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第七話「狙われた翼 後編」
第二章「共闘」・⑦
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<キュルルルルルッッ‼>
一瞬の攻防の直後──No.011は翼を地面すれすれまで近付け、No.007とNo.012との間に割り込むように突進する。
すると・・・見た目からは想像も出来ない程に硬質なのだろう、鋭利なナイフと化したNo.011の翼によって、前脚とNo.007とを繋ぐ鋼線が断ち切られた。
<グオオオオオオオオオオオッ!>
両腕が自由になったNo.007は全身の鋼線を引き千切り、何とか拘束を脱して後退する。
・・・No.007もNo.011も、やはり、昨夜の戦いで限界を迎えていたのだ。
今のヤツらでは・・・2体がかりであっても、No.013を倒す事は出来ない・・・。
残された術は、在日米海軍艦体による飽和攻撃を以ての殲滅以外にないだろう。
市民の避難が完了次第、付近の施設もろとも、No.013を地上から消し去るのだ・・・囚われのNo.012と共に。
・・・JAGDとしては、正しい決断だ。
ジャガーノートの殲滅こそが我々の任務で、そうする事が最善だと、理性は訴えている。
だが、同時に・・・心のどこかで、「最高」ではなく、「最善」の結末を受け入れる事に、悔しさを覚えている自分もいる。
「・・・あと、一手・・・・・・」
ひとりでに、口が動いたような感覚があった。
・・・世迷い言だと、No.011に感化された女々しい考えだと、唾棄すべきだ。
・・・・・・そう自覚していても、それでも───
理性に反して強く握った拳は、あと一度の奇跡を欲していた。
※ ※ ※
<グオオォォ・・・ッ! オオオォォ・・・ッ!>
傷ついたクロが、浅い呼吸を繰り返している。
持ち前の回復力のお陰か、傷口からの出血はすぐに止んだけど・・・その分、明らかに体力を消費している。
傍目に見ても、ザムルアトラを睨み付ける眼光に力が失くなってきているのが見て取れる。
あらゆる手を使って、あらゆるものを傷付け踏み躙る、鉄の悪魔──ザムルアトラ。
無敵とも思えるあのロボットを倒す手立てはあるのか・・・何か突破口はないかと、目を皿にして戦場を見渡し、ヒントを探す。
・・・・・・本心では、シルフィに今すぐクロを引っ込めてくれと懇願したくてたまらない。
でも、今回それが出来ないのは、さっき彼女から聞いたばかりだ。
それに・・・僕はクロを信じると決めた。だからまだ・・・僕が諦めるわけにはいかない。
だって、クロは───まだ諦めていない!
そう自分に言い聞かせ、ぐっと奥歯を噛み締めた、その時───
<・・・ごめんなさい。もう、いいわ・・・・・・充分、やったわよ>
ティータの「声」が・・・そんな僕の肩の荷を下ろそうと、優しく鼓膜を撫ぜた。
<シルフィ、クロを退がらせて。そうすれば、狙いは私だけになる。・・・その状態で、私がアレを宇宙へ誘導するわ。・・・私一人でも持ち帰れば、満足するでしょう>
ティータは、矢継ぎ早に言葉を重ねていく。・・・自分自身に言い聞かせるように。
「そ・・・っ! そんな・・・! それじゃあ、オラティオンは・・・!」
<・・・・・・私の、力不足だわ。もう、どうしようもない・・・>
項垂れて、白磁の鎧が頭を振る。
儚げに揺れたように見えた二色の瞳の視線の先では、ザムルアトラが前脚の一部を変形させ、体勢を立て直しつつあった。
『・・・クロの事も狙ってるなら、ティータを捕まえた後に戻ってくる可能性もある。キミが犠牲になったって、ザムルアトラが諦める保障はないんじゃない?』
シルフィが・・・あえて、だろう。少し突き放すようにティータに話しかける。
