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3、昔の王宮。今の王宮。
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ヴィルヘルムに顔中に口付けをされ、強張った身体は安心を取り戻す。ティーナはなんとなく今の状況を理解し初めて、先ほどとは違う意味で身体が凍る。
「…私、なにしてるの……王太子様がいらっしゃって……みんなが待っているって……えっと…」
背中にくる、たくさんの視線を感じながら…恐る恐る振り返る。
先ほどの王太子ウェルナー様と、きっと服装、年齢からして現ボルタージュの国王。
国王のとなりに座る可愛らしい感じの女性はきっと王妃。
その隣には、これまた綺麗な女性二人。
その隣に男性、一人。
絶対に、最高位の貴族。リリン王女はいないのがセーフ……。いや別にセーフでも何でもなかった。
(終わった……私の人生……)
ティーナは、失神しないように、ぐっと力を入れて、ヴィルヘルムの膝の上から降りる。
直後、ティーナは毛足の長い絨毯に跪き、手を添えて頭を地面につける。
ティーナのいきなりの行動に、皆が一同に驚いた。
地面に頭をつけるのは、ボルタージュ国では重い罪を犯した罪人のみとされている。だからこそティーナが何故このような行動に出たのかが分からない。
ヴィルヘルムも膝から降りるティーナは、きっと礼をとりたいからだと思い、穏やかに手を離したのだ。
間違っても、こんな姿をさせたいわけじゃなかった。
「エル様!! 何をなさるのですか!?」
ヴィルヘルムは、ティーナの細いウエストに左腕を入れて持ち上げる。
ティーナはそれを外そうともがきながら、まだ地面に頭をつけようとするので、ヴィルヘルムは有無を言わさない為、ティーナを抱き上げ自らも立ち上がった。
「エル様、お願いですから、止めてください。どうしましたか?」
高い目線になり、馴染んだ腕の中でティーナは、また声を殺して泣き続け腕を外そうとする。
何も話さないで、罪人のような礼をする。
そんなティーナにヴィルヘルムは我慢できなくなり、抱き上げたまま寝室に戻り、しっかりとドアを閉め、ティーナをベッドにそのまま下ろす。
ヴィルヘルムによって、ベッドに仰向けに寝かされたティーナは、両腕で顔を隠している。
「私、私、なんて事を………」
やっと、話し始めたと思ったら、意味の分からないことを言い震えだす。
前世では泣いていても、抱きしめる事が出来なかった。ただ側にいるだけ。見ているだけ。だが、あの時と今は違う!!
ヴィルヘルムは今に感謝しながら、まだ声を殺して泣き続けるティーナに覆い被さる。
突然の触れ合いに驚くティーナを優しく抱きしめたまま、身体を反転さす。
最高級のシーツが広がるベッドの上に、ヴィルヘルムが寝ていて、ティーナは先ほどとは逆転。ヴィルヘルムの厚い胸板の上にうつ伏せに乗っている体勢である。
驚きに涙がとまったティーナは、今の状況を把握し、全身を一気に赤く染め上げる。
「なっ、あっ、なっ…いっ、ゆっ、」
もはや、言葉が紡げない。
何!? 何!? アレンがベッドに寝ていて、私が上に乗ってる!? いやぁぁぁぁ、信じられない!! 夢!? 私の妄想!?
「落ち着きましたか? エル様」
ヴィルヘルムの穏やかな声でティーナは現実に引き戻される。
「わ、私、王族方の前であんなことを、アレンに…、ごめんなさい、王女様にも、何て言ったらいいか」
「………エル様。先ほどから沢山、誤解があるようなので。先ず話をしましょう」
「誤解??」
「はい、誤解です。どうして泣いたのか、何故あんな罪人がする礼をとったのか、王女とは誰の事ですか、申し訳ありませんが、私にはわかりかねます」
「えっと…うん。話をするわ、ちゃんとね。今後の事もね、うん。そうよね…………
分かったんだけど……あのね。……アレン、夢までみた体勢でとても嬉しいのだけど……心臓が爆発しそうなので。離れていいかしら?」
「エル様、離れるのは却下です。せっかくエル様と触れ合えるのに、それをみすみす逃す私ではございません。よってこのままで」
「えーーーもう…知らないから!!」
ティーナはヴィルヘルムの上に乗ったまま、身体の力を抜く。
リリン王女様にも悪いし……、もうこれで充分。エッチもどっちでもいい。ベッドの上でアレンと抱き合っていると、前世の私に教えてあげたら喜ぶだろう、…このまま死んでも悔いはない。そう思えた。
いきなり静かになったティーナに、ヴィルヘルムは肝が冷える。
前世での最期……ベッドで動かなくなったエルティーナの亡骸を見ている所為で、ベッドの上で動かない姿を見ると血の気がひく。
「エル様!? 大丈夫ですかっ!?」
さっきまで、穏やかだったヴィルヘルムの緊迫した声色に驚く。
「えっと…アレンこそ、どうしたの?? いきなり大きな声を出して」
「……エル様……驚かさないで下さい」
ヴィルヘルムはそう話しながら、仰向けを止めて、ティーナの頭を右腕の上に置き、自らは横向きに身体の位置を変える。
なんとティーナが夢にまで見た、腕枕だ。もう、明日はティーナは生きてないのかもしれない。こんな素敵な事を一気に体験するとは。
「エル様と、こうしているのを今だ信じられないです」
ティーナと同じ事を思うヴィルヘルムに、胸から何かが這い上がってくるようだった。
「……私だって、信じられないわ。大好きなアレンに腕枕をしてもらっているなんて夢のようだわ……。
さっきは、本当にごめんなさい。前世の最期を夢に見るって話をしたわよね? それがね……こう、ふとした時に出ちゃうの。怖くなって身体が強張るの……。さっきはそれになっちゃって、だいたい吐くのだけど…アレンにキスされて治ったわ。でも王族方の前であんな事をしたら、牢屋行きではないの?
