復縁マニュアル

シルビア

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復縁屋

追い縋る

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 健は、待ち合わせ場所に着いた。
 少し早く着き過ぎて、30分も前に着いてしまった。
 特に復縁屋らしからぬ人は、見当たらない。

 待っている間、ベンチに腰掛け希と復縁できたらと思いを寄せていた。

 20分も待った頃だろうか。

「あなたが健さん?」

「そうですが……」

「あら、可愛い顔してるじゃなーい。私が、復縁屋こと復縁コンサルタントの衛藤みゆきです。呼び方はみゆきさんでもなんでも良いよ」

 20代後半くらいだろうか、いや30代前半だろうか、綺麗な黒髪で落ち着いた雰囲気。整った顔立ち。でも少しばかりあどけなさが残っているような。とても眩しくて優しい笑顔。復縁屋さんは、とても美人で大人っぽい人だった。

 誰だ探偵事務所の体だなんて想像した奴は……

「じゃあ、行こうか」

 みゆきさんが言った。

「私の行きたい店でいいかな?あっ大丈夫、高い店とかじゃないから」

 向かった先は、こだわりのある、でもって入りやすい感じの、年季の入った木でできたお店だった。
 入口の看板から、魚とか日本酒に力を入れているようだ。

「とりあえず、ビールで。あっ良かったかな」

 みゆきさんは、よく通る綺麗な声で注文していく。

「あの、復縁についてなんですが」
 
 不安になりながら、健は言った。
 
「慌てない、慌てない」

 笑いながらみゆきさんが言った。

「かんぱーい」

「あっ乾杯です」

 たわいもない話でそこそこ盛り上がった。

 少し離れた席で、サラリーマンの集団が、盛り上がっている。

 みゆきさんは、美味しそうに日本酒を飲みながら言った。

「それで話はメッセージで聞いたけど、長く付き合った彼女に、他好きされたんだって」

「他好き?」

「他に好きな人ができたってことよ。それで勢いでフられたんでしょ。経験から言って、その勢いで振られた場合は、復縁できる可能性はぐっと上がると思うわ。まあ他好き自体手順を踏めば、復縁できる可能性はあるわ」

「可能性ありますかね……今頃新しい男とラブラブなんじゃないすかね……」

「そりゃそうよ、今頃ラブ期に決まってるじゃん」

「そうですよね……」

 健は、肩を落とした。

「それでね、別れた時の状況なんだけど、追い縋ることはしたのかしら?」

「追い縋る?」

「追い縋るってのは、まあ簡単に言うと、俺はまだ好きなんだ!別れたくない!チャンスをくれえ!みたいな?まあ台詞は何でもいいから、別れたくないって縋ることよ」

「一応したと思います。待ってとか俺も悪いところ直すからとか、結婚を考えてたのにとか……」

「ちょっと薄めな感じだけど、まあ良いわ」

「なんか女々しくないですか…追い縋るって……マイナスな方向にいくような……」

「そりゃそうよ、でも好きだってこととか、別れたくないって追い縋って印象付けることは大事よ」

「まあそうかもしれないですけど……」

「それによって、罪悪感とか相手が感じるだろうから、その感情を利用するのよね」

 みゆきさんは、続けて言った。

「ちょうど別れて1週間よね。これは2週間目までにやるべき事なんだけど、メールで良いから感謝の気持ちを伝えなさい。自分に悪いところがあったら、反省してる事と、それでまだ好きな事も。どんな形であれ彼女の幸せを願ってるって事も」

 みゆきさんは、真剣な顔になって、こうも言った。

「良い?その時はしつこい文章にしちゃ駄目よ?あくまでさわやかにね」

「分かりました。メールしてみます。メールした後はどうしたら良いんですか?」

「あとは、絶対何もしない事。良い?」

「何もしないって……でもほっといたら新しい男ともっとラブラブになっていって、付け入る隙がなくなるんじゃ……」

「馬鹿ねー」

 みゆきさんは、笑いながら言った。

「健くんはさ、新しい彼女とラブラブになってる時に、元カノから連絡がしつこく来たらどう思う?」

「めんどくさいとか……ウザいと思っちゃうかもしれません……」

「でしょー!だから何もしないのよ。ウザいって思われたら、今彼に相談したりして、もっと2人の絆が深まっちゃうかもしれないわよ?そんな事になったら、復縁なんて夢のまた夢よ」

「なるほど……確かにそうですね。何もしないとしても、それからどうしようも無いんじゃないですか……?」

「良いの。何もしない事。絶対よ!辛いだろうけど、我慢して」

「わかりました……とりあえずメールを送って、後は何もしないようにします」

「復縁の第1ステップは、追い縋ること、1~2週間後くらいに感謝のメールを入れること。良いわね」

 その後、会計を済ませて店を後にした。

 みゆきさんが、言った。

「あー美味しかった。ご馳走さま。ありがとね」

「いえ、こちらこそありがとうございました」

「じゃあ、次は2週間後でどうかしら?たぶんかなり辛くなってる頃だから。あっでも諦めることができるなら、諦めて次行った方が楽よ~」

「諦めたくないっすね……」

「じゃあ、一緒に頑張っていこ!じゃあまたね」

 みゆきさんは、そう言って去っていった。

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