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22、悪夢からの正夢
しおりを挟むさて、日が沈みまた日が昇る。一体今がいつなのか、意識が朦朧としている凛音には分からない。
身体が上向きだと薄っすら認識し、近くにあるはずの大きな身体がなく寂しさが脳内を占拠していく。
(「あ…れ…、私…夢見てた? どこから、どこまで夢? 異世界なんてなかった…とか?」)
柔らかなベッドに寝ている自分。閉じていた瞳が開いていけば、妹がいた。母も父もいる。
凛音が目を開いたのに気づいた妹が、頭突きでもするのか? という勢いで覗きこんできた。
「おねぇちゃん!! おねぇちゃん!!」
「凛音!! もう凛音ったら!! 良かったわ…」
「お前は働き過ぎだ。しばらくは休むんだ」
大好きな家族の顔は、皆が涙で濡れている。あれ?では〝彼〟は? まさか夢?
夢で間違いないのだろう。頭をポンポン叩く妹を見て、凛音の瞳から涙が溢れ落ちる。夢の確認を、と思い凛音は運命の人の名前を口に出す。
「…ねぇ、エティエンヌフューベル様は?」
「うん? え?何? おねぇちゃんの好きな漫画の登場人物?気になる漫画があるなら、私が買ってきてあげるよ!」
「違う!! 私のっ大切な!! 違う…くないか。そうか、漫画…かな…」
身体が重いから手足が動かない。でも瞳は動く。だから理解はしたけど、したくない。
起きて病院。働き過ぎて倒れた…ようだ。
こんな事って。せっかく運命の人エティエンヌフューベルに会えたのに。凛音のモロタイプだったのに。まさか自分の妄想とは笑うしかない。
涙が止まらない。
心配する声が聞こえる。
『天草様! 天草様!!』
ほらっ、凄く心配している。優しい家族、うん家族? うん、大好きな家族だ。
あれ? なんで妹が、父が、母が、凛音を苗字で呼んでいるのだろう?
どうせ夢ならもう少し〝彼〟と一緒にいたかった…顔も身体も…エッチも最高だったのに…。
眠っているはずの凛音が、突如泣き出した。あちらの世界の家族を呼びながら泣く凛音に、タニアは胸が潰れそうになる。
泣きながらベッドにグッタリと横たわる凛音を、どうしたらいいか分からない。ただただ名前を呼び続けた。
「天草様! 天草様!! どうしましょう。泣かないでください!!
王を呼びに行こうかしらっ、あぁでも、天草様を一人には出来ないし、あぁぁぁぁー!!!」
凛音は涙で見にくい視界を、まばたきする事で涙を瞳から追いやる。病院ではない。天蓋付きベッドは病院ではないだろう。
「あ…れ?」
「天草様!! 起きられましたか!!」
「…タニ…アさん?」
「タニアです!! そう私はタニアですわ!お身体がお辛いですか?
ちょっと…かなり…いえ、止まらなかったようで、決して王も悪気はないのですよ。
泣くほど、お辛かったとは気づけず申し訳ございません!!」
「ここはどこ?」
「ここは、妖精の国、フェア王国ですわ。天草様は落ちてこられたのです。って何をなさっているの!!」
頬をギムゥと捻った凛音に、本気で驚くタニア。頬の痛さと視界で揺れ動くタニアの巨乳を見れば、夢ではなかったと確信がもてた。
「夢かと思って頬をつねってみたんです」
「つねらないでくださいませ。王が知ったらと思っただけで、恐怖ですから…」
いやな夢を見た。もう会えないかと、エティエンヌフューベルと会えないかと思った。
涙をかえせ。悲しさが消えると怒りが膨れ上がる。
「そもそも、やりっぱなしか!? 飽きたらほったらかしか!?」
怒りが声に出た。凛音のツッコミに、タニアが目をひん剥き驚愕の姿だ。
「ま、まさか!!王が天草様に飽きるだなんて事は、世界が終わってもありえないですわ。
天草様が、会えないはずの〝あちらの家族〟に涙を流し助けを求めるほど、抱きつぶすとは思わなくて」
少し話が食い違っている。助けを求めて泣いたのではなく、エティエンヌフューベルが架空の人であると思い、幸せの時間が虚無だと思ったから泣いたのだ。
「えーと、あれは夢を見てて、違う…んだけど」
エティエンヌフューベルにもう会えないと思い泣いたのが、かなり恥ずかしい。出来れば消去して欲しい。
