を思いだすということは、死を思い出すことだ。
僕は6回死んだ。
もし来世の僕がそれを思い出せば、彼、もしくは彼女の精神状態は、今の僕より酷いことになるだろう。人とかかわるのを恐れ、漠然とした劣等感から抜け出せない、今の僕よりも。
おじいさんは馬鹿だった。多分彼は、来世が自分と、自分と関わりのある人を「思い出せるように」、会う人会う動物に名前を付けて呼んだ。確かに僕は、おじいさんの一生をすぐに思い出せた。一生を、死を。
純粋な善意のつもりでそうしたのなら、とんだ見当違いだ。
おじいさん自身も子供の頃、自分の前世で同じことを体験しただろうに。
長い坂道を登り、家についた時には、月が空にあがっていた。
今日はきちんと鍵を閉めたし、こんな時間だからあの姉弟も流石に来ていないだろう。
「...何処から入ってんの?」
と、いう非常にわかりやすいフラグは、ドアを開けた瞬間回収された。
というか、
「何見てんの?」
「お宝。」
本当にやめてほしい。
「ベッドとマットレスの間ねー。ちょっと捻ったみたいだけどまだ甘いですね。」
本当に返してほしい。それを真顔でガン見してる女子高生は見たくない。
姉さんの手には、僕の18歳の誕生日の深夜12時に、友達と買いに行った代物が収まっていた。
「佐藤さんこういうのがいいんだー。」
「いや、それは友達の」
床で寝転がっていた弟くんがグゴォ、と変ないびきをかいた。
「友達の?」
大きなつり目がじっと僕を射抜く。本当にこの子...この方の前世は、骨なしチキン(370円)なんだろうか。
「...2人の友達と僕の趣味の満場一致で購入しました。」
何を言わされてるんだ僕は。
「ここでとっても有益な取引をしませんか?」
姉さんは突然立ち上がって、ベランダへ出た。そして窓を開け、エ...お宝を天高く掲げた。
「ぉぁあぇぇええい?!?」
「佐藤さんいつも私たちに帰れって言いますよね?」
「きょ、今日は言ってない...!」
エ...お宝が風に吹かれてバサバサと音をたてる。
「私たちの自由な出入りを認めてくれなければ、これを公衆の面前に晒して」
いや、もう晒してる。
「佐藤さんの名前と住所を書いた上で風に飛ば」
「分かった!!分かった分かった!!それだけは勘弁してください!っていうかそれだけの為にそんなに過激なことする!?ただの死刑宣告だよそれ!社会的な!!」
姉さんは渋々といった感じで窓を閉めた。
「...あと、名前。」
「へぁ?」
僕は姉さんを止めようとした時の万歳のポーズのまま静止した。絶対人から見たら間抜けなポーズだ。
「佐藤さん、私...たちのこと、1回も名前で呼んだこと無いですよね。」
...それは、
「呼んでください。まさか名前覚えてないとか無いですよね?」
...覚えてるけど....。
「じゃあ、コイツの名前は?」
弟くんを指さす姉さん。
「あ、あぁ、もちろん覚えてるとも。彼は怪盗キッd」
脇腹に飛んできたチョップを間一髪でかわす。
「漢字が違います。」
「...海斗くんでしょ、覚えてるよ...。」
「じゃあ私の名前も覚えてますよね?」
「笠原(姉)」
姉さんがエ...お宝を再び取り上げた。
「な、なぁーんてね!冗談さ!」
じとっとした目線に耐える。
そうだな、おじいさんはあの鶏のことを、
「ポッピーちゃ」
窓を開ける姉さん。お宝を握った右手を大きく振りかぶった。
「あーーー!ごめんなさいごめんなさい!ちゃんと言います!」
「...なんでそんなに渋るんですか。」
「...舞さん?」
「私の方が年下です。」
「...舞ちゃん...?」
「...ほとんど年違わないのにすごい子供扱いされた気分ですけど、まあ1000歩譲って良しとします。」
「年下って言ったの君...じゃない、舞ちゃんの方でしょ!?」
名前は...あまり呼びたくない。
もし、僕が死んで、来世の''僕''が今の''僕''を思い出したとき、きっと彼は今の''僕''を調べるだろう。小学生だった僕がそうしたように。
そうすれば、自然に思い出してしまう。おじいさんのことも、ホテル客室員の男性のことも、そのまた前世の人達のことも。
前世を思いだすということは、死を思い出すことだ。
僕は6回死んだ。
もし来世の僕がそれを思い出せば、彼、もしくは彼女の精神状態は、今の僕より酷いことになるだろう。人とかかわるのを恐れ、漠然とした劣等感から抜け出せない、今の僕よりも。
おじいさんは馬鹿だった。多分彼は、来世が自分と、自分と関わりのある人を「思い出せるように」、会う人会う動物に名前を付けて呼んだ。確かに僕は、おじいさんの一生をすぐに思い出せた。一生を、死を。
純粋な善意のつもりでそうしたのなら、とんだ見当違いだ。
おじいさん自身も子供の頃、自分の前世で同じことを体験しただろうに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる