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第六章 さくらヶ丘第一団地・解体騒動顛末記⑩
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「さぁさぁ、まずは中庭へどうぞ」
由梨が、案内役としてスーツ組を引き連れる。
その笑顔は、営業マンのように爽やかだった。
「ここが、うちの誇る『団地中庭』です」
由梨は、大きく手を広げた。
「『誰も使っていない空間』ってレポートに書かれてましたけど、今日みたいに使ってます」
「いや、今日は特別――」
課長が言いかけるのを、由梨が遮る。
「特別です。でも、『一回も使ってない場所』じゃないから」
その目は、真剣だった。
「団地祭り、ここ一年で復活したんですよ。紙芝居も、ここでやるんです」
中庭の一角では、すでに紙芝居おじさんの幽霊が子どもたちを集めていた。
幽霊仕様で若干透けているが、子どもたちには「なんか味のあるおじさん」にしか見えていないようだ。「おじさん、カッコいい!」と言っている子までいる。
「集会所も、見てください」
凛も、意を決してスーツ組に声をかけた。
胸がドキドキする。でも、引き下がらない。
「今日は、さくらカフェと、子ども会と、高齢者サロン、全部まとめてやってます。普段は別々にやるんですけど」
集会所の中では、ホットケーキのいい匂いがした。
バターの香り。シロップの甘い匂い。コーヒーの香ばしさ。
テーブルには、子どもとお母さんとおばあさんが一緒に座り、コーヒーとジュースとお茶を飲んでいる。笑い声が、部屋を満たしている。
「こんにちは~」
クリーニング屋の元ママさんが、エプロン姿で笑顔を見せた。
その顔は、幸せそうに輝いていた。
「わざわざありがとうございます。昔、ここでさくらカフェやってたんですよ。今日は、そのプチ復活です」
「へぇ……」
住宅公社の担当者が、興味深そうに辺りを見回す。
その目には、驚きの色が浮かんでいた。
「こういう、自主的な取り組み、資料には――」
「載ってないですよね」
凛が、少しだけ意地悪く笑った。
その笑みには、挑戦的な光が宿っていた。
「でも、ここで暮らしている人にとっては、これが日常なんです」
自分でも驚くほど、言葉がすっと出てきた。
喉が詰まらない。声が震えない。
説明会で由梨が感じた「ちゃんと見てよ」といういら立ちが、自分の中にもあったのだと気づく。
凛は、市の職員たちを、中庭から棟へ、棟から商店街へと案内した。
老朽化した外壁も、ひび割れた遊具も、隠さない。
むしろ、「これをどうするか」を一緒に考えてほしいと伝える。
その間にも、ポスティング妖怪がせっせと働いていた。
祭りのチラシのお礼にと、ポストに「ありがとう」カードを配り歩いているのだ。紙の束を抱えて、一軒一軒丁寧に。
『さくらヶ丘第一団地 ありがとう祭 ご参加ありがとうございます ――管理人見習い・自治会・あやかし一同』
最後の一行だけは、人間には「管理人見習い・自治会一同」としか読めない仕様になっている。あやかし側のフォントは、なかなかに精巧なのだ。
由梨が、案内役としてスーツ組を引き連れる。
その笑顔は、営業マンのように爽やかだった。
「ここが、うちの誇る『団地中庭』です」
由梨は、大きく手を広げた。
「『誰も使っていない空間』ってレポートに書かれてましたけど、今日みたいに使ってます」
「いや、今日は特別――」
課長が言いかけるのを、由梨が遮る。
「特別です。でも、『一回も使ってない場所』じゃないから」
その目は、真剣だった。
「団地祭り、ここ一年で復活したんですよ。紙芝居も、ここでやるんです」
中庭の一角では、すでに紙芝居おじさんの幽霊が子どもたちを集めていた。
幽霊仕様で若干透けているが、子どもたちには「なんか味のあるおじさん」にしか見えていないようだ。「おじさん、カッコいい!」と言っている子までいる。
「集会所も、見てください」
凛も、意を決してスーツ組に声をかけた。
胸がドキドキする。でも、引き下がらない。
「今日は、さくらカフェと、子ども会と、高齢者サロン、全部まとめてやってます。普段は別々にやるんですけど」
集会所の中では、ホットケーキのいい匂いがした。
バターの香り。シロップの甘い匂い。コーヒーの香ばしさ。
テーブルには、子どもとお母さんとおばあさんが一緒に座り、コーヒーとジュースとお茶を飲んでいる。笑い声が、部屋を満たしている。
「こんにちは~」
クリーニング屋の元ママさんが、エプロン姿で笑顔を見せた。
その顔は、幸せそうに輝いていた。
「わざわざありがとうございます。昔、ここでさくらカフェやってたんですよ。今日は、そのプチ復活です」
「へぇ……」
住宅公社の担当者が、興味深そうに辺りを見回す。
その目には、驚きの色が浮かんでいた。
「こういう、自主的な取り組み、資料には――」
「載ってないですよね」
凛が、少しだけ意地悪く笑った。
その笑みには、挑戦的な光が宿っていた。
「でも、ここで暮らしている人にとっては、これが日常なんです」
自分でも驚くほど、言葉がすっと出てきた。
喉が詰まらない。声が震えない。
説明会で由梨が感じた「ちゃんと見てよ」といういら立ちが、自分の中にもあったのだと気づく。
凛は、市の職員たちを、中庭から棟へ、棟から商店街へと案内した。
老朽化した外壁も、ひび割れた遊具も、隠さない。
むしろ、「これをどうするか」を一緒に考えてほしいと伝える。
その間にも、ポスティング妖怪がせっせと働いていた。
祭りのチラシのお礼にと、ポストに「ありがとう」カードを配り歩いているのだ。紙の束を抱えて、一軒一軒丁寧に。
『さくらヶ丘第一団地 ありがとう祭 ご参加ありがとうございます ――管理人見習い・自治会・あやかし一同』
最後の一行だけは、人間には「管理人見習い・自治会一同」としか読めない仕様になっている。あやかし側のフォントは、なかなかに精巧なのだ。
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