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第四章:「新たなる大陸へ」

第51話 「漁村に到着、そして捜索と調査」

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 「やっと着いたな?」

 「ふふっ、そうだな?」

漁村に着いた俺達は最初に、隣の大陸に行く為に船を出して貰える所を探した。

漁村には船を停泊させる為の桟橋が、幾つも並んでおり、それに伴い船も等間隔で停泊している。

村の規模と比べ、充分過ぎる程、船の数が多いのがとても印象的だ。

村内を散策していると、周りと比べて大きい建物を見つけた。

看板には「漁業観光組合」と書いており、恐らくここだろう。
俺達は建物内に入った。

建物内は閑散としている。
木製で出来た受付のカウンターも、所々亀裂が入り、天板には薄く埃が積もっている。

「誰か居ますか?」

俺の呼ぶ声に、カウンターの奥から1人の男性が出て来た。

目には生気が感じられず、憔悴しきっている。

そして口元には髭を蓄え、首の辺りまで伸びている。

俺は男性に頼んだ。
隣の大陸に行く為に、船を出して欲しいと言う事。

「そうですか…残念ですが、今は船を出しておりません」

そう言って、男性は蓄えている髭を撫でた。

確かにこの建物自体、最近人の出入りがあったとは
考えにくい。

何か理由があるのだろう、だが船を出して貰わなければ…

「何か出せない理由が?」

「えぇ、隣の大陸の戦争を恐れて、みな船を出したがらないのです」

そうか、ファルシアが教えてくれた話。

緊張状態とは言っていたが、遂に本格的な戦いが始まっているのだろうか。

男性は俯き、暗い面持ちで話を続けた。

「それに伴い、漁が出来ずに漁師を辞め村を出て行く者も現れました」

「そんな出来事の後と暫くすると、何やら村内には不気味なが流れる様に…」

どの様な噂だろうか、俺は気になり聞いてみた。

「私も詳しくは分かりませんが、『を捧げたら、戦争は収まり、また村が活気を取り戻す』と……そんな噂でまた、村民が出ていき……」

そう言って、男性は瞳に涙を滲ませた。

俺は男性の話を聞き入るしか出来ない、仮にそんな事をしても、戦争が収まるとは到底考えられない。

バルバラもそんな男性の話に、黙って聞き入っている。

振り絞る様に、そして涙声で男性は淡々と話を続けた。

「…そして…私の息子も…そんな噂が流れ始めた頃に…行方不明になりました…」

俺は言葉を失った。
そんな事が、この国の中で起きているなど思ってもいなかった。

隣の大陸での余波がこちらにまで…

「私は血眼になって探しました…ですが、見つからず…この様な村を離れたくても、いつ帰るやも知れぬ、息子を思うとその気持も…」

すると、突然バルバラが俺の肩に手を置き。
男性に話し掛けた。

「ふふっ、私達が探そう」

俺も同じ気持ちだが、一体どうやって探すつもりだ?

そんな思いを知る由もない男性は、目を輝かせ答えた。

「ほ、本当ですか…?もし…見つけて貰えたなら、礼と言っては何ですが…隣の大陸に向かう為に船を出しましょう!」

そんな男性の話を聞き、バルバラは俺の方を向き直すとこう言った。

「ふふっ、だな?」

そう言ってバルバラは微笑んだ。

「そ、そうだな」

俺はどの様に探すか悩んでいた為、返事が疎かになってしまった。

だが、こうなれば
とにかく、情報を集めないといけない。

それに気持ちはバルバラと同じだ。

「何か不審な人物などは見掛けましたか?」

「いや、この村のほぼ大体の人が、顔見知りですが、その様な人物は…」

そう言って髭を撫で、暫し考え込んだ。

「そう言えば…最近越して来た人が居ました。出て行く者が多い中、中々居ませんからね…印象に残っています。それに気さくな方ですからね…」

「それはどの様な方ですか?」

「この村では珍しく、薬草を取って首都に届けている方です」

なるほど、確かにその時期に越して来たら、印象には残る。

だが、薬草で生計を立てているならどうして、わざわざここに来たのだろうか。

ん?
もしかして、来る途中に会った人だろうか…

「その人は若しかすると、を背負っていませんか?」

すると俺の言葉に、驚いた表情を浮かべると男性は言った。

「その通りです!いつも籠を背負っています!でも…何故わかったんですか…?」

俺とバルバラは顔を見合わせてると頷いた。
恐らく、俺の考えている事をバルバラも分かっているのだろう。

「いえ、実はこちらに向かう途中に、籠を背負った男性と会いまして」

男性は納得した表情を浮かべて頷いた。

既に、男性の目には生気が戻っており、一筋の光を見つけ出した様な瞳だ。

その瞳には俺達2人の姿が映り込んでいる。

何としても、見付け出してあげなければ。

「その方は、いつ頃帰ってくるか分かりますか?」

すると、今度男性は頭を傾げ、難しそうな表情を浮かべた。

「それが…いつ頃帰ってくるかまでは…首都に向かうのは分かっていますが、帰る時刻も日によって違いまして…」

そうなのか…なら、その籠の男性を待たないといけない。

晩になれば、その男性も帰って来るだろうか。
そんな事を暫し考え込み、バルバラの方を見た。

相変わらずバルバラは俺と視線が合うと、微笑んだ。

「ふふっ、どうやら待つしか無さそうだな?」

「そうだな」

だが、休める所などあっただろうか。

俺は男性に質問をした。

その方籠の男性を待つ間どこか休める場所などはありますか?」

男性は首を振り。

「いえ、村内には休める場所などは御座いません…ですが、この建物には今は使っていない、部屋がありますので、そこで休んで頂ければ」

「ありがとうございます」

俺達は男性の提案に甘える事にした。

受付の奥へと案内され、扉を開けた。
暫く使ってないのを物語るかの様に、不要と思われる物が雑多に置かれている。

壁には漁をする為の予定表や漁具や隣の大陸に送る為と思われる、時刻表なども掛けられている。

流石に綺麗…とは言い難い。

「ふふっ、暫く休憩だな?」

「そうだな」

俺は今は使われていない、椅子の背もたれに鞄を掛け。
腰を下ろした。

籠の男性が早く帰ってくるのを祈るばかりだ。
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