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第3話

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「え?いや、だから、結局何も起きなかった訳だし無かったことにしようって話ですよ」

「私はどこで教育を間違ったのだろうか…」

 途方に暮れ、アドリード公爵がぽつりと呟きました。アドリード公爵夫人はすすり泣きをしています。

「母さん、なんで泣いているの?父さん、どうしたの?」

「もうお前は何も話すな。我が公爵家を没落させるつもりか」

 弱々しくアドリード公爵が言いました。

 ここで、私も先程から言いたかった事を口にしました。

「あの、婚約を破棄してもよろしいでしょうか?」

 その場にいた全員が一瞬驚いた顔をしましたが、すぐに納得の表情になります。

「ああ。受け入れよう。慰謝料については、後日相談の機会を設けさせて頂くよ。息子が無礼な事をした。本当に申し訳なかった」

 夫妻が揃って頭を下げる横で、マドラー様が1人で騒いでいます。

「は!?おい、婚約破棄ってどういう事だ!?お父様、お母様、なぜ頭を下げているんですか?悪いのはそいつでしょう!!」

「何も話すなと言っただろう。まだ私たちに恥をかかせる気か」

「だって僕は何も悪い事をしていないじゃないですか」

  その言葉を聞いて、アドリード公爵が何かを決意したような顔でアドリード公爵夫人を見られます。泣きながら頷かれたのを見て、口を開きました。

「ここまでする気は無かったが…仕方ない。私は、いや、我が公爵家はお前を勘当する」

「えっ?と、父さん、何言って…」

「安心しろ。最初は衣食住を提供してやる。仕事の斡旋もしてやるから、自分で何とか生活しなさい」

 アドリード公爵が外にいた護衛に連れて行け、と命じると、護衛は嫌がるマドラー様を引き摺るようにして連れて行きました。

「やめろ、はなせっ!!父さん、勘当ってどういう事ですか!?僕は何もしてないのに!!嫌だ、やめろーっ!!」

 その言葉を最後に、部屋の扉がバタン、と閉められました。

「改めて謝罪させてもらう。本当に、申し訳なかった」

「頭を上げてください。もう充分、気持ちは伝わりましたから」

「そうか……ありがとう」

 マドラー様は素直な方だと思っていましたが、頭の出来があまりよろしくなかったようですね。もはや、私も引っかからなくて良かったと捉えるべきなのかもしれません。

 さて、新たな婚約者さがしを始めなくては!

【完】
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