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14、エルティーナの涙
しおりを挟む「「「エルティーナ様。おかえりなさいませ」」」
控えていた侍女達が一斉に頭を下げる。エルティーナは、さっと涙を拭き笑顔を作った。
笑わなければならない。エルティーナの一挙一動で皆の仕事が増えてしまう。心配される事をしては駄目、だから笑わないと。
そう自分に言い聞かせる。
「あの…エルティーナ様…アレン様は…」
と侍女メーラルが口を開く。他の侍女も、どこかソワソワだ。
アレンがエルティーナを部屋に送る、これは決してエルティーナだけの楽しみではない。
侍女達も、一日の終わりに絶世の美男子であるアレンを目にできるのは、癒しであり最上級の楽しみなのだ。
「…今日は、キャットに送ってもらったの」
侍女達に緊張がはしる。アレンがエルティーナの護衛についてから7年、エルティーナを部屋に送りとどけなかった日が…これまで一度も…なかったからだ。
呆然とする侍女達の顔を見て、とまっていた涙がまた溢れそうになる…。
涙を流さないよう拳を握りしめ身体に力をいれる。
空気を変えたのは侍女頭のナシル。
「さようでございますか。さぁエルティーナ様、湯を使えるようにしております。いかがいたしましょうか?」
何でもないようにナシルは、さらっと話を変えエルティーナを導いた。
「あ、ありがとう、ナシル!! 嬉しいわ!! ……お風呂もだけど、早くドレスが脱ぎたいわ…。お願いできるかしら」
「かしこまりました」
感情があまり入らないナシルの声はとても落ち着く。そして流石だとも思う。
「…えっと。エルティーナ様! ドレスの前に宝石をお取りはずし致しますね。失礼いたします!」
とナシルに続き、メーラルも何も無かった風を装い今すべき作業に慌てて取り掛かかった。
(「…みんな、ごめんなさい…」)
今日は、一人で入りたいと我が儘を言った。
エルティーナは、湯気の出るバスタブにそっと手をつき、中を覗きこむ。お湯に映り込んだ自身の顔はとても情けない顔だった。
ポタ、ポタ、ポタポタ、ポタポタポタポタ…。
止めどなくなく流れる涙が、湯に波紋として広がっていく…。
アレンは、カターナ王女と結婚…するのだろうか。ダンスを踊る二人はまるで恋人どうしみたいだった。
互いが一目惚れなのかもしれない。
エルティーナがいつも読んでいる恋物語のように、一目で恋に落ちるのは大変素敵で素晴らしいと思う。でもそれは作られた物語だから素敵で素晴らしいのだ。
現実は…自分の大好きな人が、必ず同じ想いを返してくれるわけではない。
アレンが結婚したら、エルティーナの護衛からは外れる。
そもそも子供の時ならいざ知らず、十九歳になった今も 子供のままアレンを独占していたエルティーナが悪いのだ。
本当は気づいていた…気づいていたが黙っていた。その神を欺いた行為の罰が、今日くだったのだろう。
例え護衛騎士であっても、異性であるアレンがエルティーナと朝から晩までべったり一緒なのが不自然だと。
このまま、アレンとは終わるのか…。父や兄にアレンはもう報告したのか。
「…ひっ…く…ひっ…く……ふぇん……」
エルティーナは、声が外に漏れないように、たくさん、たくさん、泣いた…。
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