恋するジャガーノート

まふゆとら

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第二話「英雄の資格」

 第三章「決意と死闘」・⑤

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◆エピローグ


「あっ! スタッフのおにーさんだ!」

 ステージ後の休憩も終えて、これからミーティングに向かおうかというところで・・・みーちゃんに連れられて、見覚えのある母娘おやこが視界に入った。

「さおりちゃん! 元気だった?」

「うん! パパもね、元気に帰ってきたよ!」

 一時はどうなる事かと思ったけど、さおりちゃんの溌剌な笑顔を見て、一安心した。

「にししっ! 良かったね、さおりちゃん! こっそり連れてきて正解だったよ」

「先日は本当に・・・ご迷惑をおかけしました・・・」

 遅れて、さおりちゃんのお母さんが頭をさげてくる。

 申し訳無さそうな顔だけど、体調は良さそうだ。旦那さんが無事に帰ってきて、ほっとしてるんだろう。

「とんでもない! お気になさらないで下さい」

「代わりと言ってはなんですが、これからも「すかドリ」をよろしくお願いしますね!」

 冗談交じりに、ニコニコとみーちゃんが営業する。さ、さすがだ・・・。

「はい! もちろんですよ~! この娘が毎週のように来たがりますし」

「ママだってノボルくん見たいって言ってるじゃ~ん!」

 あっ、今みーちゃんの顔が一瞬ぴくってした。

 ハル本性すがおを知らない人が顔とか褒めるといつも微妙な顔するんだよなぁみーちゃん。

「さおりだってできれば毎日ライズマンに会いたいけど、すけじゅーるのつごうでガマンしてるだけなんだから!」

 ふん、と小さな鼻を鳴らした。

 勿論、彼女が今日のステージを観に来てくれてた事も知っている。

 何故なら、またしても入場したら目の前にいたからだ。こどもの好きなものへの探究心は時に侮れない・・・。

「そうだ! パパがね、船にのってる時、怪獣を見たんだって!」

「ッ!」

 思わず、心臓が跳ねた。

 あの映像については、横須賀基地の件よりも更にネットで話題になっている。今回は地上波で、目撃者も多かった。

 クロを含む怪獣たちの存在は・・・近いうちに世間の人たちも知る事になるんだろうか。

「でもね、すぐいなくなったんだって! きっと、ライズマンが倒してくれたんだよね!」

「・・・・・・っ!」

 曇りのない瞳と、その言葉が、僕の胸を衝いた。

「もぉ~~さおりったら何でもライズマンなんだから・・・すみませんね~」

「あぁ・・・いえいえ・・・」

「おにーさん! ライズマンに、「ありがとう」って言っておいてね! やくそくだよ!」

 さおりちゃんが、小さな小指を差し出してくる。

 自然と笑顔になって、その場に立ち膝をついた。

「わかった。きちんと「ライズマン」に、伝えておくね」

 そして、きゅっと小指を結び返す。・・・ほんと、こどもには敵わないなぁ。

「・・・あれ? おにーさんの指・・・・・・どこかで・・・」

 そ、そうだ! まずいッ‼ 目の前にいるのはただのこどもじゃない! 常連プロだ‼

「あ、ご、ごめんね! おにいさんまだこの後仕事があってさ~! ライズマンには、約束通りきちんと伝えておくからね~~っ!」

「うん! あとおにーさんも、こないだはママを助けてくれてありがと! スタッフの・・・えっと・・・おっぱいのおねーさんにもありがとうって言っておいてね!」

「コラ! さおり!」

「お、おっぱいのおねーさん・・・」

 誰の事か一発でわかってしまうのが・・・何というか・・・いや、違うからね?

 あの妖精が何と言おうとも僕の趣味じゃないから。絶対違う。絶対。

「よーし! じゃあ見学ついでに、さおりちゃん、一緒にわたあめ食べよっか!」

「たべるーっ!」

「す、すみません本当に・・・」

 みーちゃんが自然にフォローしてくれて、最後にさおりちゃんのお母さんにもう一度頭を下げられ・・・

 三人は、関係者出入り口へと向かっていった。

「・・・・・・だってさ。聴こえてた? 「ライズマン」さん?」

 周りに人の目がない事を確認してから、背中側に向かって話しかける。

「・・・・・・は、はい・・・・・・」

 僕以上にきょろきょろしながら、クロがすぐ近くの給湯室から顔を出した。

 さおりちゃんが話しかけてくるほんの少し前・・・彼女の「ニオイ」を察して、理由も言わずに隠れてしまったのだ。

「・・・ちなみに聞くけど、どうして隠れちゃったの?」

「・・・私・・・その・・・知ったんです・・・こないだ、さおりさんにライズマンの正体を・・・言ってしまいそうになった時に・・・シルフィさんが私を止めた理由を・・・・・・」