そもそも、王子様の寝室に一般市民の私が居たら不法侵入だわ……。
だから裁かれると思って。ほら、一応自分が悪いと分かっていて反省を見せれば、家族までは罰さないのが鉄則でしょ」
「……エル様、私が貴女をここに連れてきたのですよ。侵入者とは違いますし、隣部屋に居てた父と兄は呆れてましたが、母、姉、義姉、はキラキラした瞳で私達の事を見ていましたよ。
彼女達は『白銀の騎士と王女』の生の舞台が目の前に! くらいにしか思っておりません。私に前世の記憶があるのも、皆、知っております。罰する事はございません」
想像とは違うヴィルヘルムの物言いに、ティーナは目を白黒させる。
「そう…なの……? 」
「はい、そうです。エル様…後、先ほどから会話に出てくる王女とは誰の事ですか??
私は誰とも婚約を結んでおりませんし、言葉をやっと話せる年齢ですでに前世の記憶があり、貴女を好きだったので、誰とも付き合っておりませんよ 」
「嘘だ~誰とも付き合った事がない訳ないじゃない。前世でも恋人はいないって言ってたけど、沢山いてたじゃない。
濃厚な口付けをしてるのだって、見たことあるんだから。嘘つきは嫌いよ!! 」
ティーナは昔を思い出し無性に腹が立ち、シーツの上を転がり、ヴィルヘルムに背中を向けた。
やきもちを焼いてくれていると思うと、ティーナには悪いが心踊る。
「嘘ではございません」
「アレン!! 」
ティーナの怒った声を聞いて、またも心地よくなる。伸ばしていた腕を曲げ、ティーナを後ろから抱きしめた。
「エル様。今、怒られても嬉しいだけです。私の事はレオンと同じように〝兄〟だと思っていると……まさか男として見て下さっていたとは、感動です 」
「……アレン……」
優しくなったティーナの声を耳にして、腕の拘束を強める。
「確かに前世では、あの見た目を最大限に使いました。情報と交換に、かなりの女性を相手にしていました。懐も痛まないし、それが一番手っ取り早かったのです。
主治医に先天性の病はうつらないと言われても、長い間 病に苦しんでいた私には彼の絶対という言葉は信じれなかった…。
だからこそエル様とは、触れ合わないように自制していた。ただ他の人間は死のうが生きようがどうでもよかったので、相手をしておりました。
メルタージュの屋敷で、初めてエル様にお会いした時から、私は貴女を愛していたので、本当に恋人はおりません。
今は、あの時と違い王子の身分があるので、嫌な女性を嫌だと突き放せます。
今更、貴女以外の女性と関係を持つ気は無かったので、嘘偽りなく恋人はおりませんし、今のこの身体は真っさらです 」
アレンの告白は目から鱗だった。まさか、そんな風に思ってくれていたなんて……。本当にエルティーナを愛してくれていた。
エルティーナであった時、繋がらない想いがとても苦しかったけど…苦しかったのは、アレンも同じなのかな…好きの重さは絶対に、エルティーナの方が重そうだけど。
ティーナは、気恥ずかしくなりついつい冗談ぽく返してしまう。
「……………真っさらって…ふふふ、アレンって面白いわ 」
「面白いですか? 私は必死ですよ……信じてもらうのに 」
「信じるわ。でも……だったら尚更、貴方と遊ぶのは駄目ね。王女様に悪いもの。
私の事が好きだったと言っても、貴方は違う女の人と、寝てたのよね………ちゃんと理由があっても、嫌なものは嫌だわ。
自分がされて嫌なことはしちゃダメよね!! 今で充分幸せだから、エッチはいらないわ。我が儘言ってごめんなさい 」
ティーナはもう一度コロンと転がり、自らヴィルヘルムに抱きつく。
これが最後。前世での想いもこれで終わり。そう決心しながら。
「………エル様……何度もいいますが、その王女とは誰の事ですか? 」
「えっ? ホルメン国のリリン王女様よ。結婚するんでしょ? 新聞に載ってたわ。運命の美男美女が今再び!! って新聞一面に」
思い出してティーナのモヤモヤが膨れ上がる。
「そう!! それはちょっと文句が言いたいのよ!! 劇的にしたいからって、リリン王女がエルティーナの生まれ変わりって言うのは嫌。
結婚式を盛り上げるにしてもよ、別に運命云々とつけなくても、お似合いなんだからやめてほしいわ。そう言う方が素敵なんだと私も思うけど…。
でもアレンが違うって分かっているなら、それで充分だわ。アレン、王女様と幸せにね!! 」
ティーナのトンチンカンなセリフ。久々に心臓をえぐってくる。
それも懐かしいと言えば良くは聞こえるが、ヴィルヘルムにとっては冗談じゃすまない。前世ではよくあった痛みをこらえながら、
