恋するジャガーノート

まふゆとら

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第十二話「黒の記憶」

 第三章「星の降りる日」・⑥

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       ※  ※  ※


『No.020の反応・・・完全に消失! No.007が・・・やってくれました・・・!』

「・・・了解した。皆、よく戦ってくれたな。作戦終了だ」

 マクスウェル中尉からの一報を受け、オープンチャンネルには歓喜の声が溢れた。

 つい先程、海の方で再び上がった水柱は、おそらくNo.007の起こしたものだったのだろう。

 ・・・またしても、ヤツに助けられてしまったようだな・・・・・・

「第一種戦闘態勢解除! ハウンド2は再度接舷し、<アルミラージ・タンク>を回収! ハウンド3はその場で待機だ! いいな!」

『『『『アイ・マム!』』』』

 部下たちの揃った返事を聴きながら・・・私は<ヘルハウンド>を回頭させ、港とは反対方向に車体を走らせる。

 数分後、私は大黒ジャンクションにいた。

「・・・・・・」

 そして・・・海水まみれの外殻に取り付けられた、「ハッチ開放レバー」を回す。

 プシューと音を立てて、司令室ブロック・・・の、入り口が開いた。

「・・・・・・むごい、な・・・」

 No.020によって高速航行の盾にされた挙句、最後には放り投げられてしまったオーストラリア支局の<モビィ・ディックⅡ>・・・その内部は、やはり見るも無惨な状態になってしまっていた。

