恋するジャガーノート

まふゆとら

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第二話「英雄の資格」

 第一章「その名はライズマン」・⑤

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 自分のいる組織ながらいまいち慣れないのが、使用兵器の通称だ。

 <モビィ・ディック>や<グルトップ>、<アルミラージ>など、JAGDの兵器には全て神話や伝説、物語の獣たちの名前がつけられている。

 「神話の獣に等しき生物を駆逐できるのもまた神話の獣である」との理念に基づいているとは訓練学校で習ったものの、わざわざそんなに拘る必要があるのかと思わずにはいられない。

 ・・・しかし、先日のキャンベル隊長然り、人というのは、常識を超える出来事に直面した時、示し合わせたかのように必ず自分以外に縋るものだ。

 名前だけで神獣の力にあやかれるなら苦労はないが、未知の生物を相手に明日をも知れぬ戦いを続ける身の上となれば、時には願掛けも必要なのだろう。

『しかしっ! 実はこの試作車は、ただの試作車ではないのですっ!』

「・・・・・・?」

『まぁそれに関しては見てのお楽しみという事にしておきます! でも! 絶対にお姉さまでなければこなせない重要なテストですの! これは断言できますわ!』

 サラの明るい口調に反して、途轍もなく嫌な予感がする。

 正直、今すぐ目の前の男からタブレットを奪い取り、動画を止め、何も見なかった事にして立ち去りたい気持ちでいっぱいだ。

『・・・・・・いつもわがままばかり言って、申し訳ありません。お姉さま』

 ・・・ただ───

『ですが──お姉さまに助けて頂いた後に誓った言葉は・・・・・・今でも忘れておりません』

 そうする事はできそうにない。

『「自らの才能を人類の未来のため、ジャガーノートから世界を守るために使う」・・・あの日から、一日たりとも忘れた事も、違えた事もないつもりですわ!』

 初めて会った時には、泣き虫で死にたがりだった彼女の・・・こんな顔を見せられたら。

『このテストは、私の進めるプロジェクトの中でも特に重要なものですの。だからこそ、お姉さまに・・・「JAGDの隊長」ではなく、お姉さまに、お願いしたいのです』

 録画とはいえ、私に向けられたであろうその眼差しは、どこまでも真剣だった。

『是非とも公に作戦でも使用できるよう、掛け合って下さいまし! また近いうちにお会いできる日を心待ちにしておりますわ! それではごきげんよう!』

 彼女がいつもどおりの人懐っこい笑顔を見せると、画面が暗転した。

「・・・これが、彼女なりの辻褄合わせということか?」

「私からは何とも」

 視線すら動かさずに黒服が答え、車の鍵と──イヤホン?を差し出してくる。

「私が言うのもおこがましいですが」

 前置きするように、黒服が口を開く。

「お嬢様が──社長になられてから、我が社は以前にも増して更にその規模を大きくしています。ですが、そうなればなる程──お嬢様は孤独になりつつあります。足を引っ張ろうとする親族たちは、一人や二人ではありません」

「・・・・・・そうか」

 サラも覚悟しているとは言っていたが・・・やはり予想通り、二代目社長の任は楽な仕事ではないようだな。

「お嬢様を真の意味で支えてあげられるのは、貴女だけです。キリュウ様。何卒今後とも・・・お嬢様の事をよろしくお願い致します」

「・・・全く・・・・・・つくづく手のかかる妹だ」

 溜息を吐きながら、差し出された鍵とイヤホンを手に取る。

「それで、その試作車というのは?」

 泣き落としが通用する女だと思われるのは癪だが、彼女が誓いを守り続けるというなら、私もまた彼女に恥じぬようにしなければなるまい。

「はい。こちらに」

 パチン!と黒服が指を鳴らすと、後ろに控えていたヘリの扉が仰々しく左右に開く。

 すると中から・・・ドライアイスか何かだろうか、白い煙が濛々と這い出てくる。

 次いで、ライトのまばゆい光がヘリの中からもたらされると、ドライアイスの煙幕の中から漏れ出る光が、一つのシルエットを浮かび上がらせた。

「・・・・・・一応聞くが、誰の趣味だ?」

「お嬢様です」

「・・・・・・すまない。聞くだけ野暮だった」

 これと同じ演出を誕生日ケーキでされた事があったのを思い出してしまい、早くも右手に握ったこの鍵を投げ返すべきかを悩んでしまいそうになる。

「・・・! これは・・・」

 意図が特にわからなかった演出の後、煙幕の中に現れたそれは──

「モーターバイク・・・?」

 「試作車」と聞いて、てっきり四輪車を想像していたので、思わず面食らってしまった。

「はい。先程お嬢様からも説明があった通り、型式番号<RM-074>──多目的特殊装甲自動二輪車── <ヘルハウンド> です」

 試作車と言いながら、プレゼンを考えての事だろう。既に、ダークグレイにオレンジの線のJAGD指定カラーリングが施されている。

 一切の視覚的ステルス性を放棄した派手なオレンジ線は、「対人・対国家戦目的の兵器ではない」と示すための意図がある。

  とはいえ、一般人には伏せられている我々の存在も、国連参加国の上層部と軍隊には周知されており、敵味方識別装置I F Fの情報なども共有されているため、各支局の支局長が軍人でないのと同じで「ポーズ」の意味合いが強い。

 勿論、標的の所在が予め判明している──アマゾンの奥地で発見されたNo.004メイザとの戦いなどがよく例に挙げられる──場合は、兵器・装備全てに迷彩塗装を施してから作戦に望むため、あくまで「基本のカラーリング」という扱いではあるのだが。

 それはさておき、大半のジャガーノートは何処に出現するか全く予想がつかない。

 取り回しを考えれば、確かに哨戒任務用としてモーターバイクを用いるのは有効かもしれないな。

「キリュウ様、こちらを」

 もう一人の黒服が、白いヘルメットを手渡してくれる。すぐにでも乗ってくださいと言わんばかりの手厚さ──どうやら、そうする事を求められているらしい。

 偶然にもライダースジャケットを着ていたので都合がいい。

 少なくとも今は軍の備品でなくプレゼントされた私物だ。これで目的地を尋ねる事にしよう。

 ・・・改めて考えるとモーターバイクをポンとプレゼントされてしまった事実にやや目眩がしてきたが、今は気にするまい。

 手元の鍵を見ると、根元の部分にボタンが付いている。

「そちらのボタンが「システム」の起動ボタンとなっております」

「・・・・・・「システム」?」

 途端に嫌な予感がぶり返したが、乗りかかった船だ。今更引き戻すまい。

 私は、促されるままに───スイッチを、押した。

 ブルン!と勢いよくエンジンのかかる音がして、ヘッドライトが点灯する。

 同時に、ひとりでにハンドルが左に切られた。

 バイクが「こっちを向いた」ように見えた瞬間───





『おはようございます。マスター。待ちくたびれましたよ』


「・・・・・・・・・・・・うん?」

 ・・・・・・バイクが・・・・・・しゃべった・・・・・・?
 
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