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第一話「記憶のない怪獣」
第一章「星の降った日」・②
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「うわぁーー!」
「すっげぇ・・・・・・」
───「おとめ座流星群」。
毎年のように見られるペルセウス座流星群やふたご座流星群と違って、おとめ座流星群は、長らくその活動が確認されていないはずだったんだけど・・・
テレビによれば、観測している最中に突然現れたという謎の流星群だそうだ。
数は多いけど小さい粒ばかりみたいだから、「謎の巨大隕石落下で地球滅亡!」・・・の心配はないらしい。
「なかなか、いーもんっスねぇ」
「星の雨みたい・・・!」
流星群は、放射点のある星座の名前が付く。
だからいま目の前の夜空に瞬く流れ星たちが、例えばあの一等明るいスピカからやって来たとは限らないけど・・・遠い宇宙を旅してきたのは確かだ。
「本当にキレイだね! ハヤ兄ぃ!」
「誘われた時は正直興味なかったけど、実際見てみるとすげぇな!」
「さすがハヤトくん!」
「ありがと! 誘った甲斐があったかな!」
思わず笑顔になって──そのまま、目を閉じてみる。
「おとめ座っていうのが、またロマンチックだなぁ~!」
「オイオイ美晴~またスイ~ツ(笑)かよ~~」
「他人のスラング馬鹿にしておいて・・・ちなみにそれもう死語だから」
「うそぉっ⁉」
「ハルさんもお年寄りデビューっスか?」
波の音と一緒に、皆の声がはっきりと聞こえる。
この輪の中に、僕がいるって、そう思える。
・・・幼い頃は、星が好きだった。母さんを探しに行けると思っていたから。
でも。今は───
「しっかしキレイだな~~・・・でもこれスマホだとうまく撮れねぇ」
「風情がないなぁお兄ちゃんは・・・妹として恥ずかしいよ」
「まぁ保存しときたい気持ちはわからなくもないっスけどねぇ」
「これだから顔だけ野郎は・・・」
「俺にだけひどくない⁉」
星よりも・・・みんなと一緒に星を見て、笑っていられる事の方が、好きだ。
十年前、病院のベッドで目が覚めた時───
冷たくなった体の上に、母さんの好きだった花を置いたのが、僕の最後の記憶だった。
そこから突然一年が経っていた事も・・・父さんの顔がもっとやつれていた事も・・・・・・
当時の僕は、全てをうまく受け入れる事が出来なかった。
でも、そこから立ち直れたのは、ここにいるみんなのお陰だ。
だから、もう二度と、何も失いたくない。
こんな何でもないような毎日が、いつまでも続いてくれたら、それだけで───
「ッ・・・‼」
刹那、胸に刺すような痛みが走った。
途端に心臓の鼓動が早くなり、背筋から滲み出る悪寒が体を侵食する。
着ていたシャツがじっとりと汗ばみ、対照的に喉は渇き、呼吸は浅く早くなる。
視界が淵から黒い靄に覆われていくような不気味な感覚を覚え、思わず胸に手をやった。
この痛みは・・・なんだ・・・?
健康なだけが僕の自慢だったのに・・・! こんな事は初めてだ・・・・・・‼
草木が土に根を伸ばすかのように、痛みが全身を蹂躙しながら広がっていくような・・・声を上げる事すら出来ない・・・
心臓を撃つ、文字通りの激痛。
思わず、前のめりに倒れそうになった・・・その時───
胸を抑える手が、シャツの上から「ペンダント」の形を捉えた。
「・・・・・・?」
同時に、じわりとペンダントが熱を持ったような感覚がした後──
さっきまでの痛みが風にさらわれたかのように霧散し、引いていくのを感じた。
次いで、悪寒が消え・・・ようやく呼吸を落ち着ける事ができた。
「い、今のは・・・?」
思わずペンダントを胸元から取り出し、手に持ってみる。母さんが事故に遭う少し前、僕にくれたものだった。
十年以上肌身離さず・・・それこそ記憶を失って病院で目覚めた時にもつけていたけど、こんな事が起きたのは初めての経験だった。
「・・・母さんが、守ってくれたのかも」
なんてね、と独り言つ。
銀の縁飾りに嵌め込まれたオレンジ色の石を親指で撫でると・・・
気のせいだとは思いつつも、再びペンダントがあたたかくなったような錯覚を覚えた。
そして、ペンダントをTシャツの中に戻そうとした瞬間───
『──────タスケテ』
「えっ・・・⁉」
今の声は──?
