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36、賞金を手に入れ
しおりを挟む現在、雑貨屋店にて、店番中。
そう例の事件(旦那の陰茎サイズの勝負)から丸ニ週間がたっていた。凛音はもう忘れたい、忘れたいのに、今日またそれが開催される。
店の外から凛音を発見し、女の子達からキャッキャキャッキャッと指をさされ、頬を染めネタにされている。
ズーーーーーーーーーーーン…。店番中なのに、笑顔が凍る。
「凛音、もうそんなに落ち込まないでよ…」とルルが。
「知らなかったとは思わないしね! まさかアレを知らないとはね、あはははははっ」とハーブ店長が。
地にめり込みそうな凛音に、一応の慰めをくれるルルとハーブ。しかし嫌なものは嫌だ。そしてやはりエティエンヌフューベルとの共寝に慣れ、一人寝が辛い辛い。夜が眠れない。
二週間一人は、凛音には堪えた。
「見られたくないですよ、そりゃ…アレは私だけのなのに…」
「愛だねー」「愛だねー」二人仲良くハモる。
あの後(旦那の陰茎サイズの勝負、凛音圧巻の勝利)はそりゃ凄かった。
店員さんと支配人らしき人、一般客の婦人達から凛音は揉みくちゃにされた。
やれ『張形を作りたい』や『いくらで貸し出す』やら、旦那を紹介しろと。
男達にまで、『いったい何を食べたらあんな素晴らしい太さと長さになるのか、話を旦那から聞きたい!』などなど。
いやあれは妖精族特有で。完全にエティエンヌフューベルの自前だろうから、食生活を聞いても無駄だろう。
引き笑いを浮かべながら、断った次第。
(思い出しても、疲れる…)凛音は、はぁぁと溜め息を吐いた。
「しかしっ、凛音の旦那様は凄いよね! まさかタガルガ王のより、もう二回り大きいんだよ!!
信じられないわ。ハクリなんてショックからか、しばらく勃たなかったのよ」
さらっとルルとハクリの性生活を耳にしてしまい、これ以上知り合いのアレやコレを聞きたくない為、棚の埃とり作業に凛音は入る。
「……はぁぁ……(一回りではなく、二回りだったのね。流石、存在自体規格外のエティエンヌフューベル様だ)」
疲れ過ぎて凛音の脳内はトンチンカンだ。
カランカラン、カランカラン。
店のドアが開いたので、凛音は笑顔を貼り付け接客の顔になる。
「いらっしゃいませ!」
「…こんにちは」
(ぉう…また来たか…)
モジモジしながらキャルルは店内に入ってきた。あれから何故か凛音はキャルルに付き纏われている。
29連勝に土をつけ30勝を潰したから憎んでいる…訳ではなく、お姉様と位置づけられ慕われているのだ。それはもう熱苦しく。
旦那がこの国では珍しい馬獣人であって、めちゃくちゃ旦那自慢したいマウンティング大好き性格の女の子だが、所詮犬獣人の種ラブラドールレトリバーだ。
主人と伴侶は別ものらしい。でた異世界のパラレルワールド。
凛音を勝手に私のお姉様(主人)と呼び付き纏う日々。ちなみに何故か馬獣人の旦那様も一緒が多く、似た者夫婦ここにあり。馬獣人の旦那も頭のネジが何個か飛んでいる系だった。
「…キャルルさん、ハーベストさん、いらっしゃいませ」
「凛音お姉様!! もう、私の事はキャルって呼んでくださいぃ!!」
「お客様だから、無理です」
冷ややかな返答の凛音。しかしキャルルはめげない。
「あんっ!私は忘れませんの。
麗しき凛音お姉様の綺麗なピンク色の内臓に埋まる立派な男性器は、一対に絵画のようで…。す、て、き!!