「あの女、やはり一発殴っておけば良かったな」と物騒な事を考えながら、ヴィルヘルムは上半身を起こす。いきなり動きだしたヴィルヘルムにティーナは大きな瞳をパチパチしている。
昔から、エルティーナは斜め上の考え方で、何故か自己評価が低い。アレンとレオンの所為だと分かっているが、本気の想いを間違って思われているのは哀しい。
あんな女と結婚するくらいなら、迷わず宦官になると言えた。
ヴィルヘルムはティーナの両足に左腕を入れ、右腕を背に添え抱き上げ、ベッドから降りる。
「アレン?? 」
疑問たっぷりの可愛らし声を耳にし、さらに決心を強くする。
ティーナを抱き上げたまま、何も言わず寝室を出る。続き部屋には、女性陣と綺麗な男性一人だけになっていた。
「えっ!? 何!? まだ皆様いらっしゃるわ」
ビクビクするティーナに変わり、部屋でティータイムをしている女性陣はハツラツとしていた。
「あら!? 早いわね!! それだでは満足しなくなるわよ!! なぁに、ヴィルは見かけだおしなの?? 前戯はしっかりよ?
自分だけ気持ちいいのなんて、最悪よ。その点私の旦那様は大満足だわ。ねぇ!! 」
「クラリス、真昼間からやめなさい 」
「クラリス、そのような意地悪を言わないの。仕方ないのよ、経験不足ですし。
今からよね!! ヴィル!! 母は応援しているわ!! 」
「ウェルナー様に、教えを受けるのもよろしいですわよ? とても、お上手ですし…ふふふ 」
何についての話か分かったティーナは爆発寸前。ヴィルヘルムは大きな溜め息を吐く。
「何もしておりません。失礼な想像はやめてください 」
そう話し、王妃らの側に寄る。近距離でティーナを下ろし、甘く優しく包み込むように微笑む。
ヴィルヘルムを見ていた女性陣皆が一同に「ほぅ…」と息を吐く。
毛足の長い絨毯の上に立つティーナの前にヴィルヘルムは優雅に跪く。
「えっ アレン? 」
「長く辛い、遠回りを致しました。貴女を失った日から、いない貴女を何度も探し、想いは募るばかりでした。ヘアージュエリーは私達の魂を間違いなく、紡いでくれた……。
エルティーナ様の記憶を持つティーナ様。アレンの記憶を持つ私ヴィルヘルムと、結婚してください」
歌声のように響く声色には、たっぷりの色気と色香がのっていてティーナを酩酊さす。
優しい声に脳内が占領されていた時、ヴィルヘルムはティーナの手をとり、手の甲、そして掌に……口付けを落とす。
小説大好きのティーナには意味が分かってしまう。分かってしまうからこそ、身体中の血が沸騰しそうだった。何も答えないティーナにヴィルヘルムの想いの口付けは続く。
手の甲(敬愛)、掌(懇願)、ティーナの手を軽く握りしめ、口付けに想いをのせる。手首(欲望)、腕(恋慕)
「エル様、まだ必要ですか? 」
ヴィルヘルムの色気たっぷり腰にくる声は、ティーナを悶えさす。
「………アレン、本当に私でいいの?? 私はもう王女様ではないのよ? ただの一般市民よ? 貴方がもう騎士ではないように…… 」
「私は騎士ですよ。騎士の称号も持っております。私は貴女がいい。エル様が一般市民で嬉しいです。これ以上恋い焦がれるのは辛いので 」
悲しげな瞳に胸が締め付けられる。
「アレン!! よろしくお願いいたします!! 」
ティーナはヴィルヘルムに飛びつく。それを受けとめて、周りに見せつけ、ゆっくりと確認するように溢れ出す想いを口付けに。
首筋(執着)、のど(欲求)、唇(愛情)、唇をつけながらの会話は、ティーナを麻痺させていく。
「私の想いは、とても重いです。どれほど沢山の女性と出会っても、エル様以上に思える人がいない」
「同じよ?? 私もアレンに会ってから、貴方以外の男性は気持ち悪く思ってしまうもの 」
「あぁ。それは、直す必要はございません。私だけを見ていてください。エル様 」
ヴィルヘルムはティーナの腰を持ち、口付けがしやすいように固定する。ティーナはもっと深く口付けをする為、背を反らせピンクに色づく唇を小さく開く。
「ぅんっ……… 」
「ん…………… 」
二人の濃厚な舌の絡み合いは、静かな部屋に甘い罪……色欲を呼び起こす。
興奮しながら二人を見物していた王妃らは、静かに部屋を退出する。
二人の時間を邪魔しない為に。
「……ぅん…ん…あふん…っん……ぅんん 」
ティーナの艶を含む声は、ヴィルヘルムの欲望を押し上げる。
今、肌に着けているのは厚手の軍服ではなく、普通の貴族用の衣服だ。
口付けの間で、ヴィルヘルムの欲望はしっかりと熱を持ち強く反り返り、トラウザーズの上からでも形状がはっきりと分かる。
