囚われの斎王は快楽に溺れる  竜と神話の王国

たまとら

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イズンの場合

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斎王候補が産まれたと、神殿が沸きたったのは十八年前の事だった。
神官に成り立ての私は、またかと思った。
ぼこりと湧き上がって消えていく泡のように、この話はときどき現れる。
しかしそのうち立ち消えとなっていく。

斎王はただ銀髪銀目だけでは無い。
神力も依代としての人格も、全てが必要なのだ。
私はこの時も、神官達の期待が形になっただけだと思っていた。

神殿に仕える者は総じて清い。
妬みや嫉みは、毎日の祈祷で洗い流され、皆一律に柔和な顔になっていく。
私の心は、何故かソレらと一つになろうとしなかった。
そんな自分は修行が足りない所為だと思い、厳しい修行に自ら励んでいた。
頬がこけて、ギラついた目の私を憐れんだのだと思う。
斎王候補の赤児を世話していた仲間が、そっと会わせてくれた。

赤児でありながらふさふさした髪は白銀で、小さな顔をおおっている。
口元を薄く開けて眠る赤子からは、乳の匂いがした。
嫌がる腕の中に預けられ 
(抱いた事がないので、壊しそうで怖い)
その小さな手を見る。
やもりのように小さい手には、一つづつ爪が付いていて、その不思議さに感動した。
自分の指を近づけると、人差し指をくっと握ってくる。思ったより強い力に、何かが心の中に生まれた。
その時、赤子が目を開けた。
私は、動けなくなった。

銀。本当に銀だ。
その奥底に深い闇の様な深淵が広がって、宇宙のような黒と金が瞬いている。

  ーー斎王ーー

もし抱いていなければ、跪いていただろう。
私はこの時、一目で堕ちたのだ。
その神力の美しさに。
この方を導かなくては。
私という意味が、はっきり型となった瞬間だった。

            ************

イズンは物心ついた時からどこか視界の中にいた。
親のように、師のように、厳しく優しく導いてくれる。
祝詞を習ったのも彼なら、弓や体術も彼から習った。
龍の放牧地で足を踏み外した時、いつのまにか走り込んだ彼が私を庇った。
私は傷一つ無かったが、イズンは足を骨折した。
嬉しかった。彼が大好きだった。
私が何かを成し遂げるたびに彼は喜び、ソレが嬉しかった。

いつからだろう。
あの視線におぞましさを感じるようになったのは。
風呂の世話も身支度もしてもらっていたのに、いつの間にか断る様になっていた。

熱く…どこか暗い視線。
彼だけだ。
いや、一般の参拝者がときどきあんな目をする。
まるで首をしめて、全身にまとわって来る様で息苦しい。

そうと意識しないままに避けるようになっていた。
犬は逃げると追うという。
避けるのは悪手だとわかってはいるが、恐怖がうまれる。
彼の手が触れた所は、その後もじんじんと痺れているようで、慌てて禊に走る事が何度かあった。
コレはなんだろう。
私の心が曇っているのか。
何故、彼を厭う。

シリンが戸惑ったまま、やがてイズンは姿を消し、ゼオライトの侵略が始まった。
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