太陽はまた昇る

樺山洵

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思い出

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「時広、あんたも盆踊り行くでしょ。早く支度しなさいよ。わかったわね」

母は浴衣の着付けをしながら、時広を急かす。

「あ、あー。わかった」

時広は、読みかけの漫画を放った。
本当は気が乗らなかったが、母がどうしても連れて行くと目で訴えていたので仕方なく支度をする。

(面倒だから、散歩でもして適当に帰ってこよう)

すると、行きたく無いオーラがにじみ出ていたのか、母親が心配そうに尋ねてきた。

「あんた、いつまで引きってるの?弟なんていないし、あんたが、探してる人なんて……」

何かが、ブチッと切れる音がした。

「うるせぇぇぇ!いる!絶対に居たんだ!」

 (はぁ、はぁ、はぁ、勝手に殺すなよ…)

母は、時広の怒りに呆気にとられた。

「そう…。でもいい加減にしときなさいよ」

そう言うと、母は着付けのため自分の部屋へ入っていった。

「チッ、うるせぇ」

何処にも当てる事ができないイライラを足で床から強い足音を出す事で少し紛らすことは、出来なかった。

玄関のドアに手をかけながら靴を履き、外へ出た。

外は日が暮れ、ヒートアップした体には心地よい風が吹いていた。
少し歩くと浴衣や甚平を着た小学生の一団が、綿飴やかき氷やフランクフルトなどを片手に、はしゃぎながら時広の横を通り過ぎて行く。
時広はそんな彼らを見て昔の事を思い出す。

  (よくここに来て遊んだな…。あいつは、いつも朝顔の浴衣着て、もう高校生なのに、キャキャ騒いでたな)

   (もっと、綺麗だって言ってあげれば良かったな)

目頭がじわじわと熱くなってきて、とっさに上を向く。

  (あー、ダメだ。ここにいちゃダメだ)

時広は、まるで悪いものから逃げ出す様にひたすら走る。
走って走って、気がつくと人影が見えない林の近くまで来ていた。
この林は、昔から神隠しがよく起こるとネットでも有名な林だった。
しかしもう高校生であり、そして特に行くところもなかったから、時広はその林に入って行くことにした。

(  賢治のやつは、意外にも泣き虫で、男の癖に虫も触らないと来てたな。この林にはよく来てカブトムシ捕りを一緒にやったな。兄貴、兄貴って…。クッソ…)

また泣くなんてまっぴらごめんだ、そう強く思い歩みを進める。

「結構暗いなぁ」

家を出る時は、まだ西の方が少し明るい色をしていたが、ここまでいた頃には完全に日は暮れていた。

行く当てもなくぷらぷらと歩いていると、ボロ祠へと行き着いた。
ろくに手入れもされていないようで、草は伸びるは、苔は生えるは、とひどい荒れようである。

「あーあ、こりゃひどい」

時広は、荒れ放題の祠の手入れをする事にした。
別に信心深いわけでも無い。
ただ、気を紛らしたかっただけだった。
一通り終わり、そろそろ家に帰るかと
言いながら、伸びをしていると、

『汝、名はなんと言う。』

「あ?」

あたりを見回す。

「………、気のせいだな」

『気のせいでは無いぞ、後ろだ後ろ』

「!………なわけ無いよな」

 時広が前を向くとそこは、何処までも白い、光の空間だった。

「…こ、ここは、」

辺りを見回していると、何かがゆっくりと近づいて来るのが見て取れた。
目の前には、白髪の青年が立ち止まっている。
一歩、一歩、青年は時広へ近づく。
そして手を振り、ニコニコしながら、


「やぁ、呼んでるんだからさ、ちゃんと振り向け、よ!」

突如青年から、回し蹴りが時広の頭目掛けて繰り出される。

『パシッ』

しかし、時広の頭が謎の青年に蹴られる事は無かった。

「何のつもりだ。あんた、誰だ」

時広は、青年の足を掴む手を強める。

「おー、凄いね。取り敢えず、離してくれるかな?」

彼の営業スマイルは、とても好感を持てるものでは無かったが、時広は害は無いと考えて手を離した。

謎の青年は、掴まれた足をさすり、「こほん」と咳払いをする。

「さてさて、改めて問おう。君は誰だい?」

「お前こそ誰だ。早くここから出せ。それに先に名乗るのが礼儀だろう」

まさか、言い返されるとは予想してなかったのだろう。
少し驚いた顔をする。

「んー、そうだね。君も一応は神なわけだし。うん、私はね君が掃除してくれた祠の神なのだよ」

こいつ頭おかしいのか、と一瞬思ったが、よく考えるとこんな、光の空間を作れるからそうなのだろう。と時広は考えた。
お辞儀しながら、自己紹介をする。

「それは失礼しました。僕は萬葉時広。僕が、神と言うのはなぜでしょうか?」

「うーん、明確に神とは言えないんだけど、便宜的に“神”と言わせてもらうよ。なぜ君が“神”だと分かるかと言うとね、視えるんだよね。君の身体に宿るもう一つの“心臓”がね」

「!」

「そんなに驚かなくてもいいじゃん」

時広は、警戒レベルを最高に引き上げた。拳を前に突き出す。

「どこまで、知ってる…」

「どこまでって、全部だよ。君は、この世界には居てはいけないんだ。君は、異世界の“神”だ。神々は、互いに自分達以外の世界に干渉してはならないんだ。君はその暗黙の了解と言うやつを侵しているのさ。よって、強制帰還処分としたいんだけど。いいかい?」

「待ってくれ、あの世界へ行けるのか?」

「そうだけど?」

「また帰ってこれるのか?」

祠の神は、ふふふと、微笑する。

「それは、君の努力次第だよ。まぁでも元の場所には戻れないかもだけど。それに、君の探し人の事も分かるかもね」

「お前、本当にどれだけ知ってんだ…」

「その口の利き方は、今だけ良しとしよう。君の方が圧倒的に高位な“神”だからね。さあ、行け!君が戦い、想い、笑い、そして失った世界へ!」

時広の立っているところから、残酷な程鋭い光が発する。光から目を守るため瞼を閉じる。

「待っててくれ、皆んな。必ず助ける。今度こそ、一緒に…」

  みんなで、戦い、助け合い、励まし合い、笑い合い、そして悲しみあったあの世界。今度こそ…

   賢治、泣いてないかな?

  千春、いまから君の元へ行くからね…

時広が日からに包まれ、姿が見えなくなった頃、青年は不敵に笑う。

「ふふふ、また会おうね…」


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