……ぁは……はぁ……さっきあれだけ出したのにな…血気盛んな年齢でも、ないのに、元気だな…… 。
ヴィルヘルムは他人事のように思いながら、でもティーナとの口付けを止めるつもりはなかった。
何度も想像し、想像する己をどれだけ嫌悪したか。アレンの想いはエルティーナを穢していると、思っていたから。
想いが通じ合っての今の我慢は、心地いい限りだった。
(エル…様………)
気持ちいい。アレンは……やっぱり上手いわね……もう、腰が抜けているもの。
…………………えっと……お腹に当たってる硬いのって…やっぱり、そうよね。あれよね。アレンは気づいてないのかしら。……あぁ…んっ…………。
他の男性のを沢山知ってるわけではないけど、アレンのは絶対大きいと思うのよね………。
…あぁん……あっ……ビクビク…して……る…ぅう…ん……
やっぱりエッチしたい……。
みんなの恋人や旦那様のあそこの話は、今まで全く興味がなかったけど、アレンのには興味があるわ。ラズラ様にも言われたし……私ってやっぱりエッチなのね……… 。
「ぅんんっ……ねぇ…アレン、当たってるんだけど」
「あぁ、気持ち悪いですか。申し訳ございません」
「アレン!! 気持ち悪くない!! 嬉しいわ!! ねぇ、どうしてそうマイナスを言うの? 貴方、鏡で自分を見たことある?
何処をどう見て、気持ち悪いなんて単語が出てくるのかしら!? 」
「エル様に嫌われたくないのです。美しいものが好きな貴女には、あまり見せたくないものですし。
続きは結婚式後と思っているので、最後までする気はないのですが…生理現象ですので大目にみてください 」
申し訳なさそうなヴィルヘルムに、ティーナは待ったをかける。
「ちょっと、待って!! えっ? 結婚式!? 貴族の結婚式って半年後とかよね!! それまでアレンとエッチ出来ないの!? 」
「受け入れてくれるつもりだったのですか? 夢みたいです……ありがとうございます。
今すぐにでも肌を合わせたいですが、結婚式まではしません。エル様には後ろ暗い気持ちなく、清いままで教会に立ってほしいと思っております」
ヴィルヘルムが、どれだけ深く自分を大切に思ってくれているかが分かり、涙が溢れてくる。
「アレンはやっぱり強がりね」
「三百年以上も待ったのです。今更数ヶ月先は近いものです」
「そうね、じゃあ、結婚式の後はたっぷりね!! 優しくしてね 」
「勿論です」
二人で抱き合いながら笑い合う。
結婚式……前世ではエルティーナは初恋のアレンから離れる為の辛い半年間であり、アレンは自分ではない男の元に降嫁するエルティーナを見続ける半年間だった。
でも今は、幸せな未来を待つ半年間。同じ期間であっても、全く違う大切な時間になる。
「ねぇ、でも、このままで……辛くないの? その……これは…… 」
「気にしないでください。貴女を想いながら、後で抜きます」
「アレン!! 私が抜いてあげるわ!! 」
「…………冗談、ですよね……? 」
「本気よ!! 小説にもそういうシーンがあるから、知ってるの。馬車の中での続きよね!! したことはないけど大丈夫よ 」
「遠慮します」
「なんで!! 」
「なんでと言われましても……… 」
そんな、キラキラした瞳で見られても……だ。どう考えてもティーナが読んでいる女性用の小説に、男性の生々しい状態は書いてない。断固拒否だ。
だいたい、前世で陵辱された記憶があるのに、触ってみようと思うところが変わっている。エル様らしいと言えばそれまでだが。
「ねぇ……ちょっとだけは?? 」
「エル様、ちょっとで止める方が辛いのですが……。でも、そうですね。私だけが気持ちいいのは申し訳ないので、エル様も一緒に」
ヴィルヘルムは極上の微笑みで、ティーナの手を引いて、光り輝く装飾が施されたソファーに導く。
ティーナは、初めての快楽を知る。
甘い時間は、今から始まるのだ。
「…私、なにしてるの……王太子様がいらっしゃって……みんなが待っているって……えっと…」
背中にくる、たくさんの視線を感じながら…恐る恐る振り返る。
先ほどの王太子ウェルナー様と、きっと服装、年齢からして現ボルタージュの国王。
国王のとなりに座る可愛らしい感じの女性はきっと王妃。
その隣には、これまた綺麗な女性二人。
その隣に男性、一人。
絶対に、最高位の貴族。リリン王女はいないのがセーフ……。いや別にセーフでも何でもなかった。
(終わった……私の人生……)
ティーナは、失神しないように、ぐっと力を入れて、ヴィルヘルムの膝の上から降りる。
直後、ティーナは毛足の長い絨毯に跪き、手を添えて頭を地面につける。
ティーナのいきなりの行動に、皆が一同に驚いた。
