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2章 城ヶ崎漣(じょうがさきれん)
第16話 林檎のもとに見えしとき
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漣さんは優しく頷いた。
「じゃあ、共読みしてみましょう」
手のひらの長い影が、プリントにかかった。
彼女はプリントを俺の方に向ける。
白い手は、今は夕陽に染まっている。
「まず最初から最後までざっと、くちびる読みで読んでみて。そう、くちびるだけ動かして読んでみるの」
言われたとおりに、俺はくちびるを動かして、彼女のたどった軌跡をなぞった。
最後まで読み終わると、ふたり、顔を見合わせた。
俺の顔も、きっと今は夕陽の色だ。
「じゃあ、さんはい、で一緒に読みましょう」
漣さんは、さんはい、と口には出さずに、小さく人さし指を振った。
陽に濡れて、艶やかなくちびるが開いた。
――まだあげ初めし、
ほんの少しだけ遅れて、俺は彼女の声に声を重ねる。
「「まだあげ初めし前髪の、林檎のもとに見えしとき」」
ふたりの声がきれいに重なって、部室に響く。
「「前にさしたる花櫛の、花ある君と思ひけり」」
ふたりの真ん中で、互いの響きが交差する。
のどにある自分の声と、胸まで届く漣さんの声が体の中で混じり合う。
「「やさしく白き手をのべて、林檎をわれにあたへしは」」
部活中の練習のときには、彼女の後に俺が続いたのだった。
今、ふたりの瞳は同じ文字を追って、同時にその言葉をくちびるに紡ぐ。
「「薄紅の秋の実に、人こひ初めしはじめなり」」
うすくれない、の「い」の字が重なる。
漣さんの白い歯。
ひとこいそめし、の「と」の字が重なる。
漣さんの赤い小さなくちびる。
ふたりの言葉が、重なる。
「「わがこころなきためいきの、その髪の毛にかかるとき」」
俺は漣さんの白い手の甲に、手のひらを置いた。
熱くも、冷たくもない、俺と同じ温度の手だ。
漣さんは、目を丸くして俺を見上げた。
朗読が止んで、部室に静寂が戻ってきた。
「……………どうしたの?」
遠くから、小さく聞こえるコーラス部の歌声。
あとはふたりの呼吸の音があるばかり。
その中にわずかに残る朗読の残響が、俺の背中を押した。
「漣さんは、誰にでもこんなに優しいの?」
俺は、漣さんに1歩近づいた。
漣さんは、1歩退がる。
「誰にでもって、ことはないけれど」
小さな手が、長机の上を滑る。
それを、きゅっと握って、つかまえた。
「誰にでもないってことは、私は特別なの?」
俺の進める足に従って、漣さんは後ろに退がってゆく。
えんじ色のスカートのプリーツが交互に揺れる。
「それは……」
また1歩、また1歩。
漣さんは逃げているわけじゃない。
ふたりの体が、近すぎるのだ。
後ろに退がらないと、ふたりの心臓が重なってしまうほどに。
「それは……?」
目を逸らして、後ずさる漣さんの、背中が窓の桟に当たった。
俺は1歩、進む。
長机から離れた小さな手を握りしめて、漣さんの頬のすぐそばまで持ち上げる。
もう片方の手を、腰の横で捕まえる。
ふたりの体が、重なった。
ブレザー越しの俺のふくよかな胸のその向こうに、微かに感じる漣さんの鼓動が俺の興奮と混じり合う。
スカートのプリーツが重なって、膝と膝が絡まり合う。
漣さんの息の甘い匂い。
蜂蜜のような、その中に身を溶かしてしまいたくなるような甘い香り。
漣さんの戸惑いの表情の向こうで、夕陽が最後の光を稜線に投げかけている。
