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第十話「運命の宿敵 後編」
第二章 「明かされる過去‼その力は誰が為に‼」・④
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「隊長、提案が」
「おいおい、今の隊長は君だ」
「・・・ではグプタ中尉。提案があります。大雨を待ちましょう」
その提案に、周りの皆さんはぽかんとされていらっしゃいましたが・・・私はすぐ、お姉さまの意図が判りましたわ。
・・・そこで発言する勇気は、その時の私にはありませんでしたが。
「・・・確信というには心許ないですが、ヤツらは聴覚に頼っていると思われます」
周囲の反応を見て、お姉さまは提案の根拠について解説を始められました。
「鼻の効く可能性も考えましたが、それなら、わざわざ負傷させた獲物を巣に帰らせたりせず、匂いを辿ってくるはず・・・やたらと鳴き声を上げる所からしても、ヤツらが暗闇の中で頼りにしているのは、耳だと推測しました」
「・・・! そうか! 雨音で耳が封じられた状況で動く、という事だな?」
中尉もピンと来たのでしょう。お姉さまは静かに首肯されました。
「それと、希望的観測ですが、音の強い方へ向かえば外へ出られるかも知れません」
「成程・・・! 最高だ新隊長! 反対する理由はないな!」
お姉さまの提案が魅力的だったお陰か、中尉のお墨付きを得たお陰か──警備課のお二人の目にも、活力が戻っていくような・・・そんな雰囲気が訪れました。
その時はちょうど7月で、雨期の真っ只中でしたし・・・求めている大雨はきっとすぐに降ってくれるだろうと、そんな期待もあったのだと思います。
──ですがお姉さまは、緩んだ空気を、即座に容赦なく切り捨てられました。
「ですが、問題が一つ。・・・ヤツらの「目」です」
「さっきは聴覚に頼っていると言っていたのに」──そんな疑問を含んだ視線が集まると、お姉さまは用意していた答えを淡々と返されたのです。
「あの大きな目玉は、暗闇の中で僅かな光を逃さないように進化したものかと思われます。その証拠に、先程の戦闘では懐中電灯の明かりで怯んでいました。・・・ただ・・・・・・」
「・・・裏を返せば、完全な暗闇の中では、聴覚を封じたとしてもまだ向こうの方が有利・・・って事だな?」
中尉の言葉に、再びお姉さまは首肯されました。
・・・同時に、一度は開けた活路が、途端に閉ざされてしまったような・・・そんな空気に場が支配された気がしましたわ。
「対策としては、出来る限り全周囲を照らすようにするしかないでしょうね・・・それでも、集団で来られるとかなり厳しい。・・・閃光手榴弾でもあれば楽なのですが──」
──そして、その時の私はきっと、そんな空気をどうにかしたいと・・・
生意気にも、本気でそう思ってしまったのだと思います
「・・・・・・ファイヤースターター・・・」
気付けば、無意識に頭に浮かんだ事が、口から漏れていたんです。
「・・・?」
咄嗟に口を塞ぎましたが・・・皆さんの疑問符に満ちた視線が、次は私に集まっていて・・・
昨日「死ぬのが怖くなった」と言ったばかりなのに、恥ずかしさのあまり「死んでしまいたい!」と・・・そう思いながら火照る顔を背けようとした、その時───
「・・・! そうか! マグネシウム・・・!」
お姉さまだけは・・・私の申し上げたかった事に、気付いて下さったんです。
そして、それから約30時間後──遂に、決行の時は訪れました。
その日は少し息苦しいくらいに湿度が高く、洞窟の壁が微かに震える程に雨音も強く・・・きっと外では滝のような雨が降っているのだと、全員が確信しました。
「・・・行くなら、今日だな」
・・・それに、既に私も含め、全員の限界も近かったように思います。
食糧は昨日の内に底を尽き、節約していた水ももうほとんど残っておらず──おまけにいつ襲われるか判らない緊張感に晒され続けて・・・精神をすり減らしていたのでしょう。
ぼんやりとしか見えない視界でも、皆さんのお顔が明らかに憔悴されているのが見て取れました。鏡を見れば、きっと私も同じような状態だったと思います。