地面に頭をつけるのは、ボルタージュ国では重い罪を犯した罪人のみとされている。だからこそティーナが何故このような行動に出たのかが分からない。
ヴィルヘルムも膝から降りるティーナは、きっと礼をとりたいからだと思い、穏やかに手を離したのだ。
間違っても、こんな姿をさせたいわけじゃなかった。
「エル様!! 何をなさるのですか!?」
ヴィルヘルムは、ティーナの細いウエストに左腕を入れて持ち上げる。
ティーナはそれを外そうともがきながら、まだ地面に頭をつけようとするので、ヴィルヘルムは有無を言わさない為、ティーナを抱き上げ自らも立ち上がった。
「エル様、お願いですから、止めてください。どうしましたか?」
高い目線になり、馴染んだ腕の中でティーナは、また声を殺して泣き続け腕を外そうとする。
何も話さないで、罪人のような礼をする。
そんなティーナにヴィルヘルムは我慢できなくなり、抱き上げたまま寝室に戻り、しっかりとドアを閉め、ティーナをベッドにそのまま下ろす。
ヴィルヘルムによって、ベッドに仰向けに寝かされたティーナは、両腕で顔を隠している。
「私、私、なんて事を………」
やっと、話し始めたと思ったら、意味の分からないことを言い震えだす。
前世では泣いていても、抱きしめる事が出来なかった。ただ側にいるだけ。見ているだけ。だが、あの時と今は違う!!
ヴィルヘルムは今に感謝しながら、まだ声を殺して泣き続けるティーナに覆い被さる。
突然の触れ合いに驚くティーナを優しく抱きしめたまま、身体を反転さす。
最高級のシーツが広がるベッドの上に、ヴィルヘルムが寝ていて、ティーナは先ほどとは逆転。ヴィルヘルムの厚い胸板の上にうつ伏せに乗っている体勢である。
驚きに涙がとまったティーナは、今の状況を把握し、全身を一気に赤く染め上げる。
「なっ、あっ、なっ…いっ、ゆっ、」
もはや、言葉が紡げない。
何!? 何!? アレンがベッドに寝ていて、私が上に乗ってる!? いやぁぁぁぁ、信じられない!! 夢!? 私の妄想!?
「落ち着きましたか? エル様」
ヴィルヘルムの穏やかな声でティーナは現実に引き戻される。
「わ、私、王族方の前であんなことを、アレンに…、ごめんなさい、王女様にも、何て言ったらいいか」
「………エル様。先ほどから沢山、誤解があるようなので。先ず話をしましょう」
「誤解??」
「はい、誤解です。どうして泣いたのか、何故あんな罪人がする礼をとったのか、王女とは誰の事ですか、申し訳ありませんが、私にはわかりかねます」
「えっと…うん。話をするわ、ちゃんとね。今後の事もね、うん。そうよね…………
分かったんだけど……あのね。……アレン、夢までみた体勢でとても嬉しいのだけど……心臓が爆発しそうなので。離れていいかしら?」
「エル様、離れるのは却下です。せっかくエル様と触れ合えるのに、それをみすみす逃す私ではございません。よってこのままで」
「えーーーもう…知らないから!!」
ティーナはヴィルヘルムの上に乗ったまま、身体の力を抜く。
リリン王女様にも悪いし……、もうこれで充分。エッチもどっちでもいい。ベッドの上でアレンと抱き合っていると、前世の私に教えてあげたら喜ぶだろう、…このまま死んでも悔いはない。そう思えた。
いきなり静かになったティーナに、ヴィルヘルムは肝が冷える。
前世での最期……ベッドで動かなくなったエルティーナの亡骸を見ている所為で、ベッドの上で動かない姿を見ると血の気がひく。
「エル様!? 大丈夫ですかっ!?」
さっきまで、穏やかだったヴィルヘルムの緊迫した声色に驚く。
「えっと…アレンこそ、どうしたの?? いきなり大きな声を出して」
「……エル様……驚かさないで下さい」
ヴィルヘルムはそう話しながら、仰向けを止めて、ティーナの頭を右腕の上に置き、自らは横向きに身体の位置を変える。
なんとティーナが夢にまで見た、腕枕だ。もう、明日はティーナは生きてないのかもしれない。こんな素敵な事を一気に体験するとは。
「エル様と、こうしているのを今だ信じられないです」
ティーナと同じ事を思うヴィルヘルムに、胸から何かが這い上がってくるようだった。
「……私だって、信じられないわ。大好きなアレンに腕枕をしてもらっているなんて夢のようだわ……。
さっきは、本当にごめんなさい。前世の最期を夢に見るって話をしたわよね? それがね……こう、ふとした時に出ちゃうの。怖くなって身体が強張るの……。さっきはそれになっちゃって、だいたい吐くのだけど…アレンにキスされて治ったわ。でも王族方の前であんな事をしたら、牢屋行きではないの?