後光の中で、漣さんは本物の天使のようだった。
「漣さんは、出会ったときから私の中で、特別よ」
俺は乱反射で光輝く髪の中に、顔を埋めた。
頬と頬とが重なる。
腕の中で、小さな体が震えている。
「だめ……」
けれども、その両手は俺の手を強く握り返してきた。
俺は彼女の耳元に囁きかける。
「好き」
漣さんの体がぴくりと跳ねた。
俺は光の波の中から顔を上げて、もう一度漣さんの顔を見つめた。
見開かれた目の中で、戸惑いに濡れる大きな瞳。
緊張に竦んだ、さくらんぼの果実のようなそのくちびる。
漣さんは瞼を閉じた。
長いまつげが、小刻みに震えている。
そこに、そうっと顔を近づけて――ふたりの息が重なった。
―――――。
俺のくちびるが、狭い口の端を優しく挟んだ。
甘い果実が俺の中で形を変える。
くちびるは同じ力でふわりと重なり合い、不意に力のこもる生きたうねりが俺を優しく挟み返してくる。
握り合っていた手は互いの袖を滑って、その背中を、細い首をかき抱く。
震えるくちびるに食まれながら、その力に答えて、ぷっくりとした下くちびるを吸った。
指の中を、ウェーブがかった髪が流れる。
2人の少女の香りが混ざり合う。
どうしてもひとつにはなれないふたつの生命が、お互いを求めて重なり合っていた。
摩擦のないくちびるの内側が、互いの熱を感じながら、くちびるの上を滑る。
滑っていったくちびるを追いかけて、逃げ出せないように、互いを挟んで、食み合って、俺と漣さんは熱い息を分かち合った。
ふ、とくちびるが離れると、漣さんの涙ぐんだ瞳が、夕闇に青くなった部室の中で濡れ光っている。
しかし彼女の腕は、俺の体を抱いていた。
「くっくっくっ………」
思わず笑みが漏れた。
なんだ、できるじゃん。
1日目だよ? 1日目でこれだぜ?
1日で超絶美少女落としちゃいましたよ。
いける……100人はいける!
「ふふふふふふふふふふ」
上気した顔にきょとんとした表情を浮かべる彼女の前で、俺は舌なめずりをする。
俺の心に、男、有村遥が帰還した。
ふっふっふ――まずはひとり目!
「ど……どうしたの?」
「じゅるり……フフ、どうもしないわ………」
俺は再び漣さんの柔らかい髪に顔を埋めて、赤くなったかわいい耳を優しく噛んだ。
漣さんは、ピクンと体を竦ませる。
縮こまる体を包むようにして、漣さんの背中を窓の桟に滑らせる。
小さなお尻が床に着いた。
その体を抱いて体を横たえる。
ふたり、床に横になってお互いを見つめている。
細いふとももの間を、俺のふとももが擦れて滑って、スカートのプリーツがくしゃくしゃになって重なり合う。
「それ以上は……」
「どうして? 私たち親友じゃない」
俺のむっちりしたふとももが、白い膝の間をするすると進んでいく。
滑って触れ合う肌の、痺れるような快感に身を震わせる。
「ホントにだめ……どうしてもそれだけはだめ………」
美しい朗読に澄んでいた声は、今は未知の快感に怯える声となって、胸の奥を熱くした。
俺は漣さんの手を掴んで、自分の胸に押し当てる。
ブラの固さが分かるくらいに強く手のひらを沈み込ませた。
「じゃあ、私のこと拒んでみてよ。ほら」
痛いくらいに、押し当てて、離して、押し当てて、離して、手のひらに掴ませる。
漣さんの目は、自分の手のひらにあわせて形を変える、俺のブラウスの膨らみに釘付けになっていた。
「フフフ、体は正直………」
もう1度耳を噛んでやると、漣さんの体が震えて、それから何も言わなくなった。
もうキスがどうとかではない。
もはやそういう時期は去った。
全軍に告ぐ、モスクワはもうすぐだ!