──そのような状況だったのもあって、脱出を決断されてからの行動は早かったですわ。
食糧の残りもなく、余計なものは全て置いていく事にしたため、かなり身軽になっていました。
私などはほとんど身一つといった具合で・・・皆さんも、持ち物と言えば肩から提げているM4と、ホルスターに入ったM9と──
そうそう、忘れてはいけないものが一つ。
「・・・・・・本当に、こんなんで大丈夫ですかね・・・?」
警備課の方が不安そうな視線を向けていたのは──
私のアイデアから生まれた、「手作り閃光手榴弾」でした。
ファイヤースターター・・・別名はメタルマッチ。
あれはマグネシウム塊をナイフなどで摩擦して、火花を発生させて火を点けるものです。
そして、閃光手榴弾に用いられる炸薬の主成分も、マグネシウム・・・もうお解りかと思いますが、ファイヤースターターのマグネシウムを使って、即席の閃光手榴弾──と言うより照明弾の方が近いでしょうか──を拵えたのです。
レーションの空き缶に、マグネシウム粉と弾丸の火薬と余った缶を細かく砕いた金属片を混ぜて作った炸薬を詰め込んだ後、そこに中尉持ち込みのウイスキーに浸した糸くずの導火線を挿してテープで蓋をしただけのお粗末なものでしたが・・・
「感謝する。君のお陰で、有用な武器が一つ増えた」
お姉さまは「胸を張れ」と、言外に伝えて下さいました。
着火用のマグネシウムも残しておく必要があり、たったの2個しか作れませんでしたが・・・少しだけでも皆さんに貢献出来た気がして、誇らしかったですわ。
「ははっ。ここまでやっておいて、普通に救助隊が来てくれたら俺たち笑いものだな」
「私としてはそれが一番望ましいですが」
出発の直前、中尉は相変わらず冗談を飛ばしておられましたが・・・
対するお姉さまは、少し眉尻を下げて、中尉に問いかけられていらっしゃいました。
「・・・行けますか、中尉」
「あぁ。かなりマシになった。なんなら走るのも余裕だぞ?」
・・・・・・嘘・・・だったのだと思います。
水も食糧もない状態でこれ以上救助を待つ事は出来ませんでしたし、脱出のチャンスはこの時を置いて他にないと、中尉も判っておられたのでしょう。
「・・・判りました。出発しましょう」
そんな心境を察して、今は進むしかないと・・・お姉さまも、言葉を飲み込まれました。
そして、ほとんどの荷物をその場に置き去りにし──私たちは、出発しました。
・・・お恥ずかしながら、「反動に耐えられない」という理由で私は銃を持たせて頂けず、四方を皆さんに守っていただくような形で隊列を組む事になりました。
歩いている最中は、ガラムたちが「音」を頼りにしているという推測から、口を開こうとする方は誰一人おらず、緊張と不安とで、空気は重く張り詰めていました。
無言のまま、お姉さまの先導に従って── 15分ほど歩いた頃でしょうか。
「・・・・・・ッ‼」
照らされた視界に・・・突然、ガラムが映り込んだのです。
「前方に2体──撃てッ‼」
お姉さまは即座に、私の両脇にいらっしゃった警備課の方々に発砲を命じ・・・お二人も顔を強張らせつつ、しっかりとそれに応えられました。
<ガアァ・・・ガァッ⁉ ガアアアァァッ⁉>
そして、こちらの動きに反応できず──2体のガラムは、50メートルほど先で反撃の間もなく蜂の巣にされ、すぐに動かなくなりました。
「よし、銃を下げろ。・・・やはり、雨音でヤツらの感覚は鈍っているようだな」
穴だらけの死体を見下ろしながら、お姉さまはそう呟かれました。
「ふぅ・・・打ち合わせ通りにいきましたね、新隊長」
「あぁ。よくやってくれた。だが、次からはもっと弾を節約しろ」
「も、申し訳ありません・・・マム」
お姉さまはあまり強くおっしゃいませんでしたが、残弾の件は死活問題でした。
灯りを消して行く方が不利なため、私たちは遭遇戦を繰り返しながら進む事を強いられており・・・
残弾が心許なく人員も少ないあの時の状況では、脱出までに戦闘を1回でも少なくし、弾丸を1発でも無駄にしない事が、最も重要な作戦だったのです。