そもそも、王子様の寝室に一般市民の私が居たら不法侵入だわ……。
だから裁かれると思って。ほら、一応自分が悪いと分かっていて反省を見せれば、家族までは罰さないのが鉄則でしょ」
「……エル様、私が貴女をここに連れてきたのですよ。侵入者とは違いますし、隣部屋に居てた父と兄は呆れてましたが、母、姉、義姉、はキラキラした瞳で私達の事を見ていましたよ。
彼女達は『白銀の騎士と王女』の生の舞台が目の前に! くらいにしか思っておりません。私に前世の記憶があるのも、皆、知っております。罰する事はございません」
想像とは違うヴィルヘルムの物言いに、ティーナは目を白黒させる。
「そう…なの……? 」
「はい、そうです。エル様…後、先ほどから会話に出てくる王女とは誰の事ですか??
私は誰とも婚約を結んでおりませんし、言葉をやっと話せる年齢ですでに前世の記憶があり、貴女を好きだったので、誰とも付き合っておりませんよ 」
「嘘だ~誰とも付き合った事がない訳ないじゃない。前世でも恋人はいないって言ってたけど、沢山いてたじゃない。
濃厚な口付けをしてるのだって、見たことあるんだから。嘘つきは嫌いよ!! 」
ティーナは昔を思い出し無性に腹が立ち、シーツの上を転がり、ヴィルヘルムに背中を向けた。
やきもちを焼いてくれていると思うと、ティーナには悪いが心踊る。
「嘘ではございません」
「アレン!! 」
ティーナの怒った声を聞いて、またも心地よくなる。伸ばしていた腕を曲げ、ティーナを後ろから抱きしめた。
「エル様。今、怒られても嬉しいだけです。私の事はレオンと同じように〝兄〟だと思っていると……まさか男として見て下さっていたとは、感動です 」
「……アレン……」
優しくなったティーナの声を耳にして、腕の拘束を強める。
「確かに前世では、あの見た目を最大限に使いました。情報と交換に、かなりの女性を相手にしていました。懐も痛まないし、それが一番手っ取り早かったのです。
主治医に先天性の病はうつらないと言われても、長い間 病に苦しんでいた私には彼の絶対という言葉は信じれなかった…。
だからこそエル様とは、触れ合わないように自制していた。ただ他の人間は死のうが生きようがどうでもよかったので、相手をしておりました。
メルタージュの屋敷で、初めてエル様にお会いした時から、私は貴女を愛していたので、本当に恋人はおりません。
今は、あの時と違い王子の身分があるので、嫌な女性を嫌だと突き放せます。
今更、貴女以外の女性と関係を持つ気は無かったので、嘘偽りなく恋人はおりませんし、今のこの身体は真っさらです 」
アレンの告白は目から鱗だった。まさか、そんな風に思ってくれていたなんて……。本当にエルティーナを愛してくれていた。
エルティーナであった時、繋がらない想いがとても苦しかったけど…苦しかったのは、アレンも同じなのかな…好きの重さは絶対に、エルティーナの方が重そうだけど。
ティーナは、気恥ずかしくなりついつい冗談ぽく返してしまう。
「……………真っさらって…ふふふ、アレンって面白いわ 」
「面白いですか? 私は必死ですよ……信じてもらうのに 」
「信じるわ。でも……だったら尚更、貴方と遊ぶのは駄目ね。王女様に悪いもの。
私の事が好きだったと言っても、貴方は違う女の人と、寝てたのよね………ちゃんと理由があっても、嫌なものは嫌だわ。
自分がされて嫌なことはしちゃダメよね!! 今で充分幸せだから、エッチはいらないわ。我が儘言ってごめんなさい 」
ティーナはもう一度コロンと転がり、自らヴィルヘルムに抱きつく。
これが最後。前世での想いもこれで終わり。そう決心しながら。
「………エル様……何度もいいますが、その王女とは誰の事ですか? 」
「えっ? ホルメン国のリリン王女様よ。結婚するんでしょ? 新聞に載ってたわ。運命の美男美女が今再び!! って新聞一面に」
思い出してティーナのモヤモヤが膨れ上がる。
「そう!! それはちょっと文句が言いたいのよ!! 劇的にしたいからって、リリン王女がエルティーナの生まれ変わりって言うのは嫌。
結婚式を盛り上げるにしてもよ、別に運命云々とつけなくても、お似合いなんだからやめてほしいわ。そう言う方が素敵なんだと私も思うけど…。
でもアレンが違うって分かっているなら、それで充分だわ。アレン、王女様と幸せにね!! 」