えんじ色のスカートに包まれた漣さんの腰は、俺の膝から逃げようとくねる。
俺は小さな肩を抱いてそれを留めた。
けれど漣さんの膝は、俺のふとももを挟んで止めようとはしない。
震えるからだを、俺の膝が登る。
――するする。
――すりすりすり。
俺はふとももの一番柔らかいところを、漣さんの足の付け根にぎゅっと押し付けた。
何かを、感じる。
彼女の中心にあって、熱い力をその内にたぎらせる何かを。
俺はそこにそうっと手を伸ばして、彼女の秘められた場所に触れた。
―――――むにぃ。
小学生のときの夏。
杏子と一緒に夏祭りに行ったことがあった。
ヨーヨー釣りやら、射的やらでたくさん遊んで、そろそろお腹が空いてきた。
俺は頭の後ろにお面を付けて、杏子の浴衣の袖を引っ張った。
「あのフランクフルト美味しそうだよ」
俺が言うと杏子はキャラクター柄の浴衣の袖をぱたぱたさせながら、
「違うわ。あれは衣がついてるからアメリカンドッグ。ついてないのがフランクフルトよ」
偉そうにそんなことを言った。
「僕はどっちも好きだけどなー」
「あたしはフランクフルトが食べたいわ。ハルカは頼りないから一緒に買いに行ってあげる」
「うん、僕もフランクフルト大好き!」
懐かしい話だけれど、そもそもフランクフルトとか、ついてるとかついてないとか、そんな話が今、俺のふとももに当たっている熱くて固いモノと何か関係があるとでもいうのか。
――――――――――――――――――――――は?
ちょっと待って、なんでこの子の股の間に固いものがあるの。
漣さん?
うん、俺も最近まで持ってたよそれ。
今は俺の手のひらの中にあるけど。
ガッチガチなんだけど。
母さん、僕のあのち○ちん、どうしたでせうね。
ええ、夏、学校から家へ帰る道で、
川へ落としたあのち○ちんですよーー。
「おえぼるるるるるるうるるるうあああああああああああ!!!!」
俺はその場で座ったまま後ずさり、長机に背中をぶっつけてひっくり返した。
「はぶっ、はぶっ、はぶるるるるるるるるるるるるるるぁ!!!!!」
俺のくちびるは、一瞬前まで感じていた幻の快感を音声化して吐き出しながら、震える手のひらを見つめた。
まざまざと残る、熱い感触。
ばんばんと床に叩きつけても、その痛みの奥からあのゴリッとしたカタさがよみがえる。
漣さんを見ると、手のひらで股間を押さえてもじもじしていた。
「だからだめって言ったのに……」
キッとこちらに鋭い視線を向けて言った。
「僕の秘密を知ってしまったみたいだね」
「みたいだねじゃねえぞてめえええええええええええええ!!!」
俺は立ち上がって、長机を蹴り上げる。
「ふっざけんなよ、なんで男が女子校に通ってんだよ!!」
俺は自分の事を棚にダンクシュートして、目の前の悪を糾弾した。
「これは……代々城ヶ崎家の長男は女性の中で心を鍛えるための試練が課せられるんだ……これはおじいさまのお言い付けで………」
「家庭の事情に人を巻き込むなァァァァァァァァ!!」
俺は血の涙を流しながら、城ヶ崎の股間に屹立するフランクフルトを指さした。
わあ、えんじ色のスカートが持ち上がって、サーカスのテントみたい。
「だったらいつまでも勃起してんじゃねえぞこのムッツリ変態野郎!」
「きっ、君は大声でなんということを言うんだ! 仮にも乙女が」
「るっせ―――!!」
「しかし、男女で口づけをしたんだから、
ある意味こちらが正常だという考え方も………」
「俺も男なの!」
「…………は?」
登校1日目にして、俺はもっとも隠すべき事実を、今日初めて出会った人間に告白した。
「俺も、お前と同じ男なんだよ!!」
「いやいやいや、だって君のその、おっぱいは明らかに……」
「詳しいことはあとから山ほど聞かせてやるよ。こうなったらてめえも巻き込んでやる! これを見ろ!」
俺は、念のために持っていた前の学校の生徒手帳を、城ヶ崎の足下に投げつけた。
城ヶ崎はそれを拾い上げて、中の写真と男子高校の文字を見るなり、顔面蒼白になって震え始めた。
「で……でも……顔が違う………」
「いいか? 顔が違おうが、このおっぱいがどうだろうとな。俺は正真正銘有村遥、男なんだよ!」
俺は自分の胸をわっしわっしと揉みしだいた。
「てめえは男とキスしたんだよざまあみろバァカうわああああああああああああ!!!!」
自分の言葉に改めてショックを受けて、俺は床に頭をガンガン打ち付ける。
手のひらに、いやそれよりもくちびるに、くちびるに甘い感触が残ってるんだよォォォォォォォ!!