・・・しかし、二色の瞳は、頑なにこちらを向こうとはしなかった。
<そうだとしても・・・これ以上・・・クロを傷つけるわけにはいかないわ・・・・・・!>
・・・彼女の提案は──ともすれば、甘美な誘いだったのかも知れない。
何度立ち向かっても、それを上回り、こちらを圧倒してくる敵を相手にして・・・
きっと、不屈の精神を持ち続ける方が難しいんだ。
責任感だけでは果たしきれない問題が、ティータの痩躯にのしかかって・・・彼女は、オラティオンより、クロを選んだ──
そういう事なんだ。
───けれど、それでも─────
「─────フザケんな」
そうする事を許さない声が・・・一つ、あった。
<カ・・・ノン・・・・・・?>
カノンが──吼える。心のままに、言葉を紡いでいく。
「勝手にあの赤毛の命にセキニン感じて戻ってきたと思ったら・・・次は一本角を傷つけたくないから諦めるだとッ⁉ てめぇは・・・誰も傷つけねぇためにヒトリを選んだんじゃなかったのかよッ‼ 言う事コロコロ変えやがって・・・! やっぱりてめぇの言葉はペラッペラだ‼」
逸らされていたままだったティータの瞳が、こちらを向いていた。
「てめぇは相手の考えがわかるからって・・・相手が欲しがってる事ばかり言いやがる・・・!そんな言葉に・・・誇りは宿らねぇ! 何も守れやしねぇッ‼」
ぐっと奥歯を噛み締めて・・・今一度、カノンが吼える。
「てめぇの言葉には───どこにもてめぇがいねぇんだッッ‼」
<ッ・・・‼>
驚愕している様子のティータに、なおもカノンは語りかける。
「・・・一本角はなァ・・・! ボロボロになっても立ち向かうんだ・・・! 顔もナマエも知らねぇヤツのためにだって‼ 自分が守りたいから・・・そうすんだッ‼」
言っているのは、カナダでの戦いの事だ。
僕の考えていた以上に──あの時のクロの姿は、カノンの心を打っていたらしい。
<・・・グルルル・・・ッ!>
名前を呼ばれたからか・・・あるいは、理解してもらえたからか・・・。
球体の外で、肩で息をしていたクロの目が見開かれ、その瞳に再び火が灯ったのが見えた。
「───言えよッ‼ ハネムシッ‼ ・・・てめぇは・・・てめぇ自身はどうしてぇんだよ‼」
その叫びは、怒っている以上に・・・悔しそうだった。
きっと、「家族を守る」事を誇りとする彼女だからこそ・・・信念のない戦いが許せないんだ。
そして、それはきっと──諦めたくない想いを持っているのは、きっと────
<・・・・・・全く・・・ほんっとに煩いトカゲちゃんね・・・・・・>
───ティータだって、同じはずなんだ。
<・・・そうね。私は少し・・・勘違いをしていたわ。・・・独りで何でも出来るって・・・独りで何でもしなくちゃならないって・・・・・・孤独を、色んな事を諦める理由にしていた>
言いながら、クロの言葉を思い出したのか・・・ティータは彼女の方をちらりと見る。
<いつの間にか、自分がどう見られているか、どう思われているかばかり気にして・・・自分が何処を飛んでいるのかも・・・判らなくなっていたのかも知れないわ>
自分の力と向き合うために、独りになる事を選んだというティータ。
・・・僕には想像も出来ないくらい、色んな経験をしてきたのだろう・・・彼女の言う「永い時間」の中で。
<でも・・・そうよね・・・時には、心のままに──。私自身がしたい事・・・私・・・私は───>
だけど今──彼女は、自らその枷を壊そうとしている。自分の、心のままに。
<───自分の力に負けたくない・・・! あの鉄屑にも負けたくない・・・! 今この時も苦しんでいるあの子を・・・絶対に助けたい・・・‼>
自分でしまい込んでいた気持ちを、思いつくままに、彼女は口にする。
<・・・・・・それに・・・>
そして──最後に、一際大きな声で、彼女は叫んだ。
<・・・・・・本当は・・・まだ・・・・・・あなたたちと一緒にいたい・・・・・・っ‼>
