恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十二話「黒の記憶」

 第三章「星の降りる日」・①

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◆第三章「星のりる日」

<───グオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッ‼>

 地鳴りと共に、大音量の咆哮が埠頭に響き渡る。

 体表を酸で溶かされながら、なおも戦意を失っていないNo.007ヴァニラスは、待ち受けるNo.020へと向かって真っ直ぐに走り出した。

<ギイィィシャアアアアハハハハッ‼>

 対するNo.020は、触腕を操り、突進してくるNo.007の脚を捉えようとするが──

<・・・ッ! オオオオォォォッ!>

 敵の目的に気付いたネイビーの巨竜は、触腕に掴まれる直前に強く地面を蹴って一足飛びに距離を詰めると、すかさずNo.020の首の下に潜り込む。

<ギイィシャアァ──ガガガッ⁉>

 そして、まるで丸太でも抱え上げるかの如く、相手の首を肩に乗せながら右腕でホールドし、懐に入り込みながらその大口を塞いでみせた。

 距離がある状態は不利と見て、「放水砲」を封じつつ得意の近接戦インファイトに持ち込んだ訳か。

『──お待たせ隊長! こちら竜ヶ谷ただいま現着!』

『・・・・・・頭ぶつけて・・・おかしくなった・・・?』

 と、そこで、ややハイになっている竜ヶ谷少尉と、そんな彼に冷ややかな言葉を浴びせかけるユーリャ少尉の声が左耳に届く。

 同時に、彼らの乗る<アルミラージ・タンク>の走行音も聴こえてきた。

「待ちくたびれたぞ! 総員、準備は万全かッ!」

『勿論。いつでも行けます。キリュウ隊長』

『な、何とか・・・ちょっと戻しましたけど・・・』

 ヘルメットの左側に手を当てながら問うと、いつも通りなマクウェル中尉と、おそらくは青い顔をしているであろう柵山少尉の声が返ってくる。

 竜ヶ谷少尉の異様なテンション同様、柵山少尉のそれも間違いなく艦体の激しい揺れが原因だろう。

 本当なら少しくらい休ませたいところだが、それが許される状況ではないな。

 心を鬼にしつつ──同時に、彼らならやってくれるだろう、と自分を納得させた。

「手短に説明する! No.020は、No.002フェネストラNo.006ギアーラが合体したモノである可能性が高い! 信じ難い事だが、これはヤツが双方のジャガーノートの能力を併せ持ち、それを使いこなしている事からもほぼ間違いない! これを前提に行動しろ!」

 まずは最も重要な情報を告げてから、私は矢継ぎ早に指示を飛ばす。

No.013ザムルアトラ戦にならって、<モビィ・ディックⅡ>班をハウンド2、<アルミラージ・タンク>班をハウンド3と呼称する! ハウンド2は離岸しNo.020に照準合わせ! ハウンド3は触腕に注意しつつメイザー光線を浴びせ続けろ! ヤツの弱点を探れ!」

 そして・・・内心つっかかりながらも、「それと」と続ける。

「・・・今この場においてのみ、No.007については積極的な殲滅対象と認定せず、その存在を事とする! いいな!」

 と、口にした途端──返事の前に、マクスウェル中尉の詠嘆の溜息と、竜ヶ谷少尉のからかうような口笛が聴こえて来た。

 ・・・やはり、わざわざ明言したのは間違いだっただろうか。

『マスター、次こそ私もお役に立ちます』

 思わず溜息をいた所で、随分と腰の引けた態度のテリオが話しかけてくる。

 どうやら、先程の一件をまだ気にしているようだ。

「行いを恥じているなら結果で返せ。それが戦士の流儀というものだ」

『・・・了解しました。必ずや』

 返ってきたのはいつも通りの一本調子の声ながら──明確に、強い意志を感じさせた。

 この様子なら、もう大丈夫だろう。

 全く・・・人工知能とは思えない繊細さだ・・・

<グオオオオオオォォォォオォォッッ‼>

 再び溜息が出たのと、ほぼ同時──聴き慣れた咆哮が、全身を小刻みに振動させる。

 No.007は、No.020の首を肩に担ぎ上げたまま、自在に襲い来る触腕を相手取っていた。

 触腕が鞭のように振るわれれば、空いている左手で掴み、握り潰す・・・

 腕に巻き付かれれば、次は牙を剥いて触腕を噛みちぎる・・・

 敵が隙を見せれば、左手の爪や頭の角を胴体に突き刺し、再生されるのもお構いなしにダメージを与え続ける───

「・・・・・・」

 今、私の目の前で戦っているNo.007は・・・先程の半身に構えてみせた知性的な様子とは正反対の、「獣性」とでも言うべき荒々しさをその身に宿していた。

 No.011ティターニアのように、見た目に表れる訳ではないが──あのこそ、No.007の持つ最大の強さであり、同時に恐ろしい所なのかも知れないな、と改めて感じた。