「嘘だァァァァァァァァァァ!!!」
城ヶ崎は床に膝をつき、天に向かって腕を上げて泣き叫ぶ。
「僕、初めてだったのにィィィィィィィ!!!」
「俺も、俺も初めてだァァァァァァァァ!!!」
「「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
ふたりの声は再びひとつに重なり、絶望のシンフォニーが部室に響き渡った。
朗読の調べが紡がれたのと、同じくちびるから。
くち、くちび――おぼるるるるるぁるうるらららるるるるうううううう!!!!!
「じゃあ、共読みしてみましょう」
手のひらの長い影が、プリントにかかった。
彼女はプリントを俺の方に向ける。
白い手は、今は夕陽に染まっている。
「まず最初から最後までざっと、くちびる読みで読んでみて。そう、くちびるだけ動かして読んでみるの」
言われたとおりに、俺はくちびるを動かして、彼女のたどった軌跡をなぞった。
最後まで読み終わると、ふたり、顔を見合わせた。
俺の顔も、きっと今は夕陽の色だ。
「じゃあ、さんはい、で一緒に読みましょう」
漣さんは、さんはい、と口には出さずに、小さく人さし指を振った。
陽に濡れて、艶やかなくちびるが開いた。
――まだあげ初めし、
ほんの少しだけ遅れて、俺は彼女の声に声を重ねる。
「「まだあげ初めし前髪の、林檎のもとに見えしとき」」
ふたりの声がきれいに重なって、部室に響く。
「「前にさしたる花櫛の、花ある君と思ひけり」」
ふたりの真ん中で、互いの響きが交差する。
のどにある自分の声と、胸まで届く漣さんの声が体の中で混じり合う。
「「やさしく白き手をのべて、林檎をわれにあたへしは」」
部活中の練習のときには、彼女の後に俺が続いたのだった。
今、ふたりの瞳は同じ文字を追って、同時にその言葉をくちびるに紡ぐ。
「「薄紅の秋の実に、人こひ初めしはじめなり」」
うすくれない、の「い」の字が重なる。
漣さんの白い歯。
ひとこいそめし、の「と」の字が重なる。
漣さんの赤い小さなくちびる。
ふたりの言葉が、重なる。
「「わがこころなきためいきの、その髪の毛にかかるとき」」
俺は漣さんの白い手の甲に、手のひらを置いた。
熱くも、冷たくもない、俺と同じ温度の手だ。
漣さんは、目を丸くして俺を見上げた。
朗読が止んで、部室に静寂が戻ってきた。
「……………どうしたの?」
遠くから、小さく聞こえるコーラス部の歌声。
あとはふたりの呼吸の音があるばかり。
その中にわずかに残る朗読の残響が、俺の背中を押した。
「漣さんは、誰にでもこんなに優しいの?」
俺は、漣さんに1歩近づいた。
漣さんは、1歩退がる。
「誰にでもって、ことはないけれど」
小さな手が、長机の上を滑る。
それを、きゅっと握って、つかまえた。
「誰にでもないってことは、私は特別なの?」
俺の進める足に従って、漣さんは後ろに退がってゆく。
えんじ色のスカートのプリーツが交互に揺れる。
「それは……」
また1歩、また1歩。
漣さんは逃げているわけじゃない。
ふたりの体が、近すぎるのだ。
後ろに退がらないと、ふたりの心臓が重なってしまうほどに。
「それは……?」
目を逸らして、後ずさる漣さんの、背中が窓の桟に当たった。
俺は1歩、進む。
長机から離れた小さな手を握りしめて、漣さんの頬のすぐそばまで持ち上げる。
もう片方の手を、腰の横で捕まえる。
ふたりの体が、重なった。
ブレザー越しの俺のふくよかな胸のその向こうに、微かに感じる漣さんの鼓動が俺の興奮と混じり合う。
スカートのプリーツが重なって、膝と膝が絡まり合う。
漣さんの息の甘い匂い。
蜂蜜のような、その中に身を溶かしてしまいたくなるような甘い香り。