コピーニングする前に消されてしまい。もうアレが見れないかと思うと…涙が溢れますわ…」
ギャぁぁぁぁぁぁ!!!内心では喚く。異世界の常識は非常識。
「うん、私偉い! いや、本当によくぞ私はあそこで石を叩き落としたわ。自分に拍手よ」
ぶつぶつ本音を語る凛音に、店長のハーブは苦笑いだ。
そしてココぞとばかりに、空気の読めないキャルルの旦那であるハーベストは斜め上からの感想を述べてくる。
「凛音様。とても誇れる事です。何故隠されるのですか? この私を負かしたのですよ? タガルガ王を除けば。私、生まれてこの方、男性器の大きさで負けた事はございません。
無論通常バージョンでも、勃起バージョンでもです。それが完敗とは…。
後生です。是非、凛音様の尊い旦那様に、一度裸の付き合いを願い出たいのですが」
(無理でしょう、絶対。エティエンヌフューベル様に消し炭にされると思うけど…)
「いや、だから、私、今、迷子ですし」
「本当に?」「本当でしょうか?」キャルルもハーベストも疑り深い顔だ。
「どうなるか分からないですけど、もし再会できたら紹介します。お約束します」
凛音はキャルルの手をゆっくりと握る。
「お姉様…では、お名前と種族を教えてください。私の一族は貿易商です! 必ずお姉様の旦那様を見つけて差し上げますわ!!」
キャルルのこの申し出に、凛音は悩んでいた。種族と名前。どちらかでもバレるし、色々アウトだろう。
凛音は賭けに出るほど、自分を過信していない。
ハクリやルルにも言われた事。
『えっと、あのね。妖精族の王の名は、軽々しく僕らが口に出していいお方ではないから。
もちろん、お名前は知ってるけど。絶対に口には出さない。いや、出せない。
君がどこから来たか知らないけど、どの国の出身者だって、赤ん坊以外は、そんな常識は知ってるよ』
そう言われた。
そしてエティエンヌフューベル様には…。
『……魔力が強すぎる強靭な肉体をもつ私と、魔力がなく身体の構造が極端に弱い凛音で、釣り合いがとれている。
したいとは思わないが、凛音を得て完全体になった私は、自然界と同等たる強い魔力で、全ての種族を屈服させようと思えばできる。
だが、その力を使い敵を作れば作くるほど、敵は強い私ではなく、弱い凛音を狙う。
神は私に最高の魔力を与えた代償として、常に己の生涯唯一の半身を失う恐怖を味わえ続けろとした。皮肉だな』
苦しげに懇願された。ま、凛音は簡単に死んじゃう訳だ。
二週間。この街で働き、シェルバー国は忠誠の国だと肌で感じれた。
すぐに上下関係を築きたがるが、はっきりと力関係を作れば裏切りはない。例えその身を犠牲にしても貫く。
(でも…どこで、誰が聞いてるか、分からない。もし私をどうにかして、それでエティエンヌフューベル様が傷つくのが恐い…)
黙る凛音に、キャルルは悲しげだ。
「凛音お姉様…」
「ごめん、キャルルさん。皆を信用してない訳じゃないのだけど、まだ…ね。私は他所ものだから…」
「凛音お姉様。分かりました。おしゃりたくない理由があるのですね。もし、もしですよ、本当は凛音お姉様が、旦那様から逃げているなら……」
凛音は目を見開く。
全くの検討違いであるが、なるほどそうもとれると思ってしまう。頑なに旦那の素性を言わないとなると、そうなるか。
「私が凛音お姉様を護ります。身体の相性もあります。あれほど立派な方なら、負担も大きいはず…絶対にお護り致します!!」
勘違いだが、これは嬉しい。だからキャルルが望むお姉様キャラで諭す。
「キャル、違うわ。私は彼を愛してる。私の唯一無二の伴侶だから。身体も相性バッチリよ。早く会えるようにキャルも願っていてね」
そう言ってフワリと抱きしめた。ドバーと涙と鼻水を溢しながら、抱きついてくるキャルルの背中をポンポンと叩き慰めた。