「ティータ・・・‼」
思わず、目の端から涙が溢れた。こらえようとしても、なかなかおさまらない。
・・・だって、彼女が言ってくれた本音は、そのまま僕たちが聞きたかった願いだったから。
「・・・ケッ! ・・・ンだよ・・・きちんと言えんじゃねーか」
口ぶりだけはつまらなそうに──カノンは、笑いながらそう言った。
<ギギギャアアアアアアアアアッッ‼>
そこで、オラティオンの叫び声を伴って・・・
体勢を立て直したザムルアトラの全身から、再び紫色の光が放たれ始める。
「──オイ! キラバエ!」
それを見て、全員に緊張が走り・・・カノンがシルフィに向かって叫んだ。
『・・・・・・まさか、ボクのこと?』
・・・呼び方に関しては、ものすごく不満そうだ。
「他に誰がいんだよ! ───ここで一本角とハネムシに死なれちゃ寝覚めがわりぃんだ‼ アタシも出んぞ‼」
『・・・ふぅ~ん。人には本音言え~とか説教しておいて、自分はその調子なんだぁ~?』
「ま、まぁまぁ・・・!」
言い方はアレだけど、カノンは素直じゃないだけで、自分の心に正直だとは思うし・・・
彼女の中では筋が通っているんだろう。・・・・・・多分。
『全く・・・ただでさえ疲れてるっていうのに・・・遠慮ナシに言ってくれるんだから』
溜息を吐きながらも、カノンの体がオレンジ色に光り始める。
「へへっ! そうこなくっちゃな!」
球体の外では、怪光の輝きが最高潮に達しようとしていた。
オラティオンが大口を開くと、痛々しくも口内から砲身がせり出てくる。
クロとティータが、その瞬間を身構えた。
「・・・チッ! しょうがねぇ・・・ッ‼」
カノンがボソッと呟き──直後、白い稲妻となって、瞬時に空へ。
それとほぼ同時に、オラティオンの口から悲鳴と共に破壊光線が放たれる。
<キュルルルルル───>
ティータが光線を逸らすため、左瞳に力を込めようとして・・・
やはり力が足りないのか、赤い光は明滅し、持続できずにいる。
───でも・・・こんなところで終われないよね───カノンッ‼
<グルルァァァアアアアアアアアッッッ‼>
雷鳴のような鳴き声が轟いて──
クロとティータの目の前に、黒光りする二本の角を持つ、緑の皮膚の巨大な恐竜・・・レイガノンが現れる。
紫色の光線が、その巨体を飲み込もうとする直前・・・
直撃を受けるはずのカノンの横腹から、水色のエネルギーが迸り、光線の威力を相殺した。
<クキキキ───ッ⁉ キカカカカカカカカッッッ‼>
突如として現れた新たな怪獣を前にして・・・ザムルアトラは動揺しつつも、更に光線の威力を上げてきた。
全身の球体から放たれる光は輝きを増していく。
<グルルルアアアアアアアアアアアッッッ‼>
しかし、それに対抗して、カノンもまた咆哮する。
雷に似た水色の光は、何もかもを焼き尽くしてきた光線をなおも抑え続け──やがて、霧散させた。
<クキキイイィィッッ⁉ クカッ! クカキキキカカカカッッ・・・‼>
ザムルアトラは、明らかに狼狽えている。
───これが・・・カノンの・・・守るための力なんだ・・・・・・‼
『・・・・・・まぁ、口だけじゃないところは、カノンのいいとこかもね』
・・・気付いているのかいないのか、シルフィもカノンと同じくらい素直じゃないなぁ。
紫色の光線が完全に立ち消えて・・・クロが、カノンの横へ進み出る。
その隣で、ティータも翼をはためかせ、前へ。
───そして遂に、三体の怪獣が並び立った。
<グオオオオオオオオオッッ‼>
<グルァァアアアアアアアッッ‼>
<キュルルルルル────‼>
三つの咆哮が、空気を震わせる。
感動のあまり・・・気づかないうちに、拳を握っていた。
・・・そうだ。きっと・・・きっとあの三人なら──必ず勝ってくれる──‼
僕に出来る事は、みんなを信じる事・・・そして、応援する事・・・!