漣さんの戸惑いの表情の向こうで、夕陽が最後の光を稜線に投げかけている。
後光の中で、漣さんは本物の天使のようだった。
「漣さんは、出会ったときから私の中で、特別よ」
俺は乱反射で光輝く髪の中に、顔を埋めた。
頬と頬とが重なる。
腕の中で、小さな体が震えている。
「だめ……」
けれども、その両手は俺の手を強く握り返してきた。
俺は彼女の耳元に囁きかける。
「好き」
漣さんの体がぴくりと跳ねた。
俺は光の波の中から顔を上げて、もう一度漣さんの顔を見つめた。
見開かれた目の中で、戸惑いに濡れる大きな瞳。
緊張に竦んだ、さくらんぼの果実のようなそのくちびる。
漣さんは瞼を閉じた。
長いまつげが、小刻みに震えている。
そこに、そうっと顔を近づけて――ふたりの息が重なった。
―――――。
俺のくちびるが、狭い口の端を優しく挟んだ。
甘い果実が俺の中で形を変える。
くちびるは同じ力でふわりと重なり合い、不意に力のこもる生きたうねりが俺を優しく挟み返してくる。
握り合っていた手は互いの袖を滑って、その背中を、細い首をかき抱く。
震えるくちびるに食まれながら、その力に答えて、ぷっくりとした下くちびるを吸った。
指の中を、ウェーブがかった髪が流れる。
2人の少女の香りが混ざり合う。
どうしてもひとつにはなれないふたつの生命が、お互いを求めて重なり合っていた。
摩擦のないくちびるの内側が、互いの熱を感じながら、くちびるの上を滑る。
滑っていったくちびるを追いかけて、逃げ出せないように、互いを挟んで、食み合って、俺と漣さんは熱い息を分かち合った。
ふ、とくちびるが離れると、漣さんの涙ぐんだ瞳が、夕闇に青くなった部室の中で濡れ光っている。
しかし彼女の腕は、俺の体を抱いていた。
「くっくっくっ………」
思わず笑みが漏れた。
なんだ、できるじゃん。
1日目だよ? 1日目でこれだぜ?
1日で超絶美少女落としちゃいましたよ。
いける……100人はいける!
「ふふふふふふふふふふ」
上気した顔にきょとんとした表情を浮かべる彼女の前で、俺は舌なめずりをする。
俺の心に、男、有村遥が帰還した。
ふっふっふ――まずはひとり目!
「ど……どうしたの?」
「じゅるり……フフ、どうもしないわ………」
俺は再び漣さんの柔らかい髪に顔を埋めて、赤くなったかわいい耳を優しく噛んだ。
漣さんは、ピクンと体を竦ませる。
縮こまる体を包むようにして、漣さんの背中を窓の桟に滑らせる。
小さなお尻が床に着いた。
その体を抱いて体を横たえる。
ふたり、床に横になってお互いを見つめている。
細いふとももの間を、俺のふとももが擦れて滑って、スカートのプリーツがくしゃくしゃになって重なり合う。
「それ以上は……」
「どうして? 私たち親友じゃない」
俺のむっちりしたふとももが、白い膝の間をするすると進んでいく。
滑って触れ合う肌の、痺れるような快感に身を震わせる。
「ホントにだめ……どうしてもそれだけはだめ………」
美しい朗読に澄んでいた声は、今は未知の快感に怯える声となって、胸の奥を熱くした。
俺は漣さんの手を掴んで、自分の胸に押し当てる。
ブラの固さが分かるくらいに強く手のひらを沈み込ませた。
「じゃあ、私のこと拒んでみてよ。ほら」
痛いくらいに、押し当てて、離して、押し当てて、離して、手のひらに掴ませる。
漣さんの目は、自分の手のひらにあわせて形を変える、俺のブラウスの膨らみに釘付けになっていた。
「フフフ、体は正直………」
もう1度耳を噛んでやると、漣さんの体が震えて、それから何も言わなくなった。
もうキスがどうとかではない。
もはやそういう時期は去った。
全軍に告ぐ、モスクワはもうすぐだ!
