むらむら悶々しちゃっても、一人でシテはいけません。

たまとら

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精通は免罪符では無い。断じて。

1 いらっしゃいませの扉

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リヒトが精通したのはネリスティア王都学園に合格して2日後だった。
ネリスティア学園は中等学科の学校として名門中の名門で、王都学園はその中でもダントツだった。
初等学科を卒業してさらに専門的に学ぼうとする者が、越冬地を目指す渡り鳥のように群がる学校だった。

リヒトが夢精で朝を迎えたのは、受験のストレスが無くなってホッとしたのが2%ほど。
残り98%はたぶん合格祝いだとシェテラ兄から貰った薄い本のおかげだと思う。
早速読んでそこはかとなくむらむら悶々した翌朝に、パンツが濡れていたのだ。


「リヒトが精通した。」

パパンの宣言に全員が動きを止めた。
同時に部屋の生活音がかき消えた。
その静寂は耳が痛いほどだ。

リヒトは見た。
執事のクロドがパンツを掲げている。
若干股間が湿った緑チェックのパンツは、まさしく今朝慌ててベッドの下に押し込んだヤツだ。

後ろでひゅうっと息を吸い込む音がした。

「何故だぁ‼︎」

野太い声が床を殴りつけた。
ずごんという振動で白煙があがる。

「何故だぁ!リヒトは妖精だから精通なんかしなぁい!このまま清く正しくいきてくんだぁっ」

いや、何言ってんの?

微妙な空気の静寂が辺りを支配した。
ヴォルフ兄が殴ったせいでダイニングの床にはぽっかりとクレーター。
大理石だったよね、これ。
入って来た使用人が足を引っ掛けてトレイが飛んだ。
ふわりと揺れたシェテラ兄がソレを受け止める。
さすがですシェテラ兄!
流れるような体捌きは惚れ惚れしまっす。


うおぉぉぉんと泣きながらリヒトに突進するヴォルフに、ママンの蹴りが炸裂した。軌道を変えた巨体はそのまま壁へと飛んで行く。

ぐぶっ

べごっ

ごずっ

貴族の御屋敷では聞こえない音響の中で、リヒトはそっとパンツを回収してポケットにねじ込んだ。

リヒトが!リヒトが!と喚くヴォルフはママンにアルゼンチン・バックブリーカーを決められて、それでもこっちにぷるぷると手をのばしている。


妖精呼ばわりされたリヒトはプンプンと頬を膨らまさせていた。
失礼だよね。
精通が来るのが遅かったからって失礼だよね。
本人はまだまだこれからだと思ってたのに、勝手に終了だと思われていたのだ。
酷い。酷すぎる。

そりゃ、精通見込みの閨教本を渡されたのは3年前。
同級生が次々と大人の階段を駆け上がっていく中で、リヒトは精通の米の字さえチラつかなかった。

精通は身体が大人の準備出来ましたぜの合図だ。
魔力回路が出来上がって魔力が流せるぜの合図だ。
『大丈夫。いざという時は俺が一生面倒見るからな』
という、始まる前から終了宣言な激励を受けながら今日まで来た。
内心、本当はリヒトだって焦っていたのだ。
それが無事に精通したのだ。

ありがとう薄い本。
いらっしゃいませ精通。
大人の扉が今朝どっかーんと開いたのだ。
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