「クロッ! カノンッ! ティータッ! みんな・・・頑張ってッ‼」
思いの限り、力の限り──全力で、叫ぶ。
そしてそれを合図に・・・ザムルアトラとの最後の戦いの幕が、切って落とされた───
~第三章へつづく~
一瞬の攻防の直後──No.011は翼を地面すれすれまで近付け、No.007とNo.012との間に割り込むように突進する。
すると・・・見た目からは想像も出来ない程に硬質なのだろう、鋭利なナイフと化したNo.011の翼によって、前脚とNo.007とを繋ぐ鋼線が断ち切られた。
<グオオオオオオオオオオオッ!>
両腕が自由になったNo.007は全身の鋼線を引き千切り、何とか拘束を脱して後退する。
・・・No.007もNo.011も、やはり、昨夜の戦いで限界を迎えていたのだ。
今のヤツらでは・・・2体がかりであっても、No.013を倒す事は出来ない・・・。
残された術は、在日米海軍艦体による飽和攻撃を以ての殲滅以外にないだろう。
市民の避難が完了次第、付近の施設もろとも、No.013を地上から消し去るのだ・・・囚われのNo.012と共に。
・・・JAGDとしては、正しい決断だ。
ジャガーノートの殲滅こそが我々の任務で、そうする事が最善だと、理性は訴えている。
だが、同時に・・・心のどこかで、「最高」ではなく、「最善」の結末を受け入れる事に、悔しさを覚えている自分もいる。
「・・・あと、一手・・・・・・」
ひとりでに、口が動いたような感覚があった。
・・・世迷い言だと、No.011に感化された女々しい考えだと、唾棄すべきだ。
・・・・・・そう自覚していても、それでも───
理性に反して強く握った拳は、あと一度の奇跡を欲していた。
※ ※ ※
<グオオォォ・・・ッ! オオオォォ・・・ッ!>
傷ついたクロが、浅い呼吸を繰り返している。
持ち前の回復力のお陰か、傷口からの出血はすぐに止んだけど・・・その分、明らかに体力を消費している。
傍目に見ても、ザムルアトラを睨み付ける眼光に力が失くなってきているのが見て取れる。
あらゆる手を使って、あらゆるものを傷付け踏み躙る、鉄の悪魔──ザムルアトラ。
無敵とも思えるあのロボットを倒す手立てはあるのか・・・何か突破口はないかと、目を皿にして戦場を見渡し、ヒントを探す。
・・・・・・本心では、シルフィに今すぐクロを引っ込めてくれと懇願したくてたまらない。
でも、今回それが出来ないのは、さっき彼女から聞いたばかりだ。
それに・・・僕はクロを信じると決めた。だからまだ・・・僕が諦めるわけにはいかない。
だって、クロは───まだ諦めていない!
そう自分に言い聞かせ、ぐっと奥歯を噛み締めた、その時───
<・・・ごめんなさい。もう、いいわ・・・・・・充分、やったわよ>
ティータの「声」が・・・そんな僕の肩の荷を下ろそうと、優しく鼓膜を撫ぜた。
<シルフィ、クロを退がらせて。そうすれば、狙いは私だけになる。・・・その状態で、私がアレを宇宙へ誘導するわ。・・・私一人でも持ち帰れば、満足するでしょう>
ティータは、矢継ぎ早に言葉を重ねていく。・・・自分自身に言い聞かせるように。
「そ・・・っ! そんな・・・! それじゃあ、オラティオンは・・・!」
<・・・・・・私の、力不足だわ。もう、どうしようもない・・・>
項垂れて、白磁の鎧が頭を振る。
儚げに揺れたように見えた二色の瞳の視線の先では、ザムルアトラが前脚の一部を変形させ、体勢を立て直しつつあった。
『・・・クロの事も狙ってるなら、ティータを捕まえた後に戻ってくる可能性もある。キミが犠牲になったって、ザムルアトラが諦める保障はないんじゃない?』
シルフィが・・・あえて、だろう。少し突き放すようにティータに話しかける。
・・・しかし、二色の瞳は、頑なにこちらを向こうとはしなかった。
<そうだとしても・・・これ以上・・・クロを傷つけるわけにはいかないわ・・・・・・!>
