俺と竜。ときどき王子。

たまとら

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辺境で大暴れ

20 ばかやろうとありがとうの間

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帰って来た竜影がぐんぐんこっちへ迫って来る。
お出迎えの為に並ぶ。
曇天に映る竜の影。
少し首の長いその姿は美しく、風を受けた翼はピンと伸ばされている。
竜は本当に心の底から畏敬の念を沸き立たせる。

と、先頭の竜の頭がぐっと横にブレた。
降りようと傾いていた体が反り上がる。

「えっ!」
きっと王子が降りるのを拒否して揉めているんだろう。
しらけた気持ちでみていると、タッチ・アンド・ゴーで再び舞い上がる。

地上はその煽りの風を受けて、轟々と木が揺れた。
竜は群れを作ってリーダーに従う。
だから先頭を追って、その編隊が上昇する。
次々起こる風圧で、半円の結界の外は岩や木がガラガラと吹っ飛ぶ。
そして先頭の竜はゆっくりと上空を旋回すると……


「だめだ‼︎」


キーランは走り出していた。
この渓谷の山添には牧場がある。
上から見ると冬枯れた平地。
でもそこには毛長のグーモーが放牧されている。
竜はそこに向かっている。
キーランは岩だらけの渓谷を駆け登る。

「だめだ‼︎止めろ!」

叫んだキーランは、その並外れた脚力で一番に放牧場へと駆け込んだ。



優雅に降り立つ巨体。
でもその巨大さで、がずっ!
どどどん!と、地響きの音がする。
グモー、モー と叫びながら散り散りに逃げるグーモーの焦げ茶色の体が舞い上がる砂埃に紛れている。
ばさりと音を立てて、翼をピンと立ち上げてから竜達はゆっくりとソレを折り畳んだ。
見惚れる程に美しい景色だ。いつもなら。

キーランは真っ直ぐに竜から降り立ったハーディンに向かった。

「出迎え。ご苦労。」

爽やかな笑顔目掛けて拳を振り上げる。


腰に乗ったそのパンチは、見事にハーディンの顎にヒットしてその体を半回転させた。
回転したハーディンの体がべしゃりと土の上に転がった。その時。
周りはしんと音を無くした。

大人は口を開けたまま動きを止め、他の子供も走って来たそのままに足を止めている。
ジャスだけが口の端を上げて見守っていた。
近寄ろうとする護衛兵を竜の翼が阻む。
当たり前だ。
竜は無条件にキーランの味方だ。

「な、何をする‼︎俺は王子だぞっ!」

ハーディンが怒鳴りながら立ち上がる。
真っ赤な顔でワナワナ震えている。

「何って。そんな事もわからないのかよっ!」

猫を被ることを辞めたキーランは怒鳴り返した。
普段怒鳴られたことなど無いのだろう。
怒りながらもびっくりして目を見開く。

「竜の降り場は決まっていただろう!牧場に降りたらグーモーが怯えてるて乳を出さなくなる。勝手な事をするな!迷惑だ‼︎」

そう言われてハーディンはちらりと周りを見た。
遥か向こうにグーモーが固まっている。
竜に怯えて…。


「五月蝿い!五月蝿い!俺に意見するなっ!」
負けずに叫び返す。
「自覚だなんだのと五月蝿い!俺は好きにやるんだっ!」

「はあっ、馬鹿じゃないのおっ。」

「ば、馬鹿ぁ⁉︎」

「ジカクだシカクだ関係無いだろうが。
自分が守らなきゃいけないものを守る。ソレにどんな御宅がいるんだ!ココは俺の大事な領地で、大事なグーモーだ。馬鹿を怒って何が悪い!」

キーランの怒りで高揚した頬が、そのアメジストの瞳をキラキラと縁取っている。
曇天の中で眩しいプラチナの髪は、そこに光を集めている様だ。
ハーディンはその気迫と、美しい瞳の中でぽかんと間抜けな顔をしている自分を見て力を抜いた。

沈黙が辺りを支配していた。
微かにモー モーと、グーモーの声が響いている。
竜はジャスを伺ってピクリともしない。
自分の騎士をも御している。
不思議な圧が声を奪っていた。





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