『っし・・・やるぞユーリャ!』

『・・・言われなくても』

 そこで、<アルミラージ・タンク>が目標の地点まで達する。

 No.020の右側面につけると、砲塔とパラボラ部分の根元とを駆動させ、射角を確保。

 即座に、伝導針の先から水色の光線を発射する──が、しかし。

<ギイィイシャアアァァアハハハハッ‼>

 悲鳴じみた嗤い声が上がるものの、やはり、動きを止める事すら出来ない。

 ダメージを受けているのは間違いないが、ヤツの戦意・・・否、目の前のNo.007に対する執心は、もはや痛覚すら凌駕しているのだろう。

「ハウンド3! <圧縮砲ブラスター>モードはまだ使うな! 根気強く急所を探れ!」

『『アイ・マムッ!』』

 迂闊にも私が先程「メイザー・ブラスター」を撃ってしまった都合で、この戦場に残った最も貫通力のある武器は、<アルミラージ・タンク>に搭載されている<圧縮砲>モードの一撃という事になる。

 乗員の二人には無理を強いてしまうが、使い所は慎重に見極めなければなるまい。

<グオォォォォオオオオオオオ・・・ッ‼>

 歯痒い思いを堪えていると──ふと、No.007の体表に、血管のような赤いラインが浮かび上がったのが見えた。

 明滅するそれは、徐々にヤツの左手へと集まっていく。

「・・・! をやるつもりか・・・っ!」

 秩父でのNo.008ガラムキングとの戦いにおいて、私はその威力を間近で体感した事がある。

 尋常ならざる再生能力を持つNo.020であっても、あの凄まじい高熱を直接体内に流し込まれれば、あるいは・・・と、期待にも似た思いが脳裏をよぎった。

<ギイィィイシャアァァアハハハハッッ‼>

 だが、No.007が熱を収束させているその隙を、No.020は見逃さない。

 巨大な首を抱えている事で完全に死角となっている右サイドから、No.007の横腹目掛け、幾本もの触手が束になって殺到する。

『───そこだッ‼』

 ・・・が、それらは直撃の寸前で、水色の稲妻に撃たれて空中で動きを止めた。

 誰の仕業かは明白。相変わらず、溜息が出る程の狙撃技術だ。

『「その存在を最大限利用する」──でしょ! 隊長!』

「・・・あぁ。確かに言ったな」

 ついでに、もう少し謙虚さが身に付いてくれたら・・・という溜息も漏れ出た。

<ギイイィィィィイイィィイッッ‼>

 すると、睦み合いの邪魔をされたと感じたのか──

 <アルミラージ・タンク>の車体を、真っ赤な八つの眼光が捉え、二股に分かれた巨大な尻尾が振るわれる。

『やばっ──』

『───くもない』

 竜ヶ谷少尉の動転した声に続いて聴こえたのは、平時と変わらぬユーリャ少尉の声だ。

 走破性に優れる一方、機動性には劣るはずの無限軌道キャタピラが、華麗なステップを踏むかのように軽やかに駆動し・・・

 地面を瞬時に陥没させる程の攻撃を、すんでの所で躱し続ける。

 ・・・はたから見ていると、実に心臓に悪い光景だ。

<グオオオオオオオオオォォォォォッッ‼>

 思わず眉をひそめたのと、ほぼ同時──No.007の左手の輝きが、極限に達する。

 どうやら、ハウンド3は充分に時間を稼いでくれたようだ。

<ギイイィィイイィイイシャアアアアァァァァッ⁉>

 白色へと至ったは、迷いなく、No.020の首の根元へ突き立てられる。

 そして、黒い外殻を砕きながら内部へと侵入した左手を伝導つたって──

 No.007の持つ規格外の高熱が、No.020の体内へと流入し始めた。

<ギイィィィイイイィィイイ───────ッッ⁉>

 紫色の触腕の表面にまで真っ赤なラインが浮かび上がり、そこに含まれる水分が瞬時に沸騰する。

 内部で飛躍的に体積を増した血液は、その体組織を飛び散らせながら体外へと放出され、No.020の巨体の各所で文字通りの「爆発」が起こっていた。

 如何な生物であっても、こうなってしまえば、絶命は必至のはずだ。

 ・・・・・・はず・・・なの、だが───

<ギイイィィィイイシャアアアアアァァアハハハハハハハ‼>

 事ここに至ってなお、醜悪な嗤い声が止む事はなく・・・

 見れば、ヤツの赤熱した傷口はせわしなく脈動して、損壊したはしから立ち所に体組織を復元させていたのだ。
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