・・・彼女の提案は──ともすれば、甘美な誘いだったのかも知れない。
何度立ち向かっても、それを上回り、こちらを圧倒してくる敵を相手にして・・・
きっと、不屈の精神を持ち続ける方が難しいんだ。
責任感だけでは果たしきれない問題が、ティータの痩躯にのしかかって・・・彼女は、オラティオンより、クロを選んだ──
そういう事なんだ。
───けれど、それでも─────
「─────フザケんな」
そうする事を許さない声が・・・一つ、あった。
<カ・・・ノン・・・・・・?>
カノンが──吼える。心のままに、言葉を紡いでいく。
「勝手にあの赤毛の命にセキニン感じて戻ってきたと思ったら・・・次は一本角を傷つけたくないから諦めるだとッ⁉ てめぇは・・・誰も傷つけねぇためにヒトリを選んだんじゃなかったのかよッ‼ 言う事コロコロ変えやがって・・・! やっぱりてめぇの言葉はペラッペラだ‼」
逸らされていたままだったティータの瞳が、こちらを向いていた。
「てめぇは相手の考えがわかるからって・・・相手が欲しがってる事ばかり言いやがる・・・!そんな言葉に・・・誇りは宿らねぇ! 何も守れやしねぇッ‼」
ぐっと奥歯を噛み締めて・・・今一度、カノンが吼える。
「てめぇの言葉には───どこにもてめぇがいねぇんだッッ‼」
<ッ・・・‼>
驚愕している様子のティータに、なおもカノンは語りかける。
「・・・一本角はなァ・・・! ボロボロになっても立ち向かうんだ・・・! 顔もナマエも知らねぇヤツのためにだって‼ 自分が守りたいから・・・そうすんだッ‼」
言っているのは、カナダでの戦いの事だ。
僕の考えていた以上に──あの時のクロの姿は、カノンの心を打っていたらしい。
<・・・グルルル・・・ッ!>
名前を呼ばれたからか・・・あるいは、理解してもらえたからか・・・。
球体の外で、肩で息をしていたクロの目が見開かれ、その瞳に再び火が灯ったのが見えた。
「───言えよッ‼ ハネムシッ‼ ・・・てめぇは・・・てめぇ自身はどうしてぇんだよ‼」
その叫びは、怒っている以上に・・・悔しそうだった。
きっと、「家族を守る」事を誇りとする彼女だからこそ・・・信念のない戦いが許せないんだ。
そして、それはきっと──諦めたくない想いを持っているのは、きっと────
<・・・・・・全く・・・ほんっとに煩いトカゲちゃんね・・・・・・>
───ティータだって、同じはずなんだ。
<・・・そうね。私は少し・・・勘違いをしていたわ。・・・独りで何でも出来るって・・・独りで何でもしなくちゃならないって・・・・・・孤独を、色んな事を諦める理由にしていた>
言いながら、クロの言葉を思い出したのか・・・ティータは彼女の方をちらりと見る。
<いつの間にか、自分がどう見られているか、どう思われているかばかり気にして・・・自分が何処を飛んでいるのかも・・・判らなくなっていたのかも知れないわ>
自分の力と向き合うために、独りになる事を選んだというティータ。
・・・僕には想像も出来ないくらい、色んな経験をしてきたのだろう・・・彼女の言う「永い時間」の中で。
<でも・・・そうよね・・・時には、心のままに──。私自身がしたい事・・・私・・・私は───>
だけど今──彼女は、自らその枷を壊そうとしている。自分の、心のままに。
<───自分の力に負けたくない・・・! あの鉄屑にも負けたくない・・・! 今この時も苦しんでいるあの子を・・・絶対に助けたい・・・‼>
自分でしまい込んでいた気持ちを、思いつくままに、彼女は口にする。
<・・・・・・それに・・・>
そして──最後に、一際大きな声で、彼女は叫んだ。
<・・・・・・本当は・・・まだ・・・・・・あなたたちと一緒にいたい・・・・・・っ‼>
「ティータ・・・‼」
思わず、目の端から涙が溢れた。こらえようとしても、なかなかおさまらない。
・・・だって、彼女が言ってくれた本音は、そのまま僕たちが聞きたかった願いだったから。