「今の銃声で他のヤツに気づかれたかもしれないな・・・ここをすぐ離れるぞ」
お姉さまの一言で、私たちは勝利の余韻に浸る暇もなく、再び歩き始めました。
「おいおい、今の隊長は君だ」
「・・・ではグプタ中尉。提案があります。大雨を待ちましょう」
その提案に、周りの皆さんはぽかんとされていらっしゃいましたが・・・私はすぐ、お姉さまの意図が判りましたわ。
・・・そこで発言する勇気は、その時の私にはありませんでしたが。
「・・・確信というには心許ないですが、ヤツらは聴覚に頼っていると思われます」
周囲の反応を見て、お姉さまは提案の根拠について解説を始められました。
「鼻の効く可能性も考えましたが、それなら、わざわざ負傷させた獲物を巣に帰らせたりせず、匂いを辿ってくるはず・・・やたらと鳴き声を上げる所からしても、ヤツらが暗闇の中で頼りにしているのは、耳だと推測しました」
「・・・! そうか! 雨音で耳が封じられた状況で動く、という事だな?」
中尉もピンと来たのでしょう。お姉さまは静かに首肯されました。
「それと、希望的観測ですが、音の強い方へ向かえば外へ出られるかも知れません」
「成程・・・! 最高だ新隊長! 反対する理由はないな!」
お姉さまの提案が魅力的だったお陰か、中尉のお墨付きを得たお陰か──警備課のお二人の目にも、活力が戻っていくような・・・そんな雰囲気が訪れました。
その時はちょうど7月で、雨期の真っ只中でしたし・・・求めている大雨はきっとすぐに降ってくれるだろうと、そんな期待もあったのだと思います。
──ですがお姉さまは、緩んだ空気を、即座に容赦なく切り捨てられました。
「ですが、問題が一つ。・・・ヤツらの「目」です」
「さっきは聴覚に頼っていると言っていたのに」──そんな疑問を含んだ視線が集まると、お姉さまは用意していた答えを淡々と返されたのです。
「あの大きな目玉は、暗闇の中で僅かな光を逃さないように進化したものかと思われます。その証拠に、先程の戦闘では懐中電灯の明かりで怯んでいました。・・・ただ・・・・・・」
「・・・裏を返せば、完全な暗闇の中では、聴覚を封じたとしてもまだ向こうの方が有利・・・って事だな?」
中尉の言葉に、再びお姉さまは首肯されました。
・・・同時に、一度は開けた活路が、途端に閉ざされてしまったような・・・そんな空気に場が支配された気がしましたわ。
「対策としては、出来る限り全周囲を照らすようにするしかないでしょうね・・・それでも、集団で来られるとかなり厳しい。・・・閃光手榴弾でもあれば楽なのですが──」
──そして、その時の私はきっと、そんな空気をどうにかしたいと・・・
生意気にも、本気でそう思ってしまったのだと思います
「・・・・・・ファイヤースターター・・・」
気付けば、無意識に頭に浮かんだ事が、口から漏れていたんです。
「・・・?」
咄嗟に口を塞ぎましたが・・・皆さんの疑問符に満ちた視線が、次は私に集まっていて・・・
昨日「死ぬのが怖くなった」と言ったばかりなのに、恥ずかしさのあまり「死んでしまいたい!」と・・・そう思いながら火照る顔を背けようとした、その時───
「・・・! そうか! マグネシウム・・・!」
お姉さまだけは・・・私の申し上げたかった事に、気付いて下さったんです。
そして、それから約30時間後──遂に、決行の時は訪れました。
その日は少し息苦しいくらいに湿度が高く、洞窟の壁が微かに震える程に雨音も強く・・・きっと外では滝のような雨が降っているのだと、全員が確信しました。
「・・・行くなら、今日だな」
・・・それに、既に私も含め、全員の限界も近かったように思います。
食糧は昨日の内に底を尽き、節約していた水ももうほとんど残っておらず──おまけにいつ襲われるか判らない緊張感に晒され続けて・・・精神をすり減らしていたのでしょう。
ぼんやりとしか見えない視界でも、皆さんのお顔が明らかに憔悴されているのが見て取れました。鏡を見れば、きっと私も同じような状態だったと思います。
──そのような状況だったのもあって、脱出を決断されてからの行動は早かったですわ。
