銀色童話

黒池 火魚

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傍にいる剛に気付かれないように歩くのは辛いな。
剛の家に帰ってきて…痛みが鋭くなってく気がする。

「剛!
 何遅くなってるんだ!」

正広君の怒った声が、玄関で響く。

『ごめんな~
 …ちょっと…池のあたりで遊んでたの~』

剛の謝る声に、俺は…ずきずきと痛む背中に堪えきれずに、一瞬顔が歪んでしまう…

事故の件は絶対に正広君には話すなと剛に、約束させた。

心配のあまり…きっと、剛も俺も医者に見せようとするだろうから…
俺はどうしても病院や医者には身体を見て欲しくないん…
その訳は誰にも話せはしないけどな…
それを誤魔化すように剛には話したが…

『光ちゃん?』

剛が心配しないように、平気な顔を作ってやる。心配させたくないからな。

『ごめんな…剛、ちょっと…寝るわ。
 飯の時間になっても…起さなくてもいいから…
 後で、貰うから…』

一応…自分の部屋に戻る。

人間へと変わったとき、正広君と拓哉君がここで休めって言った…
ベットへとダイブするように、身体が倒れ込むと俺は、そのまま…意識を失った。


------------------------------------------------------------------



しばらくしてから光の部屋の扉がキィッと小さな音を立てて開く。

「こぉちゃん?」

心配して…ご飯を食べ終わった剛が部屋に入っても…光は眠ったままだった。

そっとその琥珀色の髪を撫で…ちゅっと頬に唇を寄せる。
ぺろぺろと光ちゃんの顔を舐めて…同じ口にも何度も舐める…
ちょっと身体を起して、光ちゃんの顔をじっと見つめた。

「ん~疲れてるのかな、起きないね。」

この身体になったせいか…凄く毛繕いしにくいんだ。

ご主人様は、今は毛繕いしないで…風呂に入れって言うんだけど。
まぁ…お風呂も嫌いじゃないから…いいんだけどね…

裏の山に居る皆もお風呂嫌いじゃないんだよ~

それって凄いでしょ、普通の猫だったら絶対に嫌がるんだけどね。
勿論、それはご主人様の教育の賜物なんだよ。

僕は小さな頃からお風呂入る事には全然抵抗なんかなかったんだけど、准と入った時に知ったんだ。

もぉな、濡れるのがメチャ嫌だから暴れて飛び出そうとしたのをご主人様の一言でピタリと動きを止めたんだ。

その言葉は、

『暴れんな。
 暴れたら拓哉のご飯食べさせないぞ。』

…だって。

やっぱり拓哉さんのご飯は美味しいから、食べれなくなっちゃうのは皆嫌なんだね~

でね…毛繕い、光ちゃんも今は止めておいた方がええっていうんだよ?

何でなのかなぁ~

全身は大きくなっちゃったから、ちょっと無理だけど…顔とかは平気で出来ると思うんだ。


剛が不思議に思っているのは、光も正広も知っている。
何故かというのは光は正広に頼まれていたのだ。
剛は年齢的にも既にお年頃で…パッと見に17歳位の可愛らしい剛が光の顔をペロペロと舐めている姿を見るのは出来れば遠慮したいと思うのは当たり前。
そしてお返しに互いがしてる姿を見ると、全員が疲れ果ててしまったという状態になっていたのだ。言い方を変えれば目の前でカップルがイチャついているのは見たくないと思うのだ。

どんなに剛が光の毛繕いをしてあげたいと思っても…




光ちゃん…
何だろ、すごく顔色が悪いみたい…あんな勢いで、斜面転がり落ちたってのに…ほんとに平気なのかな…

もしかしたら…どっか怪我してるんじゃないかな?

