妖精王の味

うさぎくま

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14、夢の中で

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「エティエンヌフューベル様、大丈夫でしょうか?」


 エティエンヌフューベルの現在の寝室。執務室に近い豪華でもなんでもない普通の一室。

 間違いなくここにいらっしゃるだろうと、イヨカは検討をつけた。

 自国に帰る前に、過激な叱咤激励の言葉をバルベ王国、タガルガ王国の王と側近らにもらい。ひとまず凛音を護衛のパッドとその妻タニアに任せ、彼女にあてがわれている部屋に送り届けた。

 決戦はこの夜だ。

 もう凛音に迷いはない。でかくなった(男性の身体になった)後は、イヨカの知ったことではない。

 確実に凛音の黄色い絶叫が目に浮かぶ。蜜液をその身に入れたエティエンヌフューベルは、妖精族〝初〟の強靭な肉体美をもつ見目になるだろう。女性体とは真逆の『美』をもつ男性体は圧感に違いない。

 今までの妖精族は、妖精どおしの夫婦のみ仕方なく男の性をとってきた。だからこそ、この世で一般的な身長をもつ妖精族の〝男〟は存在しない。

 現在までは、当たり前だった〝それ〟が今夜覆る。

 新たな歴史をその瞳で見ることのできる素晴らしさにイヨカの身が震える。と同時に相手が異世界人である恐怖も感じていた。

 二人の寿命は同じになる。老いていくスピードは蜜液を交わし夫婦になれば自ずと…半強制的に相手に合わすよう身体が変わる。しかし異世界から落ちてきた凛音に肉体の強さは皆無。寿命が延びたからといって不死ではない。病や怪我、なんの能力もその身に持たない凛音は簡単に殺せる。

 それは妖精族の王で、凛音を手に入れ今以上の魔力を保有するエティエンヌフューベルの最大の弱点となりえた。
 凛音を老衰以外で亡くすと、必ずエティエンヌフューベルは狂いこの世界の数大陸を燃やしつくすだろう。偉大なる王を地に落としてしまう。それだけは避けたい。だから一族で凛音を護るしか道はない。

 おっとりゆったりが基本の妖精族の在り方を、強制的に変えなければならない。イヨカは腹に力を入れ、返答のないエティエンヌフューベルにもう一度声をかける。

「エティエンヌフューベル様、入室してもよろしいでしょうか?」

 それでも返答はない。しばらく扉の前で今後の計画を立てていると小さな声が。

「……えぇ、グスッ、えぇ…」

 泣きはらしたような声がとても心地よく胸に響く。尊敬する王であるが、その〝女性〟としての危ういまでの魅力に、伴侶がいようと引き込まれそうになる。

「エティエンヌフューベル様。では入室致します」

 イヨカの身長の十倍はあろう扉だが、見目以上に怪力の妖精族はその立ちはだかる扉も普通に開けれる。足音もさせず優雅に入室したイヨカは、泣き崩れるエティエンヌフューベルの側に歩いていく。

「さあ、エティエンヌフューベル様。悲しんではおれませんよ」

「……何を、言うの。もう、嫌われたわ、あんな醜態を晒して…凛音はきっと、侮蔑を含んだ目で、私を…私を…。
 早く…早く、離れたら良かった。…でも、凛音からっ、触れてくれたのを…グスッ、私からは…拒否…出来なく…て。我慢していたのに、凛音が、凛音の手がっ。
 あぁーーーーー!!!!」

 その通りなのだが、エティエンヌフューベルが思っているほど凛音は思っていない。想像を超える知らないモノは、例え〝それ(男根)〟に触れても全く気付けないのだ。

「エティエンヌフューベル様。天草様は、間抜け…ではなく天然でいらっしゃるので、気付いていらっしゃらない」

「…えっ?」

 涙に濡れた瞳が大きく見開く。ベッドにうつ伏せ状態だったエティエンヌフューベルは身を即座に起こしイヨカに詰め寄る。

「本当に? 本当に気付いてないの!?」

「はい。全く」

「いぇ、待って、しっかり触ったわよ! 先(亀頭)を押して擦ったのよ?私っ、射精までしたわよ!?」

 言葉にすれば尚の事恐ろしい。

「全く、気付いておりません。腕についた精液酒キャラメルマキアートは、先程グラスから飲んだ時に溢れたのかしら? くらいの顔で舐めてらした」

「舐めた? 腕に付いたのを?」

「はい。美味しそうに」

 真っ白だったエティエンヌフューベルの顔が赤く色づく。細く華奢な腕が豊満な胸を挟み、両手は両頬に添えられ、両腕に挟まれ型が変わった豊満な胸が左右に揺れている。

「そうなの? やだっ、凛音ったら、行儀悪いわ。もうあの子ったら、キャッ!!」

 あざとく可愛い。とてもあざとく可愛い。が股間に生えてるブツは可愛くない。シルクのたっぷりとした洋服を持ち上げ、天を向き勃起していた。

 機嫌がなおったエティエンヌフューベルにイヨカも笑顔だ。これから話す内容は退出した(…凛音に退出させられた)エティエンヌフューベルが知り得ない事。夜の計画をイヨカは笑顔で述べていった。



