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第1話
「君の愛が……煩わしいんだ」
十九歳の誕生日を目前に控えた夜。四年間、婚約者として尽くし続けてきた王太子・フェリクスから告げられたのは、氷のように冷たい言葉だった。
彼のために夜会で泥を浴び、彼のために毒見をし、彼の隣に相応しい様に何に対しても努力を怠ることはなかった……。それでも私は、彼の「重荷」でしかなかったのだ。
…思えば彼が愛を囁いてくれたことは1度でもあったのだろうか。彼が私に対して好意的に接してくれた事はあっただろうか。
「…いいえ、そんな事は、ただの1度もなかったわね」
思わず自嘲の笑みがこぼれた。
今まで彼が私に対して向けるものは氷のように冷たい言葉と凍てつくような瞳。そして、愛を囁くどころか拒絶をするような態度だった。
私が愛を囁く度に彼の視線は鋭くなるばかりで、とても婚約者に向けるものでは到底なかった。
……それでも、それでも私は彼を愛していた。彼が婚約した当時に「ずっと隣に居てくれ」と、はにかむ様な笑みと言葉をくれたから。好きだとも愛してるとも言われたことは無い、けれど、彼のその言葉だけで私は十分満足していた。
……あの時の言葉は今は無効になったのだろうか。本当は私が愛を囁く度に煩わしいと思っていたのだろうか。
絶望の中、逃げるように城を飛び出した私は、突然、暗闇で何者かに襲われた。後ろから背中を一突きされたため、私は前向きに倒れていく。犯人の顔は暗闇に隠れて見えなかったが、不意に閉じていた目を開けると、そこには誰かが居て何かを叫んでいた。意識が遠のきそうになる寸前、月明かりによって周りが明るくなり傍に居た人物の姿が明らかになった。
その人は月明かりに照らされて輝く金色の髪にまるで宝石を詰め込んだかの様な透き通るエメラルドグリーンの瞳。
……そう、私の婚約者でこの国の王太子のフェリクス・フォン・バレンタインが居た。
(あぁ…やはり私は煩わしかったのですね。)
そうして目を閉じた私は知らなかった。私の亡骸を抱きしめながら「嫌だっ……行かないでくれっ………!ルビー、頼む……………僕を置いていかないで…」そう叫ぶ婚約者の姿を。
パチッ
……次に目を開いた時、なぜか私は十八歳の自分に戻っていた。
「…はっ!私は死んだはずじゃ…なんで、また18歳に戻っているの…?」
18歳と言うことはつまり、彼との婚約が始まって三年、まだ彼への愛に盲目だったあの頃というわけだ。
でもーーーーーーーー
「私はもうあなたに愛を囁きませんわ」
あの場にあなたが居たということは私を殺した本人か危機を察知して駆けつけてくれたか、だけど…
『君の愛が……煩わしいんだ』
その言葉と今までのあなたの私への態度。どう考えても煩わしいとまで言った婚約者を助けるために駆けつけたとは到底思えない。
「…もう、頑張るのはやめにしましょう」
前回のやり直しで私はここに居る。それならば今世では彼を嫌い、婚約解消をしよう。そう思い立ってすぐに私は彼が住むお城に向けて馬車を走らせた。
お城に着きフェリクスがいる執務室の扉の前で立ち止まる。そして深く深呼吸をして扉を開けた。
コンコンッ
「…入れ」
ガチャッ
「ご機嫌麗しゅう。フェリクス・フォン・バレンタイン王太子様、突然の訪問をお許し下さいませ。緊急で王太子に取り次いで頂きたいお話がありまして」
優雅にドレスの裾を持ち上げて軽く礼をする。普段の私と変わらないようでその実、一度も「王太子」と呼ぶ事をしなかった私が敬称で名前を呼ぶので、彼は眉根を寄せていた。
「……どうかしたのか。君が私を敬称で呼ぶなんて」
彼のその問いに私は答えず今日来た要件を簡潔に述べた。
「王太子様…今までのご無礼をお許しください。…あなたが私を煩わしいと思っていることは存じております。ですので、婚約を解消致しましょう。」
淡々とそう告げた。
「私が日々あなたに愛を囁くのも、本当は煩わしいと感じていたのに言葉に出さずにいたのはあなたの優しさでしょう?本当にごめんなさい。……何年もあなたの優しさに気づけなくて。…ですがもう良いのです。」
そうして彼の目を真っ直ぐ見て決定的な言葉を告げた。
「私はあなたを嫌いになりました。ですから…婚約は解消致しましょう」
こう私が告げたら、彼ならすぐに婚約破棄をするだろう。そう思っていた。
なのに……なぜか彼の様子がおかしい。
「婚約を解消…だと?ははっルビーは何を言ってるんだい。」
いつもより砕けた口調で笑いながら話す彼。しかし、口調とは裏腹に私の手首を掴む彼の瞳は、かつての冷たさなど微塵もなく、執着と狂気で濁っていて――。
「君の隣が僕の居場所なのに…………そんな事許すわけないだろう」