ティーナのトンチンカンなセリフ。久々に心臓をえぐってくる。
それも懐かしいと言えば良くは聞こえるが、ヴィルヘルムにとっては冗談じゃすまない。前世ではよくあった痛みをこらえながら、
「あの女、やはり一発殴っておけば良かったな」と物騒な事を考えながら、ヴィルヘルムは上半身を起こす。いきなり動きだしたヴィルヘルムにティーナは大きな瞳をパチパチしている。
昔から、エルティーナは斜め上の考え方で、何故か自己評価が低い。アレンとレオンの所為だと分かっているが、本気の想いを間違って思われているのは哀しい。
あんな女と結婚するくらいなら、迷わず宦官になると言えた。
ヴィルヘルムはティーナの両足に左腕を入れ、右腕を背に添え抱き上げ、ベッドから降りる。
「アレン?? 」
疑問たっぷりの可愛らし声を耳にし、さらに決心を強くする。
ティーナを抱き上げたまま、何も言わず寝室を出る。続き部屋には、女性陣と綺麗な男性一人だけになっていた。
「えっ!? 何!? まだ皆様いらっしゃるわ」
ビクビクするティーナに変わり、部屋でティータイムをしている女性陣はハツラツとしていた。
「あら!? 早いわね!! それだでは満足しなくなるわよ!! なぁに、ヴィルは見かけだおしなの?? 前戯はしっかりよ?
自分だけ気持ちいいのなんて、最悪よ。その点私の旦那様は大満足だわ。ねぇ!! 」
「クラリス、真昼間からやめなさい 」
「クラリス、そのような意地悪を言わないの。仕方ないのよ、経験不足ですし。
今からよね!! ヴィル!! 母は応援しているわ!! 」
「ウェルナー様に、教えを受けるのもよろしいですわよ? とても、お上手ですし…ふふふ 」
何についての話か分かったティーナは爆発寸前。ヴィルヘルムは大きな溜め息を吐く。
「何もしておりません。失礼な想像はやめてください 」
そう話し、王妃らの側に寄る。近距離でティーナを下ろし、甘く優しく包み込むように微笑む。
ヴィルヘルムを見ていた女性陣皆が一同に「ほぅ…」と息を吐く。
毛足の長い絨毯の上に立つティーナの前にヴィルヘルムは優雅に跪く。
「えっ アレン? 」
「長く辛い、遠回りを致しました。貴女を失った日から、いない貴女を何度も探し、想いは募るばかりでした。ヘアージュエリーは私達の魂を間違いなく、紡いでくれた……。
エルティーナ様の記憶を持つティーナ様。アレンの記憶を持つ私ヴィルヘルムと、結婚してください」
歌声のように響く声色には、たっぷりの色気と色香がのっていてティーナを酩酊さす。
優しい声に脳内が占領されていた時、ヴィルヘルムはティーナの手をとり、手の甲、そして掌に……口付けを落とす。
小説大好きのティーナには意味が分かってしまう。分かってしまうからこそ、身体中の血が沸騰しそうだった。何も答えないティーナにヴィルヘルムの想いの口付けは続く。
手の甲(敬愛)、掌(懇願)、ティーナの手を軽く握りしめ、口付けに想いをのせる。手首(欲望)、腕(恋慕)
「エル様、まだ必要ですか? 」
ヴィルヘルムの色気たっぷり腰にくる声は、ティーナを悶えさす。
「………アレン、本当に私でいいの?? 私はもう王女様ではないのよ? ただの一般市民よ? 貴方がもう騎士ではないように…… 」
「私は騎士ですよ。騎士の称号も持っております。私は貴女がいい。エル様が一般市民で嬉しいです。これ以上恋い焦がれるのは辛いので 」
悲しげな瞳に胸が締め付けられる。
「アレン!! よろしくお願いいたします!! 」
ティーナはヴィルヘルムに飛びつく。それを受けとめて、周りに見せつけ、ゆっくりと確認するように溢れ出す想いを口付けに。
首筋(執着)、のど(欲求)、唇(愛情)、唇をつけながらの会話は、ティーナを麻痺させていく。
「私の想いは、とても重いです。どれほど沢山の女性と出会っても、エル様以上に思える人がいない」
「同じよ?? 私もアレンに会ってから、貴方以外の男性は気持ち悪く思ってしまうもの 」
「あぁ。それは、直す必要はございません。私だけを見ていてください。エル様 」
ヴィルヘルムはティーナの腰を持ち、口付けがしやすいように固定する。ティーナはもっと深く口付けをする為、背を反らせピンクに色づく唇を小さく開く。
「ぅんっ……… 」
「ん…………… 」
二人の濃厚な舌の絡み合いは、静かな部屋に甘い罪……色欲を呼び起こす。
興奮しながら二人を見物していた王妃らは、静かに部屋を退出する。