えんじ色のスカートに包まれた漣さんの腰は、俺の膝から逃げようとくねる。
俺は小さな肩を抱いてそれを留めた。
けれど漣さんの膝は、俺のふとももを挟んで止めようとはしない。
震えるからだを、俺の膝が登る。
――するする。
――すりすりすり。
俺はふとももの一番柔らかいところを、漣さんの足の付け根にぎゅっと押し付けた。
何かを、感じる。
彼女の中心にあって、熱い力をその内にたぎらせる何かを。
俺はそこにそうっと手を伸ばして、彼女の秘められた場所に触れた。
―――――むにぃ。
小学生のときの夏。
杏子と一緒に夏祭りに行ったことがあった。
ヨーヨー釣りやら、射的やらでたくさん遊んで、そろそろお腹が空いてきた。
俺は頭の後ろにお面を付けて、杏子の浴衣の袖を引っ張った。
「あのフランクフルト美味しそうだよ」
俺が言うと杏子はキャラクター柄の浴衣の袖をぱたぱたさせながら、
「違うわ。あれは衣がついてるからアメリカンドッグ。ついてないのがフランクフルトよ」
偉そうにそんなことを言った。
「僕はどっちも好きだけどなー」
「あたしはフランクフルトが食べたいわ。ハルカは頼りないから一緒に買いに行ってあげる」
「うん、僕もフランクフルト大好き!」
懐かしい話だけれど、そもそもフランクフルトとか、ついてるとかついてないとか、そんな話が今、俺のふとももに当たっている熱くて固いモノと何か関係があるとでもいうのか。
――――――――――――――――――――――は?
ちょっと待って、なんでこの子の股の間に固いものがあるの。
漣さん?
うん、俺も最近まで持ってたよそれ。
今は俺の手のひらの中にあるけど。
ガッチガチなんだけど。
母さん、僕のあのち○ちん、どうしたでせうね。
ええ、夏、学校から家へ帰る道で、
川へ落としたあのち○ちんですよーー。
「おえぼるるるるるるうるるるうあああああああああああ!!!!」
俺はその場で座ったまま後ずさり、長机に背中をぶっつけてひっくり返した。
「はぶっ、はぶっ、はぶるるるるるるるるるるるるるるぁ!!!!!」
俺のくちびるは、一瞬前まで感じていた幻の快感を音声化して吐き出しながら、震える手のひらを見つめた。
まざまざと残る、熱い感触。
ばんばんと床に叩きつけても、その痛みの奥からあのゴリッとしたカタさがよみがえる。
漣さんを見ると、手のひらで股間を押さえてもじもじしていた。
「だからだめって言ったのに……」
キッとこちらに鋭い視線を向けて言った。
「僕の秘密を知ってしまったみたいだね」
「みたいだねじゃねえぞてめえええええええええええええ!!!」
俺は立ち上がって、長机を蹴り上げる。
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俺は自分の事を棚にダンクシュートして、目の前の悪を糾弾した。
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わあ、えんじ色のスカートが持ち上がって、サーカスのテントみたい。
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「きっ、君は大声でなんということを言うんだ! 仮にも乙女が」
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「俺も男なの!」
「…………は?」
登校1日目にして、俺はもっとも隠すべき事実を、今日初めて出会った人間に告白した。
「俺も、お前と同じ男なんだよ!!」
「いやいやいや、だって君のその、おっぱいは明らかに……」
「詳しいことはあとから山ほど聞かせてやるよ。こうなったらてめえも巻き込んでやる! これを見ろ!」
俺は、念のために持っていた前の学校の生徒手帳を、城ヶ崎の足下に投げつけた。
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「で……でも……顔が違う………」
「いいか? 顔が違おうが、このおっぱいがどうだろうとな。俺は正真正銘有村遥、男なんだよ!」
俺は自分の胸をわっしわっしと揉みしだいた。
「てめえは男とキスしたんだよざまあみろバァカうわああああああああああああ!!!!」
自分の言葉に改めてショックを受けて、俺は床に頭をガンガン打ち付ける。
手のひらに、いやそれよりもくちびるに、くちびるに甘い感触が残ってるんだよォォォォォォォ!!
「嘘だァァァァァァァァァァ!!!」
城ヶ崎は床に膝をつき、天に向かって腕を上げて泣き叫ぶ。
「僕、初めてだったのにィィィィィィィ!!!」
「俺も、俺も初めてだァァァァァァァァ!!!」
「「あああああああああああああああああああああああああ!!!!」」
ふたりの声は再びひとつに重なり、絶望のシンフォニーが部室に響き渡った。
朗読の調べが紡がれたのと、同じくちびるから。
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