恋するジャガーノート

まふゆとら

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第六話「狙われた翼 前編」

 第三章「死神」・③

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 うねって伸びる管・・・その先端に付いた触腕が器用に動くと、No.013の周辺に転がっていた戦闘機の残骸を掴み、それをどんどん体内へと運び始めた。

 火がついていようと構わず、鉄屑が股座の内部へと消えていく──ヤツは一体何を───

<アカネ! 気をつけて! 攻撃が来るわ・・・!>

 呆気にとられているところに、今夜何度目かの「声」が届いた。

 の忠告に従うのは現場指揮を行う者として失格だが・・・今は状況が状況だ・・・!

「ユーリャ少尉! 空母から距離を取れ!」

「・・・? ・・・アイ・マム」

 突然の後退指示に戸惑いながら、少尉がハンドルを握ったのと、ほぼ同時───

<キキカカキキキキキ・・・・・・ッ‼>

 駆動音と共に、No.013の背中から──

「・・・まずい・・・っ!」

 一瞬のうちに、全てが繋がる。

 先日の衛星消失事件が、家畜の件と同じく、No.013の仕業だとすると・・・

 ヤツはおそらく、動物をミイラにして栄養を吸い取ったように、事が出来るんだ・・・!

 つまり、今の残骸食いは───「弾薬補給」・・・‼

「全速後退だッ‼ 躱せッ‼」

 ユーリャ少尉も事態を理解したのだろう。

 大急ぎでコンソールに指を走らせ、スクリューを停止。

 次いで「マニューバ・タンク」の前部ジェットから緊急噴射を行い、艦体を無理矢理に退がらせようとするが───

<クキキイィィィ───ッ‼>

 爆音と共に、No.013が全身に生やした砲身から、「鉄球」が発射される。

 起爆する事こそないが、ジェット噴射を使っていると思われる威力ある物理攻撃だ。

 砲口のサイズから察するに、弾一つにつき直径100センチはある。おまけに数も多い。

 海上に顔を出していた<モビィ・ディックⅡ>の艦橋は、高速で飛来した「鉄球」によっていたる所が、第三艦砲内部の弾薬が炸裂し、誘爆が発生──この作戦司令室にも、爆発の衝撃が伝わった。

「ぐうぅ・・・ッ‼ ・・・損害報告・・・!」

「だ、第三艦砲より出火! 第一、第二艦橋にも甚大な被害! い、今の状態では・・・上部構造物が収納できず、<潜航サブマリン>モードに戻せません・・・!」

  マクスウェル中尉からすかさず入った報告に、思わず頭を抱えそうになる。

 一度敵の攻撃が届かない海中へ逃げ込もうと考えていたが、<戦艦バトルシップ>モードが仇になったか・・・!

「だ、第二波! 来ますッ!」
 
 柵山少尉の報告に、跳ねるようにモニターへ目を向けると・・・

 後退したこちらへ向かって、砲身が、再び狙いを定めてくるのが見えた。

「化け物め・・・ッ‼」

 これだけ距離が近いと、ミサイルのたぐいも使えない。

 海中ならともかく、今使える兵装の中で有効打に成り得るものはない・・・!