 そこまで言うと──ほんの少し顔を上げ、両手を握りしめて、大きな胸を張った。

「「ヒーロー」の正体は・・・ヒミツ・・・なんですよね・・・!」

 太陽のような瞳と、目が合った。合ってしまった。

「・・・・・・シルフィ、何か変な事吹き込んだ?」

 「あえて」だろう。先程から静観を決め込んでいる妖精を問い詰めた。

『まっさかぁ。DVDの再生方法を教えてあげただけだよ~』

「・・・・・・なるほどね・・・・・・」

 僕の部屋には、ポージングやアクションの参考のために──

 買っている途中で結構面白くてハマってしまったヒーロー特撮のDVDが、結構な量あるのだ。

 皆からの追求を躱すために、クロには数日の間留守番をお願いしてたんだけど、まさかその空き時間で「ヒーロー」の勉強をしていたとは思いもよらなんだ・・・。

「・・・クロ。そもそもさおりちゃんはクロの戦う所を見てないんだから、正体がバレようもないよ・・・?」

「ッ‼」

 まなじりの下がった眼を大きく見開いて、クロが驚いた表情を見せ──次の瞬間には、その瞳が潤み始めてしまった。

「うっ・・・うっ・・・えぐっ・・・じゃあ・・・わたし・・・さおり・・・さんに・・・あいさつもできず・・・にっ・・・ひぐっ・・・うえぇ・・・・・・」

『泣~かした~~泣~かした~~! サ~キに言ってやろ~~♪』

「何で一番恐ろしいところ正確に突くの⁉ ほ、ほら! クロ、泣かないで!」

 見た目だけはとってもグラマラスな大人の女性が、知り合いの女児に挨拶できなかっただけで泣いたと知ったら、普通の人はどう思うだろうか・・・・・・いやまず信じないか。

「びぇっ・・・ひぐっ! うえぇ・・・っ!」

「でもほら、さおりちゃん言ってたでしょ! 怪獣はライズマンが倒してくれたんだって!」

「ひぐっ・・・!」

 ほんの少し、クロの涙が引っ込んだ。この機を逃してなるものか──ッ!