 ***

 暗闇のカーテンがかかる頃。エティエンヌフューベルは自らの身体を頭の先から爪先、凛音の胎内に入れる性器はとくに念入りに隅々までを洗っていた。

 もう洗う箇所などないのに、それでも見落としはないか異臭はしないかと最終チェックに余念がない。洗いあがりにつける香油も、髪用、ボディ用、を分け塗り込む。性器まわりだけは避けて、凛音の身体に拒否反応がでないよう液剤が付いていないか何度も洗い流し、確認した。

 浴室に設置してある大きな鏡に、何も身に着けていない己の姿が映る。
 妖精族では〝普通〟の両生具有。それに嫌悪を抱く日が来るとは思いもよらなかった。自慢の大きく豊満な胸、くびれたウエスト、プルンッと張りのある尻、全てが憎い。

 存在感ある長さと太さと大きさを備えた、下半身の陰茎と陰嚢は凛音の好みだから、それは良い。

 鏡に手を付き、エティエンヌフューベルは祈りを口にする。


「凛音……愛してるわ。本当に…愛してるの。男になったら貴女を思いっきり抱きしめるわ。
 私は…知ってるから…凛音が一番好きなのは、抱きしめられる事。
 大きく筋肉質な熱い男性体に、すっぽりと抱きしめられたいのよね?
 大丈夫。大丈夫よ、鍛えたもの、夢か現か分からなくても凛音の好みに近づきたくて、鍛えに鍛えたのよ。
 大丈夫。きっと凛音好みの肉体になれるから待っていて。……凛音…、愛してるわ……」


 己の男姿は迫力ある美貌と肉体美だろうとエティエンヌフューベルには確信があった。凛音が好きだという、彼女の世界にある美術館に所蔵されている彫像より、エティエンヌフューベルの男姿の方が絶対に見事なはずだ。
 何としても男になりたい。男にさえなれれば、純粋で優しい凛音を己の美貌で丸め込むのは容易だ。

 凛音にはしばらく溜まりにたまった止まらぬ性欲を満たしてもらい。互いが(主にエティエンヌフューベル)満足した後、後日改めてゆっくりと妖精族の説明をすればいい。

 一番エティエンヌフューベルを美しく魅せる、シルクの真っ白なローブを羽織り、リボンではだけないよう腰辺りで縛る。

 鏡に映る姿は、この世の者とは思えぬ程の絶世の美女。鏡の中の自分に言い聞かせる。

「私は男だ。凛音は私の運命の伴侶、もう逃しはしない」

 室内に響いた声は、もう女性のそれではなかった。




 エティエンヌフューベルが自身を磨き上げている同時刻。

 凛音も大浴場で、プロポーション抜群の美女タニアに「身体はこれで洗ってください」「髪はこれで洗ってください」「あぁ!! 秘部はこちらの布で洗ってください」と終始うるさい。

「あぁー!! もう!! 洗い方の注意をするなら、タニアさんが洗ってよ!! 」

 タニアは凛音の侍女だ。文献や映画、小説や舞台など偏りはあるものの凛音の世界では、貴族の女性はお付きの侍女に身体や髪を洗ってもらっていた。

 凛音は一応…いや凛音が認めた時点でエティエンヌフューベルの伴侶決定だ。ならば侍女であるタニアは主人の凛音を洗うってのは間違いない。しかしここは異世界、凛音の常識は通じない。


「まぁ!! なんて恐れ多いことを言うのですか? 天草様のお身体に触れてよいのは、王のみ。私が触るなどとあってはなりません。
 本来ならお目にするのもよくございません。ですが天草様は異世界の方。儀式へ臨む沐浴の仕方をご存知ではないだろうとイヨカ様から言われ、こうして一緒に入っております」

 出た。異世界の不思議。

「儀式って、エティエンヌフューベル様とイチャイチャするのにここまで洗わなきゃいけないの? 毎回こうなの?」

「今宵だけです」

 即答され、呆れる。

 早い話が初夜みたいなものなのだろう。中世ヨーロッパの王侯貴族は皆の前で交わり、純潔の証を確認すると聞いた事がある。それと似たようなものかと、凛音は勝手に解決した。

 見られながらイチャイチャするのは抵抗があるが致し方ない。凛音は所詮よそ者だ。この大きな身体でエティエンヌフューベルを潰してしまう可能性があるし、皆は不安なのだろう。

「エティエンヌフューベル様とイチャイチャ…ではなく。性行為…ぽいもの…らしきもの? …まっ、何でもいいけど。タニアさんも見るの? 何人くらいの前でするの? サイズ的に、私が下ですよね?」

