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第一章 団地に来ちゃった見習い管理人③
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コツ、コツ。
背後で、靴音が響いた。
誰かがすぐ後ろを歩いているような、乾いた足音。革靴が固い地面を叩くような、規則正しい音。凛は思わず振り向く。心臓がバクバクと鳴る。だが、そこには誰もいなかった。
「……?」
ひび割れた舗装の道路。歩いている人の姿はない。夕方の涼しい風が吹き過ぎていくだけだ。
(気のせい、気のせい。たぶん、自分の足音が建物に反響してるだけ……)
凛は前に向き直る。深呼吸する。歩き出す。キャリーケースの車輪がガラガラと音を立てる。
コツ、コツ。
まただ。さっきよりも、半歩近い。明らかに、すぐ後ろから聞こえる。
振り返る。やっぱり誰もいない。
しかし――絶対に、何かがそこにいる、と強く感じた。
「……あのー」
思わず、何もない空間に向かって声をかけてしまった。自分でも驚く。一人で大声でしゃべっている姿を、もしさっきの子どもたちに見られたら、怪しい人認定は確実である。
「つ、ついてこないでくれると、ありがたいです……」
誰にともなく頭を下げる。自分でも何をしているのかわからない。けれども、そうせずにはいられなかった。
そして歩き出す。足音が今度こそ聞こえなくなることを期待して。
コツ、コツ、コツ。
「増えた!?」
思わず悲鳴が漏れた。声が裏返る。
足音は、完全に凛のすぐ後ろから聞こえる。いや、後ろだけではない。左右からも聞こえる気がする。まるで見えない誰かが、何人も、きっちり半歩遅れてついてきているみたいだ。
凛はキャリーケースを抱え、全力で走った。理性よりも本能が優先する。
(いやだいやだいやだ! やっぱり来るんじゃなかった団地なんて!)
コツコツコツコツ!
「来てるぅぅぅ!」
完全に追いかけっこである。背後から迫る足音の群れ。凛は必死で走る。公園の子どもたちが、目を丸くして凛を見ていた。
「おねーちゃん、走ってるー」
「キャリーケース振り回してるー」
「こわい顔ー」
言わないでほしい実況を、容赦なくされる。子どもの声は残酷なほど正直だ。
目の前に、平屋の建物が見えてきた。左側が瓦屋根と、右側が洋風の三角屋根、という不思議な外観の家である。左右で窓の形も違う。まるで、和風の家と洋風の家を無理やりくっつけたような造りだ。
「あ、あれだ! 和洋折衷!」
ほとんど飛び込むように、凛は玄関前にたどり着いた。息が切れる。心臓が喉まで上がってきそうだ。
足音は——玄関のすぐ手前で、ふっと消えた。まるで目に見えない境界線か、『それ以上入ってはいけない』というルールがあるかのように。
「……はぁ、はぁ」
凛は肩で息をしながら、玄関の引き戸を見上げた。古い木製の引き戸。ガラスに貼られた表札には、「管理人室」とだけ書かれている。その横には、小さく「さくらヶ丘第一団地」と団地名も添えられていた。
背後で、靴音が響いた。
誰かがすぐ後ろを歩いているような、乾いた足音。革靴が固い地面を叩くような、規則正しい音。凛は思わず振り向く。心臓がバクバクと鳴る。だが、そこには誰もいなかった。
「……?」
ひび割れた舗装の道路。歩いている人の姿はない。夕方の涼しい風が吹き過ぎていくだけだ。
(気のせい、気のせい。たぶん、自分の足音が建物に反響してるだけ……)
凛は前に向き直る。深呼吸する。歩き出す。キャリーケースの車輪がガラガラと音を立てる。
コツ、コツ。
まただ。さっきよりも、半歩近い。明らかに、すぐ後ろから聞こえる。
振り返る。やっぱり誰もいない。
しかし――絶対に、何かがそこにいる、と強く感じた。
「……あのー」
思わず、何もない空間に向かって声をかけてしまった。自分でも驚く。一人で大声でしゃべっている姿を、もしさっきの子どもたちに見られたら、怪しい人認定は確実である。
「つ、ついてこないでくれると、ありがたいです……」
誰にともなく頭を下げる。自分でも何をしているのかわからない。けれども、そうせずにはいられなかった。
そして歩き出す。足音が今度こそ聞こえなくなることを期待して。
コツ、コツ、コツ。
「増えた!?」
思わず悲鳴が漏れた。声が裏返る。
足音は、完全に凛のすぐ後ろから聞こえる。いや、後ろだけではない。左右からも聞こえる気がする。まるで見えない誰かが、何人も、きっちり半歩遅れてついてきているみたいだ。
凛はキャリーケースを抱え、全力で走った。理性よりも本能が優先する。
(いやだいやだいやだ! やっぱり来るんじゃなかった団地なんて!)
コツコツコツコツ!
「来てるぅぅぅ!」
完全に追いかけっこである。背後から迫る足音の群れ。凛は必死で走る。公園の子どもたちが、目を丸くして凛を見ていた。
「おねーちゃん、走ってるー」
「キャリーケース振り回してるー」
「こわい顔ー」
言わないでほしい実況を、容赦なくされる。子どもの声は残酷なほど正直だ。
目の前に、平屋の建物が見えてきた。左側が瓦屋根と、右側が洋風の三角屋根、という不思議な外観の家である。左右で窓の形も違う。まるで、和風の家と洋風の家を無理やりくっつけたような造りだ。
「あ、あれだ! 和洋折衷!」
ほとんど飛び込むように、凛は玄関前にたどり着いた。息が切れる。心臓が喉まで上がってきそうだ。
足音は——玄関のすぐ手前で、ふっと消えた。まるで目に見えない境界線か、『それ以上入ってはいけない』というルールがあるかのように。
「……はぁ、はぁ」
凛は肩で息をしながら、玄関の引き戸を見上げた。古い木製の引き戸。ガラスに貼られた表札には、「管理人室」とだけ書かれている。その横には、小さく「さくらヶ丘第一団地」と団地名も添えられていた。
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