僕らは間違っているか。

虹彩

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違和感

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野球部の体験が始まって、1週間くらいのこと。その違和感は突然訪れた。
一年生が帰る前に部室で着替えているとき、一人がおずおずと口を開く。
「あのさ、大山さんさ、ちょっと自己中すぎるんじゃない?」
いきなりあげられた自分の名前に勢いよく振り返る。
「…なんで?」
「ずっと思ってたんだけどさ、朝一人で早く来て部室で着替えてたり、グラウンドでも仕事一人でテキパキこなしちゃうし、私達との交流もほとんどないよね。朝と夜の挨拶だけ。協調性って言葉知らないの?」
すると周りの子も口を開く。
「そうだよ。元々野球部かなんだか知らないけど、うちらまだ始めて1週間なんだよ。こっちはわからないこともあるのに、ずるいんだよ。」
な、なにそれ。
反論しようとしたが、うまく言葉が見つけ出せず、それを悟られないように全員の顔を睨むようにして確認した。
みんな、目を合わせない。私の言葉をまってる。怖がってる。
「ごめん、そんな風に思ってたとは知らなかった。気をつけるよ」
あまりに素直に受け入れることはみんなの予想から反していたのか、全員ぽかんとしていた。違和感。なぜ全員が同じペースでレースをしているのか、なぜ全員が同じ道をたどって目的地に行かなくてはいけないのか、もっと走れるのに、他の道を知っているのに。

こんなことがあったのは初めてではない。小学生の時、野球チームに所属していた私は女の子と遊ばず、外で男の子とバスケや鬼ごっこばかりしていた。卒業旅行の班を決めるとき、いつものように仲の良かった男友達と班を組むといつもは何も言わないクラスの女子がずるい、だの変、だの。後から知ったけど、その中にはクラスの中でも人気の高い男子が集まっていた。
だから私は知ってる。この違和感の正体が嫉妬であること。

そして、またここでもその違和感を感じてしまったこと。

(レベルの低い人達だな~)
半分人を見下したような態度に自分で自分にため息を漏らしそうになる。
「上を目指すことの何が悪いの。」
心の声が漏れた。しかしそれは私のものではない。あたりを見渡す。
「ちょっと!」
私以上にその発言に驚いていた他の子達が慌てて声を出す。
「西岡さん、どうゆうこと?」
「どうゆうことって…大山さんが何か悪いことしたの?さっきの話を聞いていても、大山さんは早くきて部室の掃除をしてくれているだけだわ。仕事の効率も野球の知識もあって、部員にとって一番必要なマネージャーなんじゃないの?私達の方がよっぽど直すところがあるように思えるけど。」
返す言葉がないのか突然の出来事にだれもが怯んだ隙に西岡さんはさらに稲妻を落とす。
「それに。大山さん自体も納得してないようね、それなのにその返事をするのは無責任じゃない?」
なっ、とつい声をこぼした。事実だ、確かに西岡さんの言ってることに間違いはない、だがそれを口にできる彼女の心は鋼なのだろうか。夢にも思わない発言に私は思わず声をこぼした。
その場はそのままだれも動けぬまま西岡さんが先に帰ったことで終わってしまった。誰も一言も交わさないまま、門を抜けてそれぞれ。
それ以来私の中には確かな違和感が芽生えた。今まで出会ったことのない新しい感情。退屈な日々の代わりができたような気がして嬉しくなった。
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