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皇帝

皇帝の愉しみ

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微かに白み始めた世界が、はっきりと都を浮かび上がらせている。
長安は碁盤の目のようだ。
足元に広がるきっちりとした都に、皇帝はふぅっと息を吐いた。

あの一つ一つに人がいる。

この足の下には、蟻のように人が何千万といるのだ。

自分を取り巻いていた星々が徐々に輝きを失っていく。
登ってくる陽が白銀の雲を紅く煌めかせ、みるみる空を染めていく。

登る太陽に向かって、膝をつき頭を垂れる。
自分に集まる陽の神力が、ぐんぐんと中に溜まっていく。
ほとんど快楽にも似た歓びが昂まってくる。

あぁ、今日も都は事もなし。

朝の祈りを奉じてから、ゆっくり立ち上がる。

目をすがめると、見えぬ筈の神殿が見えた気がした。
飛鳥の神殿。
あそこに神子が眠っている。



神子を伴侶に。
と、つぶやいただけで、彼奴らはようも踊ったものよ。

口元がくっと持ち上がる。


足元の流砂のように、民が戦うのはつまらない。
自分の知らない物語で、人が流されていくのはつまらない。
自分はこの国を他国に攻められぬように創り上げた。
毛細血管の様に張り巡らせた神力の結界は、他国にも、穢れにも、敏感に反応する。
それが衰えたと嘆いて見せれば、ほら、新しい手駒が呼べる。


あぁ、もっと子供を作るべきだった。
襲い掛かったと思ったのに、直ぐに覆された。
……いや。
まだまだ愉しみはこれからだ。

思ったより鋭くて手強かった神子。
今度はその神子の魂の争奪戦だ。
それが第四の中に溶けているとは、予想外だった。

赤い舌がでろりと唇を舐める。

可愛い子供達。
我を気のいい、真面目な皇帝と信じている。

愚かな臣下達。
我を御せると信じている。
腹黒いようにおもえて、なんて可愛い。

密かに付けている神力の糸が、奴等の心を映してくれる。
この愉悦に浸る愉しみは、我だけのものだ。
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