食糧の残りもなく、余計なものは全て置いていく事にしたため、かなり身軽になっていました。
私などはほとんど身一つといった具合で・・・皆さんも、持ち物と言えば肩から提げているM4と、ホルスターに入ったM9と──
そうそう、忘れてはいけないものが一つ。
「・・・・・・本当に、こんなんで大丈夫ですかね・・・?」
警備課の方が不安そうな視線を向けていたのは──
私のアイデアから生まれた、「手作り閃光手榴弾」でした。
ファイヤースターター・・・別名はメタルマッチ。
あれはマグネシウム塊をナイフなどで摩擦して、火花を発生させて火を点けるものです。
そして、閃光手榴弾に用いられる炸薬の主成分も、マグネシウム・・・もうお解りかと思いますが、ファイヤースターターのマグネシウムを使って、即席の閃光手榴弾──と言うより照明弾の方が近いでしょうか──を拵えたのです。
レーションの空き缶に、マグネシウム粉と弾丸の火薬と余った缶を細かく砕いた金属片を混ぜて作った炸薬を詰め込んだ後、そこに中尉持ち込みのウイスキーに浸した糸くずの導火線を挿してテープで蓋をしただけのお粗末なものでしたが・・・
「感謝する。君のお陰で、有用な武器が一つ増えた」
お姉さまは「胸を張れ」と、言外に伝えて下さいました。
着火用のマグネシウムも残しておく必要があり、たったの2個しか作れませんでしたが・・・少しだけでも皆さんに貢献出来た気がして、誇らしかったですわ。
「ははっ。ここまでやっておいて、普通に救助隊が来てくれたら俺たち笑いものだな」
「私としてはそれが一番望ましいですが」
出発の直前、中尉は相変わらず冗談を飛ばしておられましたが・・・
対するお姉さまは、少し眉尻を下げて、中尉に問いかけられていらっしゃいました。
「・・・行けますか、中尉」
「あぁ。かなりマシになった。なんなら走るのも余裕だぞ?」
・・・・・・嘘・・・だったのだと思います。
水も食糧もない状態でこれ以上救助を待つ事は出来ませんでしたし、脱出のチャンスはこの時を置いて他にないと、中尉も判っておられたのでしょう。
「・・・判りました。出発しましょう」
そんな心境を察して、今は進むしかないと・・・お姉さまも、言葉を飲み込まれました。
そして、ほとんどの荷物をその場に置き去りにし──私たちは、出発しました。
・・・お恥ずかしながら、「反動に耐えられない」という理由で私は銃を持たせて頂けず、四方を皆さんに守っていただくような形で隊列を組む事になりました。
歩いている最中は、ガラムたちが「音」を頼りにしているという推測から、口を開こうとする方は誰一人おらず、緊張と不安とで、空気は重く張り詰めていました。
無言のまま、お姉さまの先導に従って── 15分ほど歩いた頃でしょうか。
「・・・・・・ッ‼」
照らされた視界に・・・突然、ガラムが映り込んだのです。
「前方に2体──撃てッ‼」
お姉さまは即座に、私の両脇にいらっしゃった警備課の方々に発砲を命じ・・・お二人も顔を強張らせつつ、しっかりとそれに応えられました。
<ガアァ・・・ガァッ⁉ ガアアアァァッ⁉>
そして、こちらの動きに反応できず──2体のガラムは、50メートルほど先で反撃の間もなく蜂の巣にされ、すぐに動かなくなりました。
「よし、銃を下げろ。・・・やはり、雨音でヤツらの感覚は鈍っているようだな」
穴だらけの死体を見下ろしながら、お姉さまはそう呟かれました。
「ふぅ・・・打ち合わせ通りにいきましたね、新隊長」
「あぁ。よくやってくれた。だが、次からはもっと弾を節約しろ」
「も、申し訳ありません・・・マム」
お姉さまはあまり強くおっしゃいませんでしたが、残弾の件は死活問題でした。
灯りを消して行く方が不利なため、私たちは遭遇戦を繰り返しながら進む事を強いられており・・・
残弾が心許なく人員も少ないあの時の状況では、脱出までに戦闘を1回でも少なくし、弾丸を1発でも無駄にしない事が、最も重要な作戦だったのです。
「今の銃声で他のヤツに気づかれたかもしれないな・・・ここをすぐ離れるぞ」
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