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

 頭を抱えて乳房を揺らしながら絶叫するタニアを、眼福な気持ちで見る凛音は、彼女が叫ぶ理由がイマイチ理解できないでいた。

「妖精族の方は叫ぶのお好きですよね?」

「冷静にふざけた事をおっしゃらないでください!!王との睦み合いを見る!? まさか殺されます。パッドをおいて死ねないわ!!!」

 崩れながら、パッドの名を呼び続けるタニアに凛音はさらに呆れる。

「誰に殺されるのですか? 」

「王にです!!」

「エティエンヌフューベル様に? まさかっ」

「甘いです、甘いです、甘く考え過ぎです!!! 王は一番、天草様。二番天草様の、三番、四番天草様、もう順位総ナメで天草様だけでいらっしゃるのです。
 分かりますか!? 天草様に始まり天草様で終わります。長い間、伴侶に会えず生きておられた王は、もう充分国の為に尽力されました。
 きっと、もう、これからはずっと。ずっと、ずっーーーと。天草様の全てを愛でられ、もう離されないと。そう感じます。
 天草様が余裕でいられるのは今日で最後です!! 王から逃げたいのであれば全力でお逃げください。冗談なく嬉々としてシモの世話もしたいとおっしゃりますよ」

「キモっ」

 タニアの全力トークにドン引きする。シモの世話って。なんですかそれは? あの可愛らしいエティエンヌフューベル様にシモの世話? 御免こうむる。

「今の言葉は分かりかねますが、否定言葉とは思います。我らの心配を軽く考えないで下さいっ!!!」

「はい、私が悪いでした」

「天草様、反省されてませんねっ!!!」

 タニアとの冗談な掛け合いが楽しく感じる凛音は、いつかエティエンヌフューベルともこうして ワキャキャと笑い合いながらお風呂に入りたいと思う。

 言われた通りに身体を洗い、最終泡を流しきる。流すのは手を直接触れないのでと、タニアが手伝ってくれる。
 身体に流れるお湯が止み、凛音はタニアに視線を向けた。

「タニアさん?」

「天草様、王の伴侶は天草様です。誰がなんと言おうとも、天草様たった一人です。妖精族も分かってはいてもきっと王に擦り寄るに違いない。
 ですが、他種族の方は……もっと直接的で、なおかつ王には周到に隠し、凛音様を遠ざけようと動きます。
 決して屈しないでください。どれだけ王が美しくとも、皆の心を奪っていっても、それは幻。王のお気持ちは天草様にだけ注がれます。絶対に。それは心に留めおいてください」

 真面目に話されると不安が積もっていく。

「ねぇ、何故、皆が〝そう〟言うの? 何か大事な事を私に隠してる?」

 今現在でも充分エティエンヌフューベルは絶世の美女。もう文句がつけようなく美しい。しかしタニアや皆が言うようにエティエンヌフューベルに擦り寄る女性はあまり…というか、見ない。

 他種族までは分からないが、昼間に会ったドーバ様達がエティエンヌフューベルに擦り寄ってもいない。一体何の心配なのか?凛音には検討もつかない。

 伴侶と言われ大切にされても、どこまでも凛音はよそ者。それを突きつけられたように感じ、瞳に涙の膜が張る。

「隠し事はございます。ですが凛音様は今日それを知ります」

「今日? 今からですか?」

 タニアは静かに頷いた。そして見惚れるような笑顔を向けてくれる。

「はい。全ては王に、お任せくださいませ。極上のひと時をお過ごしください」




 全ての支度が終わり、豪華絢爛な部屋に通される。人が何人寝れるのか?という程の寝台が目にはいり、胸が高鳴る。

「エティエンヌフューベル様に任せて大丈夫かな?まっ、なるようになるか。私もあの豊満な胸は触ってみたいし! 楽しみだわ」

 独り言を口にしながら靴を脱ぎ、光沢を放つ寝台の上に身体を滑らすように移動する。ちょうど真ん中に陣取り仰向けに寝転んだ。

 静かになると楽しい気持ちがなくなり寂しくなる。寂しくなると感傷に浸ってしまう。
 思いつきで口に出して呼んだ妹や父や母の家族の名前。呼んでも返事が返ってこないと理解すると、涙が溢れシーツを濡らす。



「……凛音…」

 エティエンヌフューベルの声に驚き凛音は身を起こす。寝台の近くまで来ていたのに全く気付かなかった。

「あっ、と。エティエンヌフューベル様。その…こんばんは」

 目尻に涙がまだ残っていて、流れてしまう。懐かしく思い呼んでみただけ、これは生理的に出た涙だ。帰りたいなどとは言ってないし、本心から今はエティエンヌフューベルの側にいたい。

 これは凛音の失態だ。

 今夜は初夜だ。エティエンヌフューベルの甘く可愛らしい声で「好き」やら「愛してる」やらを言われると踏んでいた。
 間違っても、こんな苦しい顔をさせたい訳じゃない。


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