黙った凛音が、エティエンヌフューベルに対して怒っていると勘違いしたタニアは、一応、王をかばう。しかしあまり庇えていない。
「これでも私達は必死に離れるよう進言したのです。丸3日間挿入しっぱなしは、流石に天草様が壊れてしまうと。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も、でもやはり無視され。
バルベ王国の王が扉を壊して、止めて下さらなかったら。天草様が壊れてましたわ。
本当に…良かった…」
恐いことを知った。あまり知りたくなかった。だけど抱き潰されは…しない…はず。3日間挿入しっぱなしは驚く。3日間萎えないイチモツが引く。
基本的にエティエンヌフューベルとのセックスは凛音の快楽を引き出してくれるものだから、彼が己の快楽のみでガツガツとは動かない。
とてもゆっくりなのだ。女側は楽しいがこの交わり方は男側には物足りないはず…。
痛くはないし、気持ちいいだけだし。腹も空かなければ、不浄なるモノも出ない、魔法なのか、異世界の不思議だ。
ただ現在も股に、あれが挟まっている感じは抜けないが、決して不快ではない。だが、それを肯定すれば快楽地獄に真っ逆さまなので、あえて否定はしない。
「バルベ王…は、ドーバ様?」
「そうです。アユーバラ国の王と王妃もいらっしゃっております」
「アユーバラ王国?って、この国についでかなり魔力が強いっていう?」
「覚えていらっしゃったのですね。流石、天草様。そうです、アユーバラ王国は種族でいうと鳥。我々妖精族に一番近いとされております。
現在のアユーバラ国王は種では白鳥です。王妃は鷹です」
疲れも吹っ飛ぶ摩訶不思議。
熊の国『バルベ王国』ネコ科動物の国『タガルガ王国』で鳥の国『アユーバラ王国』、それぞれに王がいるのだ。他の種族を知りたくなる。まずはアユーバラ王国の皆々様にご挨拶をしたい。
造形美が好きな凛音からすると、鳥のフォルムはかなりツボなのだ。
とくに王妃様!! 鷹とは!! それは是非ともお目にかかりたい。猛禽類が大好物な凛音の脳内は踊り狂っていた。
パッドは歩く猫だ。であれば、白鳥であるアユーバラ王は歩く白鳥か? クラシックバレエの世界だ。で王妃が鷹!? 逆ならしっくりくるが、何故だか不思議な感覚。
いや、ドーバ様もグーリーン様も人型だったから、今は人型なのか?
「会いたい!」
と立ち上がろうとして、ベッドから落ち…そうになり、タニアの胸に突入する羽目になった。
(「柔らかっ、気持ちいい!! むぅ、女版エティエンヌフューベル様をもっと堪能すべきだったな。しくった」)
タニアの巨乳にうずくまりながら、能天気な内容を思考していた凛音。しかしタニアには凛音が辛くてすがってきていると勘違いし、母性愛プラス姉妹愛的なものに目覚めていた。
「天草様っ、王からも守ってみせます!! 娘が欲しい…」
と本気の願望を述べながら、凛音を抱きしめて頭を優しく撫でてくる。
(「タニアさんとパッドさん、どっちに似ても可愛いだろうなぁ~。あぁー幸せ、エティエンヌフューベル様の硬い筋肉質な身体も素敵だけど、タニアさんのポニュん身体も堪らない!!」)
ウォーターベッドのような感覚の巨乳に顔を挟みながら、凛音は幸せを堪能する。うっとり堪能していたから、状況把握が遅れた。
力持ちな妖精族。タニアが凛音を抱っこしながら歩いていたのに気づいたのは大分経ってから。安定感抜群過ぎて抱っこされたままだったのだ。
「ぎゃ!!! タニアさんっ、どこにぃぃ!?」
「動けないのですから、お連れ致します」
「赤ちゃんみたいで恥ずかしいです」
「可愛い事をおっしゃらないでください。天草様が娘ならと、失礼な事を思ってしまいますわ」
「はぅっ!!!」
妖精族は人を垂らし込むのが得意な種族なのだと、凛音は再確認した。
(「幸せだから、いっか…甘えれるだけ甘えてやる」)
変な宣言を脳内でしながら、凛音は運ばれていく。次に甘えるのは運命の人エティエンヌフューベルにだ。
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