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第六章 さくらヶ丘第一団地・解体騒動顛末記⑪
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夕方。
祭りのピークが過ぎ、人波が少し落ち着いた頃。
中庭の真ん中に、簡易ステージが作られていた。
自治会長の、「最後に一言、全員で言おう」という鶴の一声によるものだ。
夕日が、団地の壁を赤く染めている。その光が、集まった人々の顔を温かく照らしていた。
「それでは、えー……」
自治会長が、マイクを握りしめる。
その手は、わずかに震えていた。緊張しているのだろう。
「本日は、よう来てくれました。市役所の皆さんも、住宅公社の皆さんも、デベロッパーの皆さんも」
スーツ組が、ちょっと緊張した面持ちで並んでいる。
何を言われるのか、身構えているような表情。
「わしら、さくらヶ丘第一団地が好きです」
自治会長の声が、静かに響く。
「そりゃあ、古いところもある。雨漏りもする。階段もしんどい」
正直な言葉に、会場から小さな笑いが起こる。
「でもな、ここで育った子どもも、ここで年取った人も、ここでこれから育つかもしれん子どもも、おる」
レコード屋から流れる音楽のボリュームが、少しだけ下がった。
自治会長のスピーチに遠慮したのだろう。
「全部壊して、新しいビル建てるのが、一番『効率的』かもしれん」
自治会長の目が、スーツ組を見つめる。
「でも、今日ここにおる人らの顔見て、それでも『ここはもう終わっとる団地です』って言えるなら、言うてみんしゃい」
その言葉に、拍手と笑いが混じる。
凛は、胸が熱くなるのを感じた。
「わしらは、別に『永遠に今のままがいい』とは言わん」
自治会長の声が、真剣さを帯びる。
「直すべきところは直してくれたらええ。安全のために工事が必要なら、協力もする」
会場が、静まり返る。
みんな、次の言葉を待っている。
「ほいじゃが――」
自治会長は、ぐるりと中庭を見渡した。
その目には、この場所への深い愛情が宿っていた。
「ここに住んどる人らのことを無視して、『不動産』だけ見て話を進めるんは、やめてほしいんじゃ」
その言葉に、静かなざわめきが起こる。
うなずく人。拍手する人。涙ぐむ人。
凛は、中庭の端でその光景を見ていた。
風鈴の精が、その横でそっと鳴いた。チリン、という優しい音。
「ねぇ、りん」
「なに?」
「『ここ、消えちゃうのやだ』って音、今日は、いっぱい聞こえる」
その声は、少し震えていた。
「……うん」
凛も、うなずいた。
音は、風鈴にしか聞こえないのかもしれない。
でも、その響きは、凛の胸の中にも広がっていく。温かくて、切なくて、でも希望に満ちた音。
由梨が、凛の横に立った。
「りん。最後、一言いっとく?」
「えっ」
凛の目が、見開かれる。
「管理人見習い代表として」
「代・表!?」
声が裏返った。心臓が、バクバクと鳴る。
祭りのピークが過ぎ、人波が少し落ち着いた頃。
中庭の真ん中に、簡易ステージが作られていた。
自治会長の、「最後に一言、全員で言おう」という鶴の一声によるものだ。
夕日が、団地の壁を赤く染めている。その光が、集まった人々の顔を温かく照らしていた。
「それでは、えー……」
自治会長が、マイクを握りしめる。
その手は、わずかに震えていた。緊張しているのだろう。
「本日は、よう来てくれました。市役所の皆さんも、住宅公社の皆さんも、デベロッパーの皆さんも」
スーツ組が、ちょっと緊張した面持ちで並んでいる。
何を言われるのか、身構えているような表情。
「わしら、さくらヶ丘第一団地が好きです」
自治会長の声が、静かに響く。
「そりゃあ、古いところもある。雨漏りもする。階段もしんどい」
正直な言葉に、会場から小さな笑いが起こる。
「でもな、ここで育った子どもも、ここで年取った人も、ここでこれから育つかもしれん子どもも、おる」
レコード屋から流れる音楽のボリュームが、少しだけ下がった。
自治会長のスピーチに遠慮したのだろう。
「全部壊して、新しいビル建てるのが、一番『効率的』かもしれん」
自治会長の目が、スーツ組を見つめる。
「でも、今日ここにおる人らの顔見て、それでも『ここはもう終わっとる団地です』って言えるなら、言うてみんしゃい」
その言葉に、拍手と笑いが混じる。
凛は、胸が熱くなるのを感じた。
「わしらは、別に『永遠に今のままがいい』とは言わん」
自治会長の声が、真剣さを帯びる。
「直すべきところは直してくれたらええ。安全のために工事が必要なら、協力もする」
会場が、静まり返る。
みんな、次の言葉を待っている。
「ほいじゃが――」
自治会長は、ぐるりと中庭を見渡した。
その目には、この場所への深い愛情が宿っていた。
「ここに住んどる人らのことを無視して、『不動産』だけ見て話を進めるんは、やめてほしいんじゃ」
その言葉に、静かなざわめきが起こる。
うなずく人。拍手する人。涙ぐむ人。
凛は、中庭の端でその光景を見ていた。
風鈴の精が、その横でそっと鳴いた。チリン、という優しい音。
「ねぇ、りん」
「なに?」
「『ここ、消えちゃうのやだ』って音、今日は、いっぱい聞こえる」
その声は、少し震えていた。
「……うん」
凛も、うなずいた。
音は、風鈴にしか聞こえないのかもしれない。
でも、その響きは、凛の胸の中にも広がっていく。温かくて、切なくて、でも希望に満ちた音。
由梨が、凛の横に立った。
「りん。最後、一言いっとく?」
「えっ」
凛の目が、見開かれる。
「管理人見習い代表として」
「代・表!?」
声が裏返った。心臓が、バクバクと鳴る。
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