二人の時間を邪魔しない為に。
「……ぅん…ん…あふん…っん……ぅんん 」
ティーナの艶を含む声は、ヴィルヘルムの欲望を押し上げる。
今、肌に着けているのは厚手の軍服ではなく、普通の貴族用の衣服だ。
口付けの間で、ヴィルヘルムの欲望はしっかりと熱を持ち強く反り返り、トラウザーズの上からでも形状がはっきりと分かる。
……ぁは……はぁ……さっきあれだけ出したのにな…血気盛んな年齢でも、ないのに、元気だな…… 。
ヴィルヘルムは他人事のように思いながら、でもティーナとの口付けを止めるつもりはなかった。
何度も想像し、想像する己をどれだけ嫌悪したか。アレンの想いはエルティーナを穢していると、思っていたから。
想いが通じ合っての今の我慢は、心地いい限りだった。
(エル…様………)
気持ちいい。アレンは……やっぱり上手いわね……もう、腰が抜けているもの。
…………………えっと……お腹に当たってる硬いのって…やっぱり、そうよね。あれよね。アレンは気づいてないのかしら。……あぁ…んっ…………。
他の男性のを沢山知ってるわけではないけど、アレンのは絶対大きいと思うのよね………。
…あぁん……あっ……ビクビク…して……る…ぅう…ん……
やっぱりエッチしたい……。
みんなの恋人や旦那様のあそこの話は、今まで全く興味がなかったけど、アレンのには興味があるわ。ラズラ様にも言われたし……私ってやっぱりエッチなのね……… 。
「ぅんんっ……ねぇ…アレン、当たってるんだけど」
「あぁ、気持ち悪いですか。申し訳ございません」
「アレン!! 気持ち悪くない!! 嬉しいわ!! ねぇ、どうしてそうマイナスを言うの? 貴方、鏡で自分を見たことある?
何処をどう見て、気持ち悪いなんて単語が出てくるのかしら!? 」
「エル様に嫌われたくないのです。美しいものが好きな貴女には、あまり見せたくないものですし。
続きは結婚式後と思っているので、最後までする気はないのですが…生理現象ですので大目にみてください 」
申し訳なさそうなヴィルヘルムに、ティーナは待ったをかける。
「ちょっと、待って!! えっ? 結婚式!? 貴族の結婚式って半年後とかよね!! それまでアレンとエッチ出来ないの!? 」
「受け入れてくれるつもりだったのですか? 夢みたいです……ありがとうございます。
今すぐにでも肌を合わせたいですが、結婚式まではしません。エル様には後ろ暗い気持ちなく、清いままで教会に立ってほしいと思っております」
ヴィルヘルムが、どれだけ深く自分を大切に思ってくれているかが分かり、涙が溢れてくる。
「アレンはやっぱり強がりね」
「三百年以上も待ったのです。今更数ヶ月先は近いものです」
「そうね、じゃあ、結婚式の後はたっぷりね!! 優しくしてね 」
「勿論です」
二人で抱き合いながら笑い合う。
結婚式……前世ではエルティーナは初恋のアレンから離れる為の辛い半年間であり、アレンは自分ではない男の元に降嫁するエルティーナを見続ける半年間だった。
でも今は、幸せな未来を待つ半年間。同じ期間であっても、全く違う大切な時間になる。
「ねぇ、でも、このままで……辛くないの? その……これは…… 」
「気にしないでください。貴女を想いながら、後で抜きます」
「アレン!! 私が抜いてあげるわ!! 」
「…………冗談、ですよね……? 」
「本気よ!! 小説にもそういうシーンがあるから、知ってるの。馬車の中での続きよね!! したことはないけど大丈夫よ 」
「遠慮します」
「なんで!! 」
「なんでと言われましても……… 」
そんな、キラキラした瞳で見られても……だ。どう考えてもティーナが読んでいる女性用の小説に、男性の生々しい状態は書いてない。断固拒否だ。
だいたい、前世で陵辱された記憶があるのに、触ってみようと思うところが変わっている。エル様らしいと言えばそれまでだが。
「ねぇ……ちょっとだけは?? 」
「エル様、ちょっとで止める方が辛いのですが……。でも、そうですね。私だけが気持ちいいのは申し訳ないので、エル様も一緒に」
ヴィルヘルムは極上の微笑みで、ティーナの手を引いて、光り輝く装飾が施されたソファーに導く。
ティーナは、初めての快楽を知る。
甘い時間は、今から始まるのだ。
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