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43 見方を変えたら視界が広がる

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シャク シャク。

何処からか音がする。


シャク シャク シャク。

町を覆っていたトレントが、ふるふると枝を揺らしている。


シャク シャク シャク シャク。

音が揃っていく。
トレントが抱きついていた建物から離れていく。


シャク シャク シャク シャク シャク。

枝を揺らして、葉っぱが雪の様に舞い落ちる。
なんか音が耳鳴りの様に、する。
そのうち、目のいい兵士がおう!と叫んだ。
みんなが一斉にトレントを見る。

トレントが暴れている。
地下茎を蹴り上げる様に持ち上げて振り回している。
デアウッドがぼこんと横倒しになると、ぐるんと丸まって転がりだす。
いつもならこうやって獲物にぶち当たるのだけど、今は盲滅法走り回っている。


シャク シャク シャク シャク シャク 
シャクシャクシャクシャクシャクシャクシャク


ずずっ ずずっ ずずっ

ずずっ ずずっ ずずっ ずずっ ずずっ

変な音に変な音が加わる。
火に炙られたスルメのように、トレントもエルダートレントも揺れている。
ヘッドバンキングのようにばっさばっさと、自分の体を振り回す。

建物の周りに森のようにぎゅっと固まっていた奴らは、火傷したようにばっと離れた。
おかげで少し見晴らしが良くなって、半壊した建物がみえた。
壊れてても柵は柵。そして町の境界線。
その周りを兵士が取り囲む。
飛び出す魔獣を屠り、ぎゅっと身構えて町を見る。

トレントの森の中に居たブリックドーンが、グレイボアが、必死で飛び出して来た。
周りを囲んでいた兵士がサクサク狩っていく。
狩る組と回収する組に分かれて、もう流れ作業だ。
そのうち、兵士が異変の原因に気付いて、目が飛び出る程に見開かれた。

げえぇぇぇぇっ!

野太い叫びがあちこちから上がった。
が。が。
いっぱいトレントについている。

気がついた町の人も立ち上がった。

いやあぁぁぁ‼︎     女性が叫ぶ。

かっけえぇぇぇ‼︎   子供が叫ぶ。


シャクシャクシャクシャクシャクシャクシャク

ずずっずずっずずっずずっずずっずずっずずっ

そのナニかに気がついた人も、出来るだけ近くで凝視する。
そう、自分の見ているモノが信じられなくて。
自分の脳の指令がちょっと遅れて、じわじわと頭に染みてきた。

ああ、青虫って緑色のアレだよねー
緑色以外は白でも茶色でも、芋虫って言うんだよー  と、脳が現実逃避の為にいらんことを考えていた。

そう、そこには明らかに1メートルを超える芋虫が森に群がっていた。
芋虫がシャクシャクと葉を食べる。
勿論キラキラとしたゼリー状のウ*チをクリスマスのモールのように飾りながら。
芋虫なのに、あの硬い幹に齧りついて、ずずっと樹液を吸い上げる。
コレ、芋虫と違う。
ホラーじゃん。
吸われてトレントが萎びていくって…。

あのぶにゆっと柔らかそうなボディ。
粘っこそうなのに、絶対サラッとしてそうなボディ。
強く掴んだら、ぶちっと体液ぶちまけそうなソレが、巨大でウゴウゴしてるんですが‼︎
しかも、大量!
げぇぇぇぇ!  鳥肌モノ‼︎

トレント達が阿鼻叫喚している姿を、人間達はただただぽっかーんと見ていた。




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