見た感じでは服とかに怪我したような感じが残ってないけど…
ん~ほんとに大丈夫なのかなぁ。

でも、起すのもなんか悪いし…

「あれ?」

ちょっと髪から出た耳を舐め、繕ってあげる。

少しぼさぼさになってるから…

「んふふ…眠っているのを知ってて、毛繕いするの初めてだね。
 いっつもは起きてる時だけだもん。」

光ちゃん…疲れてるんだね…

信や健君に頼んでるのにも関わらず…念の為言って、裏の山に入ってくんだもん。

顔と首までの毛繕いも全部終わったのに、ちっとも起きない。

なんか寂しいな~

そっと光ちゃんの顔を覗き込む…すごく顔色悪いみたいだけど…大丈夫なのかな~

光ちゃんの閉じてる瞼をそっと舐める。
じっと光ちゃんの顔を見つめて…決心した。

ご主人様から聞いたおまじない…

光ちゃんの唇に自分と同じ唇を重ねた。
舌で舐める事はあっても口を重ねるのは初めて…好きな人に…元気になって貰うためのおまじないなんだって。

照れ臭そうにそれでも嬉しそうに言うご主人様から教わったんだ。

「早く…元気になってね。」

このまま此処に居たら…だめかな…

ん~いいよね。光ちゃんの傍に居たいから…
こっそりとベットに入り込んで…ふわぁっと光ちゃんの匂いが鼻に届く。

「んふふ…」

凄く良い匂い…光ちゃん、大好き…

小さな頃に戻ったみたい。
時折、光ちゃんがこの家に泊まって一緒に眠った事もあるんだよ。

ご主人様がお友達の家に泊まったりすると、僕…よく寝れないんだ。

それを心配して光ちゃんが来て、一緒に眠ってくれたの。
ご主人様と光ちゃん以外とでは一緒に寝ても、寝たような気がしない。

だから…光ちゃんが来ると、一緒に寝たいなって思ったりするんだ。

ちょっと肩と腕に頭を乗せて、擦寄って瞳を閉じると…とろとろとした眠りが全身を襲った…


--------------------------------------------------------------


次の日の朝…目覚めた瞬間、光は驚いていた。

「何でだ?」

自分の傍に暖かな温もりがあって…剛の手が俺の服をぎゅっと握っている。
傍らに寄り添うように眠って…

「こんな時間か…」

気が付けば…朝だった…

少し動こうとすると、背中から全身が引き攣るほどの痛みが襲う。

「寝てれば治るかと思ったんだけどな…」

小さな自分の呟きに、剛の耳がピクリと動き、瞳がパッチリと開く。

「おはよう…光ちゃん。」

にっこりと嬉しそうな剛に、自分も笑みを返す。

「結構長い時間寝てただから、おなか空いたでしょ?
 拓哉さんのご飯、一緒に食べよ。」

その言葉に頷き、立ち上がる。ずきずきとした痛みが背中から全身に訴えてくる。歩くこともままならない程の痛み…

それでも、剛には気づかれないように…ゆっくりと後からリビングへと歩く。

痛みを堪えながらの食事は、はっきり言って…味など覚えてない。
取りあえず食べ終わって、また部屋に戻ろう…だが…それまでもつのか…

痛みは先ほどよりも酷いものに変わっていた。息をするのも苦しいくらいに…

「光?」

正広が光ちゃんの顔色が悪いのに気づいて、声をかけた瞬間…ぐらりと倒れてしまった。

『光ちゃん!
 どうしたの!!』

思わず光ちゃんの傍へ行ったんだけど、血の気が失ってる。

死んじゃったの?

そんなの嫌だ~!


がくがくと光ちゃんの肩を、強く掴んで揺さぶってしまう。

「剛、止めろ!
 落ち着くんだ!!」

ご主人様の声だって判ってても、止められない。

だって…僕がこんなに呼んでるのに、目覚めてくれないんだもん。
いつもだったら、光ちゃんは僕の声にはすぐ答えてくれたんだもん。

『いやぁ~!
 光ちゃん、光ちゃん!』

思いっきり、ご主人様の手が僕の両手を掴む。
いやぁぁ~!

倒れてしまった光にパニックを起した剛を正広がなだめている間に、拓哉が光を抱き上げ、部屋に連れてゆく。

『光ちゃん!
 僕が看病するんだから、皆は出て行って!!』

そう、ご主人様に言い切って、全員の背中をぐいぐいと押して部屋から追い出した。

脱がされた服の下…シャツが黒かったせいなんだろうか?

血が出ていても判らなかった。
気づかなかった…

下手したら、肋骨が折れているのじゃないかと拓哉さんがいってた。

どうしよう…自分が車道を飛び出したからだよね…
ごめんね、光ちゃん…

光ちゃんに抱き締められてても、物凄い衝撃を感じたのに…

あの時既に怪我してたんだよね?

何で自分は気付かなかったんだろう…

「光ちゃん…ごめんね。

 背中…やっぱり強く打ってたじゃない。

 酷いじゃない…教えてくれないで…」

ポロポロと涙を零して、光ちゃんの手を握る。
その掌に自分の頬を当てると、光ちゃんの温もりが感じられる。

早く…眼、覚まして…
大好きで綺麗な琥珀の瞳で僕を見つめて…

光ちゃんが目覚めるまで…じっと手を握り…待っていた。

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