「こどもの想像だけど・・・でも、クロが人助けをしたのは事実なんだ! だから今回の件で、間違いなくクロは誰かにとってのライズマン──「ヒーロー」だったんだよ!」

「・・・・・・!」

「さおりちゃんが、「ありがとう」ってさ。「ありがとう」は・・・「がんばれ」とか「あきらめないで」とかと同じ・・・あたたかい言葉だと、僕は思うよ」

 そう言って笑顔を向けると、眉毛は下がったままだけど・・・ようやく泣き止んでくれた。

 ついでに、薄く──微笑んでくれた。


       ※  ※  ※


『マスター。こんな時間にカフェインですか。肌に悪いですよ?』

「・・・うるさい。まだ書類仕事が残ってるんだ。少しくらいいいだろう」

 世間一般で言う「口うるさい母親」のような言葉が右耳から聴こえてくる。

 私には馴染みのない母親像だったが、この歳にしてようやくその煩わしさの一端を垣間見たかも知れない。

 忠告を無視して、紙コップの残りを一気に飲み干し、備え付けのゴミ箱へ。

 ・・・・・・ふむ。業務の合間にほんの少し夜風に当たるだけのつもりだったが・・・コンビニオリジナルコーヒーとやらも悪くない。

 今のところ日本へ帰ってきて一番の発見かもしれないな。

『マザーからは貴女の健康管理も頼まれているんです。マスターは放っておくと、ろくなものを食べないから、と』

「レディーに対して失礼な乗用車だな」

『まさか。「かわいい妹からの伝言」をお伝えしたまでです』

「・・・全く。お前ほど俗な機械など他に見た事がないぞ」

『ご冗談を。私ほど瀟洒しょうしゃな人工知能は他におりません』

 絶え間なく繰り出される軽口にも、だんだんと慣れてきた。

 No.002を撃破し──No.006の奇襲を受け──そして、結果としてNo.007に助けられる事となったあの事件から、数日が経っていた。

 後から聞いた話だが、落とされた報道ヘリのライブ映像にNo.002の足が写り込んでいたとかで、またしても情報課は大忙しのようだ。

 そして、No.007の消息は依然不明のまま。・・・しかし、一種の予感というやつだろうか。

 No.007には・・・また近いうちに会う気がしてならない。

 ・・・・・・ならば、その時こそがヤツの最後だ。ジャガーノートは・・・全て、たおすべき人類の敵なのだから。

『ところで。実は一つ、マスターにお願いが』

「何だ珍しい。ガソリンならさっき入れてやっただろう」

 抑揚のない声が、やけに間を置きたがった。

『・・・名前を、付けていただけないでしょうか。私に』

「名前・・・? <SX-006>・・・ではないのか?」

 随分とおかしなことを言う。思わず、首を傾げてしまった。 

『いいえ。型番ナンバーではなく、愛称なまえです。マザーは、「お姉さまにつけていただきなさいな」と、私に名付けてくださらなかったのです』

「・・・・・・」

 ・・・成程な。これはまたしても、面倒事を押し付けられたものだ。

 しかし──そうだな。私の部隊と<モビィ・ディックⅡ>が帰還できたのは、確かにこの小生意気なバイクの助力が少しはあったからだ。報酬の一つくらいはあっても良いだろう。

「全く・・・どこまでも生意気な奴め」

 名前・・・名前か・・・。

 ジャガーノートの識別名称コードならともかく、仮にも私の部隊の恩人──いや、「一員」に付ける名前なんだ。雑に名付けるのは失礼だろう。

 かといって、JAGDの兵器にならって幻獣の名前を拝借するのもむず痒い。

 どうしたものかと星空を見上げて──ふと、思いついた名前が口をついて出た。


「───「アステリオン」。略して「テリオ」。どうだ?」


『・・・「アステリオン」・・・・・・「りょうけん座」の北側の犬の名前ですか』

「そうだ。気に入らんとは言わせんぞ」

 オレンジ色に煌めく「アークトゥルス」を持つ「うしかい座」のすぐ隣──

 偶然にも、目に入ったのはそちらの星座だった。

 もちろん、自分の二つ名とかけたのもあるが。まぁ・・・今夜くらいはいじられてやってもいい。

『とんでもない・・・ありがとうございます』

 右耳から聴こえてくるのは、いつもと変わらぬ抑揚のない声。

 ただし今のは気のせいか───ほんの少し、嬉しそうに聴こえた。

『しかし・・・マスターにそんな乙女チックな趣味がおありだったとは。これは早速、マザーに報告せねば──』

「やはり貴様は中古ショップ行きだポンコツ」

 照れ隠しだろうとは判っていても、調子に乗らせた事を少し後悔した。

「・・・昔、「ともだち」から教わっただけだ。星の好きな男だったんでな」

「「ともだち」、ですか。マザーからもマスターの交友関係だけはとんと聞いたことがなかったものですから、興味があります。是非、その唯一のご友人のお話を聞かせて下さい」

「おい貴様なぜ今「唯一」と言ったんだ答えろ」

『貴様ではありません。テリオです。マスター』

 これはしばらく続くな、と嫌な予感を抱えながら、話を切り上げようと「テリオ」のシートに跨る。

 いつまでもコンビニの駐車場で電話するフリを続けるのも居心地が悪い。

『・・・まだ、ご存命でいらっしゃるんですよね?』

「・・・・・・生意気な気遣いをするな。私と違って軍人ではないし、次の休みに会いに行く予定だ」

 サラのやつ、余計な知識ばかり植え付けて・・・この<ヘルハウンド>が普及する事があれば、上層部には音声回路の取り外しを採用条件にするよう提案しなければ。

「とっとと基地に戻るぞ。全く・・・こんなところで出くわしでもしたら台無し──」

「もうっ! シルフィ! 外にいる時に髪の毛いじるのやめてってば!」

 ヘルメットをかぶろうとしたまさにその時、コンビニのドアが開いて──

 耳に当てたスマートフォンに向かって文句をつけている青年が視界に入り───

「は、ハヤト・・・・・・?」

「・・・・・・へっ? え、えーっと・・・どなた・・・ですか・・・?」

 「唯一」の「ともだち」の口からは聞きたくなかった一言が、夜空に溶けて消えた。


                       ~第三話へつづく~
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