「・・・ケッ! ・・・ンだよ・・・きちんと言えんじゃねーか」
口ぶりだけはつまらなそうに──カノンは、笑いながらそう言った。
<ギギギャアアアアアアアアアッッ‼>
そこで、オラティオンの叫び声を伴って・・・
体勢を立て直したザムルアトラの全身から、再び紫色の光が放たれ始める。
「──オイ! キラバエ!」
それを見て、全員に緊張が走り・・・カノンがシルフィに向かって叫んだ。
『・・・・・・まさか、ボクのこと?』
・・・呼び方に関しては、ものすごく不満そうだ。
「他に誰がいんだよ! ───ここで一本角とハネムシに死なれちゃ寝覚めがわりぃんだ‼ アタシも出んぞ‼」
『・・・ふぅ~ん。人には本音言え~とか説教しておいて、自分はその調子なんだぁ~?』
「ま、まぁまぁ・・・!」
言い方はアレだけど、カノンは素直じゃないだけで、自分の心に正直だとは思うし・・・
彼女の中では筋が通っているんだろう。・・・・・・多分。
『全く・・・ただでさえ疲れてるっていうのに・・・遠慮ナシに言ってくれるんだから』
溜息を吐きながらも、カノンの体がオレンジ色に光り始める。
「へへっ! そうこなくっちゃな!」
球体の外では、怪光の輝きが最高潮に達しようとしていた。
オラティオンが大口を開くと、痛々しくも口内から砲身がせり出てくる。
クロとティータが、その瞬間を身構えた。
「・・・チッ! しょうがねぇ・・・ッ‼」
カノンがボソッと呟き──直後、白い稲妻となって、瞬時に空へ。
それとほぼ同時に、オラティオンの口から悲鳴と共に破壊光線が放たれる。
<キュルルルルル───>
ティータが光線を逸らすため、左瞳に力を込めようとして・・・
やはり力が足りないのか、赤い光は明滅し、持続できずにいる。
───でも・・・こんなところで終われないよね───カノンッ‼
<グルルァァァアアアアアアアアッッッ‼>
雷鳴のような鳴き声が轟いて──
クロとティータの目の前に、黒光りする二本の角を持つ、緑の皮膚の巨大な恐竜・・・レイガノンが現れる。
紫色の光線が、その巨体を飲み込もうとする直前・・・
直撃を受けるはずのカノンの横腹から、水色のエネルギーが迸り、光線の威力を相殺した。
<クキキキ───ッ⁉ キカカカカカカカカッッッ‼>
突如として現れた新たな怪獣を前にして・・・ザムルアトラは動揺しつつも、更に光線の威力を上げてきた。
全身の球体から放たれる光は輝きを増していく。
<グルルルアアアアアアアアアアアッッッ‼>
しかし、それに対抗して、カノンもまた咆哮する。
雷に似た水色の光は、何もかもを焼き尽くしてきた光線をなおも抑え続け──やがて、霧散させた。
<クキキイイィィッッ⁉ クカッ! クカキキキカカカカッッ・・・‼>
ザムルアトラは、明らかに狼狽えている。
───これが・・・カノンの・・・守るための力なんだ・・・・・・‼
『・・・・・・まぁ、口だけじゃないところは、カノンのいいとこかもね』
・・・気付いているのかいないのか、シルフィもカノンと同じくらい素直じゃないなぁ。
紫色の光線が完全に立ち消えて・・・クロが、カノンの横へ進み出る。
その隣で、ティータも翼をはためかせ、前へ。
───そして遂に、三体の怪獣が並び立った。
<グオオオオオオオオオッッ‼>
<グルァァアアアアアアアッッ‼>
<キュルルルルル────‼>
三つの咆哮が、空気を震わせる。
感動のあまり・・・気づかないうちに、拳を握っていた。
・・・そうだ。きっと・・・きっとあの三人なら──必ず勝ってくれる──‼
僕に出来る事は、みんなを信じる事・・・そして、応援する事・・・!
「クロッ! カノンッ! ティータッ! みんな・・・頑張ってッ‼」
思いの限り、力の限り──全力で、叫ぶ。
そしてそれを合図に・・・ザムルアトラとの最後の戦いの幕が、切って落とされた───
~第三章へつづく~
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