 現状を打破する方法を、何とか絞り出そうとして──

<だから・・・人類ひとの手に負えるものじゃないって言ったのよ・・・!>

 鼓膜が、ひとりでに震える。

 「声」の主・・・戦闘機並みの速度で周囲を旋回していたNo.011が、再び空母へ突進していく姿がモニターに映っていた。

 その後方では、標的を逃すまいと、六つの塊が未だに追跡を続けている。

<キュルルルルル───‼>

 外部マイクから、再びNo.011の「肉声」が飛び込んでくると・・・ヤツの左瞳が、今までで一番強い光を放った。

 赤い光の尾を引きながら飛ぶ姿は、巨大な曳光弾のようだ。

<キキキ・・・! クカキクカカカカカカ・・・‼>

 目障りな乱入者よりも、No.013は自分の獲物にご執心らしい。

 迫る翼へと身体を翻し、両腕を高く掲げて鋏を開き、突進を待ち構える。

 まるで先程の光景の再現だが──二体がぶつかり合う直前、状況に変化が訪れる。

 甲板上にある、まだスクラップになっていない戦闘機たちが・・・突如、

 同時に、No.011が自らの翼を扇のように折り畳む。

 巨大なシルエットが瞬時に縮小され、空気抵抗が軽減し・・・ただでさえ音速を超えているスピードが、更に上がる。

 予想外の事態に、No.013の反応が僅かに遅れた──刹那。

 無人の戦闘機たちがひとりでに回頭し、鋼鉄の昆虫へ機首ノーズを向けると・・・一斉にミサイルを発射したのである。

 求められる動作の精密さに差があり過ぎるが、宙へ投げ出された乗組員たちを浮かせたのと同じ超能力げんりなのだろう。

<キイィィカカカカカカッッ‼>

 次々に爆炎が上がり、空母の艦上で巨大な黒煙が立ち昇り──

 そして、その煙の壁の中を、No.011が突っ切ってくる。再び翼を広げて翻ると、甲板の方へ振り向いた。

「人類の兵器を・・・難なく使いこなすなんて・・・」

 柵山少尉が唖然としている。・・・Mo.011の存在は、最早、彼の専門分野の埒外だろう。

<気をつけて! まだアレは動いてるわ! とにかく一度、空母から遠ざけて──>

 追って忠告が聴こえるが・・・そこで、何か・・・「違和感」を覚える。

 事態の目まぐるしさの中で・・・一つ、がある事に気付いた。

「───ッ‼ 躱せ‼ ッ‼」

 私の声が、自分に向けられたものだという事に気付いたのだろう。

 No.011が急いで翼を前後させて後退するが──遅かった。

 急浮上して海面近くの獲物を捕らえるサメのように・・・突如、六つの塊が海から飛び上がり、二色の翼に襲いかかった!

 爆炎に紛れて軌道を変え、水中に姿を隠していたんだ・・・!

<キュルルル───‼>

 またしても、No.011は左瞳を発光させる。

 迫り来る塊のうち二つが光に包まれて・・・急激に萎んで圧潰あっかいする──が、残りは止まらない──!

 にわかに、塊の先端から・・・ハチの尾のように、

「なッ・・・‼」

 そしてそのまま──No.011の白い身体へと、四つの弾丸が突き刺さった───!


       ※  ※  ※


「ティータぁぁぁぁぁッッ‼」

 思わず、球体の中で叫んでしまう。

 隣にいたクロが目を潤ませながら悲鳴を上げ、後ろで胡座をかいていたカノンが立ち上がったのが判った。

 あまりの痛々しさに目を逸らしたくなるが・・・歯を食い縛って、自分の弱気を捻じ伏せる。

 ティータが戦ってるんだ・・・! 僕だけが逃げるわけにはいかない・・・‼

<キュル・・・ッ! ルルルル・・・ッッ‼>

 歌うような、透き通った彼女の声が、今は苦悶の叫びと化している。

 と、そこで・・・ティータの白い身体に刺さった鋼鉄の塊が、薄く光っているのが見えた。

「なっ、何だ・・・⁉」

 爆発するのか⁉ と思ったけど、どうやら違うらしい。

 よくよく見れば、塊はただ光っているのではなく、先端・・・ティータに刺さっている方から発生した光が、後方に流れては消えていく動きを繰り返しているのが判った。

『・・・まさか・・・エネルギーを吸い取ってる・・・?』

 ぼそりと、シルフィの呟きが頭の中で響く。

 だとしたら・・・最悪だ・・・! ただでさえティータは疲弊してるのに・・・‼

<キュルルルッッ‼>

 たじろぎながらも、ティータは左瞳を光らせる。

 身体に刺さった四つの塊が、赤い光に包まれるが──しかし。

 それと同時に、塊の下部から煙が噴き出て、あっと言う間にティータから離れ、再び海中へと没する。

 塊が視界から消えるのと同時に、ティータの目の輝きも消えた。

「えっ・・・⁉」

 頭の中が疑問符で埋め尽くされるが・・・すぐに敵の思惑が判った。

 四つの塊は海中を通って、ザムルアトラの元へと戻り・・・その首に今一度収まると・・・今度は逆に、塊の内部から本体に向かって白い光が送られていく。

 あれは、エネルギーを吸い取った上で本体に分け与える──「補給装置」だったんだ・・・!
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