ほっこりあったか店内。皆が感動中に、人々の悲鳴が外から聞こえてくる。
一番最初に動いたのはハーベストだ。元々彼は騎士。いわゆるキャルルの護衛騎士なのだ。ただの筋肉ではなく戦闘使用。素早くサーベルを抜き、外に出た。
その背中を追って凛音達も外に出た。今日はアレの日(旦那の陰茎サイズの勝負)だからこそ普段より人が多い。
広場の真ん中には、血だらけで倒れる女性と男性。その間に座り込む女の子。家族だろうか…。酷い。
皆が集まり出したところに、偉そうに演説する男達。
陰険そうだ。人姿をとっていれば種族は分からないが、陰険さが出まくるこの男達はシェルバー国民ではないと凛音は勝手に結論づけた。
「はい、はい、悪者みたいにみないでねぇ。な隊長」
「そうそう、こいつらは脱走犬、脱走犬、だから殺したまでよ。その嬢ちゃんは高いから殺さないけどな。これ以上逃げたら殺す、な?」
「いやもう、疲れったすよね!」
「殺した犬は食べていいっすか、隊長」
「見てないで、散れ散れ犬ども」
バラッバラに五人が喋りだす。苛つきがマックスだ。本能のままな馬鹿者達だ。凛音は怒髪天。
「いくら?」
「あん? なんだ姉ちゃん」
隊長らしき男が凛音にガンを飛ばすが、怯まず凛音は睨み返す。
「その子、買うわ、いくら?」
「そうだな、500万だ。払えんのか?」
「払える。待ってて」
一応危害を加えないようにと、ハーベストがサーベルを抜いて威嚇してくれている。この隊長もハーベストが上だと理解しているのか、突っ込んでこない。
凛音は一度店に戻り、店で預かってもらっていた賞金を手にし、その男の前に投げた。
「500万よ、それでいいわよね」
「…あぁ、かまわねぇーよ」
隊長は残りの四人を連れてその場を離れていく。いつまでも凛音を見ているが、その視線を無視した。
ひとまず今日はひいてくれた。しゃしゃり出たのはよくないだろう。それでも凛音は見過ごせなかった。
「…凛音」
ルルが心配そうに駆け寄ってくる。
「ルルさん、大丈夫。私は何もされてないし」
「今はまだ何もされてないですが、近いうちされますよ。あいつらは人身販売の下っ端兵隊です。凛音様、絶対に目をつけられましたよ」
「凛音お姉様…」
ハーベストは苛立ちふくむ声で、凛音を責める。そのハーベストの腕にキャルルはしがみ付いている。
「そうね、どうしようかしら…」
口ではそう言っているが、凛音の瞳には血溜まりの中に座る女の子しか見えてない。
呆然とする女の子を抱き上げる。両端の遺体に頭を下げた。抱き上げた女の子に問う。
「ねぇ、彼らはお父さんとお母さん?」
「…違う、知らないお兄ちゃんとお姉ちゃん」
「そう。お父さんとお母さんは?」
「知らない。覚えてない」
「そっか……私がお母さんは嫌?」
周りから止める声が聞こえるけど、無視だ無視。
「…お母さん?…ママ?」
「そう、ママ」
「私のママ!! 私のパパは?」
おっとこれはなかなかハードルが高い。が所詮は凛音第一主義のエティエンヌフューベル様だ。押し切れば何とかなるだろう。
「パパは…今は不在だけど、うん、そのうち紹介するわ」
「…え、パパはいないの?」
「いるのよ、いるの、ただ…今は離れ離れになって、探し中かな」
まだ幼気な子に突っ込まれて凛音はアワアワだ。
「ミミルが呼んであげるよ!」
女の子の名前が今わかった。それは良かったのだが、どういう事だ。
「ミミル? 呼ぶって?」
「魔力だ。この子魔力封じの足輪をしている」
ハーベストがミミルの足を指さした。指差された足首に目を向けると、くすんだ銀色の紐が足首に巻かれていた。
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