僕らは間違っているか。

虹彩

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本当

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次の日学校に行くと、前から大きな山が向かってくる。
「七斗おはよ~」
「おはようございます!ってどうしたんですか?東崎さん。」
彼は小学校も中学校も高校も同じ先輩のうちの1人。東崎 啓太郎さんだ。身長が190㎝近くあり、160㎝に満たない私の背では見上げて顔の下部分を覗くことで精一杯だ。
「うわ、東崎さんだってさ!ひがしでいーじゃん。昔みたいにさ!」
「やめてくださいよー。やっとひがしに敬語使うことに慣れてきたんだから。」
「使えてないじゃん」
しまった、という顔をしながら私は要件は?という顔を向けた。
「なんか、一年生に渡すものがあるからって透に頼まれたんだよ」
透とは、私達の監督である大池 透先生だ。
「あ、湯口よびますか?」
「頼むわ」
一応一年生の代表で、まとめ係を任されている湯口 晶は五組とは少し離れた2組だ。
教室を除くと湯口や他の野球部が私に向かって勢いよく立ち上がり、後頭部を見せて挨拶をした。
(なんで?)
後ろを振り返るとそこには、東崎さんの姿があった。
「呼ぶって言ったのに…!」
まぁまぁ、と少しにやけながら湯口を自分で読んで優しそうな笑顔で話す東崎さんを横目に教室へ向かおうとすると
「七斗!おばさんによろしく言っといて!!」
瞬間空気が、視線が、自分を指していることがわかった。
生返事をしつつ、教室に入るなり、そのことを見ていたであろう2組と近くにいた3組の野球部が、私の席へと群がる。
「大山って東崎さんと仲良いの?」「もしかして、付き合ってるの?」
東崎さんも天然なものだ。これならそう思われても仕方がないだろう。
昔からの知り合いの経緯を伝え、納得しながら帰る部員を意識半分に見送り、一限目の用意をする。

私が少年団の野球部に入ったのは、他でもない、東崎さんが誘ってくれたからで、小さな頃からひとりぼっちで寂しい私を心配しては、母が帰ってくるまで野球を教えてくれた。もちろん、そんな東崎さんと一緒にいれる時間が増えるなら、入らないわけはない。しかし、本当の理由は、私は東崎さんが初恋、という点だと思う。自分のそばにいて、家族以上の温もりをくれる相手に好意を抱かないはずはない。それが高校まで追いかけて来た本当の理由なのかもしれない。

なんて懐かしくも今朝のことを1人振り返り、今日1日を楽しく過ごせそう、そう思った矢先のことだった。
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