 脂と鉄が作り出す「死の匂い」が、鼻腔をツンと突く。

 ・・・私は、信心深さとは無縁の人間だ。死後の世界というものにも、あまり興味はない。

 だが、それでも──人類の未来のために散ってしまった彼らが、少しでも安らかに眠れるようにと・・・今はただ、そう願わずにはいられなかった。

「・・・貴方達のくれた情報のお陰で、ジャガーノートを倒し、犠牲者を最小限に抑える事が出来ました。・・・・・・ありがとうございます」

 深く頭を下げてから・・・静かに、ハッチを閉じる。

 そして、「折を見てドッグタグだけでも回収しなければな」・・・と心に誓ったところで、石見班長から通信が入った。

『桐生隊長。ただいま、埠頭内の全生存者の救助が完了いたしました』

「了解だ。後は警察と消防に引き継いでくれ。それが完了次第、基地に帰投しろ」

 石見班長以下、警備課第一班には、No.011の「救助」から漏れた者が居ないかどうかを探してもらっていたのだが・・・口ぶりからすると、やはりいくらかは居たようだ。

 あの宇宙昆虫め・・・尊大な口調に似合った雑な仕事ぶりだな・・・・・・

「・・・・・・」

 No.020は撃破され、No.007による水蒸気爆発も起こらず、民間人の救助も完了──

 多くの被害を出してしまったものの、これで一件落着・・・の、はずなのだが・・・・・・

「・・・何だ・・・? この感覚は・・・・・・?」

 さっきから、首の後ろがずっとヒリヒリとして気味が悪い。

 まるで、本能が「まだ戦いは終わっていない」のだと告げてきているような・・・

 そんな不快な感覚だけが、私の中にしこりのように残っていた───


       ※  ※  ※


「ふぅ~! ふうぅ~~! す、すみません・・・ハヤトさん・・・・・・」

「気にしないで! とにかく、クロが無事で良かったよ・・・!」

 戦いを終えて、球体に戻ってきた後──

 ぺたんと地面に座ったまま、全身から湯気を立てているクロを、僕は脱いだジャケットを団扇代わりにして必死にあおいでいた。

 本当は、すぐ家に連れて帰って冷たいシャワーを浴びせるつもりだったんだけど・・・

 何故かクロが「まだ帰っちゃダメです!」と言い張ったために、僕らは大黒埠頭から少しだけ離れて、赤レンガ倉庫のすぐ近くに降り立ったのだった。

「ふぅ~~・・・ふぅ~・・・! ・・・あっ! えっと・・・もう大丈夫・・・ですっ!」

 帰宅を拒否した意図はよく判らないけど・・・ようやく息を整え、笑顔を向けてくれたクロの姿を見れた事で、僕もようやく安堵し、ほっと胸を撫で下ろす。

 ・・・手を当てた自分の胸に、先程までの激しい痛みはなかった。

 クロがあの怪獣を打ち破ってくれた瞬間から・・・嘘のように痛みが消えてしまったのだ。

「・・・・・・」

 黒い怪獣が接近した直後は、突然クロ体調が悪くなって・・・戦いの最中、あの「眼」を見てしまった途端に、次は僕の胸がおかしくなって───

 あの怪獣が原因なのは明確だけど・・・どうしてクロと僕にだけあんな事が起きたのか・・・その理由は、結局判らずじまいだった。

 と、今更答えが出るはずもない疑問について、うんうんと唸っていると・・・・・・

「・・・オイ、ハヤト」

 突然、カノンに名前を呼ばれる。

 振り向くと・・・彼女は相変わらずの仏頂面で、こちらを見ていた。

「もうヘーキなのか?」

「う、うん・・・もう痛みはないんだ。ちょっと考え事してただけ・・・あはは・・・」

「・・・ん。ならいい」

 そう言って、カノンはプイと顔を背けてしまう。

 けれど・・・振り向く直前、彼女のブラウンの瞳が、少しだけ揺れているように見えた。

 ・・・きっと、心配してくれていたんだろう。「家族」の事を。

「ありがとね・・・カノン」

「ケッ! さっきも聞いたっつの!」

 背を向けたまま言った文句は、間違いなく、ただの照れ隠しだろう。

 そして、思わず小さな笑いが漏れた所で──次はクロに呼ばれた。

「ハヤトさんっ! え、えっと・・・私はもう大丈夫なので・・・! アカネさんとのデートに戻って下さい! まだ・・・間に合うと思いますっ!」

「でっ、デートってわけじゃっ‼ ・・・って、えっ・・・?」

 彼女の必死の訴えに、狼狽してから・・・きょとんとしてしまう。

「・・・クロは、ハヤトがアカネとのデートを楽しんでたのが判ってるから、自分のせいで邪魔したくなかったのよ」

 そこで、隣にいたティータから、答え合わせを耳打ちされて──ようやく気付く。

 クロが帰りたがらなかったのは・・・僕のためだったんだ。

「・・・ありがとう、クロ。でも、アカネさんはきっとこの後も仕事で忙しいと思うから、また今度誘ってみる事にするよ」

「・・・あぅ・・・・・・そう・・・ですか・・・」

 心からの感謝を伝えたつもりだったけど、やっぱりクロはしょぼんとしてしまう。

 ここは行動で示さないとダメだなと腹を括って、まだ熱気の残る頭に、ぽんと手を乗せた。

「そんな顔しないで! クロは・・・今日のヒーローなんだから」

「・・・! ハヤトさん・・・えへへ・・・っ!」

 よしよしと彼女の頭を撫でる掌に、ヒリヒリとした感覚が伝わってくる。

 ・・・けれども今は、軽々しくこの手を離す気分にはなれなかった。

「ふふっ・・・そうね。それに、すぐに帰らなかったのも悪い事ばかりじゃないみたいよ?」

 と、そこで、ティータがクロの肩に手を置く。

 次いで、「あそこよ」と赤レンガ倉庫の方を指差した。

「あれは・・・」

 そこには、大きな朱色のテントが立ち並び、たくさんの人が慌ただしく行き交っていた。

 仮説救護所・・・と言うんだったか。テントには大きく描かれた「横浜消防」の文字があり、外から見えるだけでも十数人の人が手当てを受けていた。

 ・・・正直、まさに「災害現場」と言った雰囲気に、僕は少し気圧されてしまう。

 一方でティータは、クロの顔をしっかりと見て、優しく語りかけた。

「今日、助けられなかった子たちもいるけれど・・・間違いなく、救えた生命もあったわ」

「・・・!」

「貴女が救ったのよ、クロ。よくやったわね、今日のヒーロー♪」

 そう言って、ティータは微笑む。

 確かに・・・彼女の言う通りだった。

 視線の先には、苦痛に顔を歪めて担架に横たわる人や、出血している頭にグルグルと包帯を巻き付けられている人もいる。

 けれども──あの人たちは、生きている。

 それに、テントの脇の方では、涙を流しながら笑顔で抱き合っている家族の姿もあった。

 全てを救う事は出来なかったけれど・・・・・・それでも・・・だ。

 僕は、クロの表情が明るくなった事に安堵しつつ・・・一つだけ、訂正する事にした。

「・・・ちょっとだけ、違うと思うな」

「えっ?」

 そして、不意打ちの発言にきょとんとするティータに、少し意地悪な顔で告げる。

「クロと、カノンと、ティータ・・・三人で救った・・・でしょ?」

「はい・・・っ!」
「・・・ケッ!」
「ふふっ・・・それもそうね♪」

 三者三様の返事に、思わず笑みが溢れた。

 とてつもない激戦だったけど・・・とにかく三人とも無事で良かったと、改めて感じる。

「シルフィも、本当にありがとね」

『はいは~い。次からは無茶しないでよ~~大変なのはボクなんだから~~』

 相棒にもお礼を伝えると・・・予想通り、ゆる~い口調で文句が返って来る。

 とは言え、シルフィには苦労も心配もかけっ放しだし、僕に反論する権利はなかった。

 あははと苦笑で返したところで──ふと、誰かに上着の裾を引っ張られる。

 振り向くと・・・そこには、一転して憂いを帯びた面持ちをした、ティータの姿があった。

「・・・ハヤトには、伝えておいたほうが良いと思って」

「? 何か・・・あったの・・・?」

 とても冗談を言う顔つきには見えず、聞き返しながら思わず身構えてしまう。

 そしてどうやら・・・その予想は正解だったらしい。

「さっき、あの怪獣の思考がよく視えないって言ったのだけれど・・・その後、一瞬だけ明確な思考が視えたの。・・・・・・あの怪獣が、死ぬ間際に・・・ね」

「・・・‼」

 息を呑んだ僕に、ティータはゆっくりと告げる。


「断末魔の中に視えた、最期の思考は──「ここにいた」───だったのよ」


「・・・えっ・・・?」

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