十九歳の誕生日を目前に控えた夜。四年間、婚約者として尽くし続けてきた王太子・フェリクスから告げられたのは、氷のように冷たい言葉だった。
彼のために夜会で泥を浴び、彼のために毒見をし、彼の隣に相応しい様に何に対しても努力を怠ることはなかった……。それでも私は、彼の「重荷」でしかなかったのだ。
…思えば彼が愛を囁いてくれたことは1度でもあったのだろうか。彼が私に対して好意的に接してくれた事はあっただろうか。
「…いいえ、そんな事は、ただの1度もなかったわね」
思わず自嘲の笑みがこぼれた。
今まで彼が私に対して向けるものは氷のように冷たい言葉と凍てつくような瞳。そして、愛を囁くどころか拒絶をするような態度だった。
私が愛を囁く度に彼の視線は鋭くなるばかりで、とても婚約者に向けるものでは到底なかった。
……それでも、それでも私は彼を愛していた。彼が婚約した当時に「ずっと隣に居てくれ」と、はにかむ様な笑みと言葉をくれたから。好きだとも愛してるとも言われたことは無い、けれど、彼のその言葉だけで私は十分満足していた。
……あの時の言葉は今は無効になったのだろうか。本当は私が愛を囁く度に煩わしいと思っていたのだろうか。
絶望の中、逃げるように城を飛び出した私は、突然、暗闇で何者かに襲われた。後ろから背中を一突きされたため、私は前向きに倒れていく。犯人の顔は暗闇に隠れて見えなかったが、不意に閉じていた目を開けると、そこには誰かが居て何かを叫んでいた。意識が遠のきそうになる寸前、月明かりによって周りが明るくなり傍に居た人物の姿が明らかになった。
その人は月明かりに照らされて輝く金色の髪にまるで宝石を詰め込んだかの様な透き通るエメラルドグリーンの瞳。
……そう、私の婚約者でこの国の王太子のフェリクス・フォン・バレンタインが居た。
(あぁ…やはり私は煩わしかったのですね。)
そうして目を閉じた私は知らなかった。私の亡骸を抱きしめながら「嫌だっ……行かないでくれっ………!ルビー、頼む……………僕を置いていかないで…」そう叫ぶ婚約者の姿を。
パチッ
……次に目を開いた時、なぜか私は十八歳の自分に戻っていた。
「…はっ!私は死んだはずじゃ…なんで、また18歳に戻っているの…?」
18歳と言うことはつまり、彼との婚約が始まって三年、まだ彼への愛に盲目だったあの頃というわけだ。
でもーーーーーーーー
「私はもうあなたに愛を囁きませんわ」
あの場にあなたが居たということは私を殺した本人か危機を察知して駆けつけてくれたか、だけど…
『君の愛が……煩わしいんだ』
その言葉と今までのあなたの私への態度。どう考えても煩わしいとまで言った婚約者を助けるために駆けつけたとは到底思えない。
「…もう、頑張るのはやめにしましょう」
前回のやり直しで私はここに居る。それならば今世では彼を嫌い、婚約解消をしよう。そう思い立ってすぐに私は彼が住むお城に向けて馬車を走らせた。
お城に着きフェリクスがいる執務室の扉の前で立ち止まる。そして深く深呼吸をして扉を開けた。
コンコンッ
「…入れ」
ガチャッ
「ご機嫌麗しゅう。フェリクス・フォン・バレンタイン王太子様、突然の訪問をお許し下さいませ。緊急で王太子に取り次いで頂きたいお話がありまして」
優雅にドレスの裾を持ち上げて軽く礼をする。普段の私と変わらないようでその実、一度も「王太子」と呼ぶ事をしなかった私が敬称で名前を呼ぶので、彼は眉根を寄せていた。
「……どうかしたのか。君が私を敬称で呼ぶなんて」
彼のその問いに私は答えず今日来た要件を簡潔に述べた。
「王太子様…今までのご無礼をお許しください。…あなたが私を煩わしいと思っていることは存じております。ですので、婚約を解消致しましょう。」
淡々とそう告げた。
「私が日々あなたに愛を囁くのも、本当は煩わしいと感じていたのに言葉に出さずにいたのはあなたの優しさでしょう?本当にごめんなさい。……何年もあなたの優しさに気づけなくて。…ですがもう良いのです。」
そうして彼の目を真っ直ぐ見て決定的な言葉を告げた。
「私はあなたを嫌いになりました。ですから…婚約は解消致しましょう」
こう私が告げたら、彼ならすぐに婚約破棄をするだろう。そう思っていた。
なのに……なぜか彼の様子がおかしい。
「婚約を解消…だと?ははっルビーは何を言ってるんだい。」
いつもより砕けた口調で笑いながら話す彼。しかし、口調とは裏腹に私の手首を掴む彼の瞳は、かつての冷たさなど微塵もなく、執着と狂気で濁っていて――。
「君の隣が僕の居場所なのに…………そんな事許すわけないだろう」
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