・・・いや、「声」と言うには少し違う・・・まるで、頭の中に直接───
「ど、どうしたのハヤ兄ぃ・・・?」
「センパイ? 大丈夫っスか?」
両側にいたみーちゃんとサキが、心配して声をかけてくれる。
・・・そう、二人の「声」は、きちんと耳に届いた。
「ご、ごめんごめん・・・ちょっとまた眠気が・・・あははは・・・」
どうやら、僕の耳がおかしくなったわけじゃない。
でも、それならさっきの・・・か細くて、ひとりぼっちで・・・今にも消えてしまいそうな・・・あの「声」は何だったんだろう。
僕の勘違いかもしれないけれど・・・「たすけて」って、そう聴こえた。
「すっげぇ・・・・・・」
───「おとめ座流星群」。
毎年のように見られるペルセウス座流星群やふたご座流星群と違って、おとめ座流星群は、長らくその活動が確認されていないはずだったんだけど・・・
テレビによれば、観測している最中に突然現れたという謎の流星群だそうだ。
数は多いけど小さい粒ばかりみたいだから、「謎の巨大隕石落下で地球滅亡!」・・・の心配はないらしい。
「なかなか、いーもんっスねぇ」
「星の雨みたい・・・!」
流星群は、放射点のある星座の名前が付く。
だからいま目の前の夜空に瞬く流れ星たちが、例えばあの一等明るいスピカからやって来たとは限らないけど・・・遠い宇宙を旅してきたのは確かだ。
「本当にキレイだね! ハヤ兄ぃ!」
「誘われた時は正直興味なかったけど、実際見てみるとすげぇな!」
「さすがハヤトくん!」
「ありがと! 誘った甲斐があったかな!」
思わず笑顔になって──そのまま、目を閉じてみる。
「おとめ座っていうのが、またロマンチックだなぁ~!」
「オイオイ美晴~またスイ~ツ(笑)かよ~~」
「他人のスラング馬鹿にしておいて・・・ちなみにそれもう死語だから」
「うそぉっ⁉」
「ハルさんもお年寄りデビューっスか?」
波の音と一緒に、皆の声がはっきりと聞こえる。
この輪の中に、僕がいるって、そう思える。
・・・幼い頃は、星が好きだった。母さんを探しに行けると思っていたから。
でも。今は───
「しっかしキレイだな~~・・・でもこれスマホだとうまく撮れねぇ」
「風情がないなぁお兄ちゃんは・・・妹として恥ずかしいよ」
「まぁ保存しときたい気持ちはわからなくもないっスけどねぇ」
「これだから顔だけ野郎は・・・」
「俺にだけひどくない⁉」
星よりも・・・みんなと一緒に星を見て、笑っていられる事の方が、好きだ。
十年前、病院のベッドで目が覚めた時───
冷たくなった体の上に、母さんの好きだった花を置いたのが、僕の最後の記憶だった。
そこから突然一年が経っていた事も・・・父さんの顔がもっとやつれていた事も・・・・・・
当時の僕は、全てをうまく受け入れる事が出来なかった。
でも、そこから立ち直れたのは、ここにいるみんなのお陰だ。
だから、もう二度と、何も失いたくない。
こんな何でもないような毎日が、いつまでも続いてくれたら、それだけで───
「ッ・・・‼」
刹那、胸に刺すような痛みが走った。
途端に心臓の鼓動が早くなり、背筋から滲み出る悪寒が体を侵食する。
着ていたシャツがじっとりと汗ばみ、対照的に喉は渇き、呼吸は浅く早くなる。
視界が淵から黒い靄に覆われていくような不気味な感覚を覚え、思わず胸に手をやった。
この痛みは・・・なんだ・・・?
健康なだけが僕の自慢だったのに・・・! こんな事は初めてだ・・・・・・‼
草木が土に根を伸ばすかのように、痛みが全身を蹂躙しながら広がっていくような・・・声を上げる事すら出来ない・・・
心臓を撃つ、文字通りの激痛。
思わず、前のめりに倒れそうになった・・・その時───
胸を抑える手が、シャツの上から「ペンダント」の形を捉えた。
「・・・・・・?」
同時に、じわりとペンダントが熱を持ったような感覚がした後──
さっきまでの痛みが風にさらわれたかのように霧散し、引いていくのを感じた。
次いで、悪寒が消え・・・ようやく呼吸を落ち着ける事ができた。
「い、今のは・・・?」
思わずペンダントを胸元から取り出し、手に持ってみる。母さんが事故に遭う少し前、僕にくれたものだった。
十年以上肌身離さず・・・それこそ記憶を失って病院で目覚めた時にもつけていたけど、こんな事が起きたのは初めての経験だった。
「・・・母さんが、守ってくれたのかも」
なんてね、と独り言つ。
銀の縁飾りに嵌め込まれたオレンジ色の石を親指で撫でると・・・
気のせいだとは思いつつも、再びペンダントがあたたかくなったような錯覚を覚えた。
そして、ペンダントをTシャツの中に戻そうとした瞬間───
『──────タスケテ』
「えっ・・・⁉」
今の声は──?
・・・いや、「声」と言うには少し違う・・・まるで、頭の中に直接───
「ど、どうしたのハヤ兄ぃ・・・?」
「センパイ? 大丈夫っスか?」
両側にいたみーちゃんとサキが、心配して声をかけてくれる。
・・・そう、二人の「声」は、きちんと耳に届いた。
「ご、ごめんごめん・・・ちょっとまた眠気が・・・あははは・・・」
どうやら、僕の耳がおかしくなったわけじゃない。
でも、それならさっきの・・・か細くて、ひとりぼっちで・・・今にも消えてしまいそうな・・・あの「声」は何だったんだろう。
僕の勘違いかもしれないけれど・・・「たすけて」って、そう聴こえた。
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